一昨日は12月12日(土)、「ベートーヴェンを弾く会」でソナタ20番を弾いてきた。
確か5年ぐらい前だろうか、古典派のソナタをきちんと弾けるようになりたい、と思うようになったのは。基礎力をつけるためには古典派だと単純に思ったのを覚えている。あこがれはドラマチックなベートーヴェンの月光、テンペスト、ワルトシュタイン。しかしベートーヴェンを本格的に弾くのはあまりにも難しそうに思えたので、美しくとっつきやすそうなモーツァルトからいこうと思い、当時弾きやすそうに思えたK.283、K.330を弾いた。しかしそれは非常に甘かった。弾けたつもりが録音を聴いた瞬間撃沈。もう古典派ソナタなんかこりごりと思ったのだけど、今年がハイドンイヤーだというのも手伝ったのだろうか。古典派を弾きたいという思いが再び頭をもたげ始めた。モーツァルトでなくてハイドンなら弾けそうに思えてきたのと、井上直幸氏のDVDやよっしー^^さんのブログを通じてハイドンもいいではないか、と思えてきて、今年前半はHob.XVI.27に取り掛かった。ハイドンはモーツァルトよりも相性がよかったらしい。今年後半も続けてハイドンのソナタを弾こうと思っていた矢先、ようこさんから「ベートーヴェンを弾く会」に声をかけていただいた。ベートーヴェン、もともとあこがれていたし、古典派ソナタであることには変わりないし、監修のH先生の演奏をぜひ聴いてみたかった。上手な方がたくさん出演されそうだし、本格的な感じがしたのだけれど、出演することによって何か大きなものが得られそうに思えてきたので、参加することにした。
その後転勤が決まったけれど、参加したいという思いは消えなかった。ソナタ20番。折角参加するからにはしっかり練習しようと思った。とにかく後悔だけはしたくなかった。
そして本番。第5番、第6番、第9番、第11番、第13番、第16番、第17番、第18番、第19番、第20番、第26番、第30番、第31番が演奏された。
第一部はサークルの仲間や知っている方が多く出られた。20分以上の長い演奏。ソナタ全楽章だから3曲~4曲。本当に譜読みだけでもエネルギーがいりそうで大変なのに、見事に音楽の流れが作られていた。特に印象的だったのが緩徐楽章。緩徐楽章は難しいと言われていた方もいたけど、私には非常に心に響いた。とても素敵だった。
第二部は私の出る部。H先生も含め先生やプロの方が次々と。私はほとんどペダルを使わなかったのだけど、みんなペダルをいろいろなところで用いていて、ついつい見入っていた。H先生のピアノは美しかった。無駄な動きがなかった。指揮者カルロス・クライバーになったつもりで弾きたいと言われた方もいた。ダイナミックな演奏だった。その後も素敵な演奏が続いた。残念なのは、私自身演奏を純粋に心から聴き入ることができていたかが心許なかったことだ。なにしろ自分の出番が近付いている。とんでもないところに来てしまった、もっともっと念を入れて練習すればよかった、その場から逃げたいけれどそうしたらあの練習も広島に来た意味もなくなってしまう。そして挙句の果てにこういう考えに至った。この中で自分は一番下手だと思うから、これ以上捨てるものはないではないか、格好つけてもしかたないではないか、と。この考えは確信も持てて有効だった。仲間たちも来てくれていた。とてもうれしかったし心強かった。
そして自分の番が来た。これ以上捨てるものはない、と思って前に出たはずだったけど、お辞儀をして椅子の高さを整えてピアノの前に座った瞬間そういうことも忘れ頭が真っ白に。落ちつけ落ち着け。最初の音はとっても大切。そういうときに鍵盤の位置が分からなくなったりしては困ると思ったけど無事にそのようなことにはならず、拍子を数え、最初の音を鳴らした。まあまあ鳴ったかな、と思う隙もなく曲が進む。でも緊張は解けなかった。手が笑うのだ。山から下りるときに足が笑うのと似たような現象。ヤ○ハでの練習の時にもそうだったので、予期していたことだったけど、やっぱり焦った。手よ早く落ち着いてくれ、と思いながら第一楽章のリピート。一回目よりは落ち着いた。そして後半に入る前の呼吸。無事にできてほっとした。やっと手が笑わなくなった。やれやれ。もっと早く落ち着いてほしかった。
第二楽章は第一楽章よりも手が素直に動いてくれた。思いを音にこめることができたような気がした。でも気を抜いてはいけない。「脳に悪い7つの習慣」を思い出した。おかげで気を抜かずに最後まで進めることができた。
終わった瞬間、一気に力が抜けたような気がした。とにかく最後まで弾ききれた。ほっとした。
第三部は後期ソナタの告別、30番、31番。出演された方の思いがこもった熱い熱い演奏だった。技術的にも難しいと思うけど、精神的にも多くのことを求められる曲。自分の演奏の後だからだろうか、長かったけど心地よく聴くことができた。31番好きだなあ。技術が無限大にあったら弾いてみたい曲になってしまった。
3時間20分の本番が終わり歓談の時間。先生方が多くいらっしゃる中私もちゃっかり顔を出させていただいた。演奏の感想、ピアノのある場所、今後の企画、弾きたい曲など、本当にベートーヴェンが好きな方たちの熱くて夢のある話がたくさん出てきた。H先生も夢をたくさん持っていらっしゃった。私もいつの間にか初対面の先生方に上手でしたなどと話しかけたりして、相当図太くなっていた。来年の話も出ていた。いざ出るとなったらまた大騒ぎしそうだということはすっかり忘れ、いいなあ、近かったら出ているだろうなあと思っていた。
その後まつやんさん、かじやんさん、よっしー^^さんと打ち上げした。楽しかった。その後もずっと今までと同じように広島の練習会や飲み会に出続けそうな錯覚を覚えてしまった。
でも今回の経験で私が得た最大の教訓は、「場違いだと思っていても経験を積めば場違いではなくなる、だから場違いだと思っていても勇気を持って飛び込んでみよう」ということだった。ピアノの面もだけど、他もそうかもしれない。その点でも、本企画に声をかけてくださったようこさんに心から感謝している。そしてこの企画をされたH先生や関係者の方たち、レッスンで率直なアドバイスをくださった先生、一緒に出演したサークルの仲間、応援してくれたサークルの仲間と相棒氏にも心から感謝している。
もう一度改めて
本番の録音から振り返ってみたい。今回自分ががんばれたと思えることと、課題だと思えたことをまとめてみた。
がんばれたと思えたこと
音色:最大のコンプレックスだったが、肯定的な感想をいただいた。コンプレックス度が減ってうれしい。本当はまだまだなのかもしれないけれど。
思い:こうありたい、という思いは伝えられたような気がする。
課題だと思えたこと
拍感やリズム感:特に第1楽章。速度がいつの間にか早くなっていた。あせっていたというのは言いわけ。いかに落ち着いて弾けるかだ。
装飾音:第1楽章ほぼ全滅だった。
発音:出ていない音がいくつかあった。ちゃんと弾くこと
などだろうか。正確さの面で至らなかった。
やっぱり経験を積むことが大切そうだな。
というわけで、私の今年の本番はこれで終わった。これからのピアノ、目指す方向はまだはっきりしていないけど、これでよかったと思えるような選択をしたいものだ。その前にショパンがあった、がんばろう!