掌蹠膿疱症とたたかう”たかが皮膚科医” in 愛媛

変わり者と後ろ指を差されながらも、掌蹠膿疱症とひたすらとりくむ元北海道地域医療従事臨床研究者のひとりごと。

PAOに関する雑感

2012-10-24 04:42:37 | 火曜日は専門外来日!

掌蹠膿疱症の約10%に掌蹠膿疱症性骨関節炎 (palmoplantar pustulotic arthro-osteitis, PAO) の併発が認められるとされ、 SAPHO (synovitis, acne, pustulosis, hyperostosis, osteitis) 症候群の一分症として認識されていることは、近年かなり広く知られるようになってきています。

実際に皮膚科を訪れる患者さんで、SAPHOを全て満たす方はほとんどおられませんが、皮疹がないのにPAOが生じて皮膚科を訪れる患者さんは結構おられます。我々は皮膚科医だからまずは皮疹をみて病気を考えないといけないのですが、皮疹がないと手がかりがないためなかなか診断に行きつきません(例えば急性蕁麻疹の患者さんが、膨疹が引いてから外来にこられた場合、アナムネから判断することが多いのと同じです)。

私も北海道でかなりPAOの患者さんを診ることになったので、胸部単純X-PやMRIを見る機会は多かったのですが、血液検査でもこれらの画像上にも変化がないのに痛みだけを訴えるケースもままありました。たいていは整形外科をまず受診されるのですが、なんともないと言われてそのまま・・となるケースがかなり多いようです。皮疹が出てくれば、皮膚科へ来るという流れは分かるのですが、時になぜかPAOを考えて、私の外来をインターネットで探し当てて突然やってこられたケースが複数ありました。肩関節周囲炎、リウマチのケースもありましたが、本当にPAOだったケースもあります。でもこのときは、PAOかなあと思いながら経過をみていたら水疱膿疱が少し出て、PPP+PAOだったねと診断しました。つまり、結局は皮疹を見つけないとPPPあるいはPPP+PAOと自信をもって診断できないということです。

血清学的にPAOを見つけられないかと、旭川で結構関連サイトカインや炎症マーカーなどを調べたのですが、おそらくこれかなと疑うものはあっても、積極的にこれが異常値なら絶対にPAOだよというデータにはいきつきませんでした。

自分が皮膚科医だからと言って、ややもすれば整形外科領域になるPAOを絶対見ませんというのは、専門医である前に医師として不勉強であると感じるし、いくら期限切れだからといっても元病理医として、”病気を見るときは局所のみをみて近視眼的になることなく、全身の変化を大局的にとらえるように"と病理の恩師に教えられている以上、なげたらいかんぞなもしと思っているので、これからもPAOについてはできる範囲で勉強と研究を進めたいと考えています。

ただし、10年すると病気の診断基準や分類が変わることはよくあることなので、それまでにPAOという病名がなくなる可能性も否定できません。でもそれはPAOの病態が分かったから分類が変わるということになるので、患者さんにとっては福音であるはず・・と願いを込めたいと思います。


科学研究費

2012-10-18 00:24:55 | 火曜日は専門外来日!

今更ながら、今年のノーベル賞で京都大学の山中先生のiPSの仕事が選ばれたことは、本当に喜ばしいことでした。研究費を集めるために京都マラソンにでて日本中に支援を訴えたテレビ画面が昨日のことのように未だに脳裏に焼き付いています。並々ならぬ努力の継続が実を結んで本当によかったなあとまるで自分のことのように思ってしまいました。

つい先日、かののゲノムプロジェクトで高名な中村祐輔シカゴ大教授の講演会が、愛媛大学医学部で行われました。日本における創薬、研究費、今自分が米国でどのような環境で仕事をされているかなどを踏まえて、今取り組んでおられるガンペプチドワクチンの話をしてくださいました。逆境にもめげないものすごいエネルギーを感じるとともに、中村先生の”簡単に日本で薬を作るっていうのはやめた方がいいですよ。すごく苦労をしました”という言葉が心に残りました。

いい話がせっかく続いたのに、水を差すようにここ最近巷で某M氏という東大特任教授とやらのマスコミ暴露度がとても上がっています。すでに1例しかやっていないのに6例やったといった時点でうそつきです。山中京大教授がとてもすばらしい研究をされて、日本発の輝かしい業績を上げノーベル賞を受賞した直後のことでよけいにM氏の功績がともすれば日本人研究者に対する世界の評価を大きく下げた可能性があり非常に腹が立ちます。しかも、その一例すら怪しいということですが、いちばん腹が立つのは、”どうしてあのような人にとても多額の研究予算がつくのか??”ということです。

来年度の科学研究費をとるために、ここ連日遅くまで休み返上で頑張らせてもらっていますが、あのような人に一億円もあげる余力があるのであれば、ノーベル賞なんかとれないような地味で小さな仕事だけど、患者さんが切実に何とかしてほしいといわれる病気に取り組んでいる私たちに、その十分の一でいいからお金を回してくださいと声を大にして言いたいです。

愛媛大学に赴任して、今日までシングルヒット程度のグラントですが3つ応募して、通ったのはわずかに一つ。お前の能力が低いから予算が取れないのだろうと言われれば確かにそれまでですが、やりもしない研究をさも本物のようにうまいこと書類をかくことができればもらえるのかとか、うその研究業績を積み重ねればお金がもらえるのかとややもすれば猜疑的になってしまいます。今日はなんか、愚痴になってしまいました。すみません。

私はホームランは打てないけど、イチローみたいに一つのことを地味に成し遂げたいと強がりながら、ない知恵絞って書類書きを黙々とつづけることにします。でも、かなり眠い。。。

 

 


痛みから身をもって学んだこと。

2012-10-10 03:34:55 | 火曜日は専門外来日!

旭川から愛媛に引っ越ししたころから、実は症状はあったんです。二か月ぐらいして、あまりに奥歯にしみる感じが強いから、まずは近所の某歯科を受診しました。その歯は何年も前に旭川でしっかり治療をしてもらってずっと調子がよかったんですが・・・

”虫歯で痛みがでることは少なくて、これは歯周炎による知覚過敏ですよ”

歯のそうじをしましょうといって二回ほど通っておしまいになりました。

その後、痛みはとれず、”ぜったいこれは齲歯だよ”と思って、別な歯科医にかかりました。

”歯周病も進んでいますが、ちょっとこの奥歯は怪しいですね”

歯科金属を外して診察したら、齲歯が見つかりました。加療してもらい、金属を詰め替えたらウソみたいに痛みがなくなりその後3か月は平穏な日々が。

一か月前から再び”キーン”としみる感じが。

”歯周ポケットは深いので知覚過敏があるかも。ブラッシングで頑張ってみますが、あまり痛ければ神経の処理が必要になることがあります”

とうとう先週の金曜日から今まで経験したことのない激烈な痛みが。眼窩、頬部、項部に波及し、夜中に痛さのあまり突然目が覚めることも。手持ちのロキソニンは一日4-5回飲みました。

”これは、絶対に歯髄炎だ。口腔外科にいかないと”と思い、愛媛大学病院の口腔外科を受診しました。

パノラマと局所の写真撮影の後、歯肉の腫れがひどくないのにこれだけ激烈な痛みがあるのは、神経に障害がある可能性が高いと診断され、金属を外してみたところ、かなり奥まで細菌感染が進んで、歯髄炎になってたそうです。

局麻をして処置をしてもらい、一回目は薬を詰めてクローズ。ロキソニンのみの処方でしたが、この悪夢の3日間に経験していたような激烈な痛みはなくなり、そういえば抜歯したときこんな感じの痛みだったなという感じになり、しばらくぶりに安らかな気分となりました・・・・

初めにかかった歯科医が、初めから歯周病による知覚過敏だと決めつけて、大したことないという態度をとったが、結局私の見立て通り齲歯であったことから、”こいつは薮医者だ、二度とかかるかばかたれ”と思いましたが、次の歯科医はすごく親身に診察・加療をしてくれて満足していました。たまたま病変が再燃したけれど、”外科的処置で神経を処理しないといけないかもしれない”とあらかじめ話をしてくださっていたので、自分でこれは口腔外科へ行かないといけないと判断することができました。

二人の歯科医にかかって、自分がどのような皮膚科医の態度で患者さんに接するか振り返ったとき、一般外来をするときはどちらかというと前者の医者だなとちょっと反省しました。でもPPPの外来をするときは後者だなとも思いました。

医療において100%絶対ということはありえないと思います。今の自分にできるベストショットを打ち続けることしかできないと思うのですが、それで満足しない患者さんも多数おられることでしょう。ゆえに、この医者とはやっていけないと思うのであれば、別な医者にかかることは当然のことだと思います。でも、この医者ととことんやってみようと思えば、そのプロセスで多少のことがあっても(ミスを含めて)、やっぱりまたそこへかかりたいと思えるだろうと(私個人的には)思います。

お互い人間ですから、感情もあるので好き嫌いは間違いなくあるとは思うのですが、我々もプロの医師である以上、時には素直に自分の姿を振り返って、プロと呼ばれるのにふさわしいか冷静に見つめなければいけないと、今回自分のエピソードを通じて今一度学ぶことができたので、本当につらくてつらくて仕方のない3連休でしたが、有意義であったと言い聞かせることにしたいと思います。

とはいえ、痛くてつらいと人にやさしくできないんだよねえ・・・家庭を冷やしたことについては釈明の余地はありませぬ。

I must apologize to my CO and XO for my sucks attitude in these 3 days....

 


掌蹠膿疱症の重症度スコア

2012-10-02 20:59:07 | 火曜日は専門外来日!

 

掌蹠膿疱症の重症度をスコア化して、治療効果の判定に使おうということで、尋常性乾癬の重症度スコアPASIを元に提唱されたものがPPPASI(palmoplantar Pustulosis Area. Severity Index)です。

ただしこの手の形態学的な違いを目で見てスコアにすると、かなりバイアスがかかり、判定者が異なれば同じ皮疹でもスコアは変わるし、同じ判定者でも見る日が違えばスコアが変わる可能性があります。

とはいえ、どれだけよくなったかを自覚するためのスケールがないと、毎日自分の皮疹を見ている患者さんはよくなっているのか悪くなっているのか実感できなくなることが多く見受けられます。

私は写真を撮りまくって毎回記録しています。過去の写真集をお見せするのが一目瞭然だからです。でも、PPPASIを併用して数字を示した方がより実感しやすいようだということも分かりました。

かゆみスケールや痛みスケールなどもありますが、やはりかなりアバウトなスケールです。世界共通のスケールがあるということはどれだけ便利かということで、変な話ですがメートル法は素晴らしい発明だったとつくづく思います。

とはいえ、スケールでいくつよくなりましたっていうより、そんなものを見なくても一目瞭然ですっかりきれいになった!というのが理想であり、そこを到達点にしたいといつも思って外来で診させていただいております。今後も治療にかかわるような貴重な情報を皆さんからいただけることを切に望み、お願い申し上げます。