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ノート上のお話

ノートの上に子供が三人、笑顔でしゃべっている。母親はシチューを煮込みながら本を読み、父親は旅先の風景を写真に収めていた。

ノート「ねぎの降る街」

2006-12-06 00:51:42 | ノート上のお話
ねぎの降る街

ねぎが降った。積葱量は20cm。これだけ降ったのは50年ぶりだ。
子供たちは初めての光景に圧倒され、ただ目を丸くするばかりだった。
ねぎが空から降ってきた。それはきれいに刻まれたうちねぎで、一晩のうちに東京の街を輝かせた。

子供たちは外へ出ると、すぐにねぎ合戦を始めた。ねぎを両手で掴んでは相手の顔に押し当て、笑った。そして笑った。
ねぎはやわらかくて、ふかふかしているけど、目に入るとしみて涙が必要以上に流れ出る。目と鼻はつながっているもんだから、涙の鼻水もたらたらと出てきて、ねぎ合戦をしている子供たちはみんななんだかマヌケ顔だ。

「あはっ。なに泣いてんだ?」
「うるせい。おめえだって」

ねぎが八百屋で98円。1本98円のねぎは笑えない。

「追いかけてくんなよ」
ぐしゃ。
「あははははっっ」
ぐしゃっ。
「ズジュル。あはっ。あはははっ」

金網をよじのぼる。

「ダーイブっ」
バフッ。
「ははっはっははははっ」


ラジオからクリスマスにふさわしいラブソングが流れてきた。

♪今夜は~なんだか寒い
 ねぎの降る~この街で~
 二人肩寄せ合い歩く
 ねぎの道 ねぎクリスマス
 昼間は子供が笑う~
 今は君の笑顔に ねぎクリスマス

ノート「ボタン」

2006-10-16 01:58:44 | ノート上のお話
テレビの中にはボタンがある。

ニュース番組でも音楽番組でもクイズ番組でも。

そのボタンは押すことができない。
だけどきっと押すことはできるんだと思う。
洋服のボタンには見えないし、なんか押してくれって言っている気がする。
テレビの司会者にもこのボタンは見えていない。

「そう、卵、正解。よく分かったね~。勘が鋭い」
台本はボタンについて一切ふれていない。
「では次の問題。次はちょっと難しい。VTRスタート」
横長のボタンは消えて、縦長のボタンが画面の右端に現れた。
「さあどうでしょう。早押しですよ」
テレビの外の人は押せないし、テレビの中の人にも押せない。
「やっぱり難しいかな。ではヒントを差し上げましょう」
このボタンを押したら何が起きるのだろう。
「VTRに出てきた女性。最後のほうで何か言っていましたね」
番組に参加できるのだろうか。それともテレビが消えてしまったりするのか。
「『木の匂いがする』さて、木の匂いはどこからやってきたのか」
ボタンを押して司会者の言うことが変わってしまったら面白いかも。
「うーん。近からず遠からずといったところでしょうか。林の切り株に注目したところはよかった。さあどうぞ」

ポチっと
「そんなわけねえだろ。もうちょっと頭使えよこのカスが」
とか言ったら面白いかもしれない。ポチっと。
「そのしゃべりかた直せよムカつくなぁ、この女」
もしかしたら、ポチっと。
「犯人は私です。申し訳ございません」

楽屋泥棒はお前かって、なるかも。でも押せないんだよ、そのボタン。
「ああーおしい。だから?だから?だから?」
何かを操作するためのものじゃないのかな。
「はい。せ~かぁ~い」

ポチっと。
操作しないである事象を起こす。必然と偶然の選択。必然ならば否。司会者の発言を変えることはできない。変えた瞬間それは操作になるから。偶然ならば可。しかし予想することはできない。そしてボタンの意味するところは、その形と押すという行為、そのものとなる。付け加えるものがあるとするならば、虚像の生成、作家である神の遊戯。

ノート「ムヒ」

2006-10-09 02:35:10 | ノート上のお話
ムヒをつけるとスーッとする。

誰に何を言われたのか分からないけど、そんなに慌ててムヒを探さなくてもいいんじゃないかな。まるでムヒを見つけないと死んでしまうみたいに、君はすごい形相で叫び続けたんだ。
この世の中の出来事には冷静でいられることと、そうでないことがある。
大地震が起こって、瓦礫の下の子供の安否を心配する親のように、君はムヒの在りかを求め続ける。髪の毛をかきむしり、パジャマは乱れ、左の細い腕には真っ赤な引っかき傷が膨らんでいた。興奮で顔がはち切れそうになり、汗はサウナから出たばかりみたいに流れていた。
ピンポーン。
そうだ、今日荷物が届くんだ。
宅配便です。
はい、どうも。
ええ、ここにハンコ…
配達員は見てはいけないものを見てしまった。

ノート「流し蛙」

2006-09-18 01:24:49 | ノート上のお話
おふろの水を流した
水の音と共にかすかに聞こえたのは
かえるの鳴き声
げこげこげこ

きっとかえるが住んでいるんだ
水を流すたびに
何匹も流れていくんだ
そしてウォータースライダーに乗ったかえるは
げこげこげこ
とか言って楽しそうに流れていくんだ
一度楽しんだら飽きるまで並び続けるんだ
きっとそうだ

ノート「夜の公園はいいと思う」

2006-09-02 18:52:27 | ノート上のお話
夜の公園はいいと思う。


みい「こわいからいや!」
とし「おもしろいよう」
みい「やーだ」
とし「さくをこえてはいるんだよ。おばけさんこんにちはって」
みい「おばけきらい」
とし「友だちになればいいじゃん」
みい「なりたくない」
とし「きらわれたほうがこわいよ。仲よくなったほうがいいんだよ」
みい「じゃあとしは仲いいの?」
とし「いいよ」
みい「どんなふうに?」
とし「手をつないで歩くくらい」
みい「ええ!おばけに手ぇあるのぉ?」
とし「あるよお」


夜は涼しい。夏が終わりに近づいている。心地よく肌に触れる空気は、すぐそこに並んでいる家庭の温かみと、はっきり分離されている。日常から非日常に対する憧れが生まれるのだろうけど、非日常が日常の逃げ道になってはいけない。逃げてばかりじゃ疲れるからだ。非日常は日常に変えて、また新しい憧れを作るのだ。


みい「おばけってさわれないんじゃないの?」
とし「さわれるよお。すこしつめたいんだよ。それでおいでって言うの」
みい「おいでって?」
とし「うん。それでついていくと、水の上を歩くんだ。すごいでしょ」
みい「おばけなんだから当たり前じゃん」
とし「じゃあ見たことあるか?」
みい「ないよ」
とし「そんなのだめじゃん」
みい「だめじゃないよ」
とし「だめだよそんなの」
みい「だめじゃない!」
とし「だめだめだめだめだめだめだめだめ――」
みい「だめじゃないだめじゃないだめじゃないだめじゃない――」
わーーーーー



ノート「ためらい」

2006-07-17 02:15:50 | ノート上のお話
他人の気持ちを考えてためらうのはいいことである。自分の気持ちを考えて(傷つくのがいやだからなど)ためらうのは、どうだろうか。



とし「とぉー!」
みい「キャッ、キャッ!」
ねえ「うるさい!!」

とし「いーじゃんよ~」
みい「いーじゃんよ~」
ねえ「迷惑なの。こっちはテレビ見てるんだから」

とし「こっちはあそんでるんだからあ」
みい「だからぁ~」
ねえ「静かに遊びなさい。人の迷惑になることはしないの」

とし「ねえちゃん、人の迷惑になること言ってんじゃん」
ねえ「静かにしなさいって言ってるの」
とし「…しずかにしたくないもん。ねえちゃん、としの迷惑になること言ってんじゃん」
ねえ「なに訳の分かんないこと言ってんの。静かにすればいいのよ」
とし「や~~だぁ~~」



とう「なあとし。何かをやろうとするとき、ためらうことってあるか?例えば今日ねえに言われたみたいに、他人の迷惑になりそうだからやめとこうとか。学校で授業中、とかでもいいんだけど。ためらうこと」
とし「…うん。ええと、先生に当てられて、自信がなかったから」
とう「そうか。とうも経験あるなあ。なんか間違えたら恥ずかしいんだよな。え、わからないのみたいに思われるのが嫌でね。うん。ためらいにはね、二種類あると思うんだ。一つは今言ったように、他人に自分がどう思われるか気にしてためらうこと。もう一つは相手の迷惑を考えてためらうこと。要するに、自分が嫌だからためらうことと、他人が嫌がるからためらうことの二つ。それでね、他人が嫌がると思って、ためらうことっていうのはすごくいいことだと思うんだ。他人の気持ちを考えられる人はおもいやりがあるよね。だけど、自分が嫌だからためらうことっていうのは、別に誰かに迷惑がかかることではないんだよ。自分に迷惑がかかると言えないことないけどね」

ノート「いったりきたり」

2006-06-14 02:23:30 | ノート上のお話
卓球の球がいったりきたり

見ている顔もいったりきたり

選手は左右にいったりきたり

シーソーゲームでいったりきたり


決めたら笑顔がいったりきたり

ガッツポーズがいったりきたり

応援声がいったりきたり

気になるメールもいったりきたり


終われば拍手がいったりきたり

お酒をつぐ手がいったりきたり

「まあまあ」「どうも」もいったりきたり

そろそろトイレへいったりきたり


忘れ物したらいったりきたり

街には背広がいったりきたり

家出の娘はいったりきたり

飲みすぎたならいったりきたり

ノート「えのぐはだめ」

2006-05-30 23:19:59 | ノート上のお話
とし「なんで空は青いのかなぁ?」
みい「青がすきなの」

とし「ぼくはみどりがすきだな」
みい「みいは赤がすき」

とし「赤色はポストの色だね」
みい「いちごのいろ」

とし「赤いふうせんの色」
みい「あかいありのいろ」

とし「青は空の色で海の色だよ」
みい「あおいジョーギのいろ」

とし「あお信号の色」
みい「青い絵の具の色」

とし「みどりのことをあおって言うよね」
みい「じゃあとしはあおがすき?」

とし「みどりがすき」
みい「みどりの絵の具がすき」

とし「えのぐはだめだよ」

ノート「三段論法のまちがい」

2006-05-16 23:29:10 | ノート上のお話
AはBである。BはCである。よってAはCである。

照れると顔に血が上る。顔に血が上ると赤くなる。よって照れると赤くなる。

憂鬱は嫌いなものだ。嫌いなものはピーマンだ。
よって憂鬱はピーマンだ。

とし「ぼくピーマン食べられるよ。えらい?」
とう「うん。えらいえらい。えらいぞ」

みい「みいね、きょうね、あきちゃんとけんかしたの」
とう「けんかしたのか。そうかぁ。なんでけんかしたの?」
みい「わかんない」

けんかには原因がある。みいに原因はわからない。とうにも分からない。
分からないことは原因だ。原因はわからない。よって分からないことはわからない。

しかし、みいは「わかんない」と言っている。分からないことがわかるのだ。
えらいねぇ。
きっとけんかなんてしてないでしょう。父親にかまわれたいみいが、少してらいながら言ってみただけなのだ。

ノート上のお話「週末の夜」

2006-05-06 00:18:01 | ノート上のお話

探しても見つからない付け髭
なんでいつものところにないんだ
いえいえ、そちらこそりっぱな歯並びで
歯磨きは毎日欠かさない

今度青森へ遊びに行かない?
自転車で行くなら喜んで行くさ
東京から自転車で?
リンゴジュースが飲みたい
冷蔵庫にあるでしょ
冷蔵庫にあるのは卵
100%のやつ
20%の卵?

テーブルに積み上げる皿
天までとどけ
天井までとどけ
バッティングマシンがほしい
そんなお金ありませんよ
皿が割れる


意味のない言葉の羅列
意味をつける人の想像力
人と人が出会って握手をして
言葉と言葉がお互いに気をつかう
そんなやさしい週末の夜