●失望の担当宣告。追い出されて会議室勤務へ。
おおよそ自治体の仕事というのは、四半期毎に開催される議会定例会への対応が念頭に置かれて企画検討される。県庁の旅費問題に関しては、つい先日の3月下旬まで開催されていた県議会で喧々諤々とやったばかりではあるが、再来月に迫る6月定例会において、ずさんな初回調査のやり直しについて、少なくとも段取りを示す必要があるのだ。
再調査は第三者委員会方式で行うことが先の議会での答弁で言質をとられており、早急に委員メンバーの選定と第一回会合の設営、全体の進め方など、対応の青写真を事務局としては作らねばならない。さらに、班の属する人事課の判断だけで決めてはいけないほどの県政を揺るがす大問題となっていたので、当然に知事までの庁内オーソライズが必要となる。知事は多忙で説明協議する時間を確保することはそう簡単ではなく、しかも何回も取れるものでもない。その他県庁内の関係部署との調整もしなくてはならない。日程を逆算すると結構タイトなのだ。
一方で、我が「行政システム改革班」は、旅費問題対応が最優先かつ最大のミッションとされていたものの、行政改革を標榜していることに伴い、こなさねばならない通常業務もあるのだという。班員を、二人居る調査員の元で便宜的に二チームに分けて、通常業務チームと特殊業務である旅費問題対応チームに各々専念させることとなった。
旅費問題の再調査は、悪しき慣習など、ある意味で県庁の裏の姿を曝け出すことになる筈だが、私は、最年少で県庁内の事情にはまだ詳しいと言えるほどでもなく荷が重いと思っていたし、建設的で前向きに行政改革関連業務に携わりたかった。また、配置されていた直上の調査員は正に初回の"ずさん"な調査を担当していたその人のわけだから、対応を刷新するという意味でも再調査を担うことはあるまい。そんなことから、私は通常業務を担当して、再調査という"汚れ仕事"は机の向かい側に居並ぶ3人が対応するものと高をくくっていた。
しかし、班を統括管理する参事からの宣告は、私の側の3人が旅費問題対応に専念するというものであった。入庁以来、"前例無き"とか"前代未聞の"事案に巻き込まれて来たものだが、そんな不運を呼び寄せる性質が自分にはあるのだろうか…。旅費問題再調査という先の見えないトンネルに入っていくようで、若くてそれなりに明るく取り組める仕事への夢を抱いていた私は、その時は本当に絶望的な感じとなり、入庁以来初めて"腐る"ような気持ちが態度に現れそうになった。
打ちひしがれる私に更に追い打ちが掛かる。旅費問題担当職員は、人事課の近くではあるが「会議室」を勤務場所にするというのだ。新設の班として最初から人事課の隅っこに押し込められて不遇感かあったのに、更に本課から追い出され、メンバーは会議用のテーブルに集って仕事をするのだという。フリーアドレスやリモート勤務の概念が一般化している今ならばそれほど抵抗感は無かったと思うのだが、当時の私のマインドは結構古典的であり、オーソドックスな環境においての係編成の机での執務でないと、何か左遷されたかのような寂しさを感じてしまったのだ。
「人事課本室」と「会議室」の二チームに物理的に分かれて仕事をするとなると、管理監督にあたる課長級職員である参事は一人で仕事が回るのか…。そんな心配は大きなお世話で、人事課と兼務となっていた人事業務のベテランが、旅費問題に関する特命参事として、我が会議室チームの親玉よろしく会議室に常駐してくれることになった。
4月中旬。横幅11メートル奥行き8メートルほどの会議室が我々旅費問題チームの執務室となった。教室型の会議であれば50人くらいは入る会議室に、調査員、主査、主事の私から成るスタッフ3人が会議用テーブルを数台組み合わせたシマに座し、管理監督にあたる特命参事1人がすこし離れて窓際に、これだけはさすがに通常の管理職用の机を配置したレイアウトで、がらーんとした物寂しい空間でのスタートだ。
特命参事は実は私の初任地の職場で御一緒だったこともあり、私は末席でありながらも割と遠慮無しに思うところを発言させてもらっていた。何故会議室に追い遣るのか、しかもこんなだだっ広い空間は無駄ではないか…などと。特命参事は穏やかな口調で応じる。「通例的な事務的手法により不適正支出の報告を求めた初回調査のようでは済まない状況になっている。これから行う再調査は、個人的な情報も含めて多くの職員から相当生々しい話も出てくることになろうし、調査の信頼性を得るためにはそうしたものを炙り出さざるを得ないと思われる。そんなやりとりをするためには徹底して情報管理できる通常の執務室とは独立したスペースが必要になるということだ」。
「さらに」と特命参事は続ける。「第三者委員会が判断する調査の方法によっては、例えば旅費支給の全件数について複数年分ともなれば、調査書類は膨大なものとなろう。選挙の開票作業のように、多くの職員を動員してしかも機密管理の下で作業を行わなくてはならない。そうなれば、このがらんとした会議室でも場合によっては狭いくらいになるかも知れないよ」。
もっともな説明に理解はしたが、未だイメージを具体化できない中で"機密"とか"膨大"とか"大人数の動員"とか、事務局に携わる上で不安が募るワードばかりが頭に残る。何か作業本格化の前にそれを少しでも楽にできるような準備などはできまいか…。私が眉間にシワを寄せて初回調査の関係資料等を眺めていると、終業時間となり、「休める今のうちに早く帰っておきな」と調査員から背中に一言を頂いて、新年度開始早々からの「会議室勤務」の初日を終えた。
(「人事課行革班4「失望の担当宣告。追い出されて会議室勤務へ」編」終わり。「人事課行革班5-1「第三者委員会発足。疑念の眼差しの中で悉皆調査を決定」編(1/2)」に続きます。)
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