学校教育こそ不登校問題の元凶である
不登校要因調査の批判的検討(不登校問題解決のために)
このレポートでは、「不登校の要因分析に関する調査研究(不登校要因調査)」の批判的検討を行う。
2025年3月31日
野 中
- はじめに(不登校要因調査とは)
「不登校要因調査」は、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(問題行動等調査)」の課題*1を解明するためである。
*1 課題とは①不登校の要因は「無気力・不安」かどうか②不登校の子どもの多くが何ら相談・指導を受けていないことなどである。
「不登校要因調査」は、①教師、または児童生徒本人から見える不登校の関連要因を明らかにする ②不登校の主たる要因が「無気力・不安」であると報告された児童生徒の詳細の把握と実態をつかむ ③学校内外の専門機関等で相談・指導を受けていないと報告された児童生徒の詳細を把握し実態をつかむ、そして、④これらの結果を不登校の予防や早期発見及び早期支援、不登校の児童生徒への支援に活かすと共に、⑤問題行動等調査における「不登校の要因」の調査項目改善の資料とすることを目的に、2023年7月から8月にかけて、吹田市(大阪)、府中市(広島)、延岡市(宮崎)、山梨県の各教育委員会の協力のもとに実施された。(2024年3月報告書を公表)
「不登校要因調査」は、教師、子ども、保護者の三者の回答を比較検討できるように、令和4年度に小学3年生から高校1年生だった児童生徒とその保護者(中学3年生を除く)、及び担任教師等を対象として行われた。また、不登校児童生徒と不登校でない児童生徒の回答が比較できる調査方法の工夫がみられた。
残念ながら、「不登校要因調査」はあくまでも不登校対策に資するものであって、不登校問題解消(不登校を無くす)のためのものではない。調査によって「問題行動等調査」や不登校対策の欠陥や問題点が明らかになっているにもかかわらず、委託の範囲内での当たり障りのない報告書に仕上がっている。2022年の有識者会議「不登校に関する調査研究協力者」で問題となった「問題行動等調査」と「不登校に関する実態調査(実態調査)」*2の二つの不登校調査結果における乖離等については全く触れていない。文科省委託事業の限界である。
*2 実態調査とは、2022年の有識者会議の資料として文科省が不登校の児童生徒を対象に実施した調査である。
しかしながら、「不登校要因調査」によって奇しくも新たな不登校要因や不登校調査の課題などが浮かび上がってきた。また、報告書は乖離の生じた背景や不登校問題解消への課題も示唆している。
このレポートでは、不登校要因調査の批判的検討を行い、不登校問題を解決への展望を探っていきたい。
興味関心のある方は、ぜひ、「不登校要因調査」報告書*3に目を通していただきたい。
*3 文科省ホームページに収録されている。
- 不登校要因調査で明らかになった不登校要因
「不登校要因調査」では、これまで文科省が行ってきた「問題行動等調査」よりも要因の選択肢を増やし、さらに複数回答を可能にしている。また、回答に際しては教師の主観的な見立てではなく、「項目内容のような情報を得ていたかどうかという事実」に基づいて記入することを求めている。その結果、「問題行動等調査」では不登校要因の5割強を占めていた子どもの「無気力・不安」は姿を消す一方、新たな不登校要因が浮かび上がってきた。
「教師の回答*4」で不登校要因として割合の大きいものから順に記す。
*4不登校要因調査では 教師、児童生徒、保護者が回答している。
- 学業の不振 41.2%
- 宿題ができていない等 40.5%
- 制服・給食・行事等への不適応 23.2%
- 不安・抑うつの訴え 19.0%
- 体調不良の訴え 18.5%
- いじめ以外の友人関係のトラブル 16.6%
- 感覚の過敏さ 14.1%
こうして見てみると「無気力・不安」が半数を占めていた「学校基本調査」・「問題行動等調査」と比べて不登校の様相が一変する。
「不登校要因調査」では、「学力の不振」と「宿題ができていない」といった勉強・学習に関わることが40%を超え、突出している。つづいて、「制服、給食、行事等への不適応」という学校のきまりに関することや「身心の不調」、「体調の不良の訴え」等が不登校の主な要因となっている。
次に、子どもたちの調査結果も見てみよう。割合の大きい要因が多数あり、少し多くなるが25%以上を示している要因を挙げる。
「児童生徒の回答」
- 不安・抑うつの訴え 76.5%
- 居眠り・朝起きられない・夜眠れない 70.3%
- 体調不良の訴え 68.9%
- 宿題ができていない 50.0%
- 学業の不振 47.0%
- ゲーム・スマホへの依存傾向 42.3%
- 感覚の過敏さ 40.3%
- 制服、給食、行事等への不適応 38.6%
- 成績の低下 37.9%
- 教職員への反抗・反発 35.9%
- 遊び・非行 30.3%
- 親子の関わり方 27.3%
- 進路に関わる不安や問題 27.0%
- いじめ被害 26.2%
子どもたちが挙げる要因は多様である。しかも、要因全25項目のうち16項目を4人に1人以上が選択している。中でも突出しているのが「不安・抑うつの訴え」、「居眠り・朝起きられない・夜眠れない」、「体調不良の訴え」で、それぞれ76.5%、70.3%、68.9%と大きい割合を示している。。次に、「宿題ができていない」、「学業の不振」が50%前後で続く。
子どもたちが挙げる要因は大きく ①心身の不調・不良、②生活リズム等に関わること、③勉強や宿題に関すること、④学校生活(きまり等)、⑤友人や先生などとの人間関係 等に括ることができる。
教師の回答と子どもの回答では、「いじめ被害」、「教職員への反抗・反発」、「教職員とのトラブル・叱責等」、「学級編成時の問題」、「感覚の過敏」、「ゲーム・スマホへの依存」、「朝起きられない・・・等」について大きな認識の差がある。「教職員への反抗・反発」は教師回答3.5%に対して児童生徒回答35.9%等である。
しかし、それぞれの要因について割合の違いがあるものの共通しているものがある。
- 学業の不振 ②「宿題ができていない」 ③ 制服・給食・行事等への不適応」 ④ 不安・抑うつの訴え
- 体調不良の訴え ⑥ 感覚の過敏さ ⑦ 感覚の過敏さ
等々である。これらは従来の不登校調査「問題行動等調査」では目立たなかった要因である。
3.不登校要因調査でも教師と子どもとの認識の乖離は存在
教師が回答者である「問題行動等調査」と子ども自身が回答者である「実態調査」との間に見られた乖離(教師と児童生徒の認識の差)は「不登校要因調査」においても見られる。
「問題行動等調査」と「実態調査」との間に乖離がみられたのは、以下のように「先生との関係」と「友人関係(いじめ・いやがらせ)」である。
【問題行動等調査】」
小学生 先生との関係1.9% 友人関係(いじめ・いやがらせ)0.3%
中学生 先生との関係0.9% 友人関係(いじめ・いやがらせ)0.2%
【実態調査】
小学生 先生との関係29.7% 友人関係(いじめ・いやがらせ)25.2%
中学生 先生との関係27.5% 友人関係(いじめ・いやがらせ)25.5%
「問題行動等調査」では1%前後でしかないが、「実態調査」では25%以上である。この認識の差は大きい。
「不登校要因調査」においては「いじめ被害」や「先生との関係」は突出してはいないが、やはり、教師と子どもとでの認識の差は大きなままで現れている。不登校要因調査の結果は次のようである。
教師回答 いじめ被害 4.2%
教職員への反抗・反発 3.5%
教職員とのトラブル・叱責等 2.0%
児童生徒回答
いじめ被害 26.2%
教職員への反抗・反発 35.9%
教職員とのトラブル・叱責等 16.7%
「不登校要因調査」では、上記以外にも「身体の不調」や「生活リズム不調」、「感覚過敏」等でも乖離がみられる。
4.乖離(認識の差)はなぜ生まれたのか
乖離はなぜ生じたのか。文科省の有識者会議「不登校に関する調査研究協力者会議」の報告書は乖離について「子どもの回答は主な要因でない可能性がある。」という説明をしている。子どもは不登校の当事者である。当事者の言っていることを有識者会議が「主な要因でない」と言っている。子どもが言っているからだろうか。不思議である。
「不登校要因調査」の報告書の考察では、次のような記述がある。
〇「いじめ被害」は、教師回答では不登校と関連がみられなかったが、児童生徒回答では関連がみられた。つまり
「いじめ被害」は、不登校のリスクを高めるものであるが、教師には見えにくい可能性がある。
〇「インターネット・ゲームの影響」「感覚過敏」「からだの不調」や「不安・抑うつ」は教師には見えにくい可能性が
ある。
〇教師には児童生徒の体調、メンタルヘルス、生活リズム不調を正確に捉えることは難しいかもしれない。
つまり、教師には子どものこと把握するのは困難であり、子どもについて正しく認識できない。だから、教師と子ども
の間に認識の差が生じていると言っているのである。
このように「不登校要因調査」は「問題行動等調査」の抱える不十分さや欠陥を明らかにした。
5.問題行動等調査の「無気力・不安」のは教師の認識不足
「不登校要因調査」は、「問題行動等調査」で「無気力・不安」であると報告された子どもの詳細を把握し実態をつかむために、「無気力・不安」と報告された子どもたちを「無気力・不安」群、そうでない子どもたちを「無気力・不安」以外の群として区別して教師回答及び児童生徒回答を比較調査している。その結果について、「不登校要因調査」報告書は次のように考察している。
〇令和4年度問題行動等調査において、主たる要因が「無気力・不安」であった群は、それ以外の群と比較して、「い
じめ被害」、「いじめ加害」、「いじめ以外の友人関係のトラブル」、「あそび、非行」、「家庭の生活環境の急激
な変化」、「親子の関わり方」、「家庭内の不和」、「学校・家庭以外でのトラブル」の割合が統計的に有意に低か
った。
〇児童生徒の回答では、全ての項目について、「無気力・不安」以外の群と「無気力・不安」群で、回答に統計的な差
は見られなかった。
では、なぜ、「問題行動等調査」では「無気力・不安」が多かったのか。それについても、長くなるが「報告書」の考察を引用しよう。
〇教師回答では、「無気力・不安」以外の群で「いじめ被害」、「いじめ加害」、「いじめ以外の友人関係のトラブ
ル」、「あそび、非行」、「家庭の生活環境の急激な変化」、「親子の関わり方」、「家庭内の不和」、「学校・家庭
以外でのトラブル」、「要対協、要保護、準要保護の対象」、「家族の介護等」の割合が統計的に有意に高く、反対に
「無気力・不安」群は、象徴的なきっかけ要因がない場合が多い可能性が示唆された。
〇問題行動等調査は、教師が不登校の児童生徒の主たる要因等について回答していることから、教師が把握可能
な要因が明らかな場合はそれに該当すると回答され、そうでない場合、すなわち不登校の要因が明確に把握され
ていない場合、「無気力・不安」を主たる要因として報告している可能性がある。
〇そもそも教師が不登校の児童生徒の要因を正確に把握することは難しく、特に不登校が学年をまたいで継続し
ている場合は把握が困難であると考えられる。
〇さらに教師回答で「不安・抑うつの訴え」に該当するものは、「無気力・不安」以外の群では19.3%、「無
気力・不安」群では18.4%と、後者の方がむしろ低かった。一方で、児童生徒回答では、「気持ちの落ち込み・
いらいら」があったと回答した者は、「無気力・不安」群もそうでない群も7割を超えている。これらの結果は、
主たる要因が「無気力・不安」であるかどうかは、抑うつ・不安といったメンタルヘルスの問題の有無によって
分けられている訳ではないことを示唆する。
子どもたちの状況に差がないにもかかわらず、「問題行動等調査」で回答する際に、はっきりした要因が分からない場合は「無気力・不安」と回答していたということである。そして、また、ここでも、不登校要因調査報告書は、教師は子どものことを十分に理解できないことがあると考察している。
6.問題行動等調査の信憑性
「不登校要因調査」は「問題行動等調査」に関する課題を解明するために実施された調査である。今回の調査で、「無気力・不安」のように教師の主観によって回答されるなど「問題行動等調査」における不確かさや不備が指摘された意義は大きい。「問題行動等調査」そのものの信憑性が問われているのである。
文科省は、かつては「学校基本調査」で、その後は「問題行動等調査」で、毎年、不登校に関する調査を行い、公表してきた。それは、とりもなおさず、不登校は子どもの「無気力・不安」が主な要因であると誤った認識を広め、定着させてきたのである。
7.相談・指導を受けない子どもたち
次に、学校内外の専門機関等の相談・指導を受けていない子どもたちについて見てみよう。学校内外の専門機関等の相談・指導を受けていない子どもは、2022年度の「問題行動等調査」では88.931人(不登校の36.3%)もいる。「不登校要因調査」では不登校の児童生徒239人の内、学校内外の専門機関等で相談・指導を受けたのは143人(59.8%)、相談・指導を受けていないのは96人(40.2%)であった。
「不登校要因調査」は、これら「相談・指導を受けた児童生徒」と「相談・指導を受けていない児童生徒」を比較調査している。その結果、「R4問題行動等調査において相談・指導を受けていないと報告された児童生徒には、受けたと報告された児童生徒と比較して、学業不振や宿題の問題が多くみられた。これらは教師回答、児童生徒回答で一致した結果であった。」と考察している。
学業不振や宿題ができないことが重要な不登校の要因であり、不登校になってからも相談や指導(支援)を受けない状況にいることが分かる。勉強が分からないこと、授業についていけないこと、宿題ができないことが子どもにとってどれほど重大なことか。それは学校に行けなくなるくらいの大変なことなのであることが分かる。
それとともに、「相談・指導を受けていない児童生徒」が4割近くもいるということは、不登校対策・不登校施策が不登校の子どもたちの心情や実状に合っていないのではないかと危惧される。
8.子どもたちと学校(先生)とのかかわりは?
では、学校(先生)は不登校の子どもたちにどのように関わっているのだろうか。子どもにとって先生とは、特に担任の先生は、親に次ぐ自分と直接かかわってくれる身近な存在であり、信頼を寄せる存在である。
学校(先生)が不登校の子どもたちの学びの保障のために行っていることは次のようなことである。
〇学校内に別室登校できる環境等の整備・・・・73.3%
〇オンラインを活用した学習支援 ・・・・30.8%
〇上記以外の学習支援(プリント配布など) ・ 71.7%
〇学校内外の教育機関の紹介 ・・・・37.4%
これらは学びの保障のための条件・環境の整備に関することである。まだまだ、十分とは言えない状況であることが分かる。
学校(先生)が不登校の子どもたちとどうかかわっているかについては、【資料2】に表れています。「教職員による本人家庭への連絡」とは電話やファックス、あるいはメールでの連絡ということだろう。あるいは、親(家庭)からの学校への出欠の連絡かも知れない。
3割の学校(先生)がほぼ毎日連絡をとっているのに対して、ほとんど連絡していない学校(先生)が14%強もいる。そして、半数の学校(先生)は一週間に1回又は複数回の連絡である。
家庭訪問して直接本人や家族に会って関わりを持っているのは、連絡に比べて格段に少ない。ほとんど家庭訪問をしていないのは41%。月に1度が27.7%、合わせると68%(3分の2)である。ほとんどの学校(先生)が、家庭訪問をしていない状態である。それほど密に子どもや家庭(親)と関わっていないことが分かる。
【資料2】学校を休んでいる時の対応について
- 教職員による本人・家庭への連絡
ほぼ毎日 30.7%
週に何度か 31.8%
週に1度程度 23.2%
月に何度か 11.9%
ほとんどない 2.4%
- 教職員による家庭訪問
ほぼ毎日 2.9%
週に何度か 6.3%
週に1度程度 22.2%
月に何度か 27.7%
ほとんどない 41.0%
9.不登校の時の過ごし方
不登校の子どもたちが、どのように毎日を過ごしているのだろうか。「不登校要因調査」は、不登校の子どもたちが、不登校時にどのような過ごし方をしているかについて調査している。
【資料3】不登校時の過ごし方
- 不登校時の外出について Aよく行っていた Bときどき行っていた Cあまり行っていない D行っていない
〇教育支援センター(適応指導教室) A 3.0% B 6.8% C 2.1% D88.1%
〇フリースクール A 3.0% B 3.4% C 2.5% D91.1%
〇学習塾 A 7.7% B 8.5% C 2.6% D81.3%
〇習いごと(運動・音楽・絵など) A14.4% B11.9% C11.9% D71.6%
〇遊びに出かける A14.4% B36.3% C17.3% D32.1%
〇その他の場所 A11.9% B26.4% C11.5% D50.2%
- 不登校時の過ごし方、学習について Aよくしていた Bときどきしていた Cあまりしていない Dしていない
〇自宅での学習 A11.5% B37.5% C20.9% D30.3%
〇自宅以外での学習 A 5.1% B 8.5% C 8.5% D 6.3%
〇SNSなど A42.0% B17.4% C 5.5% D35.2%
〇テレビ視聴 A40.7% B30.1% C10.2% D19.1%
〇インターネット・ゲーム・動画視聴等 A70.9% B19.8% C 5.1% D 4.2%
〇上記以外の趣味や遊び A38.6% B28.8% C14.0% D18.6%
〇外出 A11.4% B40.9% C27.9% D19.8%
〇友だちと一緒に遊ぶ A14.5% B24.7% C15.3% D45.5%
〇家事の手伝い A22.3% B39.1% C20.6% D18.0%
半数の子どもたちは家で勉強をしている。自宅以外で勉強している子どもも14%近くいる。学校に行かなくても、勉強しよう、勉強がしたいと思っている子どもが多くいることが分かる。しかし、不登校になって勉強から遠のいている子どもの多くいる。
多くの不登校の子どもたちは、不登校対策(学校内外の専門機関等での相談・指導を受ける事など)とは無縁の状況にある。資料から分かる通り、不登校の子どもたちは学習の機会は薄いようである。まして、学校内外の専門機関等とのかかわりは少なくて、教育支援センター(適応指導教室)やフリースクールを利用している子どもは1割にも満たない。
資料からは、不登校の子どもたちの様子が一定程度読み取れる。まったく、家から出ていない子どもが16.3%もいるなど、不登校の子どもたちの多くは家庭で過ごすことが多い。また、過ごし方も勉強、ゲームや遊び、手伝い、外出など様々な過ごし方をしていることが垣間見ることができる。そして、多くの子どもたちが友達と遊ぶことができない状況にある(6割強)ことがわかる。
次に、【資料4】を見てみよう。不登校の子どもたちが自宅での学習で使っているのは、学校の教科書やプリントが主である。50%近くの子どもたちが利用している。プリントは学校(先生)が届けてくれるものだろう。その他、市販の教材やオンラインでの勉強もしている。不登校の子どもたちの勉強への思い、要求が分かる。
【資料4】自宅での学習 (児童生徒の回答)
A よくしていた B ときどきしていた C あまりしていない D していない
〇学校の教科書やプリントなどを使っていた
A 16.5% B 29.7% C 15.7% D 38.1%
〇市販の参考書や問題集を使っていた
A 5.9% B 17.8% C 14.4% D 61.9%
〇オンライン教材やオンライン指導を使っていた
A 7.2% B 10.2% C 11.4% D 71.2%
子どもたちが勉強に使っているものは教科書であり、学習プリントである。これらは誰もが持っている身近なものである。あるいは、プリントは学校(先生)から届けられたものだろうか。また、参考書や問題集を買って勉強する子どももいる。勉強への意欲が分かる。勉強は身近なものを使ってできて、特別なものは要らないのである。
10.まとめとして
ここまで「不登校要因調査」の概要を見て来た。
今一度、不登校の「きっかけ要因」に関する「児童生徒回答」を見ておきたい。子どもたちの挙げた要因は教師回答と比べて違いが際立っている。中でも突出しているのが「不安・抑うつの訴え」、「居眠り・朝起きられない・夜眠れない」、「体調不良の訴え」で、それぞれ76.5%、70.3%、68.9%と大きい割合である。次に、「宿題ができていない」、「学業の不振」が50%前後で続く。
後の「宿題ができていない」、「学業の不振」は、勉強が分からない、授業についていけないということでもあり、子どもにとってとても辛いことである。子どもの苦痛がひしひしと伝わってくる。
先の「不安・抑うつの訴え」の抑うつとは “気分が落ち込んで何をする気になれず、日常生活に支障をきたす心の状態” をいう。「居眠り・朝起きられない・朝起きられない・夜眠れない」とは、不登校の子どもが病院で診察を受けた場合に原因がよく分からない場合、よく診断される “起立性調節障害” を思い浮かべればいい。「体調不良の訴え」も同様に学校へ行く時間になると起こる腹痛や頭痛などの体の変化である。不登校の子どもに関わったことがある人なら理解しやすいのではないか。学校へ行くことを拒む時に起こる心身の症状である。学校へ行く苦痛から自分を守るためのシグナルである。
「不安・抑うつの訴え」や「体調不良の訴え」は、学校生活から生じていることは容易に理解できるだろう。それは授業かも知れないし、先生との関係かも知れないし、友だちとの関係かも知れない。
想像してみよう子どもたちの思いを。ワクワク、いそいそ通っていた学校が、おなかが痛くなるほどの、頭が痛くなるほどの、朝起きることができないほどの苦痛の場所になっていることを。仲よく遊び、語り合えるはずの友達と顔を合わすのもが嫌なときを。やさしく寄り添ってくれるはずの先生がこわい存在であることを。そんな苦しみや悲しみを味わった末に、子どもは学校へ行く意欲を失い、不登校になっていることを。
レポートの冒頭で指摘した通り、不登校要因調査は文科省委託事業として行われ、不登校対策に資するものであって不登校問題解消(不登校を無くす)のためのものではない。しかし、報告書は随所で従前の不登校調査、不登校認識、不登校対策の不備や課題、問題点などに言及している。それは、読み手の問題意識、視点、あるいは立場によって見え方が異なるかもしれない。不登校問題の場合、当事者は子どもである。子どもの視点から考えるのが大事だろう。
「不登校要因調査」報告書から次のようなことが言える。
- 不登校の要因は学校教育、学校生活に起因している。
- 教師には子どものこと把握するのは困難であり、子どもについて正しく認識できない。
- 問題行動等調査」と「実態調査」の乖離は当然の帰結である。
- 文科省の「問題行動等調査」は杜撰な調査で、正当性を失している。
- ③を基にした不登校対策の誤りである。
- 多くの子どもは利用していない。
- 不登校の子どもたちへの学校(教師)の関わり方が希薄である。
- 不登校の子どもたちは友達と交流、活動する機会が少ない。
- 学校に行っていなくても学びや生活への意欲を持っている子どもが多くいる。
- 不登校の子どもの実情や思いに沿った対策を講じる必要がある。
- そのための丁寧な調査が必要である。
報告書は「課題が解決すれば登校できるようになる」とも言っている。個人的な課題は個々人で解決できるかもしれないが、見て来たように、不登校を引き起こす根本的な要因は学校教育、学校生活そのものにある。だとすれば、学校そのものが、課題を解決しなければならないだろう。
不登校要因調査では、不思議な現象も起こっている。調査が対象とした児童生徒が不登校と回答したのは695人だった。この内、令和4年度の問題行動等調査において教師が不登校と報告していたのは239人である。実に456人の差がある。教師が不登校と認識し、報告した数よりも自分自身が不登校だと認識している子どもの数の方が倍以上も多いのである。
また、「不登校要因調査」では、不登校の子どもも不登校でない子どもも割合の大小はあるものの同じ悩みや課題を抱えていることが分かる。いつ、だれが、不登校になっても不思議でない状況が蔓延しているのである。誰もが安心して通える学校を作ることは、不登校の子どもだけでなくすべての子どもにとっての課題である。
不登校の要因が明らかにならなければ有効な対策は考えられない。今回の調査を機に、不登校の子どもたち(経験者も含めて)の声を聞き、不登校問題の真実を明らかにするための調査を行うべきであろう。そして、不登校を生み出さない、どの子もいそいそと通える学校に作り直す時が来ているのではないだろうか。
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