Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

森絵都「漁師の愛人」

2014-11-19 00:01:44 | 読書感想文(小説)


森絵都の短編集「漁師の愛人」を読みました。


森絵都作品は「カラフル」と「風に舞い上がるビニールシート」しか読んだことがないのですが、そのどちらも(特に後者が)とてもよかったので、この「漁師の愛人」も期待して読みました。

結果、「風に舞い上がるビニールシート」ほどの満足感はありませんでしたが、表題作の「漁師と愛人」をはじめ、読んだ後、自分を振り返って過去に思いを馳せたりこれからのことを考えたりと、いろいろと心を動かされる作品でした。

以下は、各話の感想。


「少年とプリン」
給食のプリンを盗んだ濡れ衣を着せられ、担任教師と対決する少年。小学生の頃、給食のデザートと言えばみかんやバナナが主でした。たまにプリンが登場すると、配膳の前からウキウキそわそわしたのを覚えています。なので、主人公の少年がプリンを盗んだ疑いをかけられ、怒り心頭なのには思いきり共感します。同情します。クラスの中にいる真の泥棒が許せない、その気持ちはよくわかります。なので、結末にはきっと真犯人がわかるはず…と思っていたのにそのラストはいったい何!?君はプリンを愛してるんじゃなかったの?この後に出てくる二つの話の中で、主人公の少年あるいは青年(多分同じ人物)がプリン絡みのトラブルに遭遇するのは、このときのプリンの恨みなんじゃないかと思います。たかがプリン、されどプリン。

「老人とアイロン」
4個入りのプリンを家族3人で食べる場合、誰が2個食べるのか…この手の問題は、我が家の三姉妹の間でも頻繁に上がりました。おそらく、日本中の家庭で同じことが起きてるのでしょう。おそらくこの話は「少年とプリン」の主人公の数年後の話なんでしょうが、プリンをめぐって担任と火花を散らした少年の父親が、食べようと思っていたプリンを息子に食べられてキレている、というところに親子の絆(?)を感じました。そういうことって、あるよね、うん。上半身裸で汗を流しながらアイロンをかけ続ける老人に憧れる、少年の反骨精神。彼はその志を貫くことができるのか。

「あの日以降」
カフェ定員の藤子、スポーツジムのインストラクターのヨッシ、テレビ番組の下請けプロダクションに勤める、人妻の眞由。東京でシェアハウスをして暮らす女たちの、あの日-3.11以降の日々。被災したわけでもないのに、それまでとは変わってしまった生活の中で、主人公たちが感じる息苦しさには私も覚えがあります。被災地で苦しんでいる人たちに対するうしろめたさから、笑ったり喜んだりできなくなったり。新聞やテレビで悲しいニュースを目にしては、自分の無力さを痛感したり。それでも、藤子たち3人は、迷いながらも自分たちの生きる道を見つけます。この先どうなるかわからなくても、思い切って足を踏み出す。震災の直後、「やっぱり男がいなきゃ」と言って浮気夫のところに戻っていた眞由が、成田空港で見たものを語る場面が印象的でした。恐くても、不安でも、それでも生きてゆく私たち。明日も明後日も、ずっとずっと。彼女たちのように、強く。

「ア・ラ・モード」
プリンを愛する少年は青年になり、デートの途中で古き良き正統派の喫茶店に入る。注文するのはもちろん、プリン・ア・ラ・モード…のはずが、店はプリンを切らしていた。店員は言う。「ア・ラ・モードならできますが」
プリン・ア・ラ・モードのプリン抜きって何よ!?と青年でなくても突っ込みたくなるところですが、彼の怒りはプリンがないこと以外の他のことにも及びます。それは何かというと…ユニクロのブラトップ。ユニクロのブラトップが、世の女どもの胸を無個性化していると憤る青年。言いたいことはわかるけど、彼の反骨精神は予想外の方向に突き進んでしまったようです。果たして、彼の理想とする、ブラトップに支配されてない、女たちが自分自身のありのままの胸で勝負する世界は来るのでしょうか。いやどっちでもいいけど。

「漁師の愛人」
脱サラして故郷の漁師町で漁師を始めた50代の男と、彼についてきた愛人の女。愛人に対する、漁師町の女たちの風当たりは強く…。私の住んでる町は漁師町ではありませんが、田舎の閉鎖的な空気や、都会から来たとはいえもとは地元の人間である男への周囲の甘さと、純然たるよそ者の女への冷たさに、思い当たるフシがありました。これって男女が逆だとまた周囲の反応が変わるんですよねー。男は大事な働き手、稼ぎ手だから、よっぽど和を乱す人間じゃない限り、甘い。でも女は…。50代の男と40代の女という、人生の後半戦に入っている2人は、それまでの人生でため込んだものもあって前途多難ではあるけれど、それでも船を出そうとしている。その強さが羨ましく思えたし、励まされもしました。いや、前途多難だけどね。最後まで読んでもほんとに大丈夫かな、って思ったし。あと、男が愛人のお披露目のために参加した、老漁師の喜寿の祝いの席の描写が、どこかで見た覚えがあるほどリアルでおかしかったです。


ところで、関係ないかもしれないけど「風に舞い上がるビニールシート」に収録されている話の中にも、プリンが登場してました。あの話では桃のプリンだったけど、もしかしたら作者の森絵都さんはプリンに深い思い入れがあるのかな?だとしたら、他の作品にもプリンは出てくるのかも。これから森絵都作品を読むときはプリンが出てこないか気をつけて読むことにします。



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