集まれ スピーカー好き!

スピーカーやオーディオに興味がある方に、いろいろな情報を発信していきたいと思っています。

プロジェクトF情報3

2010年12月25日 23時39分26秒 | オーディオ

こんばんは。今日はプロジェクトF情報の第3弾です。

本日のテーマは「振動板の軽量化」です。既にPARCをお使いの方や、このブログを見ていただいている方は、この事を聞かれたことがあるかと思いますが、プロジェクトF開発にあたり、あらためて説明しておこうと思います。

先ず意外に誤解されているのが、振動板と振動系を混同されていることで、この2つは似ているようで違います。

1)振動板
 
ユニットが実際に音を発生させる(べき)部分
 → 
コーン紙(トゥィターではドームなど)、センターCAP

 2)振動系
 振動する全パーツのこと
 →
振動板に加えて、エッジ、ボイスコイル、ダンパー、接着剤などを含みます。


皆さんもTSパラメーターを使ってシミュレーションをされたことがあると思いますが、ここで使うものは上記の振動系全体の重量であって、振動板だけでの重量は扱いません。ちょっと簡単な例を書いてみましょう。

A)*振動板+CAP=4g
  *エッジ、ボイスコイル、ダンパー、接着剤=10g

B)*振動板+CAP=6g
  *エッジ、ボイスコイル、ダンパー、接着剤=8g

この2つのユニットの場合、振動系重量は同じ14gになり、シミュレーション上は低域特性やSPLは全く同じ結果となります。では実際のユニットではどうなるかというと、ボイスコイルの線径変更をしなければ、低域の肩特性は基本的に同じになり、振動板が同じ素材であれば重量アップ(つまり板厚アップ)の分だけ剛性が上がるので、Bの方が中域を中心に歪みが減少し、高域のレンジが少し伸びたりすることもあります。(素材によっては、高域のピークが強くなることもありますが) もちろん、ボイスの線径を変更する場合はBlやコイルのL分も変わってしまうので、少し状況は変わります。

ここまで書くと、じゃあ振動板重量の重いBの方が、歪みが減って、レンジも伸びるし、基本的に良いのではと思いますよね。実は私も最初はそうでした。私も若い頃は「振動板は先ずは剛性を確保すべし」と信じていましたし、常にそのように設計していました。実際その方が特性も概ねいい方向にいったりします。そんな私の先入観を根底から覆したのは、今は亡きMさんだったのです。その時のことは こちらのブログに書いてあるので、気になる方はご覧ください。このブログにも書きましたが、振動板を軽量化していくことで、特性だけでは語れない音質の変化が起こります。それは音離れの良さであったり、音がこなれてくるようになったりします。ちょうどユニットのエージングが進んだような感じという言い方も出来るかも知れません。これはなかなか言葉で表現するのは難しいのですが、PARCのユニットに共通する基本的な流れ(狙い)と思ってください。

よく、振動板の強度が不足すると、パワー感が無くなるとか、歪感が増えるとか、音が正確でなくなるとか、ネガティブなことをおっしゃる方もいますが、それは半分正しく、半分は間違いです。どういうことかと言えば、それはそのユニットにどの程度のパワーを入れて、どの程度の最大音圧を出したいかで左右されるということです。つまり大パワー、大音圧が必要なら、当然それに見合う振動板強度はある程度は必要ですが、逆にそんなに入力を入れない状態では強度不足の悪さより、重い(厚い)振動板からくる音離れの悪さや中高域のクセの方が目立つことがあったりします。言い換えれば、音離れの良いユニットではそんなにパワーを入れなくても音がスピーカーから浮いてきて気持ちよく鳴ってくれるので、パワーを入れる必要がなくなるという言い方もできます。その意味で、SID方式を採用したソニーのSUP-L11などは業務用ということでシビアな耐パワー特性が要求されるため、軽量化に関しては妥協せざるを得ないところがありましたが、最初から家庭用として設計するプロジェクトFではその点は徹底的に割り切った設計が出来るのです。

ここであらためてお話しておきますが、家庭と言えども耳が痛くなるほどガンガンパワーを入れて楽しみたいという方にはこのユニットは向いていないかも知れません。そのような方には、他社のユニットで非常にしっかりとした音を出すユニットがあるので、是非そちらをお選びください。でかい磁気回路とWダンパーを見て、さぞや大パワーが入るのではと思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、最初からこのユニットはそういう方向は向いていないのです。

ちょっと生意気なことを書かせていただくと、実際にPARCのユニットを使われて、今まで使われていたユニットに比べて実際に聴かれている時の音圧レベルは多分小さくなっていると思います。何故ならそんなに音量を上げなくても、音がちゃんと自分のところに届くから。これはプロ用ユニットのスタジオへの導入でよく経験したことですが、同じ音圧でもユニットによって感じる音の大きさは変わります。音離れの悪いユニットはスピーカーに音がへばりつき、どうしても入力を上げないと同じ音圧感を感じません。これはグライコなどで特性を完全に同じにしても、傾向は変わりません。このことを一般に測定しているデータだけで説明することはかなり無理がありますが、人間の耳はこれをちゃんと検知するのは事実です。私見としては、私はこの差で一番効いていることは音離れの違いということではと感じています。

この事を非常によく表しているコメントが、最近DCU-F131PPのユーザーコーナーの中の詳細レポートでありましたので、ご紹介したいと思います。

ところで“軽い音”と言うと、多くの方が“低音の出ない軽薄な音”を連想してしまって、説明に窮する事があります。これは誤解で、“軽い”とは、音色感の様な周波数特性的な事ではなく、過渡応答的な事柄です。低音にも、中音、高音にも重い/軽いがあります。強いて言えば“クリアー感”です。くどい様ですが、例えば3kHz付近を持ち上げれば明るい音色にはなりますが、軽さ感とは異なります。生演奏の感動感やストラディバリウスの様な名器の音は、この“軽さ”とか“エネルギー感”が非常に重要な要素であると思います。PARC製ユニットの素晴らしい点は、この軽さが出せるのにもかかわらず、往年の名器の様に低音が出にくかったり、やかましかったりしないところです。これは大変な事だと思います。

正直なところ、このコメントは設計者の私よりも、私の言いたいことを端的に指摘されていて、初めて見た時はちょっと驚きました。既にPARCのユニットをお使いの方は、程度の大小は別として、この事を体感していただいているのではと思いますが、この事はPARCユニットの基本的な設計ポリシーなのです。

コメントでも書かれていますが、PARCのユニットが何故軽さがありながら低音もちゃんと出せるのか?
それはPARCユニットが単純に高SPLなどを狙って軽量振動板を採用しているのではないからなのです。言い換えれば、振動板は軽いが、振動系はそんなに軽くないということです。前から言っていますが、私は音の基本は中低域にあると思っています。いくら軽い振動板を使っても、中低域の出ない、薄い音を出したのでは意味がありません。そのため、振動板を軽量化した分、ボイスコイルやネック接着剤等でしっかり全体のバランスを取っているのです。つまり上記のAの方向ですね。

昔からそうですが、私はユニットを設計する場合、ボイスコイル線径に関しかなり神経を使いますが、とにかく迷ったら太い線径を選ぶようにしています。これはボイスコイルの線径が太くなれば巻き数が増え、ボイスコイル強度があがり、結果としてしっかりとした音質になるからです。これは特性だけではなかなか説明し難い差ですが、今までの経験で得られえたノウハウのようなものです。(まぁあまり細かいことを書くと企業秘密の部分になりますが) ボイスコイルの音質への影響は言うまでもありませんが、これは書くと長くなるので、いずれまたということで、今日はこの辺で。

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PARC Audioファンによる試聴会企画

2010年12月17日 21時18分18秒 | オーディオ

こんばんは。今日は予定を変えて、ちょっと嬉しいお知らせです。

既にご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、PARC創立以来のファンであるkeikさんと、横浜の田中さんのご提案で、「PARC Audioファンによる試聴会企画」というのが動き出しました。詳細は こちらのブログをご覧いただきたいのですが、他のメーカーさんがやられている試聴会とは違い、今回のものはあくまでユーザーの皆様の企画によるイベントということですので、当日の内容や進行はこれからお二人が中心となって、参加希望の他の皆様のご希望等を調整しながら決められていくようです。

もちろん、PARC Audioとしても全面的にサポートさせていただこうと思っていますので、当日は私も参加させていただくつもりですし、今まであまり音出しをしていないようなモデルのデモ機も用意できればと考えています。ただ4月ということで、プロジェクトFのデモ機はちょっと微妙ですが、ウーファーだけくらいはお聴かせできるかも知れません。ということで、ご興味のある方は是非ご参加いただければ幸いです。当日は、皆さんの自作機をいろいろと聴けたり、またスピーカーに関してのいろいろなフリートークも出来るかと思いますので、楽しいイベントになるのではと今から楽しみです。

今後、PARC Audioのホームページがリニューアル後、掲示板でも皆さんで自由に相談できるかと思いますので、是非皆さんのいろいろなご意見やご要望をお出しいただければと思います。年内は私もHPの準備や残務でドタバタですが、年が明けたらこのイベント用のデモ機作りに頑張ろうと思います。では今日は短いですが、この辺で。次回こそは、プロジェクトFの基本的コンセプトの一つである振動板の軽量化について書きたいと思います。

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メーカー欠品中商品の入荷情報

2010年12月11日 00時25分03秒 | オーディオ

こんばんは。今日はプロジェクトFの話は少しお休みして、現在メーカー欠品中の商品の中で、入荷予定が分かったものについてのお知らせです。

先ず、17cmスピーカーBOX組立キットのDCK-171-C
実は商品は既に入荷していますが、現在受け入れ検査や、キット部品の梱包等を準備している最中で、来週には出荷可能かと思います。前回、真空管オーディオフェアでのデモが好評で、予定よりも早く完売となってしまいましたが、これで何とか年末商戦には間に合いそうです。

それとこのキットでもう一つだけ追加情報があります。以前からリクエストが多かったキット用グリルネットもオプション販売をすることになりました。今までPARCのキットやシステムは音質最優先でグリル関連は設定をしていませんでしたが、小さなお子様やペットなんかがいらっしゃるご家庭ではやはりスピーカーの保護は必須のようで、今回17cmでテスト的に導入することにしました。なおキット本体としては従来どおりグリル無しの仕様での販売となるので、オプションのグリルは装着を簡単にするために、一般的に使われるグリルホルダー(モールド製の凸凹の部品)は使わず、マジックファスナーをバッフルに両面テープで付けるということにしました。そのため、既に17cmキットをご購入いただいた方や、ご自身で自作された方にも使っていただけますので、是非お試しいただければ幸いです。商品の方は年末に中国発送予定なので、お届けは1月中旬ごろになるかと思います。

それと、これも1月発売予定ですが、17cmコアキシャルの2モデルを使った完成品システムも商品化することに決めました。というのは、このモデルを今までご購入いただいた方の中に、自作にはあまり興味がないがCPの良いスピーカーを探しているという方が結構いらっしゃったのです。この完成品システムに関しては、キットと差別化するために、内部配線材やダクトの補強処理などを更にチューニングをし、グリルもグリルホルダー付きで添付します。自作はどうもという方は、是非お楽しみに。

それ以外の商品では、下記のものが12/17ごろ入荷予定で進行中ですので、何とか年末商戦に間に合いました。

*DCU-C171PP (17cmPPコーンコアキシャル)
*DCP-N001    (コアキシャル用ネットワーク)
*DCP-T002    (スピーカーターミナル)
*DCP-NB001   (汎用ネットワークボード)

それと残念ながらDCK-F071W-C  (5cmウッドコーンキット)だけは、上記のグリルとともに1月中旬入荷となりましたので、年越しとなっちゃいました。(^^;

最後にリニューアル予定のホームページですが、掲示板やブログの統合、買い物カゴの新設など、ちょっと欲張りすぎたこともあり、正式デビューはちょっと年越しになるかも知れません。現在鋭意準備中ですが、既に検索エンジンでは一部ひっかかるようで、先日も買い物カゴで申し込んだけどいっこうに返事が来ないとの問合せをいただいてしまいましたが、申し訳ありませんが正式デビューまでは見て見ぬふりをしてくださいませ。(笑)

今回デビューが大幅に遅れたことのお詫びを兼ねて、スタート時にはお買い得B級品や、不良対応用としてメーカーで少し在庫していた限定赤PARC(DCU-F122W)の放出なども予定していますので、是非お楽しみに。では今日はこの辺で。

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プロジェクトF情報2

2010年12月06日 23時57分27秒 | オーディオ

こんばんは。今日は、前回お話したセンタリング精度が良くなることと音質改善の関係についてお話したいと思います。結論を先に言ってしまうと、最大のポイントはエッジにあるのですが、それには急がば回れで、先にエッジの機能についてお話した方が話が分かりやすいかと思います。

スピーカーユニットでエッジの果たす機能としては下記になります。

1)サスペンションとして
 これが一番一般的に知られている機能で、ダンパーと共に振動系を支え、狭い磁気ギャップの中をボイスコイルが当らずに前後に振幅できるようにしています。

2)振動板の一部として
 これは意外に知られていないことかも知れませんが、エッジは大きく振動しますので、当然それ自身からも相当な音圧を出しています。例えば、今回の17cmユニットではエッジ部の振動面積はロール頂点より内側だけで見ても、コーンボディの振動面積の何と20%近くもあります。一見した感じではあまり面積がないように見えるかも知れませんが、コーンよりも外周にあるので、見た目以上に振動面積は大きいのです。そのため、エッジ素材の振動板としての音色も重要な課題となります。

3)振動板の制振材として
 これは特にゴムエッジの場合は顕著ですが、中域以上で発生するコーンの分割振動を抑える効果があります。逆に布エッジなどのようにあまり制振効果が高くない素材の場合は、エッジ自身が一緒に共振して、俗に言うエッジの逆共振が大きく発生することもあります。

4)シーリング材として
 スピーカーユニットは振動板が前後に振動して音を出しますが、前後の音は位相が逆の音になるため、前後の音が混ざるとキャンセルされて低域特性が大幅に劣化します。そのため前後の音を遮断する必要があり、エッジは振動板とフレームの間でユニットの前後の空気の漏れを遮断しています。

ここで、上記の1)と2)3)はお互いに相反する要素なのです。つまり、サスペンション効果を強くしようとすると、どうしてもしっかりした、言い換えれば硬い(あるいは厚くて重い)素材を使うことになり、そうすると結果として能率の劣化や、中高域に大きなピークディップが発生したり、または音色が非常に重い暗いユニットになったりします。

SID方式の最大のメリットはこのエッジの改善で、SID方式ではエッジはサスペンションとしての機能は考えなくてよいため、上記2)と3)の改善を集中的に行えるのです。つまり従来方式では決して使えないような極薄(軽量)で高内部損失の高品位ブチルゴムを使い、コーン外周部の分割振動を効果的に抑えつつ、 エッジ自身からの嫌な音を最小限に抑えるということが可能となります。このことは言葉でいろいろ説明するより、実際のユニットのエッジを触っていただいた方が分かりやすいかも知れません。おそらくそのエッジの柔らかさ、薄さに驚かれると思います。これにより、非常にしっかりした低域と、素直な中高域の両立を可能としています。

実際ユニットの設計をする場合、このエッジの設計(選定)というのは非常に悩ましい問題で、簡単なように見えるかも知れませんが、実は毎回一番悩む部分でもあるのです。その意味で、それに関して設計の自由度が大幅に増えるSID方式は本当に有効な手法なのです。(コストを除けば)

ちなみに、この点では今回のプロジェクトFは同じSID方式をとっているソニーのハイエンド業務用ユニットSUP-L11よりも更に有利となっています。というのは、業務用の場合は要求される耐パワー性が非常に厳しいので、いかにSID方式と言えどもある程度の厚みを持ったエッジが必要になるのですが、プロジェクトFのようなホーム用での一般使用であれば耐パワー性はそこまで必要ではないため、思い切ったものが使えるのです。

エッジを改善する手法としては、完全にエッジをなくすという考え方がありエッジレスユニットというものも過去ありました。ただ、このエッジレス方式は4)の空気のシーリングをすることが最大の課題で、このシーリングをするために振動板外周部にコーン背面部に延びる大きなリング状の部材を付けることになり、せっかくエッジをなくしても、代わりに付加される部品の影響が出てしまいます。またこの方式はボイスコイルから見て振動板が巨大な片持ち梁構造となっていることも、気になる点で、個人的な意見ではありますが、私自身はあまりメリットを感じません。

さて次回はプロジェクトFの基本的コンセプトの一つである振動板の軽量化について書いてみようと思います。では今日はこの辺で。

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プロジェクトF情報1

2010年11月27日 23時15分35秒 | オーディオ

こんばんは。今日はお約束のプロジェクトF(PF)情報です。
フェアなどでこのサンプルをご覧になられると、多くの方が

「うわ~、でかいマグネットですね。」とか、「やっぱりアルニコでないといい音は出ませんか?」

というようなコメントを多くいただきます。ただ、残念ながら上記のご質問はPFの本質からは少し離れています。確かに大型のツボヨークを使ったこの手のユニットは結構世の中にありますので、外から見ただけではあまり違いは分からないかも知れませんね。
ということで、第一回の今日はこのユニットの最大のポイントである完全シンメトリカル・インナー・デュアルダンパー
ymmetrical Inner dual Damper)についてお話したいと思います。このちょっと長々しい名前ですが、平たく言えば、2枚のダンパーをボイスコイルの両側に、なおかつ 完全に対称形に設置するというものです。

このボイスコイルの両側に完全に対称形にというのが最大のミソで、昔から世の中に多くあるデュアル・ダンパー(Wダンパーとも言います)とは決定的に違います。最初に結論だけ言っておくと、アルニコ内磁型というのはこのSIDを使うために必然的にそうなるということで、これが目的ではないのです。それでは従来のWダンパーとSDIとの違いを解説していきましょう。

そもそも従来のWダンパーの最大の目的は、支持系の耐久性を上げることで、採用されるモデルもHiFiというよりは耐久性を重視されるPA用などのユニットが多いのが実情です。それに比べて、SIDの最大の目的は耐久性アップではなく、あくまで高音質を目指してのことなのです。

 

先ず1番上の一般的なシングルダンパーの構造図を見てください。
ここで「ネック当り寸法」とあるのは、これ以上振幅するとダンパーネックが磁気回路に当るという寸法で、ユニットの最大振幅を示すものです。そのため、この寸法はユニット設計をする上で一番基本的な項目の一つであり、Wダンパーになっても変わることはなく、上記の3つの例でも全て同じとなります。(というか、変えるべきではありません。)
ユニットの基本的な動作として、音楽信号が入力されると、ボイスコイルが振動し、その振動がボイスコイルボビンを伝わって振動板を振動させて音が出ます。そのため、ボイスコイルの振動を出来るだけ忠実に伝播させるには、このボビンを短くすることが有効ですが、最大振幅を確保するために必要なネック当り寸法を確保する必要があるのです。

図を見て明らかなように、振幅方向に対してユニットの質量バランスは、その振動の源であるボイスコイルから見て、圧倒的にユニット前面側に偏っています。これは従来のユニットが持っている基本的な問題点です。この問題点は、図でも明らかなように従来のWダンパーでは更に悪くなります。また、従来のWダンパーのもう一点の問題として、振動板とボイスコイルとの距離が増えてしまい、振動の伝播ロスが増えるということがあります。これらを防ぐには第2ダンパーを第1ダンパーの下に設置すればいいのですが、それをやると先に説明した最大振幅がかせげなくなるため出来ないのです。従来のWダンパーが、音質重視のモデルではあまり使われない理由はここにあると思います。

 

ではSIDの場合はどうかというと、図でも明らかなように、ボイスコイル~振動板の距離は従来のシングルダンパーと同じで、振動伝播ロスの悪化は無く、また質量バランスに関しても明らかに改善されることが分かります。特にウーファーの場合はある程度のM0が許させるので、第2ダンパーのネック部に質量バランスを取るためのウエイトリングを追加することもでき、大幅に質量バランスを改善することも可能です。これにより、機械的なリニアリティが改善され、結果として2次歪み特性などの改善が可能となります。

それとSID方式のもう1点のメリットとして、ボイスコイルの中心保持の精度が大幅に向上するということがあります。ボイスコイルは狭い磁気ギャップ内を当らないように正確に前後に振幅する必要があるため、その支持系(エッジとダンパー)にはセンタリングの精度が要求されます。図でも明らかなようにSID方式ではボイスコイルを磁気ギャップ部の両側で支持するため、その精度は非常に上がります。それに比べて従来の方式は、ボイスコイルの片側で支持をしているだけで俗に言う片持ち梁構造となっていますので、精度が落ちます。これは従来のWダンパーでも若干改善されるものの、基本的には変わりません。ではこのセンタリング精度が良くなることで、音質的にどういう効果があるかということですが、これはちょっと説明が長くなるので、次回にしたいと思います。

それからマグネットの件ですが、図でも分かるように、SIDではダンパーを磁気回路の中に入れる必要があるため、自動的に磁気回路は内磁型になります。そのためフェライトは使えないので、残る候補はネオジムかアルニコになります。ただSIDでは修理や同じ磁気回路を流用しての試作などを行う時にマグネットの脱磁が必須となりますが、ネオジムの脱磁は非現実的なので、自動的にアルニコの内磁型ということになるのです。もちろん私は音質的にもアルニコ内磁は最高と考えてはいますが、SIDの場合はちょっと別の事情もあるのです。

さて次回は、センタリング精度が向上することと音質向上の関係を説明したいと思います。では今日はこの辺で。

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