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易聖 「高島嘉右衛門」物語 ⑤

●誠心誠意、易神に祈る

この体験によって、嘉右衛門は易に対する不動の信仰心を獲得した。誠心誠意、易神に祈って卦を求めれば、過去・現在・未来にわたって神は一切の問いに答えてくれるーーー嘉右衛門が囚人生活で得たものはこれであった。

慶応元年(1865)10月、6年の囚人生活を終えた嘉右衛門は、「江戸所払い」という付帯条件つきで放免される。時に嘉右衛門35歳。この放免も、囚人を監督する佃島の役人・和田重一郎の求めに応じて易を立てた返礼であった。放免に先立つ約1か月前のことである。「心中に望みがある。この望みがかなうかどうかを占って的中させたら即刻放免してやろう」と、和田は嘉右衛門にもちかけた。

嘉右衛門は心静かに卦を求め、「風山漸(ふうざんぜん)」の3爻を得た。「風山漸」は「前進」を意味する卦で、願望は成就すると読める。また、『易経』に「進んで位を得、往きて功あるなり」とあるから、和田の望みは昇進に関するものであろう。ただし変爻の3爻は、多少の障害を暗示している。「鴻(おおとり)が水を離れて陸地まで進みながら、落ち着きを得られぬ象」なのである。

解釈をせかす和田に向かって、嘉右衛門はこういった。「まずお望みの内容ですが、和田様は牢奉行の職をお望みでございましよう」和田はうなずき、よく当てたとほめたが、次の言葉が気になって、嘉右衛門に続きをせかした。「今のお奉行はご病気とうけたまわっておりますが、あと30日以内には退職なさいます。あなた様がその後任候補のひとりであることは間違いなく、今以上の地位にご昇進なさることも命を賭けて請け合います。しかし奉行職となると競争者が多く、いっそうのご努力が必要と拝察いたします」

変爻が他の爻なら嘉右衛門は奉行職に就くといい切ったところだろうが、3爻である。願望は成就するが、完全な成就とはいいがたい。結果は、嘉右衛門が語った「30日以内」を5日残す25日目にでた。その日、牢奉行交替の沙汰があり、和田は奉行職こそ手に入らなかったむのの、今の吟味役から見ると大出世といえる「奉行代理」に進んだ。嘉右衡門の易の正確さに感嘆した和田はただちに放免の手続きをとり、その翌日、嘉右衛門は晴れて自由の身となったのである。

次回へ続く

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