「負ける気がしないな」
大量の岩の蛇。その姿は凶悪で強大。きっとこいつなら、いくつもの世界を滅ぼせる。そんな事を野々野足軽は思う。そしてそんな野々野足軽の考えは間違ってない。こいつは世界を壊す病原菌みたいなものだった。そして世界が滅ぶと、界門を使ってまた別の世界へと向かう。そんな事を繰り返してきた罪深き存在だ。
きっとこの岩の蛇は今回もなんの問題もなく、世界を滅ぼせると思ってただろう。野々野足軽というイレギュラーもさっきまでなら、問題なんてなかった。けど……戦ってる内に岩の蛇は気づいてきたかもしれない、今の野々野足軽は危険だと。
その底しれない力に……岩の蛇はこの界域という場所をきっともっとずっと前から利用してたと思われる。なにせ一つの世界では留まれない……そんな強大な存在だ。でも、岩の蛇は気づいてなかった。知ることができなかった。この界域にあった、大きな大きな力の貯蔵を。
そして野々野足軽はそれを見つけた。さらにいうとその力を野々野足軽は使ってる。使えてしまってる。それこそが圧倒的なアドバンテージ。確かにこの岩の蛇は数多の、数多くの世界を見てきたのだろう。
見てきただけじゃなく、沢山の世界を壊してきた。そんな存在だからこそ、きっと岩の蛇は思ってた。
『我に並び立つ存在などなし』
――とね。沢山の世界を蹂躙してきた存在なら、そんな風に思ってもおかしくないだろう。だが……今、岩の蛇の目に映る存在。そのちっぽけな体しかないような存在が今もなお、そして何度でも自身の前にいるのが信じられない。それに岩の蛇は本気を出してる。別に岩の蛇は一つの世界だけを壊してたわけじゃない。
岩の蛇には沢山の首がある。だからこそ同時に様々な世界へとちょっかいをかける事ができる。そうやって同時進行で世界を襲ってたわけだが、今やその首はたった一人に集中してた。
それがこの眼の前のちっぽけな存在――
『野々野々野々』
――ただ一人に。そしてそれを認める事もこれが本当のことだということだって岩の蛇には信じられない。それに全ての首をこの界域に集めて戦ってるというのに……眼の前のちっぽけな存在はまだ生きてる。生きて岩の蛇の首を一つ一つ落としていってた。
それ自体は問題ない。いくら首を落とそうと、すぐに再生できる。まとまった本体である体を見せてないから、きっとこの存在は自分の事を勘違いしてるのだろう……とか岩の蛇は思ってた。
沢山の個……一つの固有種ではなく、集団だと……「馬鹿め!!」――とか思ってる。けど実際いくら再生できるといっても頭が落とされてるのは事実な訳で、そして眼の前のちっぽけな存在はそれを余裕を持ってやってるようにみえる。
見えない不可視の力が一斉に数千にも登ってた岩の蛇の動きを縛る。
『馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!』
そんな怒りによって、第一の首。野々野足軽がほかとは違う……と評した首はその拘束を解いた。でも動けたのはその首だけ。そしてそこに、野々野足軽が手をかざして現れる。
「やっぱりお前だったか」
その平坦で、むしろ安心した……ような感情のこもった声。それを聞いて始めて、岩の蛇の別の感情が芽生えた。岩の蛇はこう思った。
『怖い』
――と。