霊界物語 第六巻 霊主体従 巳の巻 第一篇 山陰の雪
平成二十二(2010)年十一月五日 旧九月二十九日(金)
花の顔色(カンバセ)、霞の衣(コロモ)、姿優(スガタヤサ)しき春の日の、
花に戯(タハム)る蝶々(テフテフ)の、得も言はれぬ風情をば、
遺憾なくあらはしながら、宣伝使の前に座を占めたる美人あり。
足真彦(ダルマヒコ)は思はず、
「ヤア」
と叫べば、女性はハツと胸を仰(オサ)へ、
『鬼熊(オニクマ)はあらざるか、鬼虎(オニトラ)はいづこぞ。
申付くべきことあり、早く来れ』
と、しとやかに呼ばはりたり。
されど何れの者も、この女にまかせて何彼の準備に取りかかり、
近辺には一柱(ヒトハシラ)の厄雑男(ヤクザヲトコ)さへをらざりける。
--------------------------------------------------------------
今回の分解の内容とはまったく無関係だけれど、
今日の旧暦である九月二十九日は、筆者の旧暦の誕生日である。
新暦の誕生日まではあと十二日あるのだが、
今週はいろいろ忙しくて、このブログを更新する気になれたのが、
たまたまなのか惟神なのか今日になった事には、
もしかしたらまた何か意味があるかもしれないので、
それを楽しみにしながら今週も分解を進めて行こうと思う。
ちなみに天保8年9月29日(1837年10月28日)は、
大政奉還を決意した徳川慶喜の誕生日だった。
西暦1837年10月28日は蠍座になるので、
筆者と何か共通する事でもあるのだろうか?
…と、今回の分解とは全く関係ないであろう情報を得てしまったのだが、
はたして今回の分解内容との関連性はあるや?なしや?
昔の活動弁士が語り出しそうな、この、
『花の顔色(カンバセ)、霞の衣(コロモ)、姿優(スガタヤサ)しき春の日の、
花に戯(タハム)る蝶々(テフテフ)の、得も言はれぬ風情をば、
遺憾なくあらはしながら、宣伝使の前に座を占めたる美人あり。』
…という語り口調からすぐに察せられるのは「恋の予感」なのだが、
足真彦神は後に達磨太子に生まれて来るという因縁の身魂の筈なのに、
こんな足腰がこそばゆくなる様な展開があるのだろうか?
…とはいえ、恋の香りを放っているのは足真彦の方ではなくて、
この謎の美人の方なのだけれども…?
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
女性はあたりに人無きを見すまし、
梅花のごとき美しき唇をやうやく開きて、
『アヽ貴下(キカ)は足真彦にまさずや。
月照彦天使(ツキテルヒコノカミ)は、
当山に割拠する美山彦(ミヤマヒコ)の謀計にかかり、
今や奥殿に休息されつつあり。
悪人の奸計にて、痛はしや、今宵のうちにその生命(イノチ)も、
晨(アシタ)の露と消えたまはむ。
貴下もまた同じ運命のもとに
刃(ヤイバ)の露と消えさせたまふも計りがたし。
心配(ココロクバ)らせたまひ、妾(ワラハ)と共に力を協(アハ)せ、
この館の悪人どもを打亡ぼして、世界の難を救ひたまへ。
妾は月照彦天使の懇篤なる教示を拝し、
吾が夫鷹住別(タカスミワケ)は宣伝使となりて天下を遍歴し、
妾は御恩深き月照彦の御跡(ミアト)を慕(シタ)ひ、
一つは吾が夫鷹住別にめぐり会はむと、
モスコーの城を後にして、雨に浴し風に梳(クシケヅ)り、
流浪(サスラ)ひめぐるをりから、
今より三年のその昔、美山彦の計略に乗せられ、
鬼熊彦の馬に跨(マタガ)り、この深山の奥に誘拐(カドハ)かされ、
面白からぬ月日を送りつつある春日姫(カスガヒメ)にて候』
とありし次第を涙とともに物語り、
かつ足真彦の耳に口寄せ、何事か囁(ササヤ)きにける。
--------------------------------------------------------------
『女性はあたりに人無きを見すまし、
梅花のごとき美しき唇をやうやく開きて』
…というのは神柱たるべき姫神としては、少々不穏な態度かな?
と筆者は思うのだけれども、語っている内容にも、
月照彦天使が今にも死にそうだなどと言っているのは、
ちょっと怪しい感じがするのだが、どうなのだろう。
筆者はこのストーリーの成り行きをスッカリ忘れているので、
今、まったく新鮮な気持ちで、この物語の顛末を見守っているところだ。
しかし、
『足真彦の耳に口寄せ、何事か囁(ササヤ)きにける。』
…というのも、なんだか怪しいムードである。
本物の春日姫は足を痛めた夫鷹住別を籠車に乗せて、
旅をしていた筈なのだが、その続きの展開として、
今、この様な状態になっているのだろうか?
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
足真彦は、無言のまま打ちうなづきぬ。
春日姫は、あたりに何人も無きに安心したるものと見え、
涙を片手に、激昂の色を満面に漂はせながら、
『妾(ワラハ)は美山彦の妻なる国照姫(クニテルヒメ)が、
ウラル彦に招かれて、ウラル山に出発せしより、
閨淋(ネヤサビ)しき美山彦のために
「昼は娘となり、夜は妻となれよ」
との日夜の強要に苦しみ、
涙の日を送ること茲(ココ)に三年に及ぶ。
されど妾は貞操(ミサヲ)を守り、今にその破られたることなし。
しかるに美山彦は執拗にも、
最初の要求を強要してやまざるを幸(サイハ)ひ、今宵は一計を案出し、
美山彦の一派の悪人等を打ち懲(コラ)しくれむ。
その手筈(テハズ)はかくかく』
とふたたび耳うちしながら、悠々として一間に姿を隠したりける。
--------------------------------------------------------------
これまた全然関係ないのだけれども、
筆者は今、テレビシリーズ「ルパン三世」で、
ルパン三世と十三代目石川五右衛門が、
謎の女 峰不二子にかどわかされて、
互いに殺し合おうとしたストーリーを思い出してしまった。
『最初の要求を強要してやまざるを幸(サイハ)ひ、今宵は一計を案出し、
美山彦の一派の悪人等を打ち懲(コラ)しくれむ。
その手筈(テハズ)はかくかく』
…というやり方も、
およそ正しい姫神の考える事ではないような気がするのだが、
はたしてこの先、どういう事になるのだろうか?
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
場面は変りて、ここは見晴らしの佳(ヨ)き美山彦の居間なり。
美山彦にとりて強敵たる月照彦、
足真彦の甘々(ウマウマ)とその術中に陥(オチイ)り、
吾が山寨(サンサイ)に入り来れるは、
日ごろの願望成就の時到れりとなし、勝誇りたる面色にて、
花顔柳腰(クワガンリウエウ)の春姫(ハルヒメ)に酌(シヤク)させながら、
『飲(ノ)めよ騒(サワ)げよ
一寸先(イツスンサ)きや暗黒(ヤミ)よ
暗黒(ヤミ)のあとには月が出る
月照彦(ツキテルヒコ)の運(ウン)のつき
足真(ダルマ)の寿命(ジユミヨウ)も今日かぎり
春日(カスガ)の姫(ヒメ)は軈(ヤガ)て妻(ツマ)』
と小声に謡(ウタ)ひながら、
上機嫌にて果物(クダモノ)の酒をあふりゐたり。
--------------------------------------------------------------
この程度の事なら、それほど残虐な悪玉ではないように思えてしまうのは、
現代人として暮らしている筆者の悲しいところなのかもしれないのだが、
それでおとなしくやられてしまう様な月照彦、足真彦ではしょうがなかい。
「そうは問屋がイカのナントカ」
…という事になるのであろうことは容易に想像する事が出来る。
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
かかるところに、衣摺(キヌズ)れの音しとやかに、
襖(フスマ)を押開け入りきたる女は、
美山彦の須臾(シユユ)も忘るる能(アタ)はざる春日姫なりける。
春日姫は満面に笑(エ)みをたたへ、
美山彦にむかひて会釈しながら盃(サカヅキ)をとり、
美山彦に差したりしに、美山彦は意気揚々として、
満足の色をあらはしながら、春日姫の顔を酔眼朦朧として眺めゐたり。
春日姫は春姫に目配(メクバ)せしたれば、
春姫はこの場を立ちて、奥殿の月照彦命の居間に急ぎける。
--------------------------------------------------------------
正直言って、筆者も美女は嫌いではないので、
堅苦しい神事ばかりの話に襟を正してばかりいるよりも、
こんなくだけた席で、
「据え膳食わぬはなんとやら」
…的にもてはやされたいものだが、
所詮世の中、夫婦でも恋人でもないのに、
美女がこんな風にもてなしてくれるからには、
きっと何か裏があるに違いない。
…と、嫌々ながらも疑ってかかるべきだろうと思ってしまう。
現実の社会では、世間体とかもあるし、人の目が気になるから、
どうしても男女が接近するまでには時間がかかるものだが、
筆者の夢の中…おそらく精霊界でタイプの異性に出会った場合は、
何の迷いもなく抱き合ってしまったりするから、
それに比べたら、こんな勿体つける様なデレデレっとしたやりとりは、
善悪混濁した世の中ならでは事なのだろう。
…という風に位置づけしておこう思うのだが…?
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
春日姫は形容をあらため、襟を正し、さも嬉しげにいふ。
『今日は如何(イカ)なる吉日ならむ。
日ごろ妾が念頭を離れざる彼の月照彦の、
貴下(アナタ)の術中に陥(オチイ)れるさへあるに、
又もや足真彦の、貴下の神謀鬼略によりて、
この山寨に俘虜(トリコ)となりしは、
まつたく御運の強きによるものならむ。
妾はこの二人さへ亡きものとせば、
この世の中に恐るべき者は一柱(ヒトハシラ)も無し。
今宵は時を移さず、貴下の妻と許したまはざるか。
幸ひに夫婦となることを得ば、
たがひに協心戮力(リクリヨク)して二人を平げ、
彼が所持する被面布(ヒメンプ)の宝物を奪ひ、
かつ足真彦は、天教山(テンケウザン)の木(コ)の花姫(ハナヒメ)より得たる
国(クニ)の真澄(マスミ)の玉(タマ)を所持しをれば、
之(コレ)またマンマと手に入るからは、大願成就の時節到来なり。
この吉祥(キツシヤウ)を祝するために、今宵妾と夫婦の盃をなし、
かつ残らずの召使どもに祝意を表するために、
充分の酒を饗応(フルマ)はれたし』
と言ふにぞ、美山彦は大いに喜び、心の中にて、
「アヽ時節は待たねばならぬものだなア、
日ごろ吾を蛇蝎(ダカツ)のごとく、
毛蟲のごとく嫌ひたる春日姫の今の言葉、
まつたく縁(エニシ)の神の幸(サキハ)ひならむ。
善は急げ、又もや御意の変らぬうちに」
と二つ返事にて春日姫の願を容(イ)れ、手を拍ちて侍者を呼び招けば、
禿頭(ハゲアタマ)の鬼熊彦(オニクマヒコ)はたちまち此の場に現はれたり。
--------------------------------------------------------------
「日ごろ吾を蛇蝎(ダカツ)のごとく、
毛蟲のごとく嫌ひたる春日姫の今の言葉、
まつたく縁(エニシ)の神の幸(サキハ)ひならむ。」
…などという春日姫が、突然掌を返した様にこんな甘い事を言って来たら、
冷静な時なら、
「こいつは怪しいぞ。よく調べてから相手しないと、
どんな目に遭わされるか判ったものではない。」
…と要注意しながら、
相手に悟られない様に騙されたフリをするのだと思うのだが、
たぶん美山彦は慢心していて、自分の事を天下の智将、大英雄…
くらいに自惚れているのであろうから、
もしかしたらホントに簡単に騙されてしまうのかもしれない…
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美山彦(ミヤマヒコ)は機嫌よげにイソイソとして、
『今宵ただちに結婚式を挙ぐる用意をせよ。
召使(メシツカヒ)一同に残らず祝酒を与へて、思ふままにさせ、
各自に唄ひ舞ひ、踊らしめよ』
と命令したれば、鬼熊彦は、
「諾々(ハイハイ)」
と頭(カシラ)を幾度も畳にうちつけながら、
喜び勇みて此の場を駆(カ)けだしたり。
而(シカ)して一般に、今宵の結婚の次第を一々伝達せしめたりけり。
(大正十一年一月十六日、旧大正十年十二月十九日、藤松良寛録)
--------------------------------------------------------------
仏教的な因縁因果の法則によると、
例え嘘でもこんな策略で偽りの契りを結んだりすれば、
それが縁になって後の世にホントに夫婦になって、
苦労して償わなければならなかったりするので、
筆者的には春日姫のこの色仕掛けは、あまり賢いやり方だとは思わない。
現代社会はマスメディアが発達して、
小説・雑誌・ラジオ・映画・テレビなどで、
この様な男女のドロドロとした関係を、
酒のつまみにして見る事が出来るが、
世の中全体は、百年ほど前には、
ろくなマスメディアガ無かったので、
身を守る為に、善悪ともどもに、知略を廻らし戦わせて、
あまりよくない因縁を造り続けて来た筈なので、
現代の様な一見恵まれた時代のありふれた幸福な家庭で、
突然、発作的な凶悪事件が発生する因縁になっていたのではなかろうか?
…と筆者は思うのだがどうだろうか?
今、どんなに真っ当に暮らしていたとしても、
それは現代の様に、ある程度、多くの人々が経済的安定を得ているからで、
現世でどんなに真面目にやっていたとしても、過去世において、
ここでの春日姫の様な悪知恵を利かせた事をやった因縁があれば、
一旦、幸福な結婚をした様な夫婦が、突然つまらないことで憎み合って、
とんでもない不幸な結末を迎えて、互いの恨みと罪を清算する様な事に、
なったりするのだろうな…と筆者は思うのだが、どうだろうか?
筆者としては、もしこの春日姫が正しい姫神であるならば、
後から来た足真彦に相談して、どの様にすればよいか確認をとり、
いったん足真彦を釈放して、足真彦が味方の正しい神達と協力して、
もうちょっとマシなやり方で月照彦天使を救出する事が出来る時を与えるべきで、
この物語の様に、わざわざ美山彦をその気にさせて騙す様なやり方を
するべきではなかったのではないか?
…と思うのだが、はたして他の読者の皆様はどの様に思われるだろうか?
そういえば、今回の分解の最初に話題にした徳川慶喜も、
天下の智将とは言われていたけれども、随分と迷いながら大政奉還を決意し、
徳川の存続に未練を残しながら、いろいろと奇策を行った結果、
随分と有能な志士達の無駄な血を流す事になったのではないか?
…という疑いもあるので、多少はこの偽美山彦や、
色仕掛けでその偽美山彦を騙そうとしている春日姫に似た、
後に禍根を残す様な、怪しいことをしていたのではなかろうか?
筆者としては、もっと爽やかな、スカッとした解決策が他にあるのが、
本当の正しい神様のやり方なのではないか?…と思うのだが、どうだろうか?
なんとなく現在の、スッキリとしない日本政府と諸大国との、
気を引きあう様な、ヌメヌメッとした、歯切れの悪いやり方と似ていて、
筆者としては実に面白からぬ気分になってしまうのを止められないのだ。
嗚呼、惟神霊幸倍給坐世(カムナガラタマチハエマセ)
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平成二十二(2010)年十一月五日 旧九月二十九日(金)
花の顔色(カンバセ)、霞の衣(コロモ)、姿優(スガタヤサ)しき春の日の、
花に戯(タハム)る蝶々(テフテフ)の、得も言はれぬ風情をば、
遺憾なくあらはしながら、宣伝使の前に座を占めたる美人あり。
足真彦(ダルマヒコ)は思はず、
「ヤア」
と叫べば、女性はハツと胸を仰(オサ)へ、
『鬼熊(オニクマ)はあらざるか、鬼虎(オニトラ)はいづこぞ。
申付くべきことあり、早く来れ』
と、しとやかに呼ばはりたり。
されど何れの者も、この女にまかせて何彼の準備に取りかかり、
近辺には一柱(ヒトハシラ)の厄雑男(ヤクザヲトコ)さへをらざりける。
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今回の分解の内容とはまったく無関係だけれど、
今日の旧暦である九月二十九日は、筆者の旧暦の誕生日である。
新暦の誕生日まではあと十二日あるのだが、
今週はいろいろ忙しくて、このブログを更新する気になれたのが、
たまたまなのか惟神なのか今日になった事には、
もしかしたらまた何か意味があるかもしれないので、
それを楽しみにしながら今週も分解を進めて行こうと思う。
ちなみに天保8年9月29日(1837年10月28日)は、
大政奉還を決意した徳川慶喜の誕生日だった。
西暦1837年10月28日は蠍座になるので、
筆者と何か共通する事でもあるのだろうか?
…と、今回の分解とは全く関係ないであろう情報を得てしまったのだが、
はたして今回の分解内容との関連性はあるや?なしや?
昔の活動弁士が語り出しそうな、この、
『花の顔色(カンバセ)、霞の衣(コロモ)、姿優(スガタヤサ)しき春の日の、
花に戯(タハム)る蝶々(テフテフ)の、得も言はれぬ風情をば、
遺憾なくあらはしながら、宣伝使の前に座を占めたる美人あり。』
…という語り口調からすぐに察せられるのは「恋の予感」なのだが、
足真彦神は後に達磨太子に生まれて来るという因縁の身魂の筈なのに、
こんな足腰がこそばゆくなる様な展開があるのだろうか?
…とはいえ、恋の香りを放っているのは足真彦の方ではなくて、
この謎の美人の方なのだけれども…?
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女性はあたりに人無きを見すまし、
梅花のごとき美しき唇をやうやく開きて、
『アヽ貴下(キカ)は足真彦にまさずや。
月照彦天使(ツキテルヒコノカミ)は、
当山に割拠する美山彦(ミヤマヒコ)の謀計にかかり、
今や奥殿に休息されつつあり。
悪人の奸計にて、痛はしや、今宵のうちにその生命(イノチ)も、
晨(アシタ)の露と消えたまはむ。
貴下もまた同じ運命のもとに
刃(ヤイバ)の露と消えさせたまふも計りがたし。
心配(ココロクバ)らせたまひ、妾(ワラハ)と共に力を協(アハ)せ、
この館の悪人どもを打亡ぼして、世界の難を救ひたまへ。
妾は月照彦天使の懇篤なる教示を拝し、
吾が夫鷹住別(タカスミワケ)は宣伝使となりて天下を遍歴し、
妾は御恩深き月照彦の御跡(ミアト)を慕(シタ)ひ、
一つは吾が夫鷹住別にめぐり会はむと、
モスコーの城を後にして、雨に浴し風に梳(クシケヅ)り、
流浪(サスラ)ひめぐるをりから、
今より三年のその昔、美山彦の計略に乗せられ、
鬼熊彦の馬に跨(マタガ)り、この深山の奥に誘拐(カドハ)かされ、
面白からぬ月日を送りつつある春日姫(カスガヒメ)にて候』
とありし次第を涙とともに物語り、
かつ足真彦の耳に口寄せ、何事か囁(ササヤ)きにける。
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『女性はあたりに人無きを見すまし、
梅花のごとき美しき唇をやうやく開きて』
…というのは神柱たるべき姫神としては、少々不穏な態度かな?
と筆者は思うのだけれども、語っている内容にも、
月照彦天使が今にも死にそうだなどと言っているのは、
ちょっと怪しい感じがするのだが、どうなのだろう。
筆者はこのストーリーの成り行きをスッカリ忘れているので、
今、まったく新鮮な気持ちで、この物語の顛末を見守っているところだ。
しかし、
『足真彦の耳に口寄せ、何事か囁(ササヤ)きにける。』
…というのも、なんだか怪しいムードである。
本物の春日姫は足を痛めた夫鷹住別を籠車に乗せて、
旅をしていた筈なのだが、その続きの展開として、
今、この様な状態になっているのだろうか?
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足真彦は、無言のまま打ちうなづきぬ。
春日姫は、あたりに何人も無きに安心したるものと見え、
涙を片手に、激昂の色を満面に漂はせながら、
『妾(ワラハ)は美山彦の妻なる国照姫(クニテルヒメ)が、
ウラル彦に招かれて、ウラル山に出発せしより、
閨淋(ネヤサビ)しき美山彦のために
「昼は娘となり、夜は妻となれよ」
との日夜の強要に苦しみ、
涙の日を送ること茲(ココ)に三年に及ぶ。
されど妾は貞操(ミサヲ)を守り、今にその破られたることなし。
しかるに美山彦は執拗にも、
最初の要求を強要してやまざるを幸(サイハ)ひ、今宵は一計を案出し、
美山彦の一派の悪人等を打ち懲(コラ)しくれむ。
その手筈(テハズ)はかくかく』
とふたたび耳うちしながら、悠々として一間に姿を隠したりける。
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これまた全然関係ないのだけれども、
筆者は今、テレビシリーズ「ルパン三世」で、
ルパン三世と十三代目石川五右衛門が、
謎の女 峰不二子にかどわかされて、
互いに殺し合おうとしたストーリーを思い出してしまった。
『最初の要求を強要してやまざるを幸(サイハ)ひ、今宵は一計を案出し、
美山彦の一派の悪人等を打ち懲(コラ)しくれむ。
その手筈(テハズ)はかくかく』
…というやり方も、
およそ正しい姫神の考える事ではないような気がするのだが、
はたしてこの先、どういう事になるのだろうか?
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場面は変りて、ここは見晴らしの佳(ヨ)き美山彦の居間なり。
美山彦にとりて強敵たる月照彦、
足真彦の甘々(ウマウマ)とその術中に陥(オチイ)り、
吾が山寨(サンサイ)に入り来れるは、
日ごろの願望成就の時到れりとなし、勝誇りたる面色にて、
花顔柳腰(クワガンリウエウ)の春姫(ハルヒメ)に酌(シヤク)させながら、
『飲(ノ)めよ騒(サワ)げよ
一寸先(イツスンサ)きや暗黒(ヤミ)よ
暗黒(ヤミ)のあとには月が出る
月照彦(ツキテルヒコ)の運(ウン)のつき
足真(ダルマ)の寿命(ジユミヨウ)も今日かぎり
春日(カスガ)の姫(ヒメ)は軈(ヤガ)て妻(ツマ)』
と小声に謡(ウタ)ひながら、
上機嫌にて果物(クダモノ)の酒をあふりゐたり。
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この程度の事なら、それほど残虐な悪玉ではないように思えてしまうのは、
現代人として暮らしている筆者の悲しいところなのかもしれないのだが、
それでおとなしくやられてしまう様な月照彦、足真彦ではしょうがなかい。
「そうは問屋がイカのナントカ」
…という事になるのであろうことは容易に想像する事が出来る。
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かかるところに、衣摺(キヌズ)れの音しとやかに、
襖(フスマ)を押開け入りきたる女は、
美山彦の須臾(シユユ)も忘るる能(アタ)はざる春日姫なりける。
春日姫は満面に笑(エ)みをたたへ、
美山彦にむかひて会釈しながら盃(サカヅキ)をとり、
美山彦に差したりしに、美山彦は意気揚々として、
満足の色をあらはしながら、春日姫の顔を酔眼朦朧として眺めゐたり。
春日姫は春姫に目配(メクバ)せしたれば、
春姫はこの場を立ちて、奥殿の月照彦命の居間に急ぎける。
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正直言って、筆者も美女は嫌いではないので、
堅苦しい神事ばかりの話に襟を正してばかりいるよりも、
こんなくだけた席で、
「据え膳食わぬはなんとやら」
…的にもてはやされたいものだが、
所詮世の中、夫婦でも恋人でもないのに、
美女がこんな風にもてなしてくれるからには、
きっと何か裏があるに違いない。
…と、嫌々ながらも疑ってかかるべきだろうと思ってしまう。
現実の社会では、世間体とかもあるし、人の目が気になるから、
どうしても男女が接近するまでには時間がかかるものだが、
筆者の夢の中…おそらく精霊界でタイプの異性に出会った場合は、
何の迷いもなく抱き合ってしまったりするから、
それに比べたら、こんな勿体つける様なデレデレっとしたやりとりは、
善悪混濁した世の中ならでは事なのだろう。
…という風に位置づけしておこう思うのだが…?
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春日姫は形容をあらため、襟を正し、さも嬉しげにいふ。
『今日は如何(イカ)なる吉日ならむ。
日ごろ妾が念頭を離れざる彼の月照彦の、
貴下(アナタ)の術中に陥(オチイ)れるさへあるに、
又もや足真彦の、貴下の神謀鬼略によりて、
この山寨に俘虜(トリコ)となりしは、
まつたく御運の強きによるものならむ。
妾はこの二人さへ亡きものとせば、
この世の中に恐るべき者は一柱(ヒトハシラ)も無し。
今宵は時を移さず、貴下の妻と許したまはざるか。
幸ひに夫婦となることを得ば、
たがひに協心戮力(リクリヨク)して二人を平げ、
彼が所持する被面布(ヒメンプ)の宝物を奪ひ、
かつ足真彦は、天教山(テンケウザン)の木(コ)の花姫(ハナヒメ)より得たる
国(クニ)の真澄(マスミ)の玉(タマ)を所持しをれば、
之(コレ)またマンマと手に入るからは、大願成就の時節到来なり。
この吉祥(キツシヤウ)を祝するために、今宵妾と夫婦の盃をなし、
かつ残らずの召使どもに祝意を表するために、
充分の酒を饗応(フルマ)はれたし』
と言ふにぞ、美山彦は大いに喜び、心の中にて、
「アヽ時節は待たねばならぬものだなア、
日ごろ吾を蛇蝎(ダカツ)のごとく、
毛蟲のごとく嫌ひたる春日姫の今の言葉、
まつたく縁(エニシ)の神の幸(サキハ)ひならむ。
善は急げ、又もや御意の変らぬうちに」
と二つ返事にて春日姫の願を容(イ)れ、手を拍ちて侍者を呼び招けば、
禿頭(ハゲアタマ)の鬼熊彦(オニクマヒコ)はたちまち此の場に現はれたり。
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「日ごろ吾を蛇蝎(ダカツ)のごとく、
毛蟲のごとく嫌ひたる春日姫の今の言葉、
まつたく縁(エニシ)の神の幸(サキハ)ひならむ。」
…などという春日姫が、突然掌を返した様にこんな甘い事を言って来たら、
冷静な時なら、
「こいつは怪しいぞ。よく調べてから相手しないと、
どんな目に遭わされるか判ったものではない。」
…と要注意しながら、
相手に悟られない様に騙されたフリをするのだと思うのだが、
たぶん美山彦は慢心していて、自分の事を天下の智将、大英雄…
くらいに自惚れているのであろうから、
もしかしたらホントに簡単に騙されてしまうのかもしれない…
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美山彦(ミヤマヒコ)は機嫌よげにイソイソとして、
『今宵ただちに結婚式を挙ぐる用意をせよ。
召使(メシツカヒ)一同に残らず祝酒を与へて、思ふままにさせ、
各自に唄ひ舞ひ、踊らしめよ』
と命令したれば、鬼熊彦は、
「諾々(ハイハイ)」
と頭(カシラ)を幾度も畳にうちつけながら、
喜び勇みて此の場を駆(カ)けだしたり。
而(シカ)して一般に、今宵の結婚の次第を一々伝達せしめたりけり。
(大正十一年一月十六日、旧大正十年十二月十九日、藤松良寛録)
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仏教的な因縁因果の法則によると、
例え嘘でもこんな策略で偽りの契りを結んだりすれば、
それが縁になって後の世にホントに夫婦になって、
苦労して償わなければならなかったりするので、
筆者的には春日姫のこの色仕掛けは、あまり賢いやり方だとは思わない。
現代社会はマスメディアが発達して、
小説・雑誌・ラジオ・映画・テレビなどで、
この様な男女のドロドロとした関係を、
酒のつまみにして見る事が出来るが、
世の中全体は、百年ほど前には、
ろくなマスメディアガ無かったので、
身を守る為に、善悪ともどもに、知略を廻らし戦わせて、
あまりよくない因縁を造り続けて来た筈なので、
現代の様な一見恵まれた時代のありふれた幸福な家庭で、
突然、発作的な凶悪事件が発生する因縁になっていたのではなかろうか?
…と筆者は思うのだがどうだろうか?
今、どんなに真っ当に暮らしていたとしても、
それは現代の様に、ある程度、多くの人々が経済的安定を得ているからで、
現世でどんなに真面目にやっていたとしても、過去世において、
ここでの春日姫の様な悪知恵を利かせた事をやった因縁があれば、
一旦、幸福な結婚をした様な夫婦が、突然つまらないことで憎み合って、
とんでもない不幸な結末を迎えて、互いの恨みと罪を清算する様な事に、
なったりするのだろうな…と筆者は思うのだが、どうだろうか?
筆者としては、もしこの春日姫が正しい姫神であるならば、
後から来た足真彦に相談して、どの様にすればよいか確認をとり、
いったん足真彦を釈放して、足真彦が味方の正しい神達と協力して、
もうちょっとマシなやり方で月照彦天使を救出する事が出来る時を与えるべきで、
この物語の様に、わざわざ美山彦をその気にさせて騙す様なやり方を
するべきではなかったのではないか?
…と思うのだが、はたして他の読者の皆様はどの様に思われるだろうか?
そういえば、今回の分解の最初に話題にした徳川慶喜も、
天下の智将とは言われていたけれども、随分と迷いながら大政奉還を決意し、
徳川の存続に未練を残しながら、いろいろと奇策を行った結果、
随分と有能な志士達の無駄な血を流す事になったのではないか?
…という疑いもあるので、多少はこの偽美山彦や、
色仕掛けでその偽美山彦を騙そうとしている春日姫に似た、
後に禍根を残す様な、怪しいことをしていたのではなかろうか?
筆者としては、もっと爽やかな、スカッとした解決策が他にあるのが、
本当の正しい神様のやり方なのではないか?…と思うのだが、どうだろうか?
なんとなく現在の、スッキリとしない日本政府と諸大国との、
気を引きあう様な、ヌメヌメッとした、歯切れの悪いやり方と似ていて、
筆者としては実に面白からぬ気分になってしまうのを止められないのだ。
嗚呼、惟神霊幸倍給坐世(カムナガラタマチハエマセ)
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