ピンズ屋のひとりごと

オーダーメイド専門のピンズメーカー「ピンズファクトリー」のスタッフが、交代で日常を語っていきます。

イブの夜話

2010-12-24 14:27:49 | Weblog
大人になってから、
クリスマスに特別良い思い出はないのですが、
積極的に楽しもうとしていなかったのも確かです。

15年ほど前のイブの夜。
やはり特別に何か楽しもうと言う気はなく、
いつもと同様にビデオでも借りて家で観ようと
21時頃、私はレンタルショップに行きました。

人気の少ない店内では、賑やかなクリスマスソングが虚しく感じました。
そんな雰囲気の中、マイペースに“世界の名監督コーナー”の前で
私は眉間に皺を寄せながら真剣に映画を選びんでいました。

ふと気がつくと同じコーナーをウロウロと、
学生服を着た中学生~高校生くらいの男子学生も同じくらいの時間を費やしておりました。
まだ幼さが残る、塾帰りの中学生といったとこでしょうか。
辺りには私とその男子学生しかいません。

よく見ると、彼は“世界の名監督”の作品を手に取りながら、
隣のアダルトコーナーに魂を奪われているではないですか。
“18歳未満立ち入り禁止”のれんの向こう側が気になって仕方がないのでしょう。
なんとかして、のれんの切れ目から“その向こう”が見えないか、
さりげなく体勢を変えながら、あらゆる角度からチャレンジしていました。

もはや彼は自分が手にした「JFK(オリバー・ストーン監督)」などどうでも良くなっているに違いありません。
(よりによって社会派か。)
かくいう私も“世界の名監督”より彼の方が気になって、
しばらくその挙動を追ってみようとミッションを変更していました。

どう見ても14~15歳に見える彼にとっては、
薄い布切れで出来たのれんが、分厚い鉄のカーテンにも感じたのでしょう。
社会規範と自分の欲望、または冷静と情熱の間でものすごい葛藤もあったでしょう。
しかし、とうとうしびれを切らして彼は学生服を着たまま、
寅さんのようにのれんをくぐって“その向こう”に突入したのでした。
嗚呼、入っても借りる事はできないのに!
禁断のコーナーに入った彼が小躍りするように奥へとステップしたのを確認したとき、
私は一切興味を失ってビデオを借りることなく店を出たのでした。

その後彼がどうなったのかは分かりません。
防犯カメラで最注視されるコーナーだけに、
店側からなんらかの警告を受ける事は時間の問題だったでしょう。

しかし、そんなことは彼も多少は承知していたはず。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
彼が得たものが何だったのかは分かりませんが、
ほとんど“特攻”のような気持ちで“その向こう”に挑んだに違いありません。

男なら、負けると分かっていても戦わなければならないこともある。
キャプテン・ハーロックがそう言ってました。

忘れられないイブの出来事です。

あれから15年。
彼はもう大人として堂々とそのコーナーに立ち入れることでしょう。
しかしすでに、あの時眩しく感じた“その向こう”ではなくなっていることでしょう。


小林朋広

PINS FACTORY(ピンズファクトリー)は
オリジナル・デザインのPINS(ピンズ・ピンバッジ・ピンバッチ)を
受注製作する専門メーカーです。
http://www.pins.co.jp
コメント
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