忍山 諦の

写真で綴る趣味のブログ

余呉湖を歩く~2013年5月

2013年05月19日 | 余呉湖を歩く

       余呉の湖~2013年5月


余呉の湖は滋賀県伊香郡余呉村にある。琵琶湖の北端にに聳え
る賤ヶ岳を越えて、約一キロばかり、山を分け入った地点にある。
滋賀の湖といえば、誰もが琵琶湖を連想するから、北の山一つへ
だてた裏側に、ひっそりとして在るこの湖のことを気にとめる人は
少ない…
水上勉の小説「湖の琴」はそんな書出しで始まる。
余呉湖のひっそりとしたたたずまいは、余呉村が長浜市余呉町に
変わった今も、あまり変わっていない。
五月若葉の今の季節、湖は山の緑の底に静かに湖水を湛え、訪
れる人の姿も稀である。

   

   


若狭の貧しい農家から西山集落へ糸ひき工として働きに出た栂
尾さくと松宮宇吉。
二人は互いに惹かれ合い将来を約束する仲となるが、卯吉が兵
役に出ている間に、さくは京都の長唄師匠に強く乞われ、断り切
れずに住み込みの弟子となる。
やがてさくは師匠の子を宿し、西山の工場へと戻るが、お腹が目
立ち始め、それを宇吉から問いつめられ、悩み苦しんだあげく、
行く先も告げずに姿を消す。
必死になってさくを捜し求める宇吉は、山向うにかつて二人で桑
の葉を摘んだ作業小屋があったことを思い出し、山を越える。
その作業小屋で宇吉が目にしたのは、自ら撚った琴糸を長押に
懸け、白い足をぶらりと下げて縊死しているさくの変わりはてた
姿であった。
悲しみに悶えながら、宇吉は、さくの遺骸を琴糸の箱に納め、自
らもその中に入って内から蓋を閉じ、それを余呉湖の淵に浮かべ、
共に湖底へと沈んでいった。

   

  

人の「業」を見つめつづけた作家の水上勉が、その地に残る実話を
もとに、書き上げた悲しくもはかない二つの命の物語である。

   

   

秋ふかい一日の夕刻、この山陰の石近くに降りたって、かげろう
淵の深々とした水面を眺めていると、湖底の遠くから、琴の音が
ひびいてくる…、
そんな文章で、その物語は結ばれている。

  


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