こんばんは。
だいぶブログの更新が遅れてしまいました。既に連休モードというわけではないのですが、連休明けに大きなイベントや中国出張が予定されており、ちょっとドタバタしています。
今日は、ユーザーの方からリクエストがあったPARC Audioのトゥイーター2モデルについてちょっと話をしたいと思います。既に振動板の軽量化というテーマで以前簡単な内容は書かせていただいたので、私のトゥイーターの設計に関しての基本的なスタンスは分かっていただけたのではないかと思いますが、今日はもう少し具体的にこれらのモデルがどのような性格のトゥイーターなのかについて話をします。
先ずソフトドームトゥイーター(DCU-T111S)ですが、このモデルの最大の特徴はやはり超軽量ポリエステル振動板の採用と、バックカバー採用による低F0化です。振動板の軽量化の効用については前述のブログを見ていただくとして、低F0化することによりトゥイーターとしてはかなりワイドレンジ化ができています。もちろん耐久性の問題がありますからF0(530Hz)から使用するというのはちょっときついですが、F0近辺は非常に歪が増えるためそれを下げることにより2kHzくらいからつないでも十分その効果を感じることができます。
ソフトドームはヨーロッパのモデルではよく使われていますが、その音色はクセがなく非常に自然で、PARC Audioのサウンドポリシーとは非常に相性が良いものです。スピーカーの理論で言えば、高域の再生帯域を伸ばすには振動板の剛性(正確に言えば音速)を上げて軽くて強い材料を使うということが基本となりますが、このソフトドームについてはちょっと例外と言えるかも知れません。じゃぁ金属振動板を使うハードドームトゥイーターと何が違うかと言えば、極論すればそもそもソフトドームトゥイーターとは振動板の分割振動も積極的に使っていこう(というか使える)というものです。ちょっとこのモデルの特性を見てほしいのですが、8kHz付近から既に分割振動が始まっているのが分かります。8kHzと言えばトゥイーター帯域のど真ん中と言ってもいいところで、通常のユニット設計ではちょっと避けたいところです。アルミドームのDCU-T112Sの特性を見ると20kHz以上で分割振動が始まっている様子が見えますので、いかにソフトドームが弱い素材であるかが分かりかと思います。
ちょっとここでお勉強ですが、分割振動というのは振動板が周波数が高くなると正確にそのままの形状を維持しながら一体のままで振動することができなくなり、いろいろな分割モードで各部分がバラバラに動き始めることで、これが起きると例えばある部分は前に動き別の部分は後に動いたりするため、結果としてピークやディップが発生することになります。
じゃあ早くから分割振動するソフトドームってダメなのという素朴な疑問が出てくると思いますが、そんなことは決してありません。それはソフトドームを採用している著名な海外スピーカーが今でも多くある事が証明しています。私は商品や技術は市場やユーザーによって自然に選択され淘汰されていくので、本当に良いものは長く市場に残っていくと考えています。これは逆の言い方をすれば、何らかの問題がある商品や技術はいずれ市場から姿を消していくということになります。もちろんこの問題という中には、音質や性能面以外で、コストや生産性、場合によっては材料が入手できなくなった等の不可抗力的な内容も含まれますが。
分割振動をすると通常歪成分が増加しますが、ソフトドームの場合ドームトゥイーター自体が歪成分が少ないことに加え、その素材の内部損失が高いため結果として歪は非常に少ないモデルが多く、分割振動領域でも大きなピークが発生しないので、自然でクセの無い音色を再生することができるのではと私は考えています。
もうここまで書くと勘のよい皆さんはDCU-T111Sがどのような性格で得意なジャンルは何かもお分かりかと思います。そうです、やはり一番得意なものはバイオリン等の弦楽器だったり、艶っぽいボーカルだったり(トゥイーターの下の帯域ってボーカルに影響が大きいのです)で、とにかく自然に高域感(超高域ではなく)、空気感のようなものを出すのが得意です。経験的に言えば、高域再生では口径の小ささというのはかなりのアドバンテージがあり、よく出来た小口径のフルレンジ(例えば8cm)がいくら頑張っても2.5cmのドームには絶対勝てません。もしそれが出来るなら、2.5cmドームは市場からとっくに無くなっていますから。
逆にシンバルの金属音がチンチン鳴る(あまりいい表現ではないですね)とか、超高域を再生するとか、いかにもトゥイーターを付けました的な音はちょっと方向が違います。この辺の方向がお好きな方は他社のトゥイーターの方が相性が良いかも知れません。(^^;
DCU-T111Sはとにかく自然というのが一番の売りなので、マルチ初心者の方でも非常に扱いやすいモデルだと自負しています。変に自分の存在を主張するようなこともなく、それでいて影でしっかりと自分の役割を果たしてくれる本当に愛おしいモデルです。今までフルレンジしかやられていなかった方も是非一度お試しいただければ幸いです。
では次回DCU-T112Aに続く。