リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第2回 メコンの魔法

2015-04-15 21:39:50 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

 橋が建設されている場所、そこはラオスとカンボジアの国境部で、メコンは島(中洲)によって多くの分流となって流れている。たくさんの島があることからシーパンドーン(四千の島)と呼ばれている場所だった。

橋はその分流の一つを超えて陸側からサダム島という島に向けて架けられている。サダム島と隣り合うサホン島の間のサホン分流には、ダムが造られる計画だ。ここに通うことになったきっかけは七年前、日本の非政府組織(NGO)が行ったダム予定地の現地調査に同行したことだった。

 研究者の案内でサホン分流へ。その水路には、乾季の数日間、数百キロ下流のカンボジア・トンレサップ湖から魚の大群が上ってくるのだという。その期間を選んだが、以前、彼が漁を記録したという場所に、魚の姿はない。漁具らしい木組みはあるものの、人の姿はまばらだった。

 期待した魚の大群の遡上を見ることはなかったが、メコンは魅力にあふれていた。

大瀑布をみて、国境部に棲んでいるカワゴンドウというイルカの群れを撮影した。宿泊した島には電気がなかったが、夜には各家で発電機が動く。水道はないから体はメコンで洗う。商店の大型の保冷ボックスには氷とビールが入っていた。メコンを挟むカンボジア側へ沈む夕日を見ながら、冷えたビールを飲んだ。

 瞬く間に10日間が過ぎて、明後日には出国となった日の朝、今までは乾ききっていた大気がしっとりとした。水面にうっすらと朝モヤが立つ。村の中が、何やらざわついていた。

魚が来ている。

サホン水路に向かった。岸辺に人があふれていた。いたるところで、人々が様々な方法で魚を獲っていた。乾き、小石があるだけだった川岸は、いまや、足の踏み場もなく小魚が干されていた。夥しい数の魚、魚。

川が生きている。メコンが私に魔法をかけた瞬間だった。(2015/4/19)

 

写真:ダム建設が始まる前、サホン分流では村人が総出で魚をとっていた。この水路はダムによって失われた。(ラオス南部で)

 

 

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