霊界物語 第四巻 霊主体従 卯の巻 第四篇 天地転動
南高山(ナンカウザン)の八王(ヤツワウ)大島別(オホシマワケ)は、
八王大神に拝顔せむと玉純彦(タマスミヒコ)を従へ、
玄関口に現はれたるに、ここには、春日姫(カスガヒメ)、
八島姫(ヤシマヒメ)の二女性が受付兼応接の役にあたりゐたりければ、
大島別は二女の姿を見て、呆然として立ちどまり、
みづから吾が頬(ホホ)をつねり、眉毛に唾(ツバキ)をつけ、
玄関の階段めがけて、
『またもや白狐には非ざるか』
としきりに杖の先にて突き試みけり。
玉純彦は声を荒らげ、
『八島(ヤシマ)の古狐またもや八島姫(ヤシマヒメ)と身を変じ、
吾を誑(タブラ)かさむとするか。
ここは立派なる玄関口と見せかけをるも、
擬(マガ)ふかたなき泥田(ドロタ)の中、
吾が天眼力(テンガンリキ)にてこれを看破せり。
すみやかに正体を露(アラ)はし、尻尾を曲げ降伏するか。
さなくば汝春日姫、八島姫と称する悪狐、目に物見せてくれむ』
と言ふより早く、腰の一刀を引きぬき、
頭上より梨割(ナシワ)りに斬りつけむとしたるに、
二女は驚きて体をかはし、そのまま奥殿に走りいり、
道彦(ミチヒコ)の前にいたりて救ひを乞ひぬ。
大島別、玉純彦は二女の後を追ひ杖を打ちふるひ、
長刀を閃(ヒラメ)かしながら乱入する。
このとき常世姫(トコヨヒメ)以下数多の神司(カミガミ)は、
大いに驚き、各自得物をとりて、
前後左右より大島別および玉純彦に打つてかかりぬ。
大島別は老身のこととて、
たちまち取り押へられ縛(バク)されたり。
玉純彦はこれを見てますます怒り、獅子奮迅の勢(イキホヒ)をもちて、
当るを幸ひ前後左右に斬りまくる。
その勢に辟易したる常世姫以下は、
倉皇(サウクワウ)として蜘蛛(クモ)の子を散らすごとく逃げ散り、
姿をかくしたり。
後には八王大神高座(カウザ)に八重畳(ヤヘダタミ)を敷き悠然として、
この光景を見守りゐたり。
玉純彦は八王大神にむかひ、
『常世(トコヨ)の国(クニ)の邪神の変化(ヘンゲ)思ひ知れや』
と、またもや打つてかかれば、八王大神は少しも騒がず、
玉純彦の利(キ)き腕(ウデ)をぐつと握りしめたり。
玉純彦は強力(ガウリキ)の大神につかまれて、
その場に顔をしかめて平伏したりけり。
八王大神はただちに立ちて、大島別の縛(イマシメ)を解き、
慇懃(インギン)にその背をなでさすり、
四辺(シヘン)をはばかりながら小声になりて、
常世城(トコヨジヤウ)における一切の秘密を物語り、
かつ真正(シンセイ)の八王大神は急病のため今は九死一生、
命旦夕(タンセキ)に迫る旨を耳うちし、
自分は一旦聾唖痴呆となりゐたる大道別(オホミチワケ)にして、
春日姫は真の八王道貫彦(ミチツラヒコ)の娘なること、
および八島姫は真の大島別の娘にして、
南高山にある八島姫は白狐旭(アサヒ)の化身なることを詳細に物語り、
かつ今後の議場におけるすべての計画を打合せたり。
大島別、玉純彦は、はじめて疑ひ晴れ、
かつ大道別の智謀絶倫なるを感嘆し、二神司(ニシン)は喜び勇みて、
その場を退場せむとする時、
物蔭より現はれ出でたる八十枉彦(ヤソマガヒコ)は、
『聞く神なしと思ふは、汝(ナンヂ)ら愚者の不覚、
この由常世姫に報告せむ』
と足早に走り出むとするを、玉純彦はうしろより飛びかかり、
長刀を抜き、背部よりただ一刀のもとに斬り付けたれば、
八十枉彦は七転八倒、手をもがき足を動かせ、
虚空(コクウ)をつかんで脆(モロ)くも絶命したりける。
ここに八島姫、春日姫は赤き布をもつて八十枉彦の遺骸をつつみ、
その上をふたたび白布をもつておほひ、
玉純彦の背にしつかとくくりつけたり。
玉純彦は素知(ソシ)らぬ顔にヤツコス気取りにて、
大島別の後にしたがひ、六方(ロクパウ)を踏みながら
足音高く城内を面白き歌を唄ひつつ退出したりける。
玉純彦は背の荷物を夜陰にまぎれて、
草原の野井戸(ノイド)にひそかに投げ込み、
素知らぬ風を装(ヨソホ)ひゐたり。
このことは常世城の何人も知る者なかりしといふ。
(大正十年十二月二十三日、旧十一月二十五日、桜井重雄録)
南高山(ナンカウザン)の八王(ヤツワウ)大島別(オホシマワケ)は、
八王大神に拝顔せむと玉純彦(タマスミヒコ)を従へ、
玄関口に現はれたるに、ここには、春日姫(カスガヒメ)、
八島姫(ヤシマヒメ)の二女性が受付兼応接の役にあたりゐたりければ、
大島別は二女の姿を見て、呆然として立ちどまり、
みづから吾が頬(ホホ)をつねり、眉毛に唾(ツバキ)をつけ、
玄関の階段めがけて、
『またもや白狐には非ざるか』
としきりに杖の先にて突き試みけり。
玉純彦は声を荒らげ、
『八島(ヤシマ)の古狐またもや八島姫(ヤシマヒメ)と身を変じ、
吾を誑(タブラ)かさむとするか。
ここは立派なる玄関口と見せかけをるも、
擬(マガ)ふかたなき泥田(ドロタ)の中、
吾が天眼力(テンガンリキ)にてこれを看破せり。
すみやかに正体を露(アラ)はし、尻尾を曲げ降伏するか。
さなくば汝春日姫、八島姫と称する悪狐、目に物見せてくれむ』
と言ふより早く、腰の一刀を引きぬき、
頭上より梨割(ナシワ)りに斬りつけむとしたるに、
二女は驚きて体をかはし、そのまま奥殿に走りいり、
道彦(ミチヒコ)の前にいたりて救ひを乞ひぬ。
大島別、玉純彦は二女の後を追ひ杖を打ちふるひ、
長刀を閃(ヒラメ)かしながら乱入する。
このとき常世姫(トコヨヒメ)以下数多の神司(カミガミ)は、
大いに驚き、各自得物をとりて、
前後左右より大島別および玉純彦に打つてかかりぬ。
大島別は老身のこととて、
たちまち取り押へられ縛(バク)されたり。
玉純彦はこれを見てますます怒り、獅子奮迅の勢(イキホヒ)をもちて、
当るを幸ひ前後左右に斬りまくる。
その勢に辟易したる常世姫以下は、
倉皇(サウクワウ)として蜘蛛(クモ)の子を散らすごとく逃げ散り、
姿をかくしたり。
後には八王大神高座(カウザ)に八重畳(ヤヘダタミ)を敷き悠然として、
この光景を見守りゐたり。
玉純彦は八王大神にむかひ、
『常世(トコヨ)の国(クニ)の邪神の変化(ヘンゲ)思ひ知れや』
と、またもや打つてかかれば、八王大神は少しも騒がず、
玉純彦の利(キ)き腕(ウデ)をぐつと握りしめたり。
玉純彦は強力(ガウリキ)の大神につかまれて、
その場に顔をしかめて平伏したりけり。
八王大神はただちに立ちて、大島別の縛(イマシメ)を解き、
慇懃(インギン)にその背をなでさすり、
四辺(シヘン)をはばかりながら小声になりて、
常世城(トコヨジヤウ)における一切の秘密を物語り、
かつ真正(シンセイ)の八王大神は急病のため今は九死一生、
命旦夕(タンセキ)に迫る旨を耳うちし、
自分は一旦聾唖痴呆となりゐたる大道別(オホミチワケ)にして、
春日姫は真の八王道貫彦(ミチツラヒコ)の娘なること、
および八島姫は真の大島別の娘にして、
南高山にある八島姫は白狐旭(アサヒ)の化身なることを詳細に物語り、
かつ今後の議場におけるすべての計画を打合せたり。
大島別、玉純彦は、はじめて疑ひ晴れ、
かつ大道別の智謀絶倫なるを感嘆し、二神司(ニシン)は喜び勇みて、
その場を退場せむとする時、
物蔭より現はれ出でたる八十枉彦(ヤソマガヒコ)は、
『聞く神なしと思ふは、汝(ナンヂ)ら愚者の不覚、
この由常世姫に報告せむ』
と足早に走り出むとするを、玉純彦はうしろより飛びかかり、
長刀を抜き、背部よりただ一刀のもとに斬り付けたれば、
八十枉彦は七転八倒、手をもがき足を動かせ、
虚空(コクウ)をつかんで脆(モロ)くも絶命したりける。
ここに八島姫、春日姫は赤き布をもつて八十枉彦の遺骸をつつみ、
その上をふたたび白布をもつておほひ、
玉純彦の背にしつかとくくりつけたり。
玉純彦は素知(ソシ)らぬ顔にヤツコス気取りにて、
大島別の後にしたがひ、六方(ロクパウ)を踏みながら
足音高く城内を面白き歌を唄ひつつ退出したりける。
玉純彦は背の荷物を夜陰にまぎれて、
草原の野井戸(ノイド)にひそかに投げ込み、
素知らぬ風を装(ヨソホ)ひゐたり。
このことは常世城の何人も知る者なかりしといふ。
(大正十年十二月二十三日、旧十一月二十五日、桜井重雄録)