中国家電大手の海爾集団(ハイアール)は15日、都内で事業戦略説明会を開き、2015年に日本で売上高800億円を目指す考えを明らかにした。
三洋電機から買収した白物家電事業を「AQUA(アクア)」ブランドで展開し、牽引役とする。
ハイアールにとって三洋買収は日本市場開拓のみならず、開発力強化の狙いも大きい。三洋の技術を得たハイアールが日本勢の新たな脅威となる可能性もある。
●日本が重要な拠点
「アジアの売り上げを伸ばすためにも、日本が重要な拠点となる」。
1月から売り出したアクアブランドの新製品を前に、ハイアールの張端敏最高経営責任者(CEO)は力を込めた。
アクアは元々、三洋電機の洗濯機ブランドだった。ハイアールは12年1月の買収を機に、日本向けの上位ブランドに再構築した。
ラインアップには冷蔵庫も加えたほか、今後、他の白物家電も登場するとみられる。
大手家電量販店の店頭には現在、アクアとハイアールの両方の製品が並ぶ。小型洗濯機の場合、アクアはハイアールよりも2割程度割高。
ハイアールは日本での売上高を15年に800億円(12年の目標は500億円)に引き上げるといい、このうち500億円をアクアで稼ぐとする。
迎え撃つ日本メーカーは「狙う価格帯が異なる」(パナソニック幹部)などと静観の構え。日本市場は国内各社で飽和状態にあるため、国内勢の優位性は変わらないとの見立て。
●製品の販売拡大狙う
実際、ハイアールは02年から日本市場に参入しているが、主力の冷蔵庫でわずか0.9%のシェアしか獲得できていない。
張CEOは「アジアで白物家電のトレンドをリードしているのは日本。難しい市場だからこそ取り組む必要がある」。そのための補強が、三洋からの事業買収だった。
従来は若者や単身者向けの製品が多かったが、アクアでは三洋で培ったブランドイメージを生かし、ファミリー向け製品の販売拡大を狙う。
ハイアールはアクアの再構築に合わせ、京都市内に洗濯機の開発部門となる新たな研究開発(R&D)センターを開設した。
三洋出身の技術者約100人を集め、新製品開発を進める。アクアだけでなくハイアール製品も手がけるのがポイントで、三洋の技術をハイアールのグローバル展開に取り込んだ形。
14年には東京で冷蔵庫の開発を担うR&Dセンターも立ち上げるといい、「新たなトレンド」が両センターから生まれる可能性もある。
●日本勢との競争激化
ハイアールは今回、東南アジアに強かった三洋から、フィリピンやマレーシアなど6カ国での販売網と、ベトナムでの洗濯機の生産拠点も手に入れた。
「これらは、ハイアールの今後のアジア戦略にとっても重要な意味を持つ」。ハイアールの梁海山・執行副総裁はこう明かす。
ハイアールは欧米や東南アジアなどで販売強化を進めており、今後は世界各地で日本勢との競争が激化しそう。
日本の家電各社は薄型テレビなどの収益力が低下する中、白物家電の海外展開に力を入れているためだ。
国内家電各社は、日本市場で培った省エネや環境負荷低減などの技術を海外展開の目玉とする考え。パナソニックは、12-13年にインドやベトナムなどで白物家電の新工場を建設。
東芝も、約30億円を投じてインドネシアに洗濯機の新工場を建設する。日立製作所も10年に32%の海外売上高比率を15年に45%に高める計画。
三洋の技術力で「鬼に金棒」となったハイアールが、同じ土俵で日本企業の前に立ちはだかった場合、競争環境は一気に厳しさを増す。
日本企業が戦略転換を迫られる可能性すらある。
<2011年の洗濯機世界販売台数シェア>
1位 ハイアール(中国):12.3%
2位 ワールプール(米):12.3%
3位 広東美的電器(中国):10.2%
4位 エレクトロラックス(スウェーデン):7.9%
5位 LG電子(韓国):6.9%
6位 パナソニック:6.2%
7位 ボッシュ・シーメンス(独):5.7%
8位 インデジット(伊):4.8%
9位 サムスン電子(韓国):4.0%
10位 東芝:1.3%
11位 その他:28.4%
【記事引用】 「日経産業新聞/2012年2月16日(木)/20面」