能登上布織元、山崎仁一さんの工房は、石川県羽咋市にあります。
金沢から車で、1時間もかからないので気楽にでかけてみました。
能登上布は、夏のきもの地です。
昔は農閑期の副業でしたが、今は一年を通じて作業が行われています。
■手織りのやさしさ
さっそく、ご自宅の後ろにある工房に案内していただきました。
中に入ると、機織りの音が心地よく響いています。
明治のものとも大正のものとも、山崎さんご自身、いつ頃作られたのかわからない古い器具でいっぱいです。
そんなレトロな空間からは、懐かしさやぬくもりを感じます。
織り子さんの作業を、ちらりと拝見。
足のペダルを踏むと経糸が上下に開き、その間の道に緯糸を通します。
ちょっとまちがうと、柄が合わなくなりそう・・・
根気と集中力がいる仕事ですね。
2階にあがると、織る前に糸を整えて染める作業をしていました。
染まった部分と染まらない部分を織り合わせてつくる絣模様。
能登上布は、ロールや櫛形の木型で押して染めるんですね。
上の写真は、小さい十文字のような蚊絣模様の経糸をロールで染めているところだそうです。
ミスがないか、何度も確認しながら、丁寧な作業が続きます。
■時代にあわせて進化する
能登上布のような伝統工芸は、ひたすら伝統を守る、守りの産業だと思っていました。
お話をうかがいながら、古い上布を見せていただくと
時代のニーズに合わせて、絶えず新しい試みをしてきたことがよくわかります。
今もなぜ、山崎さんは織り続けているのか。続けられるのか。
その答えも、大きな変化に対応して改革を実行したことにありました。
昭和50から60年代にかけて、きもの離れがさらに進むなか、日本人の体型も変化し、
多くの能登上布の織元が生産をやめてしまいました。
でも山崎さんはそれまでの並幅(約36センチ)の反物に加えて、
広幅(約40センチ)の生産ができる道具や器械に変えて需要に対応してゆく道を選びます。
織り続けてきた能登上布をこれからも愛し続ける、決断のときだったのですね。
「看板は絶対に下ろさない」
なごやかな会話のなかに発せられたひと言に、深い愛情と能登上布と生きていく覚悟を感じました。
山崎さんは最後の一軒の織元として、今の時代の感覚にあう小粋な上布を元気に織り続けています。
まだまだたくさんのお話をうかがい、ずいぶん長居をしてしまいました。
本当にありがとうございました。
興味のある方は、ぜひ工房に立ち寄って、生のお話と本物の上布に触れてみてください。
■アクセス
石川県指定無形文化財 本麻手織 能登上布
織元 山崎仁一
石川県羽咋市下曽祢町(JR金丸駅ちかく)
tel/fax: 0767 26 0240
email: notojofu@p1.cnh.ne.jp
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