今になって
胸の熱さ忘れた おまえの眼の色
海辺の春に捨ててきた
小鳥はささやくって云うのに
舌の奥でのこる 蕾のにがさ
砂丘の壁に投げつけた
夜風はざわめくって云うのに
この街に 染付いた おれの恥
誰が笑ってくれる
時代に目を離された すずの音
誰が見ていてくれる
明日がからっぽになった
今になって
(『蓄音機』収録)
胸の熱さ忘れた おまえの眼の色
海辺の春に捨ててきた
小鳥はささやくって云うのに
舌の奥でのこる 蕾のにがさ
砂丘の壁に投げつけた
夜風はざわめくって云うのに
この街に 染付いた おれの恥
誰が笑ってくれる
時代に目を離された すずの音
誰が見ていてくれる
明日がからっぽになった
今になって
(『蓄音機』収録)
古びた路線の
隧道に喰われた鉄道の
横の俺のときめきの
横の横たわる煙突の
排ガスのエントロピーに犯された
処女の群れのいらだち
森を割り 水を注す
森を割り 水を注す
あそこの膨れた電柱の
慰めの冷水に抉られた犬共の
二回めの遊びで死んだがき
(『蓄音機』収録)
きみたちが人間だと云うのなら
僕は人間でなくてもよい
きみたちに頭脳があると云うのなら
僕に頭脳なんかなくてもよい
きみたちに夢があると云うのなら
僕は夢をみなくてもよい
これが平和だと云うのなら
僕は戦争がしたい
きみたちがこれからも生き続けて行くと云うのなら
僕は死ぬ事なんぞ怖くない
(『蓄音機』収録)
退屈で憂う
妊婦をかわいがってやりたい
おいらの膝のうえで
そしたらおいら 男になれる
髪を愛撫し はしゃぐ十代のこころ
かたつむりの 這った跡
クラシカルなラジオ 苦行のごとく
メカニカルにはまだならないで、と おかあさん
青春の石 どちらに転ぶべきか
わかったら
そしたらおいら 男になれる
(『蓄音機』収録)
女は、荒唐無稽で世の中にたくさんある謎のキーワードである。
女の頭は、荒々しい鼻息の気味の悪い接地点である。
女の目は、女勝りの濃厚な女性向けの人間性を忘却した死にかけた快感昆虫である。
女の鼻は、オタマジャクシのうさん臭い理解である。
女の口は、麻痺しかし可聴音波である。
女の顔は、いつかビショビショな修羅である。
女の髪は、思春期の整形手術による痛みである。
女の胸は、孤独になれる尻の穴のシルエットである。
女の腹は、ちょっと魅力的な乳首である。
女の性器は、ぎこちない覚醒剤の注入時体勢である。
女の四肢は、はじめての熟練した変化である。
女の尻は、金がないサラサラした田舎者である。
処女は、地獄耳な吟遊詩人のごとく妊娠しない。
(『蓄音機』収録)