わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

夜襲部隊~ロバート・R・マキャモン

2006-01-30 22:14:58 | 怪奇・幻想系
 アラバマ州南部,週間高速道路沿いの辺鄙な場所にある―<ビッグ・ボブの店!給油とお食事>。

 その晩は,トルネード警報が出ており,雨がたたきつけ,雷鳴が轟く,大荒れの天候。

 主人のボビーとウェイトレスのシェリル,常連のアラバマ警察のデニス,そして風雨の中,高速道路から避難してきた家族連れ。
 そして,歩く死人のような男が店に入ってきた。

 男の名は,プライス。
 彼は,ベトナムからの帰還兵であるが,特殊部隊の生き残りの忌まわしい過去をもち,その悪夢から逃れることができなくなっていた。

 そればかりか,その悪夢は,現実へ侵食しつつあったのである。

 数日前に,フロリダで発生した,モーテルでの惨殺事件にプライスが関係しているとみたデニスは,店を出て行こうとするプライスを殴打し,気絶させてしまう。

 しばらくすると,嵐の咆哮の中から,ヘリのヒュン-ヒュンという音が近づいてきたのである。


 高速道路沿いの,給油と,コーヒーとハンバーガーを給仕する店というのは,実によく物語の舞台となるねえ。
 アメリカの典型的な風景の一つなんでしょう。

 嵐の夜という設定と,たまたま災難にでくわす家族連れなど,舞台配置も典型的で,映画を見ているような展開です。

 その意味では,先の読めてしまうお話なんだが,だからといって面白くないことはない。

 設定がきっちりとされているだけに,できあがりのきれいな正統派ホラーという感じかな。

 ただ,悪夢の現実化の原因について説明する必要はあるのだろうか。下手な理屈はつけない方がよいのかなと思うのだが。 

 さて,この作品は,1980年代半ばのオリジナル・アンソロジーに収録されたものだが,こういう作品を読むと,ベトナム戦争の悪夢の記憶は,まだまだ,リアルで,アメリカ社会の中ではトラウマとして忘れられないものであるのだなと思う。

 ベトナム戦争について,軽いのりで話しかけたデニスに対して,プライスがそのおぞましい体験をぶちまけ,鼻白むデニスに,知ったような口をたたくなと吐き捨てるように言う場面は印象に残る。

 極限を体験した者と体験せざる者,そのギャップは,簡単に埋まるものでもなく,理解することも難しいのだろう。

 イラク帰還兵にも,「PTSD=心的外傷後ストレス障害」が生じているとの報道もある。
 彼らにも,第二のベトナム帰還兵のような問題が生じるのであろうか。

 新潮文庫「ナイト・ソウルズ」収録。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 前の記事へ | トップ | スロー・バード~イアン・ワ... »

コメントを投稿

怪奇・幻想系」カテゴリの最新記事