「なんでも頼んで。奢るから」
目の前にはタイトなスカートを着こなし、その長い脚を見せつけるように座り、そしてテーブルに肘をつき手に顎を置いてウェーブがかった髪を横に流しつつ大きな薄いサングラスの奥から視線を向ける女性がいた。
「えっと……だれですか?」
「あははは、まあそうよね。印象違うか」
なんかめっちゃ出来る女……な感じを出してた彼女だけど、その野々野国人の一言でその雰囲気は霧散した。もっと親しみやすいような……そんな感じになったといっていい。さっきまではバリバリのキャリアウーマン風で仕事も男も侍らせてます――のような、まるで銀座や六本木とかでノマドワーカーしてる感じだった。
それが霧散してもっと親しみやすくまるで居酒屋で「とりあえず生!」とかいってそうな雰囲気になったといえばわかるだろうか? 女……を意識しなくてもいい感じの雰囲気になったというか? 実際こっちの方が野々野国人の最初の印象に近い。だって飲みすぎて吐いてた人だ。
いや、実際あの時のあれが飲みすぎだったのか、ただ単に体調が本当に悪かったのか? は野々野国人はわからない。だって救急車で病院までいったが、別に病名とかの説明は受けてないからだ。そもそもが野々野国人と彼女はあの時点で知り合い? でもなかった。だから個人情報的な病名とか聞くわけにもいかなかったのだ。
でもきっと深刻な病気……とかではなかったんだろうと思ってる。だって目の前の彼女は元気そうだ。あの日の弱ってた見た目とは雲泥の差といっていい。
「とりあえずコーヒーとかでいい? あとは軽くサンドウィッチとかも食べる?」
からっからの笑顔を向けて彼女はそういってくる。なんかとてもフレンドリーだな……とか野々野国人は思いつつもとりあえずうなづいておいた。なにせこんなお洒落なカフェとか気後れする国人だ。おすすめでも頼んでくれるのならありがたいまである。
「コーヒーはブラックでいい?」
「はい」
「了解」
ぱちんとウインクをかましてくる彼女。そのしぐさに感心してしまう国人だ。女性のウインクに感心……と言うのはおかしな感想かもしれないと思いつつ、だがなんかさわやかだったのだ。こう男に対して意識してやるというよりも、なんか自然にまろびでてるというか? きっと彼女は普段からああいう風にやってるんだろうな――と思えるような、そんな感じだったからドキン――というよりも「うお、格好いい!」――という思いがわいたのだ。
とりあえず彼女は二人席をとっておいてくれたみたいだから、荷物をわきにおいて、なんかやけに心もとなさそうな椅子に野々野国人は腰かけた。