ヌチドゥタカラ「命こそ宝」

ヌチドゥタカラとは、沖縄の言葉で「命こそ宝」の意味。脱原発と反戦。命こそ守らなければならないもの。一番大切なもの。

「ウラン採掘による先住民被曝」毎日新聞

2012-08-21 17:58:05 | 日記
9月11日につくばで講演して頂く豊崎さんから8月5日の毎日新聞大阪版記事を送っていただきました。
『怪物が目覚めた地』と題する「Sストーリー」で、全紙使用の大型報道記事です。
 ヒロシマの日の前日、写真を多用した記事で読み応えがあり、『毎日新聞』の良識が感じられるものです。
以下抜粋です。2010年の記事も同送します。
ちなみにナバホ族とホピは隣り合った土地に暮しており、状況は一緒であります。
原発を動かすために、ウラン採掘の現場から、精錬工場、原発作業員、核廃棄物の処理まで、すべての場で犠牲を生みます。
豊崎さんは世界中の核の現場を取材してこられた方で、ビキニ被災地マーシャル諸島もネバダ核実験場も実際にその眼で見てこられたのです。11日は貴重なお話が伺えると思います。

『怪物が目覚めた地』
「ウランは地下に眠る巨大な怪物だ。ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリ、そしてフクシマ。誰も制御できない力で人々を苦しめる。我々がその怪物を起こしてしまった」
 米ニューメキシコ州北西部のチャーチロック地区。先住民ナバホ族のトニー・フッドさん(62)は砂ぼこりが舞う大地を見つめ、つぶやいた。
(中略)
 ナバホ族約25万人はニューメキシコ州からアリゾナ州などにまたがる約7万平方キロに暮らす。保留地のウラン採掘は05年にナバホ自治政府によって禁じられたが、ウランの国際需要の高まりを背景に周辺で再び採掘する動きが出ている。
 住友商事とストラスモア社(カナダ)が出資する「ロカホンダ・プロジェクト」もその一つ。
(中略)
 取材を進めるうち、廃坑近くで今年1月まで暮らしていた日本人女性に出会った。秋田県出身のみゆきトゥーリーさん(38)=アルバカーキー在住。08年にナバホ族のノーマン・トゥーリーさんと結婚し、アリゾナ州ブルーギャップ地区のナバホ族保留地で生活した。(中略)
「東京の短大を出た私は都会の便利な暮らしが普通と思っていた。ウランに興味もなかった。毎日使う電気の源が世界中の先住民の土地から運ばれ、その先住民 がいまだに放射線被害に苦しんでいることを何人の日本人が知っているだろう」。みゆきさんは今、そう思う。ノーマンさんは「ウラン鉱山会社が来て猟や農作 を営む土地を奪われ、家族やコミュニティーが引き裂かれた。我々の苦しみはフクシマの人たちの苦しみと同じ。ウランを掘り起こしたことはとても危険な行為だった」と訴えた。
(中略)
郁子さんは10年ほど前から、教会から依頼を受けて原爆について語り始めた。原爆が作られた地にいるからこそ、原爆のむごさを語り継ぐ大切さと自分の役割に気付いたからだ。(中略)
 しかし、米国では、第二次世界大戦を早く終わらせるためだったと、原爆投下が正当化されている。講演後、出席の女性から「なぜ(原爆を)落としたか、あなたも知っているはずでしょう」と詰め寄られたこともある。郁子さんは「原子力がいつ核兵器に使われるか分からない。過去は変えられないけど、未来は変えられる。被爆国の人間だからこそ訴え続けないといけない」と話した。
 日本で二十数年暮らし、今はナバホ族保留地近くに住む女性宣教師、ローズマリー・チェッチーニさん(78)から聞いた言葉を思い出した。 「放射能はヒロシマ・ナガサキのヒバクシャを苦しめ、戦勝国アメリカの先住民も苦しめている。日本の被爆体験を世界が共有し、人類や自然を破壊する核の連鎖を止めなければならない」
(中略)
 原子力はウランを採掘する人々の健康を脅かし、放射性廃棄物で彼らの大地と水を汚していた。地球の裏側に住む先住民の痛みに気づかず、無意識に新たなヒバクシャを生み出していたのではないか・・・。未明の帰国便の中で、私はそう自問し続けた。
         (重石岳史氏取材による2012年8月5日の新聞記事より抜粋引用)

記者の目:米インディアン居留地、ウラン鉱汚染=吉富裕倫(ロサンゼルス支局)2010年6月24日
 ◇吉富裕倫(ひろみち)   ◇核兵器開発のツケで環境被害
 米国アリゾナ州を訪れ、核兵器製造のため採掘されたウラン坑跡の水汚染を取材し、連載記事「オバマの核なき世界/足元のウラン鉱汚染」(4月20~22日)を書いた。アメリカン・インディアンのナバホ族が住む居留地の一部では、汚染された地下水を飲んだ人たちが健康被害を訴えていた。「核兵器」の間違いは、無差別大量に市民を殺傷する非人道性だけでなく、深刻な環境汚染にもあると実感した。
 ナバホ族コミュニティーの生活向上を図る非政府組織(NGO)「忘れ去られた人々」の案内で、アリゾナ州北東部の荒れ地で牧羊などを主な生業とする集落に行く前は、「安全な飲料水がないから飲み水を持参すること」と言われても半信半疑だった。
 米国はドラッグストアに安価なボトル入り飲料水があふれる世界一の経済大国だ。今年1月、震災の取材で訪れた中米のハイチでは、米軍がヘリコプターで大量の飲料水を被災者キャンプに連日運び、援助活動に励む姿が目に焼き付いていた。
 レンタカーのトランクに積み込んだ5ケースの飲料水は、思いのほか役に立った。広大な荒野に点在する民家を訪ね、時折、汚染された水を飲むという女性のロランダ・トハニーさん(47)の家に着いたのは日も暮れ落ちた夕方。彼女は帰宅したばかりで「疲れている」と不機嫌だった。しかし、仲介してくれたNGOのスタッフが、私を紹介する時「水を持ってきてくれたのよ」と言った途端、歓迎の表情に変わったのだ。
 ◇がん患者発生因果認めぬ政府
 夫妻2人の買い置きの飲料水は1ケース。約1週間で使い切った後は、街まで買い物に出かける2~3週間先まで近くの井戸水を飲むという。5年前に夫が心臓病の手術を受け、記憶障害のあるロランダさんの障害手当で暮らす2人にとって、経済的に「ほかに選択肢がない」。
 コーヒーカップが青色に染まるような井戸水だが、基準値を超えるウランなどの有害物質が含まれているとは、当局が標識を張る2年前まで思ってもいなかったという。28歳の娘は6歳の時に甲状腺がんを患った。ロランダさん自身も最近甲状腺がんと診断された。
 地域住民には、腎臓がんなど汚染された井戸水が原因と疑われる病気にかかり、死亡した人もいる。疫学調査は実施されず、政府は「水は飲むな」と警告する一方で、病気の原因が水だとは認めていない。
 ナバホの人たちは、ただ自分たちの伝統的な生活を続けてきたに過ぎない。米国が冷戦下の核兵器開発競争を勝ち抜くため、ウランを掘り、そのまま放置した。その結果、半世紀後の今になっても自国民が苦しんでいる。
 連邦政府はナバホ居留地内の飲料水対策を行い、5億ドル(約450億円)を投じてきた。だが、ウラン坑跡の対象地はウェストバージニア州と同じ広さといわれ、規模の大きさに頭を悩ます。
 ◇他の核施設も閉鎖に巨額費用
 こうした問題を抱えるのは、低所得者が多く「米国の中の第三世界」ともいわれるインディアン居留地だけではない。長崎原爆のプルトニウムが製造されたワシントン州ハンフォードの核施設でも、80年代後半に周辺への環境汚染が明るみに出た。住民たちは健康被害の損害賠償を求め91年に訴訟を起こしたが、今も裁判は続き、約2000人の原告は救済されていない。
 施設閉鎖後の89年から30年計画で始まった汚染除去作業は、20年を過ぎた今、さらに30年かそれ以上かかると推測されている。
 米紙ニューヨーク・タイムズによると、同施設跡を含むエネルギー省所管の107施設の汚染除去作業には、完了するまでに2600億ドル(約23兆4000億円)という気の遠くなるような巨額の費用が必要。米国が今後10年にわたって核兵器の性能を維持するための関連予算800億ドル(約7兆2000億円)をはるかに上回る。しかも、いまだこれら核のゴミを安全に閉じこめておく最終処分場は定まっていない。
 米国はオバマ大統領が将来の「核なき世界」を目指すと述べ、核弾頭数を初めて公表するなど核軍縮への積極姿勢に転換した。核大国同士の核戦争より、核テロの脅威に対処することがより重要になったという安全保障環境の変化が主な理由だ。核兵器による環境汚染やそれによる健康被害は米国だけの問題ではないはずだ。核兵器の開発製造、実験がもたらしたつめ跡の深さも積極的に訴え、核兵器廃絶へのリーダーシップを取ってほしい。
毎日新聞 2010年6月24日 東京朝刊


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