着付けの気づき

着付けの個人教室を行っている先生が、着付や着物に対するこだわりの思いを中心に語ります。

「女紋」についての深掘り

2023-03-16 16:31:35 | 女紋
先日、女紋についてのブログを書きましたが、そこで私が分からずにモヤモヤしていることについて何とか解決したいと思い、思い切って「女紋」の研究家に直接ホームページからメールで問い合わせてみました。すると、
「こちらまで電話をしてください」
と、電話番号が書かれたメールを頂戴することができ、早速電話してみました。
 
私のモヤモヤの内容は大きく次のとおりです。
1 私は女紋というものの存在を知らない状態で結婚した(結婚後、女紋という考えがあることを知る)。
実母に結婚前に着物の喪服を誂えてもらったが、その紋(丸に剣酢漿…実家と婚家は偶然にも同じ家紋)を見た義母(京都人)に、
「男紋がついていておかしい」
という趣旨のことを言われたので京都ではこちらの着物を着用出来ないでいる。やはりこの着物を京都で着ることはおかしいことなのか?
2 関西の知人に
「女紋というのは代々女性に継がれていく紋だ」
と聞いた。しかし義母の紋が付いている着物にはそれぞれの着物で紋に統一性がない(アゲハ蝶、蔦、中陰桐胡蝶)。これはどういう考え方からなのか?
③私が義母から譲り受けた黒留袖には「中陰桐胡蝶紋」がついている。
黒留袖は必ず五つの染め抜き日向紋を付けるものだと思っている(着付け教室でそう教わったし、テキストにもそのように書いてある)。何故「中陰紋」をつけているのか?
何か意味があるのか?
④私自身の母(島根県出身)も女紋を持たない。そして、そういうものの存在についても知らない。
私が今後紋付きの着物を誂えるならどんな紋を付けたら良いのか?
 
研究家の解答
まず、私の色々なモヤモヤについて最後まで聞いてくださり、
「あなたも、着物を誂えてくださったお母さまも嫌な思いをされましたね。折角誂えた着物にケチをつけられて、着られない状況にさせられているということですからね。女紋なんて、ほぼ一部の地域だけの習慣で、その習慣を知らない人の方が多いくらいのもんですよ。その女紋にもこれといった定義は無くて、色々な考え方があります。
話しを聞くに、恐らくあなたのお義母さまの考える女紋というのは、女性ならどなたでも着ることが許されている…通紋(五三桐、アゲハ蝶、蔦)という考え方なんでしょうね。誰でも女性なら着られるという考え方から、この紋が付いているからあなたに譲るよ、と他の親戚やら知人やらから譲り受けたりして、結果こちらの紋が付いている着物が沢山集まっているといった家は多いと思います」
とのこと。
 
また、女性が着るレンタルの紋付きの着物には無難に「五三桐」がついていることが多いが、レンタルのものと区別をしたいがためにこちらの紋にアレンジを加えた紋をつける考え方があることや、
『黒留袖には必ず染め抜き日向紋をつける』
というのは逆に関東の習慣で、関西では中陰紋を付けることもあることなどをお教えいただきました。
 
そして、私が関西で
「丸に剣酢漿の喪服を着るのはおかしいのか」
ということについても
「おかしくありません。あなたが京都の方と結婚したからって、あなたのお母様の、(女性であろうと)代々の家紋をつけるという考えは間違っていないので、もしも男紋がついていておかしいと言われるような人が居れば、あなたが色々な考え方があるということを教えてあげたら良いですよ。そしてそれでもうるさく言う方がいれば女紋の研究家の私が良いと言ったと言ったら良いですよ」
とも言われました。そして、今後私が紋付きの着物を誂えるならどんな紋をつけたら良いのかということについても、少しの迷いもないかの如く即座に
「『丸に剣酢漿』です。だって、あなたには女紋は無いのだから。誰でも着られるからと無難に五三桐をつけるなんていうのはやめておおた方が良いと思いますよ。あなたはきちんとあなたの家紋を知っているんだし、それを大切にするご実家の考えを継承したらいいんです」
とのこと。
 
長年モヤモヤしていたことが腑に落ちて凄くすっきりしました。
現代のように何でもインターネットで調べれば情報が取りに行ける時代でもわからないことがあって、専門の研究者がいらっしゃることが有り難く思えました。
そして、自分が当たり前だと思っている習慣を、それを当たり前だと思っていない人に「おかしい」と自分の考えを押し付けるのではなく、他者の考え方も理解し合うことは大切だと思いました。
「みんな違ってみんないい」
の精神で寛容な人間でありたいと思うと同時に、私は実母の誂えてくれた「丸に剣酢漿」がついた着物を大切にして然る場面が来たならば例え関西であろうと着用したいと思いました。
然る場面は喪服なだけに出来るだけ来て欲しくはないですけどね。

川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko
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「女紋」って知っていますか?

2022-10-15 11:31:42 | 女紋
着物に入れる紋のお話です。
女性が着物を作る際に紋を入れる場合私は、
「結婚前に作る場合は実家の家紋を、結婚後に作る場合は婚家の家紋を入れる」一方で、
「結婚が決まってから作る着物については実家の家紋ではなくて、婚家の家紋をつけるという考えをする地域もある」
と結婚前に通っていた着付け教室で教わりました。

さて、30年近く前、私の結婚が決まった時、母が
「喪服は誰かが亡くなりそうだからと言って作るものではない、皆んなが元気な時に作っておくのが良いから」
と嫁入りの準備として誂えることになりました。
何と私の実家の家紋(父は東京都出身です)と婚家(京都府です)の家紋は偶然にも『丸に剣酢漿(まるにけんかたばみ)』という同じ紋でしたので、呉服屋では何のためらいもなく『丸に剣酢漿』の紋をつけてもらいました。
出来上がってきた喪服をたまたま義母に見せる機会があった時に、
「女性が着る着物に男紋を入れるやなんて、聞いたことあらへん。普通は女が着る着物には女紋を入れるもんやと思うけど。私はそんなこといちいち気にせえへんけど、気にしゃはる人は気にしゃはるえ」
と言われました。

「男紋って?そして女紋って???」
「丸に剣酢漿は男紋?」
「女性が着たらおかしいの?」

その時に通っていた着付け教室の先生(千葉県出身)に尋ねると
「女紋なんて私は知りません。結婚前に作った着物に実家の紋を入れたんでしょ、婚家の紋も一緒なら尚更何もおかしいことはないと思いますけど…」

女紋についてたまたま関西出身の知人に聞いてみたところ、
「代々の女性に継がれていく紋」
として女紋というのがあるということがわかりました。
でも、義母のいう女紋と言うのはそういう考え方でもなく、『五三の桐』、『蔦』、『揚羽蝶』の紋の中で好きな紋を入れたら良いと言われ、確か、義母と義妹の喪服には『揚羽蝶』の紋が入っていました。

「気にしゃはる人は気にしゃはるえ」
などと言われては私は京都では、誂えた『丸に剣酢漿』の紋が付いた喪服を着るわけにいかないと思いました。義父の葬儀には『五三の桐』が付いているという着付けの先生の着物をお借りして参列することとなりました。

その後義母から譲り受けることになる訪問着には『蔦』が、黒留袖には『中陰桐胡蝶紋』が入っていることがわかり、全て違うものとなっていて統一性が無いことや、私が当たり前のルールだと思っている、「黒留袖には必ず日向紋を入れる」ということとも違っていて(中陰紋なので。)、何ともモヤモヤするところです。

京都にはそんなしきたりがあるのかと思ったものですが、最近になって京都で悉皆業を営む方が発信されているYouTube動画より、
1.関西の一部の地域に女紋をつける風習があること
2.関東には女紋という考え方はほぼ無いということ
3.女紋の考え方にも色々な考え方があるということ
4.それゆえに関東の人が関西に嫁ぐ、あるいは関西の人が関東に嫁ぐことで紋の考え方の差異からトラブルがあり、離縁に結びつくようなことも実際起こっていること
などを知りました。
実際にその悉皆業を営む方が日本全国、あちこちの呉服屋に尋ねて纏められた『女紋』という本を今になって私も取り寄せて読んでみることとなり、各地でさまざま考え方があるということを知りました。
もっと早く知っておきたかった内容にはなりますが、つくづく日本の中でも様々な文化があって、正解不正解を求めるのは難しいな、と思いました。
本当に奥が深いです。
しかしながら、今後私が紋付きの着物を作りたいと思った時、どんな紋を入れたらいいのでしょうね…?
大変ややこしいです。

本の紹介
「女紋」
森本 景一(もりもと けいいち)著
発行所 (有)染色補正森本


川口着付個人教室
 http://www.wbcs.nir.jp/~yoko
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