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子どもを見捨てる国  不登校政策批判

2024-02-05 16:14:23 | 考察

子どもを見捨てる国 不登校政策批判
~文科省通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」の批判的検討~
                                   野中 博善

Ⅰ.はじめに(本レポートの問題意識) 

文科省は、2019 年10月25日、初等中等教育局長名で通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」を出した。
文科省は通知を「これまでの不登校施策に関する通知について改めて整理し、まとめたもの」として、従前の通知などを廃止した。ゆえに、この通知が、文科省における最新の不登校施策である。

この通知の最大の特徴は、不登校問題の本質から目を背け、公教育の責務を放棄し、責任を親と子に押し付け、不登校の子どもを見捨てたことである。そして、不登校の状況を改善することもできず、不登校者数を減らすどころか増加を許
してきた従来の施策をそのまま踏襲し、さらに、施行以来不登校者増に拍車をかけてきた「教育機会確保法」のいう「多様な教育機会の確保」を新たな不登校支援の柱に据えたことである。

本レポートでは、通知(文科省の不登校施策)の問題点を明らかにするとともに、不登校問題の本質と課題に迫り、不登校問題解決への方向性を探っていきたい。


Ⅱ.不登校問題の現状 

2019年10月、通知が出た時、多くの人々やメディアは、通知をおおむね好意的、肯定的に受け止め、評価したようである。それは、通知が不登校支援の視点を「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく」としたことにあるようだ。これまで、「登校刺激」や「登校圧力」が多くの不登校の子どもや親を苦しめ、追い詰めていたことを思えば、当然のことである。
前回の通知「今後の不登校への対応の在り方について」(2003年)による不登校支援が行われてきた期間(2003年~2019年)は、不登校者数は、一時的な減少の後、増加・高止まり傾向を見せ、「教育機会確保法」が施行された2017年には過去最多となる14万人超を数え、2018年16万人超、2019年18万人超と過去最多を更新した。
2019年度の不登校者数は、小学生53,350人 中学生127,922人 合計181,272人であった。
この時、文科省は、「教育機会確保法」の趣旨が受け止められたからであろう、と不登校者増の要因を指摘した。京都府教育委員会も、文科省と同様に「『教育機会確保法』の趣旨の浸透の側面も考えられ、」とコメントした。また、京都市教育委員会は、「不登校増加の明確な答えはないが、学校を休むことへのハードルが下がってきた印象はある」と言っている。市教委が一因に挙げるのは、教育機会確保法の影響だ。法の趣旨が浸透し、無理してでも登
校させようとする保護者や教員が減ったとみている。さらに、京都府教育委員会は、不登校増への対応に関して、「各市町に設置されている教育支援センターなどで教育の保障もしていく。」という対応策を示した。
文科省をはじめ教育行政は、不登校者増を容認あるいは肯定的に評価したと言える。これが不登校問題をめぐる現状である。

Ⅲ.通知が出るまでの経緯 

不登校者数さへ減らすことができなかった従来の施策と不登校者数を増加させた「多様な教育機会の確保」を2本柱にした通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」が、どのようにして出てきたのか、出来上がったのか、通知が出るまでの経緯を踏まえ考えてみる。


2014年  6月 3日  フリースクール等議員連盟設立
       7月 5日   教育再生実行会議「第5次提言」
2015年  1月27日 「フリースクール等の関する検討会議」                                                                        「不登校に関する調査研究協力者会議」 の設置
2016年  7月29日 「不登校に関する調査研究協力者会議」報告
              12月14日   教育機会確保法公布
2017年  2月13日 「フリースクール等に関する検討会議」報告
       2月14日   教育機会確保法施行                                                                                                                                                 3月31日教育機会確保に関する基本指針(文科省)                                                                                                        
2019年  6月21日 「合同会議」議論のとりまとめ
2019年 10月25日 「不登校児童生徒への支援の在り方(通知)」

通知は、上記のような過程を経て出された。
前回の不登校施策に関する通知「不登校への対応の在り方について」(2003年)は、2002年に設置された「不登校問題に関する調査研究協力者会議」の報告を受けて出された。しかし、今回の通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」は、上記のような複雑な経緯の末に出てきた。
はじまりは、教育再生実行会議の第5次提言である。


「国は、小学校及び中学校における不登校の児童生徒が学んでいるフリースクールや、国際化に対応した教育を行うインターナショナルスクールなどの学校外の教育機会の現状を踏まえ、その位置付けについて、就学義務や公費負担の在り方を含め検討する。」

提言は、二つの課題を具体的に示している。
① 学校外の教育機会(フリースクールやインターナショナルスクール)の認定
② 学校外の教育機会への公費負担
である。この課題を実現するために、行政府と立法府が同時に動き出した。
文科省は、「不登校に関する調査研究協力者会議」と「フリースクール等に関する検討会議」の2つの会議を設置した。
立法府では、超党派の議員による「フリースクール等議員連盟」が結成され(2014年)、議員立法として「フリースクール法案」の準備が始まった。
教育再生実行会議の提言は、2017年の「教育機会確保法」成立によって具現化される。
「教育機会確保法」の準備、成立に合わせて、当時の首相が、最大手のスリースクールの視察を行い、国会の施政方針演説で、「フリースクールの子どもたちへの支援を引き続き行います。いじめや発達障害などさまざまな事情で不登校となっている子どもたちが、自信をもって学んでいけるよう、環境を整えていきます。」(2018年)と述べるほど、政権の大きなプロジェクトとして取り組まれていたことが分かる。
しかし、政権肩入れの施策の立法化といっても、事は容易には進まなかった。「フリースクール法案」は、議論、検討の過程で、「不登校を助長する」、「安易に学校外に子どもを任せる無責任な態勢を生みかねない」という慎重論が根強く、課題であった「フリースクール等の認定、公的な経済的支援」等は法案に組み込まれなかった。つまり、骨抜きにされたのである。結果として、法案を支持・推進した人々からも「単なる不登校支援法」と揶揄されるほどの内容となってしまった。(しかも、批判した側からは、不登校問題解決のための方策は出されていない。)
文科省の設置した2つの会議は、当初は、2017年3月末までに「報告」がまとめられる予定であったが、「教育機会確保法」の影響を受けて、「不登校に関する調査研究協力者会議」報告は約4か月、「フリースクール等に関する検討会議」報告は約11か月遅れて出されることとなった。内容も当然、「フリースクール等の認定、公的な経済的支援」には触れず、「フリースクール等に関する検討会議」報告も、「単なる不登校支援」報告となった。
しかし、文科省は、「基本指針」の中に「法の実施状況の検討」「民間機関との協力」などを盛り込み、「多様な教育機会確保」を生き永らえさせた。そして、実施状況の検討のため「合同会議」の継続し、通知の中に「多様な教育機会の確保」位置づけることに成功した。
こうして、「教育機会確保法」とその「基本指針」を受けて作られた通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」の中に、「従来の不登校支援」と「多様な教育機会の確保」という2本柱の不登校施策が位置付けられるようになった。
しかし、後で見るように、「学校外の多様な教育機会」の内実は、フリースクールやインターナショナルスクールのような民間施設・機関の存在感は薄く、公的な機関である「教育支援センター」に重点が置かれる始末である。


Ⅳ.変えられた不登校の定義・認識 


提言から通知までの間に、不登校の定義や認識に変質が見られる。
これまで、文科省は不登校を「連続又は断続して年間 30 日以上欠席し、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く)。」と定義してきた。
しかし、「教育機会確保法」は、「不登校児童生徒」を「相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的負担その他の事由のために就学が困難であるとして文部科学大臣が定める状況にあると認められるものをいう。」と定義した。
これまでは不登校を広義に捉えていたものを、「学校における集団の生活に関する心理的負担その他の事由」という限定的なとらえ方に変えた。
また、これまで、「不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子にも起こりうる」ものとして捉えていた不登校に対する認識が、「基本指針」では、「不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こりうるもの」という条件付きの認識に変わっている。
「取り巻く環境」とは何か。「取り巻く」とは、「身近な、あるいは、周辺の」である。「環境」とは、「周囲の状態や世界」をいう。とすると、「取り巻く環境」とは、「その人の周辺の状態(住む場所とか人付き合いなど)」ということになる。
つまり、「その子どもの周辺の状態によっては、不登校になりうる。」ということらしい。言い方を変えてみると、「不登校になるのは、その子、あるいは、その子の周辺に問題(課題)がある。」ということになる。

さらに通知は、次のよう留意点をわざわざ付け加えた。
「児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する」
しかし、このようなことは、不登校の子どもに限らず、多くの子どもたちが多かれ少なかれ経験していることであり、そのような過程を経験しながら成長していくものではないか。いわば、誰にでも当てはまることである。
また、敢えて不登校の子どもに関連して言うならば、これらのことは、多くの不登校の子どもや親が、不登校と向き合い、不登校を受け入れ、そして、乗り越えるために、自らに言い聞かせ、諭してきたものである。
子どもたちが休養を取り、エネルギーを蓄えなければ、学校に登校することができない。また、学校に行けない自分を責め、学校に行けない自分を見つめ直さなければ、学校へ行けない現実がある。学校へ行かなければ勉強が遅れ、高校に進学する時にもリスクがあると分かりながら、不利益が分かっていても学校に行けない。こんな現実があることを分かった上で、留意点として指摘している。

憲法が保障する子どもの教育権を保障すべき教育行政を司る文部科学省ならば、不登校の意味付けやリスクの指摘をする前に、不登校の子どもや親がこのような状態にあるという現実を変え、不登校の子どもをなくすための方途を示さなければならないのではないか。
しかし、以上のような不登校の定義、認識の下で、通知「不登校児童生徒への支援の在り方」が出された。当然、このような認識が、不登校施策(支援の在り方)に反映されているだろう。


Ⅴ.通知における不登校支援 

今回の通知は、「これまでの不登校施策を整理し、まとめたもの」と位置づけている。その言葉の通り、通知が示している不登校支援は、そのほとんどが従来行われてきたものである。中でも次の3点が中心になっている。
① 「児童生徒理解・教育支援シート」を活用したした組織的・計画的支援
② 多様な教育機会の確保
③ 教育支援センターを中核とした支援(訪問型支援など)
である。


①の「児童生徒理解・支援シート」を活用した組織的・計画的支援は、子どもたちが不登校になったきっかけや要因を把握し、子どもたちの状態に応じて支援策を策定し組織的・計画的な支援を行うということで、全ての不登校の子どもたちを対象にした取り組みである。


②の「多様な教育機会の確保」に関して、通知は、「児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICT を活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級での受け入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと。」と記している。本人が希望すれば、多様な教育の機会を活用できるとするものである。


③の教育支援センターを中核とした支援というのは、不登校の子どもの学校復帰を目的に相談や学習指導をしてきたこれまでの適応指導教室としての活動に加えて、教育支援センターのスタッフが不登校の子どもやその家庭を訪問し、相談や支援(訪問型支援)を行うというものである。

つまり、“「児童生徒理解・支援シート」を活用した組織的・計画的支援と学校外の施設や民間団体等の「多様な教育機会の確保」を中心とした不登校支援を行っていく” という方向を打ち出したのが、今回の通知の最大の特徴である。


Ⅵ.通知の不登校支援で不登校問題に対応できるのか(支援策の妥当性) 


では、これらの支援策は有効なのか。不登校の子どもたちを減らすことはできるのか。不登校問題を解決できるのか。2020 生徒指導調査から考えてみたい。
不登校者数は、小学生 53,350 人、中学生 127,922 人、合計 181,272 人である。 
 
1.支援施設・機関の設置及び利用状況 
支援策の妥当性を検証するためにも、2020年生徒指導調査などをもとに施策の実施状況を以下のように、まとめてみた。
(1)施設・機関等の設置状況

〇スクールカウンセラー
生徒の心に寄り添い、教員や保護者と一緒になって問題を解決する心理専門の仕事を
する。文科省は、全小中学校への配置を目指している
2019年、8,782人


〇スクールソーシャルワーカー
スクールソーシャルワーカーとは、児童生徒の問題に対し、保護者や教員と協力しながら問題を解決する専門の仕事をする。文科省は、全中学校への配置を目指している。
2019年 2,041人


○教育支援センター(適応指導教室)
自治体の教育委員会が、不登校の子どもの学校復帰のために指導する場所として、自治体の教育委員会が設置しているもので、不登校の子どもの受け皿として、学校と直結した公的な施設である。
全国に1,527箇所 (2020年生徒指導調査)


○不登校特例校
 不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校
 文科省指定校 指定校数 17 校 (内、公立学校 8 校、私立学校 9 校)


○夜間中学
「教育機会確保法」第14条において,学齢期を経過した者であって小中学校等における就学の機会が提供されなかった者の中に,就学機会の提供を希望する者が多く存在することを踏まえ,全ての地方公共団体(都道府県)に、1校、夜間中学における就学機会の提供等の措置を講ずることが義務付けられた。現在では、義務教育未修了の学齢超過者や、外国人等で日本語の学習を希望する者を中心に教育を行っている。
全国9都府県、27市区に33校(2020年生徒指導調査)
2020 年 7 月現在 10 都府県に計 34 校設置(文科省)


○民間施設・団体(フリースクール)
 一般に、不登校の子どもに対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行って
いる民間の施設を言う。その規模や活動内容は多種多様であり、民間の自主的・主体
性のもとに設置・運営されている。
 2016 年調査で、474(実質 319)の団体がある。

(2)施設・機関の利用状況
《学校内の施設の利用状況》


〇養護教諭による指導
 小学生11,613人 中学生24,347人 合計35,960人


〇スクールカウンセラー、相談員による指導
 小学生21,652人 中学生45,490人 合計67,142人


〇学校内の施設の利用者の実人数
 小学生27,371人 中学生58,498人 合計85,868人(47.4%)


《学校外の施設の利用状況》


〇学校内外の機関・施設で相談・指導を受けた児童生徒は、
小学生 40.217 人(75.4%)、中学生 87.462 人)(68.4%)、合計 127.679 人(70%)


〇上記の内、学校外の機関・施設で相談・指導を受けた児童生徒は、
 小学生 21,885 人(41%)、中学生 42,992 人(33,6%)、合計 64,877 人(35,8%)


〇「指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒」の数は、
小学生 12,153 人(22.8%)、中学生 29,192(22.8%)人、合計 41,345 人(22.8%)


〇教育支援センターの利用者は、
小学生 5,550 人(10.4%)、中学生 16,145(12.6%)、合計 21,695 人(12%)


〇民間団体・民間施設(フリースクール等)の利用者は、
小学生 2,357 人(4.4%)、中学生 3,971 人(3.1%)、合計 6.328 人(3.5%)


〇ICT を活用した学習活動を行った児童生徒(出席扱いとなった者)
 小学生 174 人(0.3%)、中学生 434 人(0.34%)、合計 608 人(0.34%)


(3)相談・指導の結果
〇指導の結果登校できるようになった児童生徒
 小学生 12,153 人(22.8%)、中学生 29,192 人(22.8%)、合計 41,345 人(22.8%)


〇不登校が前年度から継続している児童生徒
 小学生 21,857 人(43.2%)、中学生 69,846 人(54.6%)、合計 91,703 人(50.6%)


〇相談・指導を受けていない児童生徒
 小学生 13.133 人(24.6%)、中学生 40.460 人(31.6%)、合計 53.593 人(29.6%)


2.支援施策の妥当性、有効性 

1)「児童生徒理解・教育支援シート」を活用したした組織的・計画的支援について
不登校施策として、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置、教育支援センターの設置等様々な施策が行われてきたが、不登校の子どもへの家庭訪問や電話連絡などを日常行っている学級担任の役割は大きい。

「不登校に関する調査研究協力者会議」の報告は、「指導の結果登校するようになった児童生徒に特に効果があった取組」として、「家庭訪問を行い、学業や生活面での相談に乗るなど様々な指導・援助を行った」、「登校を促すため、電話をかけたり迎えに行ったりなどした」など家庭訪問や家庭への連絡の不登校支援としての重要な役割を指摘している。
実際に、支援を受けて「登校する又はできるようになった児童生徒」は、小学生 12,153人(22.8%)、中学生 29,192(22.8%)人、合計 41,345 人(22.8%)もいる。
通知は、個々の子どもについて関係者間の共通理解を図り、組織的・計画的支援を行う手立てとして、「児童生徒理解支援ノート」の活用を重視している。
親や担任教師など子どもに関わる人たちが、子どもに寄り添い、共通理解を図りながら、状況に応じた支援をしていくことは重要である。
また、不登校の多くの子どもたち(70%)が、学校内外の施設や機関で相談・指導を受けている。しかし、80%近くの子どもたちが、次の年も不登校のまま(不登校の継続)である。(この子どもたちにも学級担任による家庭訪問や連絡が、日常、行われていると思えるのだが。)さらに、小学生 13.133 人(24.6%)、中学生 40.460 人(31.6%)、合計 53.593 人(29.6%)の子どもたちが、学校内外の施設や機関での相談・指導を全く受けていないことが生徒指導調査から明らかである。
通知が位置付ける「児童生徒理解支援ノート」の活用による組織的・計画的支援は、必要かつ有効な手段であると思えるが、支援の届かない子どもも多く存在し、実質的な効果を上げ切れていないのが実情ではないか。


2)多様な教育機会の確保について
次に、「多様な教育機会の確保」について見てみる。
「多様な教育機会の確保」として挙げているのは、教育支援センター、不登校特例校、フリースクールなどの民間施設、ICT を活用した学習支援などであり、夜間中学も含めている。これらは、実際に不登校の子どもたちが利用しているものである。(実際に利用しているのであるから、有効なのだろう。「多様な教育機会」とは何か。「多様な教育機会」としての「学校外の施設・機関」や「民間団体・民間施設」とは、いったいどういう施設なのか。
「学校外の施設・機関」とは、フリースクールを除いては、公的な施設・学校である。また、相談・指導を行っている学校外の施設・機関の内、学習指導を行っているのは、教育支援センターと民間団体・民間施設(フリースクール)で、その他の施設・機関は学習指導を行っていない。
「学校外の施設や機関」が、「教育再生実行会議の提言」や「教育機会確保法」が目指していた「多様な教育機会(フリースクールやインターナショナルスクール等)」とは同じではないことを指摘しておきたい。

そして、学校外の施設・機関の利用状況を見ると、「教育支援センター」がほとんどを占めている。このことから、学校設置者である自治体が、公的な機関(教育支援センター)を作り、学校(公的な機関)へ行けない子どもの受皿としての役目を果たしているのが実態である。事実、教育支援センター(適応指導教室)は、不登校の子どもの学校復帰のために指導する場所として設置されたもので、学校と直結した公的な施設である。
一方、施設・機関の設置、開設状況を見ると、公的な機関である「教育支援センター」の設置は多くの自治体で進んでいるが、その他の施設・機関は、数量的、地理的、経済的に考えて、不登校の子どもたちが利用できる状況にあるとは、とても言うことできない。
このような実態を、「多様な教育機会の保障」として位置付けるのは本来の趣旨とは違うのではないか。また、「学校に登校するという結果のみを目標にするのではなく」という不登校支援の視点とは相反する施設ではないか。
そういう視点で見ると、本来の意味での「多様な教育機会」の利用者は、民間施設・民間団体の相談・指導を受けている子どもたち5,174人で、約4%であるといえる。
多くの不登校の子どもたちは、多様な教育機会の外側にいるのが実態である。というよりも、そもそも「多様な教育機会」そのものが、不登校の子どもたちが利用できるほど量的にも質的にも整っていないのである。
このように見てくると、通知における不登校施策(不登校支援)は、不登校問題の解決に有効とは言えない。
なぜ、このような状況になっているのかと言えば、不登校問題の実態、本質が理解できていないからではないか。そこで、なぜ、子どもたちは学校に行けないのか、不登校問題の実態、本質について考えていきたい。

3)教育支援センターを中核とした支援(訪問型支援など)について
不登校の子どもたちの多くが、学校以外の施設の中で教育支援センター(適応指導教室)を利用している。学校へ行けない子どもたちが利用できる公的な機関・施設で、一番身近にあるのが教育支援センターである。教育支援センターを利用するには学校の認定と紹介を要する。指導するのは学校の先生か退職教員であり、利用すれば出席扱いになり、子どもや親にとっては学校と同じような存在であり、利用に当たっての抵抗感も少ないと言える。
この通知によって、その教育支援センターが訪問型支援を行ってもよいことになった。
早速実施しているところもある。どのような効果があるかは未知数である。さらに、学校を補完していくことになるようである。


Ⅶ.不登校の要因は何か(子どもたちはなぜ学校に行けないのか) 

以上、不登校施策の3つの柱の有効性について見てきたが、通知における不登校施策(不登校支援)は、不登校問題の解決に有効とは言えない。

不登校の子どもたちを生み出さない、不登校の子どもを減らす、不登校問題を解決するということからは、程遠いように思える。不登校の子どもをどう扱う(不登校の子どもにどう対応する)といったその場しのぎの対症療法的な対応策のようである。なぜ、このような状況になっているのかと言えば、不登校問題の実態、本質が理解できていないからではないか。そこで、なぜ、子どもたちは学校に行けないのか、不登校問題の実態、本質について考えていきたい。


2020年度「生徒指導調査」によると「不登校の要因・きっかけ・継続の理由及び背景」は次のようになる。
1)不登校の要因・きっかけ・継続の理由及び背景 (生徒指導調査より)
●2019年 不登校者数
 小学校53,350人 中学校127,922人 合計 181,272人
●不登校の要因
*主たる要因      【小学校】  【中学校】
 学校に係る状況    20.3%   34.4%
 家庭に係る状況    22 %       12.3%
 本人に係る状況    51.1%   48.1%
 その他         5.6%    5.4%


不登校の要因で割合の大きいものを揚げると次のようになる。
 *学校に係る状況    【小学校】  【中学校】
 いじめを除く友人関係 10.2%   17.2%
 学業不振        4.3%    8.5%
 教職員との関係             2.4%
 進級時の不適応             3.9%
 *家庭に係る状況
 親子の関わり方    16.7%    7.5%
 生活環境の変化     3.6%    2.9%
 *本人に係る状況
 無気力・不安     41.1%   39.5%
 生活の乱れ      10.3%    8.6%

最も多い不登校の要因は、「無気力・不安」である。小学生の21,927人が「無気力・不安」から不登校になっている。中学生では、50,471人である。
次に多いのは、小学生では「親子の関わり方」で、8,898人である。中学生では「いじめを除く友人関係」が21,975人となっている。

小学生、中学生とも、3番目の要因は、「生活の乱れ」で、4番目が「学業不振」である。
よく見てみると、「無気力・不安」と「生活の乱れ」で、小中学生とも半数を占めている。88,839人の子どもが、「無気力・不安」や「生活の乱れ」になるのは、なぜなんだろう。
これらは、毎年文科省が行っている生徒指導調査によるが、「生徒指導調査」は、教師が判断し、記入を行っている。つまり、教師から見た不登校の要因である。


2)もう1つの不登校のきっかけ【資料2 参照】(不登校に関する実態調査より)
次に、不登校体験者に対する調査「不登校に関する実態調査」を見てみる。
この調査は、2014年に、2006年度に不登校だった中学3年生を対象に行われたものである。(以前にも2001年にも行われている。)
*回答は、思い当たるものすべてに〇をつけている。
●(割合の大きい項目) 【2014年】   【2001年】
友人との関係       53.7%     44.5%
生活リズムの乱れ     34.7%     ****
勉強が分からない     31.6%               27.6%
先生との関係       26.6%     20.8%
 部活での友人関係など     23.1%       16.5%
●不登校継続の理由
(割合の大きい項目)
 無気力で         44.4%
 不安           43.7%
 友人との関係       41.4%
 生活リズムの乱れ             34.1%
 勉強についていけない   27.4%
 行かないことを悪く思わなかった 25.6%


不登校継続の理由は、不登校の時期の子どもたちの状況(生活や心理状況)をよく表している。
実態調査と生徒指導調査を比べて、大きな隔たりが見られるのは、「教師との関係」である。生徒指導調査では、教師との関係が不登校の要因となっているのは2%ほどであるが、実態調査では 20%強を占める。このことの意味は大きい。先生の立場からは、よもや、自分が不登校の要因となっているとは思ってもみないが、子どもからすれば、学校へ行きづらくしているのが、実は、先生なんだ、ということである。
教員は、子どもにとって、学校そのものである。また、教員は、授業や指導を通して、学校教育そのものを体現している存在である。まさに、不登校を生み出しているのは、学校そのものということである。
生徒指導調査と実態調査では、調査手法が異なる。生徒指導調査は、回答者は教師であり、主な要因も1人当たり1項目である。実態調査は、体験者本人が回答しており、要因については思い当たる項目をすべて回答している。生徒指導調査は教師の視点から、実態調査は当事者の視点からの調査と言える。
ただ、実態調査は、回答者数が少ないことは考慮する必要があるが、不登校の要因・背景を考える上で貴重な資料と言える。
不登校の背景を考える上で参考になる調査として、日本財団による調査がある。「不登校傾向にある子どもの実態調査」である。この調査で、学校に行きたくない理由で、「つかれる」「朝、起きられない」という理由が、上位2位を占めるが、次に、「授業がよくわからない。ついていけない」「友達とうまくいかない」「学校は居心地が悪い」が続く。不
登校の背景を考える上で興味深い調査である。


Ⅷ.不登校問題の本質 

(1)Ⅶ「不登校の要因は何か(子どもたちはなぜ学校に行けないのか)」から分かること
生徒指導調査は毎年行われている調査である。調査が始まって以来、毎回、同じ傾向が続いている。また、「実態調査」はこれまで 2001 年と 2014 年に 2 回行われた。これまた、同じ傾向を示している。今回、このレポートを書くに当たっては、新たに日本財団による「調査」が加わった。
これらの調査の結果から、子どもたちが不登校(学校に行けなくなる)になる背景が浮かび上がってくる。一人一人の子どもを見ていると、その子が学校に行けなくなるのには、その子なりの原因や理由があるのだろう。また、小学校では125人に 1 人が、中学校では 26人に 1 人が不登校になっているので、小学校では一つの学校に数人、中学校では 1 学級に
1,2 人の不登校の子どもがいることになる。そうした場合、不登校は、個々の子どもに起こっている事柄と捉えられる。不登校が一般化していないからである。
しかし、全国的な調査や大きな範囲で不登校を捉える場合、不登校の傾向が見えてくる。
「なぜ、子どもたちが学校に行けないのか。」「なぜ学校に行かないのか。」という不登校の背景や原因が見えてくる。

3 つの調査を通して、
①無気力・不安 ②勉強が分からない、授業についていけない ③友だち関係のこじれが、子どもたちが不登校になる3大要因であることが分かる。
不登校問題とは何か、不登校問題の本質は何か、不登校はなぜ起こるか、を理解することは、そんなに難しいことではない。調査から聞こえる子どもたちの声に耳を傾ければ、自ずから明らかになってくる。ここから、不登校問題を理解することが始まるのではないか。


(2)不登校の 3 つの要因について
1)「無気力・不安」について
「無気力・不安」と「生活の乱れ」で 50%を占める。「生徒指導調査」では、不登校の大きな要因となっている。しかし、「実態調査」では、不登校継続の理由に「無気力」・「不安」がともに 44%前後を占めているが、不登校継続の要因であって、不登校の要因としては挙がっていない。不登校が長引くことによって、気持ちが落ち込み、意欲が弱くなることを示しているのではないかと思われる。一方、「生徒指導調査」の「無気力・不安」は、学校へ行きたくないという思いが、やる気のなさや気怠さとして教師には映っているのではないだろうか。


2)「学業不振」について
子どもたちは、勉強が分からない、授業についていけない、ということを訴えている。
「生徒指導調査」では、「学業不振」は、小学生 4.3%、中学生 8.5%である。一方、「実態調査」では、「勉強が分からない」は、31.6%(2014 年)と結構大きな比重を占めている。
また、日本財団の調査によっても、「勉強が分からない」、「授業についていけない」は、学校へ行きたくない大きな理由となっている。
このことは、とても重要だ。学校の役割の重要な部分に異議を申し立てている。


3)「友達関係」について
友達関係が不登校の重要な要因になっている。
「生徒指導調査」では、不登校の要因としての「いじめ」は、小中学生合わせて 563 人で、割合として 0.3%である。「いじめ」が社会問題として大きくクローズアップされているが、不登校の要因としてはわずか 0.3%である。
しかし、不登校の要因としての「友達関係」は、「生徒指導調査」でも「実態調査」でも、一番大きな要因となっている。さらに、「実態調査」の不登校継続の理由としても「友達関係」は 41.4%と大きな比重を占めている。
学校は、子どもの社会性を育てる場でもある。それは、多くの場合、子ども同士の関係、活動を通して形成されていく。「友達関係」が不登校の大きな要因となっていることは、学校が、その本来の機能・役割を十分に果たせていないことを意味し、重大な問題である。
人として、もっとも活動的であり、もっとも伸び盛りであり、学ぶ意欲の旺盛な時期に、「無気力・不安」「勉強が分からない」「友達関係がうまく築けない」によって、「学校へ行けない」「学校へ行かない」状態が生まれている。18 万人もの小学生、中学生が。
これが、不登校問題の実態であり、本質である。

 
Ⅸ.不登校問題の背景 

なぜ、このような状態が生まれるのか。
不登校問題を考える上で興味深い現象がある。不登校者数が増え続け、13 万人を超えはじめた頃、不登校者数が僅かばかりだが減少し始めたことがあった。2001 年にこれまでの最多数(13 万 4 千人)を記録した後、2002 年から 2005 年にかけての 4 年間は減少傾向を示した。
この時期は、1999 年に学習指導要領の改訂があり、いわゆる「ゆとり教育」が始まった時期である。2002 年には「不登校問題に関する調査研究協力者会議」が発足し、2003 年に報告がまとめられた。文科省は、通知「今後の不登校への対応の在り方について」を出した。
2003 年通知は、不登校は誰にでも起こりうる。過度な登校刺激はやめ、子どもに寄り添った支援の必要を提起した。不登校への対応の大きな転換であった。また、「ゆとり教育」は、学習内容を減らし、簡素化し、学習における過重な負担を減らす試みであった。
それは、子どもたちの学習への負担を減らし、登校を無理強いせず、子どもの気持ちに寄り添おうとした時期といえる。
その後、学力低下を懸念した「ゆとり教育」批判が学校内外から展開され、大きく修正されることとなった。併せて、不登校をめぐっても、「不登校ゼロ宣言」など、それまでの登校刺激とは違った圧力が起こり始めた。
皮肉なことに、2006 年、不登校者数は再び増加傾向に転じ、その後、数年、12 万人前後の高止まり状態が続き、2013年から増加が続き、2016 年からの爆発的増加へとなっていく。(2019 年、18 万人超)
学習指導要領の改訂のたびに不登校者数が増加しているとの指摘もある。
学習指導要領をめぐっては、次のような発言や見解がある。
1980 年代のはじめ、学習指導要領の作成にかかわった国立教育政策研究所の研究員が、「指導要領は、3割の子どもが理解できればいい内容になっている。」と発言し、事実、同時期の学校現場からは、「学習内容を理解できているのは 3 割だけだ。」という訴えがあった。
そのころ、子どもたちの生活にも大きな変化が起こっている。
地域での集団遊びなどがなくなりつつあり、子どもたちの人間関係の希薄さを危惧し、学校では、「縦割り集団」あるいは「異年齢集団」活動が取り組まれた。
文科省も、子どもたちの変化を認識していた。「生活科」や「総合的な学習の時間」が作られ、「学校週 5 日制」も始まった。これらは、「ゆとり教育」の一環であり、子どもの生活の変化を如実に反映していた。
しかし、「ゆとり教育」には、もう一つの面があった。「エリート教育」の推進である。「『エリート教育』と声高に言うと批判が強いので『ゆとり教育』と呼ぶようにした。」と、当時の教育課程審議会の会長だった三浦朱門氏は言いのけた。そして、「できん者は、できんままで結構。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることばかりに注いできた労力を、できるものを限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけ養っておいてもらえればいいんですよ。」とも。
また、生徒指導に関して、文科省は、2006 年に「規範意識の醸成」という通達を出した。
その中で、「ゼロトレランス」という生徒指導の在り方を勧めている。「ゼロトレランス」とは、寛容度ゼロと言うことを意味しています。つまり、規律を乱す者には、厳罰主義で臨むことによって、規範意識を身につけさせる。ということです。
ある中学校で、夏の暑い日に、授業中、持参した水を飲んだ生徒がいた。放課後に、学年200 人ほどの生徒が体育館に集められ、学年集会が始まった。その場で、水を飲んだ生徒はみんなの前で叱責された後、全生徒に向けて謝罪させられた。これは、実話である。
このような視点が、学習面でも生活面でも、国の教育政策では一貫している。それを体現しているのは、学校であり、先生たちである。
国連の子どもの権利委員会が日本政府に対して、次のように勧告している。

※ 1998 年 6 月
「締約国における高度に競争的な教育制度並びにそれが児童の身体的及び精神的健康に与える否定的な影響に鑑み、委員会は、締約国が、条約第 3 条、第 6 条、第 12 条、第 29 条及び第 31 条に照らし、過度なストレス及び登校拒否を予防し、これと闘うために適切な措置をとることを勧告する。」

※ 2004 年 6 月
「本委員会は以下のことを懸念する。a) 教育制度の過度に競争的な性格が子どもの肉体的および精神的な健康に否定的な影響を及ぼし、かつ、子どもが最大限可能なまでに発達することを妨げていること。」


※ 2010 年 6 月
「本委員会は、また、高度に競争主義的な学校環境が、就学年齢にある子どもの間のいじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退及び自殺に寄与しえることを懸念する。」


※ 2019 年 3 月
「委員会は、前回の勧告を想起し、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。(a)子どもが、社会の競争的性質によって子ども時代及び発達を阻害されることなく子ども時代を享受できることを確保するための措置をとること。」「ストレスの多い学校環境(過度に競争的なシステムを含む)から子どもを開放するための措置を強化すること。」


2017 年、学習指導要領が改訂された。「生きる力」をテーマとし、小学校でプログラミング科目が追加され、英語教育が必須化になる。また、「アクティブラーニング」の視点からの授業改善を提唱している。さらに、小学校における「35 人学級」が導入される。
しかし、新学習指導要領には、「義務教育を全ての児童生徒等に実質的に保障するための方策」として「通知」で示された不登校施策がそのままコピーされているだけである。

Ⅹ.不登校問題解決への道筋 

不登校問題の実態・本質について考えてきた。本レポートで見てきたように、国(文科省)には、不登校問題を根本的に解決していこうという姿勢も方策もない。それどころか、不登校問題の背景に、日本の学校教育制度そのものの課題や問題が見えてくる。
「通知」は、不登校の子どもたちを、「既存の学校になじめない児童生徒」と表現したが、既存の学校にこそ、不登校を生み出す根本的な要因ではないか。
「不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こりうるもの」という「基本指針」が示した取り巻く環境とは、まさに、日本の学校教育制度そのものではないか。
日本の学校教育制度が不登校を生み出している。変えるべきは学校そのものである。
不登校問題を根本的に解決するために、学校に求められていることは、
〇勉強が分かりたい
〇友だちと仲良くしたい
といった子どもたちの思いを叶えられる学校にすることである。
そのためには、
・子どもたちの発達を保障するための学習内容、学習計画にすること
・豊かな人間関係が築ける時間的、空間的な環境を整備すること
・エリートや人材育成ではなく、全ての子どもを大切にする教育観の確立・共有
・管理主義を改め、子どもの主体性、子どもの権利が大切にされること
・さらに、不登校支援の多くを担っている、学級担任等の過重な負担を軽減すること
など、教育、教育制度の根本的な改革が必要である。
具体的には、①学習指導要領、教育課程の見直し、②教員増、少人数学級の実現、③民主主義的な学校運営などである。
不登校問題の解決は、子ども本位の学校にすることで可能である。


そんなに難しいことではない。やる気さえあれば、すぐにでもできることだ。


文科省通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」批判

2024-01-23 12:20:28 | 考察

~文科省通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」批判~

                                                                                                                                          2021.3.3  野中 博善

 

Ⅰ.はじめに(本レポートの問題意識)

 2019年10月25日、文科省は初等中等教育局長名で通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」を出した。

 文科省は通知を「これまでの不登校施策に関する通知について改めて整理し、まとめたもの」として、従前の通知などを廃止した。いわば、この通知が文科省の不登校施策の集大成である。

 その通知の最大の問題点は、不登校問題に真剣に向き合わず、不登校の子どもたちの苦悩に目を向けることも、寄り添うこともなく、不登校の子どもを見捨てたことである。

 もう一つの問題点は、通知の内容が、10数年間、不登校者数を減らすどころか増加させてきた従来の施策をそのままコピーし、さらに、施行以来不登校者増に拍車をかけてきた「教育機会確保法」の「多様な教育機会の確保」を新たな不登校支援の柱に据えたことである。

 

 本レポートでは、通知(文科省の不登校施策)の問題点を明らかにするとともに、不登校問題の本質と課題、そして、不登校問題解決への方向性を探っていきたい。

 

Ⅱ.不登校問題の現状

 2019年10月、通知が出た時、多くの人々は、通知を好意的、肯定的に受け止めたようである。それは、通知が不登校支援の視点を「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく」としたことにあるようだ。これまで、「登校刺激」や「登校圧力」が多くの不登校の子どもや親を苦しめ、追い詰めていたことを思えば、当然のことである。

 2003年通知による不登校支援が行われてきた期間(2003年~2019年)においては、不登校者数は、一時的な減少(微減)傾向はあったものの増加し続け、「教育機会確保法」が施行された2017年には過去最多となる14万人超を数えた。そして、2018年には16万人超、2019年は18万人超を数え、毎年、過去最多を更新した。

 2020年10月、2019年度の不登校者数が18万人を超えたことが発表された。

小学生53,350人 中学生127,922人 合計 181,272人であった。

この時、文科省は、「教育機会確保法」の趣旨が受け止められたからであろう、と不登校者増の要因を指摘した。京都府教育委員会も、文科省と同様に「『教育機会確保法』の趣旨の浸透の側面も考えられ、」とコメントした。また、京都市教育委員会は、「不登校増加の明確な答えはないが、学校を休むことへのハードルが下がってきた印象はある」と言っている。

市教委が一因に挙げるのは、教育機会確保法の影響だ。法の趣旨が浸透し、無理してでも登校させようとする保護者や教員が減ったとみている。

 

Ⅲ.通知が出るまでの経緯

 不登校者数さへ減らすことができなかった従来の施策(対応)と不登校者数を増加させた多様な「教育機会の確保」を2本柱にした通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」が、なぜ、出てきたのか。通知が出るまでの経緯を踏まえ考えてみる。

2014年 6月 3日 フリースクール等議員連盟設立

                      7月 5日 教育再生実行会議「第5次提言」 

2015年 1月27日 「フリースクール等の関する検討会議」

            「不登校に関する調査研究協力者会議」 の設置

2016年 7月29日 「不登校に関する調査研究協力者会議」報告

     12月14日 教育機会確保法公布

2017年 2月13日 「フリースクール等に関する検討会議」報告

2月14日 教育機会確保法施行

      3月31日 教育機会確保に関する基本指針

2019年 6月21日 「合同会議」議論のとりまとめ

2019年10月25日 「不登校児童生徒への支援の在り方(通知)」

 通知は、上記のような過程を経て出された。

 2002年に設置された「不登校問題に関する調査研究協力者会議」の報告「今後の不登校への対応の在り方について」を受けて出された2003年の通知「不登校への対応の在り方について」に比べ、複雑な経緯の末に出てきたものである。

 はじまりは、教育再生実行会議の第5次提言である。

「国は、小学校及び中学校における不登校の児童生徒が学んでいるフリースクールや、国際化に対応した教育を行うインターナショナルスクールなどの学校外の教育機会の現状を踏まえ、その位置付けについて、就学義務や公費負担の在り方を含め検討する。」

    文科省は、この提言を受けて2つの会議を設置した。「不登校に関する調査研究協力者会議」と「フリースクール等に関する検討会議」である。同時並行的に、2014年に設立された「フリースクール等議員連盟」では「フリースクール法案」が準備されていた。

 当初、2つの会議の報告は2017年3月末までにまとめられる予定であったが、「不登校に関する調査研究協力者会議」報告は約4か月、「フリースクール等に関する検討会議」報告は約11か月遅れて出された。これは、「フリースクール法案」が当初の思惑通りにまとまらなかったからである。

「フリースクール法案」は、議論の過程で、「不登校を助長する」、「安易に学校外に子どもを任せる無責任な態勢を生みかねない」という慎重論が根強く、「フリースクール等に関する検討会議」の課題であった「フリースクール等の認定、公的な経済的支援」等が法案に組み込まれず、骨抜きにされた。そして、単なる「不登校支援法」になってしまった。こうして成立したのが「教育機会確保法」である。この影響を受けた「フリースクール等に関する検討会議」報告も、「不登校支援」報告となっている。

しかし、文科省は「基本指針」の中に「法の実施状況の検討」「民間機関との協力」などを盛り込み、「多様な教育機会確保」を生き永らえさせた。そして、実施状況の検討のため「合同会議」の継続し、通知の中に「多様な教育機会の確保」位置づけることに成功した。

こうして、「通知」の中に、「従来の不登校支援」と「多様な教育機会の確保」という2本柱の不登校施策が位置付けられるようになった。(「多様な教育機会」には公的な経済的補助は位置付けられていない。)

 

Ⅳ.変えられた不登校の定義・認識

 提言から通知までの間に、不登校の定義や認識に変質が見られる。

 これまで文科省は不登校を「連続又は断続して年間30日以上欠席し、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況(ただし、病気や経済的な理由によるものを除く)。」と定義してきた。

しかし、「教育機会確保法」は、「不登校児童生徒」を「相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的負担その他の事由のために就学が困難であるとして文部科学大臣が定める状況にあると認められるものをいう。」と定義した。

 これまでは不登校を広義に捉えていたものを、「学校における集団の生活に関する心理的負担その他の事由」という限定的なとらえ方に変えた。

また、これまで、「不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子にも起こりうる」ものとして捉えていた不登校に対する認識が、「基本指針」では、「不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こりうるもの」という条件付きな認識に変わっている。

 「取り巻く環境」とは何か。「取り巻く」とは、「身近な、あるいは、周辺の」である。「環境」とは、「周囲の状態や世界」をいう。とすると、「取り巻く環境」とは、「その人の周辺の状態(住む場所とか人付き合いなど)」ということになる。

 つまり、「その子どもの周辺の状態によっては、不登校になりうる。」ということらしい。言い方を変えてみると、「不登校になるのは、その子、あるいは、その子の周辺に問題(課題)があるのだ。」ということになる。

 さらに通知は、不登校に関して、「児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する」という留意点を挙げた。

 確かにこのようなことは言えるかもしれない。しかし、広い視野で見ると、これらは、不登校に限らず、多かれ少なかれ、誰にでも当てはまることである。

 また、これらは、多くの不登校の子どもや親が、不登校と向き合い、不登校を受け入れ、そして、乗り越えるために、自らに言い聞かせ、諭してきたものである。

 休養を取り、エネルギーを蓄えなければ、学校に登校することができない。また、学校に行けない自分を責め、学校に行けない自分を見つめ直さなければ学校へ行けない現実がある。学校へ行かなければ勉強が遅れ、高校に進学する時にもリスクがあると分かりながら、不利益が分かっていても学校に行けない。こんな現実があることを、留意点は指摘している。

教育行政を司る文部科学省は、不登校の意味付けやリスクの指摘をする前に、不登校の子どもや親がこのような状態にあるという現実を変え、不登校の子どもをなくすための方途を示さなければならないのではないか。

 しかし、以上のような不登校の定義、認識の下で、通知「不登校児童生徒への支援の在り方」が出された。当然、このような認識が、不登校施策(支援の在り方)に反映されているだろう。

 

Ⅴ.通知における不登校支援 (資料【通知における支援の在り方】参照)

通知に示されている不登校支援は、そのほとんどが従来行われてきたものであるが、その中で特に重点が置かれているのが、

  • 「児童生徒理解・教育支援シート」を活用したした組織的・計画的支援
  • 多様な教育機会の確保
  • 教育支援センターを中核とした支援(訪問型支援など)

の3点である。

①の「児童生徒理解・支援シート」を活用した組織的・計画的支援は、子どもたちが不登校になったきっかけや要因を把握し、子どもたちの状態に応じて支援策を策定し組織的・計画的な支援を行うということで、全ての不登校の子どもたちを対象にした取り組みである。

②の「多様な教育機会の確保」に関して、通知は、「児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級での受け入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと。」と記している。

本人が希望すれば、多様な教育の機会を活用できるということである。

③の教育支援センターを中核とした支援は、不登校の子どもたちが利用した学校外の施設では教育支援センターが一番多い。その整備充実とともに、加えて、教育支援センターが不登校の子どもやその家庭に訪問し、相談や支援(訪問型支援)を行う。これまで、主に学校が担ってきた取り組みを教育支援センターが担っていくということである。

 “今後は、「児童生徒理解・支援シート」を活用した組織的・計画的支援と学校外の施設や民間団体等の「多様な教育機会の確保」が不登校支援の中心的役割を担っていく” という方向を打ち出したのが、今回の通知の最大の特徴である。

 

Ⅵ.通知の不登校支援で不登校問題を解決できるか(支援策の妥当性)

(資料【支援施設・機関の設置及び利用状況】参照)

では、これらの支援策は有効なのか。不登校の子どもたちを減らすことはできるのか。不登校問題を解決できるのか。2020生徒指導調査から考えてみたい。

(1)多様な教育機会の確保でいうところの学校外の施設の設置状況

「多様な教育機会の確保」として挙げているのは、教育支援センター、不登校特例校、フリースクールなどの民間施設、ICTを活用した学習支援などであり、夜間中学も含めている。

「多様な教育機会」と言い、「学校外の施設・機関」や「民間団体・民間施設」を挙げているが、いったいどういう施設なのか。

○教育支援センター(適応指導教室)

自治体の教育委員会が、不登校の子どもの学校復帰のために指導する場所として、自治体の教育委員会が設置しているもので、不登校の子どもの受け皿として、学校と直結した公的な施設である。

 全国に1,527箇所 (2020年生徒指導調査)

 ○不登校特例校

  不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校

  文科省指定校  指定校数17校 (内、公立学校8校、私立学校9校)

 ○夜間中学

「教育機会確保法」第14条において,学齢期を経過した者であって小中学校等における就学の機会が提供されなかった者の中に,就学機会の提供を希望する者が多く存在することを踏まえ,全ての地方公共団体に,夜間中学における就学機会の提供等の措置を講ずることが義務付けられた。

現在では、義務教育未修了の学齢超過者や、外国人等で日本語の学習を希望する者を中心に教育を行っている。

全国9都府県、27市区に33校(2020年生徒指導調査)

2020年7月現在 10都府県に計34校設置(文科省)

 ○民間施設・団体(フリースクール)

  一般に、不登校の子どもに対し、学習活動、教育相談、体験活動などの活動を行っている民間の施設を言う。その規模や活動内容は多種多様であり、民間の自主的・主体性のもとに設置・運営されている。

  2016年調査で、474(実質319)の団体がある。

(2)学校外の施設の利用状況

   *2019年度の不登校者数は、

       小学生53,350人、中学生127,922人、合計 181,272人であった。

 

*学校内外の機関・施設で相談・指導を受けた児童生徒は、

    小学生40.217人(75.4%)、中学生87.462人)(68.4%)、合計127.679人(70%)

 *上記の内、学校外の機関・施設で相談・指導を受けた児童生徒は、

   小学生21,885人(41%)、中学生42,992人(33,6%)、合計64,877人(35,8%)

 

*相談・指導を受けていない児童生徒は、

  小学生13.133人(24.6%)、中学生40.460人(31.6%)、合計53.593人(29.6%)

 

*「指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒」の数は、

       小学生12,153人(22.8%)、中学生29,192(22.8%)人、合計41,345人(22.8%)

 

*教育支援センターの利用者は、

       小学生5,550人(10.4%)、中学生16,145(12.6%)、合計21,695人(12%)。

*民間団体・民間施設(フリースクール等)の利用者は、

       小学生2,357人(4.4%)、中学生3,971人(3.1%)、合計6.328人(3.5%)

*ICTを活用した学習活動を行った児童生徒(出席扱いとなった者)

  小学生 174人(0.3%)、中学生434人(0.34%)、合計608人(0.34%)

 

 学校外の施設・機関とは、フリースクールを除いては、公的な施設・学校である。また、相談・指導を行っている学校外の施設・機関の内、学習指導を行っているのは、教育支援センターと民間団体・施設(フリースクール)で、その他の施設・機関は学習指導は行っていない。

 「教育再生実行会議の提言」が言い、「教育機会確保法」が当初目指していた「多様な教育機会(フリースクールやインターナショナルスクール等)」とはほど遠い内容になっていることを指摘しておきたい。

そして、学校外の施設・機関の利用状況を見ると、「教育支援センター」がほとんどを占めていることを見れば、自治体が、公的な機関(教育支援センター)を作り、学校(公的な機関)へ行けない子どもの受皿としての役目を果たしているのが実態である。

 一方、施設・機関の設置、開設状況を見ると、公的な機関である「教育支援センター」の設置は多くの自治体で進んでいるが、その他の施設・機関は、数的、地理的、経済的に考えて、不登校の子どもたちが利用できる状況にあるとは、とても言うことできない。

教育支援センター(適応指導教室)は、また、不登校の子どもの学校復帰のために指導する場所として設置されたもので、学校と直結した公的な施設である。これを多様な教育機会の場として位置付けるのは趣旨が違うのではないか。また、「学校に登校するという結果のみを目標にするのではなく」という不登校支援の視点と相反する施設である。

そういう視点で見ると、多様な教育機会の利用者は、5174人で、約4%であるといえる。

多くの不登校の子どもたちは、多様な教育機会の外側にいるのが実態である。

このように見てくると、通知における不登校施策(不登校支援)は、不登校問題の解決に有効とは言えない。なぜ、そのような状況になっているのかと言えば、不登校問題の実態、本質が理解できていないからではないか。そこで、なぜ、子どもたちは学校に行けないのか、不登校問題の実態、本質について考えていきたい。

 

Ⅶ.不登校の要因は何か(子どもたちはなぜ学校に行けないのか)

2020年度「生徒指導調査」によると「不登校の要因・きっかけ・継続の理由及び背景」は次のようになる。

1)不登校の要因・きっかけ・継続の理由及び背景 (生徒指導調査より)

  • 2019年 不登校者数

    小学校53,350人 中学校127,922人 合計 181,272人

  • 不登校の要因

*主たる要因           【小学校】      【中学校】

  学校に係る状況     20.3%      34.4%

  家庭に係る状況     22  %      12.3%

  本人に係る状況     51.1%      48.1%

  その他          5.6%       5.4%

  • 区分(メモ10参照)

 不登校の要因で割合の大きいものを揚げると次のようになる。

  *学校に係る状況    【小学校】      【中学校】

   いじめを除く友人関係  10.2%      17.2%

   学業不振         4.3%       8.5%

   教職員との関係      2.4%

   進級時の不適応                 3.9%

  *家庭に係る状況

   親子の関わり方     16.7%       7.5%

   生活環境の変化      3.6%       2.9%

  *本人に係る状況

   無気力・不安      41.1%      39.5%

   生活の乱れ       10.3%       8.6%

 

 不登校の要因としての「いじめ」は、小中学生合わせて563人で、割合として0.3%である。

 最も多い不登校の要因は、「無気力・不安」である。小学生の21,927人が「無気力・不安」から不登校になっている。中学生では、50,471人である。

次に多いのは、小学生では「親子の関わり方」で、8,898人である。中学生では「いじめを除く友人関係」が21,975人となっている。

小学生、中学生とも、3番目の要因は、「生活の乱れ」で、4番目が「学業不振」である。よく見てみると、「無気力・不安」と「生活の乱れ」で、小中学生とも半数を占めている。88,839人の子どもが、「無気力・不安」や「生活の乱れ」になるのは、なぜなんだろう。

これらは、毎年文科省が行っている生徒指導調査によるが、不登校の要因は、教員が判断している。つまり、教師から見た不登校の要因である。

2)もう1つの不登校のきっかけ【資料2 参照】(不登校に関する実態調査より)

次に、不登校体験者に対する調査「不登校に関する実態調査」を見てみる。

この調査は、2014年に、2006年度に不登校だった中学3年生を対象に行われたものである。(以前にも2001年にも行われている。) 

*回答は、思い当たるものすべてに〇をつけている。

 

  • (割合の大きい項目)   【2014年】      【2001年】

          友人との関係            53.7%        44.5%

          生活リズムの乱れ          34.7%        ****

          勉強が分からない          31.6%        27.6%

          先生との関係            26.6%        20.8%

     部活での友人関係など        23.1%        16.5%

  • 不登校継続の理由

 (割合の大きい項目)

     無気力で            44.4%

     不安              43.7%

     友人との関係          41.4%

     生活リズムの乱れ        34.1%

     勉強についていけない      27.4%

     行かないことを悪く思わなかった 25.6%

 継続の理由は、不登校の時期の子どもたちの状況(生活や心理状況)をよく表している。

 実態調査と生徒指導調査を比べて、大きな隔たりが見られるのは、「教師との関係」である。生徒指導調査では、教師との関係が不登校の要因となっているのは2%ほどであるが、実態調査では20%強を占める。このことの意味は大きい。先生の立場からは、よもや、自分が不登校の要因となっているとは思ってもみないが、子どもからすれば、学校へ行きづらくしているのが、実は、先生なんだ、ということである。

   教員は、子どもにとって、学校そのものである。また、教員は、授業や指導を通して、学校教育そのものを体現している存在である。まさに、不登校を生み出しているのは、学校そのものということである。

 生徒指導調査と実態調査では、調査手法が異なる。生徒指導調査は、回答者は教師であり、主な要因も1人当たり1項目である。実態調査は、体験者本人が回答しており、要因については思い当たる項目をすべて回答している。生徒指導調査は教師の視点から、実態調査は当事者の視点からの調査と言える。

 ただ、実態調査は、回答者数が少ないことは考慮する必要があるが、不登校の要因・背景を考える上で貴重な資料と言える。

 不登校の背景を考える上で参考になる調査として、日本財団による調査がある。「不登校傾向にある子どもの実態調査」である。この調査で、学校に行きたくない理由で、「つかれる」「朝、起きられない」という理由が、上位2位を占めるが、次に、「授業がよくわからない。ついていけない」「友達とうまくいかない」「学校は居心地が悪い」が続く。不登校の背景を考える上で興味深い調査である。

 

Ⅷ.不登校問題の本質

(1)Ⅶ「不登校の要因は何か(子どもたちはなぜ学校に行けないのか)」から分かること

 生徒指導調査は毎年行われている調査である。調査が始まって以来、毎回、同じ傾向が続いている。また、「実態調査」はこれまで2001年と2014年に2回行われた。これまた、同じ傾向を示している。今回、このレポートを書くに当たっては、新たに日本財団による「調査」が加わった。

 これらの調査の結果から、子どもたちが不登校(学校に行けなくなる)になる背景が浮かび上がってくる。一人一人の子どもを見ていると、その子が学校に行けなくなるのには、その子なりの原因や理由があるのだろう。また、小学校では○○○人に1人が、中学校では28人に1人が不登校になっているので、小学校では一つの学校に数人、中学校では1学級に1,2人の不登校の子どもがいることになる。そうした場合、不登校は、個々の子どもに起こっている事柄と捉えられる。不登校が一般化していないからである。

しかし、全国的な調査や大きな範囲で不登校を捉える場合、不登校の傾向が見えてくる。「なぜ、子どもたちが学校に行けないのか。」「なぜ学校に行かないのか。」という不登校の背景や原因が見えてくる。

3つの調査を通して、

①無気力・不安 ②勉強が分からない、授業についていけない ③友だち関係のこじれが、子どもたちが不登校になる3大要因であることが分かる。

 不登校問題とは何か、不登校問題の本質は何か、不登校はなぜ起こるか、を理解することは、そんなに難しいことではない。調査から聞こえる子どもたちの声に耳を傾ければ、自ずから明らかである。ここから、不登校問題を理解することが始まるのではないか。

 

(2)不登校の3つの要因について

1)「無気力・不安」について

 「無気力・不安」と「生活の乱れ」で50%を占める。「生徒指導調査」では、不登校の大きな要因となっている。しかし、「実態調査」では、不登校継続の理由に「無気力」・「不安」がともに44%前後を占めているが、不登校の要因としては挙がっていない。不登校が長引くことによって、気持ちが落ち込み、意欲が弱くなることを示しているのではないかと思われる。一方、「生徒指導調査」の「無気力・不安」は、学校へ行きたくないという思いが、やる気のなさや気怠さとして映っているのではないだろうか。

2)「学業不振」について

  子どもたちは、勉強が分からない、授業についていけない、ということを訴えている。「生徒指導調査」では、「学業不振」は、小学生4.3%、中学生8.5%である。一方、「実態調査」では、「勉強が分からない」は、31.6%(2014年)と結構大きな比重を占めている。また、日本財団の調査によっても、「勉強が分からない」、「授業についていけない」は、学校へ行きたくない大きな理由となっている。

このことは、とても重要だ。学校の役割の重要な部分に異議を申し立てている。

3)「友達関係」について 

友達関係が不登校の重要な要因になっている。

「生徒指導調査」では、不登校の要因としての「いじめ」は、小中学生合わせて563人で、割合として0.3%である。「いじめ」が社会問題として大きくクローズアップされているが、不登校の要因としてはわずか0.3%である。

しかし、不登校の要因としての「友達関係」は、「生徒指導調査」でも「実態調査」でも、一番大きな要因となっている。さらに、「実態調査」の不登校継続の理由としても「友達関係」は41.4%と大きな比重を占めている。

 学校は、子どもの社会性を育てる場でもある。それは、多くの場合、子ども同士の関係、活動を通して形成されていく。「友達関係」が不登校の大きな要因となっていることは、重大な問題である。

 人として、もっとも活動的であり、もっとも伸び盛りであり、学ぶ意欲の旺盛な時期に、「無気力・不安」「勉強が分からない」「友達関係がうまく築けない」によって、「学校へ行けない」「学校へ行かない」状態が生まれている。18万人もの小学生、中学生が。

これが、不登校問題の実態であり、本質である。

 

Ⅸ.不登校問題の背景

 なぜ、このような状態が生まれるのか。

不登校問題を考える上で興味深い現象がある。不登校者数が増え続け、13万人を超えはじめた頃、不登校者数が僅かばかりだが減少し始めたことがあった。2001年にこれまでの最多数(13万4千人)を記録した後、2002年から2005年にかけての4年間は減少傾向を示した。

この時期は、1999年に学習指導要領の改訂があり、いわゆる「ゆとり教育」が始まった時期である。2002年には「不登校問題に関する調査研究協力者会議」が発足し、2003年に報告がまとめられた。文科省は、通知「今後の不登校への対応の在り方について」を出した。

2003年通知は、不登校は誰にでも起こりうる。過度な登校刺激はやめ、子どもに寄り添った支援の必要を提起した。不登校への対応の大きな転換であった。

また、「ゆとり教育」は、学習内容を減らし、簡素化し、学習における過重な負担を減らす試みであった。

 それは、子どもたちの学習への負担を減らし、登校を無理強いせず、子どもの気持ちに寄り添おうとした時期といえる。

その後、学力低下を懸念した「ゆとり教育」批判が学校内外から展開され、大きく修正されることとなった。併せて、不登校をめぐっても、「不登校ゼロ宣言」など、それまでの登校刺激とは違った圧力が起こり始めた。

皮肉なことに、2006年、不登校者数は再び増加傾向に転じ、その後、数年、12万人前後の高止まり状態が続き、2013年から増加が続き、2016年からの爆発的増加へとなっていく。(2019年、18万人超)

学習指導要領の改訂が不登校者数にも影響を与えていることが資料の年表から推測される。(不登校施策とも関連しているともいえる。)

 学習指導要領をめぐっては、次のような発言や見解がある。

 1980年代のはじめ、学習指導要領の作成にかかわった国立教育政策研究所の研究員が、「指導要領は、3割の子どもが理解できればいい内容になっている。」と発言し、事実、同時期の学校現場からは、「学習内容を理解できているのは3割だけだ。」という訴えがあった。

 そのころ、子どもたちの生活にも大きな変化が起こっている。

 地域での集団遊びなどがなくなりつつあり、子どもたちの人間関係の希薄さを危惧し、学校では、「縦割り集団」あるいは「異年齢集団」活動が取り組まれた。

文科省も、子どもたちの変化を認識していた。「生活科」や「総合的な学習の時間」が作られ、「学校週5日制」も始まった。これらは、「ゆとり教育」の一環であり、子どもの生活の変化を如実に反映していた。

しかし、「ゆとり教育」には、もう一つの面があった。「エリート教育」の推進である。「『エリート教育』と声高に言うと批判が強いので『ゆとり教育』と呼ぶようにした。」と、当時の教育課程審議会の会長だった三浦朱門氏は言いのけた。そして、「できん者は、できんままで結構。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることばかりに注いできた労力を、できるものを限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけ養っておいてもらえればいいんですよ。」とも。

また、生徒指導に関して、文科省は、2006年に「規範意識の醸成」という通達を出した。その中で、「ゼロトレランス」という生徒指導の在り方を勧めている。「ゼロトレランス」とは、寛容度ゼロと言うことを意味しています。つまり、規律を乱す者には、厳罰主義で臨むことによって、規範意識を身につけさせる。ということです。

ある中学校で、夏の暑い日に、授業中、持参した水を飲んだ生徒がいた。放課後に、学年200人ほどの生徒が体育館に集められ、学年集会が始まった。その場で、水を飲んだ生徒はみんなの前で叱責された後、全生徒に向けて謝罪させられた。これは、実話である。

このような視点が、学習面でも生活面でも、国の教育政策では一貫している。それを体現しているのは、学校であり、先生たちである。

国連の子どもの権利委員会が日本政府に対して、次のように勧告している。

  • 1998年6月

「締約国における高度に競争的な教育制度並びにそれが児童の身体的及び精神的健康に与える否定的な影響に鑑み、委員会は、締約国が、条約第3条、第6条、第12条、第29条及び第31条に照らし、過度なストレス及び登校拒否を予防し、これと闘うために適切な措置をとることを勧告する。」

  • 2004年6月

「本委員会は以下のことを懸念する。a) 教育制度の過度に競争的な性格が子どもの肉体的および精神的な健康に否定的な影響を及ぼし、かつ、子どもが最大限可能なまでに発達することを妨げていること。」

  • 2010年6月

「本委員会は、また、高度に競争主義的な学校環境が、就学年齢にある子どもの間のいじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退及び自殺に寄与しえることを懸念する。」

  • 2019年3月

「委員会は、前回の勧告を想起し、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。(a)子どもが、社会の競争的性質によって子ども時代及び発達を阻害されることなく子ども時代を享受できることを確保するための措置をとること。」

「ストレスの多い学校環境(過度に競争的なシステムを含む)から子どもを開放するための措置を強化すること。」

2017年、学習指導要領が改訂された。「生きる力」をテーマとし、小学校でプログラミング科目が追加され、英語教育が必須化になる。また、「アクティブラーニング」の視点からの授業改善を提唱している。さらに、小学校における「35人学級」が導入される。

新学習指導要領には、「通知」で示された不登校施策がそのままコピーされているだけである。「義務教育を全ての児童生徒等に実質的に保障するための方策」として。

 

Ⅹ.不登校問題解決への道筋

不登校問題の実態・本質について考えてきた。本レポートで見てきたように、国(文科省)には、不登校問題を根本的に解決していこうという姿勢も方策もない。それどころか、不登校問題の背景に、日本の学校教育制度そのものの課題や問題が見えてくる。

「通知」は、不登校の子どもたちを、「既存の学校になじめない児童生徒」と表現したが、既存の学校にこそ、不登校を生み出す根本的な要因ではないか。

「不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こりうるもの」という「基本指針」が示した取り巻く環境とは、まさに、日本の学校教育制度そのものではないか。日本の学校教育制度が不登校を生み出している。変えるべきは学校そのものである。

不登校問題を根本的に解決するために、学校に求められていることは、

〇勉強が分かりたい

〇友だちと仲良くしたい

といった子どもたちの思いを叶えられる学校にすることである。そのためには、

・子どもたちの発達を保障するための学習内容、学習計画にすること

 ・豊かな人間関係が築ける時間的、空間的な環境を整備すること

 ・エリートや人材育成ではなく子どもの全面発達を視点とした子ども観を構築すること

 ・管理主義を改め、子どもの主体性、子どもの権利が大切にされること

など、教育、教育制度の根本的な改革が必要である。

 具体的には、①学習指導要領、教育課程の見直し、②教員増、少人数学級の実現、③民主主義的な学校運営などである。

 不登校問題を解決は、子ども本位の学校にすることで可能である。

そんなに難しいことではない。やる気さえあれば、すぐにでもできることだ。

 


不登校問題の真実その7 【提言】不登校問題を解決するために

2024-01-15 12:11:18 | 考察

【提言】不登校問題を解決するために

 

 文科省は10年ごとに「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し不登校対策を検討してきました。今回(2022年)の「協力者会議」で露呈したように、不登校の子どもたちの思いとはかけ離れた不登校対策が行われています。不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題とした対策をとってきた結果、学校に行けない子どもの数は二五万人まで膨れ上がってしまいました。(2022年には30万人になりました。)それでも、なお、同じ対策を繰り返そうとしています。

これでは、不登校をなくすことも、不登校問題を解決することもできないでしょう。学校に行けない子どもたちをなくすためには、子どもたちが学校に行けない要因を取り除くことだと、誰でも考えるのではないでしょうか。子どもたちが挙げている不登校の主な要因は、①「勉強が分からない」 ②「いじめ」 ③「先生との関係」 の3点です。まずは、これらを取り除くことからはじめたらどうでしょう。そして、子どもたち一人ひとりが、いそいそと通える学校を作ることではないでしょうか。

 

提言1 まず、不登校に対する認識を改めよう 

  • 不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではなく、この国の貧困な教育政策から生み出されているということ。
  • 不登校は、子どもたちの成長・発達する権利、学習権の侵害です。
  • 不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではありません。
  • 不登校の子どもたちは、困難な中でも自らの進路を切り開いている、成長・発達、学習、生活の主体者であり、主権者として尊重されるべき存在です。

 

提言2 子ども(当事者)の視点に立って考えよう

  • 不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにしよう。
  • 不登校の子どもたちの学びや発達に対する要求を尊重しよう。
  • 不登校を乗り越えた子どもたちから学ぼう。

 

提言3 今日の学校教育、制度を改めましょう(教育課程・学習指導要領の見直し)

  • 子どもたちの学びたい分かりたいという思いを大切にしよう。
  • どの子にも確かな学力を保障しよう。
  • 子どもたちの主体性を大切にしよう。
  • 子どもの全面発達を保障しよう。
  • 先生が教育に専念できる環境を保障しよう。
  • 子どもと先生が触れ合える時間を保障しよう。

 

提言4 子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう

  • 子どもを権利の主体として尊重しよう。
  • 子どもを権利の主体とした教育活動、教育実践を家庭、地域で展開しよう。
  • 子どもが学校、地域、家庭で伸び伸びと生活し、活動できる環境を作ろう。

 

 しかし、これらが今すぐ実現するとは、到底望めません。今のような状況がこれからも続くことでしょう。では、私たちは、今をどのように生きていけばいいのでしょうか。今、できることを、気が付いた人から、はじめていきましょう。 一人ひとりが主体者として、主権者として!

 

提言5 誰にでもすぐに実行できること

〈子どもが学校へ行くのをいやがったら、学校へ行かなくなったら〉

  • 学校へ行くか休むか、子どもの気持ちを尊重しましょう。
  • 学校は休んでもいいんです。
  • 家庭を子どもの居心地のいい居場所にしよう。
  • 子どもことは子どもに任せましょう。
  • 子どもの主体性を大切にしましょう。
  • 家庭は、子どもが学び、成長できるところです。
  • 家事はみんなでしましょう。子どもに頼りましょう。
  • 親子で、散歩をしたり、食事をつくったり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 一緒に食事をしたり、散歩をしたり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 親の会に参加しましょう。なければ、親の会を作りましょう。
  • みんなで手を取り合い、学び合いましょう。

 

不登校の子どもたちは哲学者だと言った人がいます。ダラダラすることは人間の権利だと言った人もいます。何もしていない時って、実は、次は何をしようかなと考えている時なんですよ。学校に行かないと1日24時間を自分で考え工夫して過ごさなければなりません。何日も何日も。これって、すごいことですよ。安心して学校を休めると、子どもはいろんなことを始めますよ。学校へ行かなくても子どもは成長していきます。そんな子どもをたくさん見てきました。せっかく不登校になったんだから、不登校を楽しんでください。きっと子どものすばらしさを発見できますから。    

 

 

2023年11月23日 野中博善

 

 


不登校の真実その6 第4章「不登校問題解決への道すじ」

2024-01-11 14:54:34 | 考察

第4章 不登校問題解決への道すじ

 

1.調査資料から分かる子どもたちの思い

見て来たように、施策と無縁の子どもたちが多くいます。しかし、調査資料からは、次のような子どもたちの様子や思いが伝わってきます。それは、不登校問題を解決していくための参考になるのではないでしょうか。

 一つは、不登校になりかけた時、困った時、子どもたちは身近な人に相談しています。それは、家族、親であり、友だちであり、先生です。(しかし、先生の存在が他の人たちより薄いのが気に懸かりますが)

 二つは、身近な人の声かけや働き掛けが子どもたちにとっては大きな支えや励ましになっているということ。

 三つは、子どもたちは、勉強がしたい、勉強が分かりたいという思いを持っていること。

 四つは、子どもたちは、友だちと一緒に楽しく活動したいという気持を持っているということ。

 五つは、子どもたちは、学校に行けなくなるまで、我慢し、自分を追い詰めているということ。

 六つは、子どもたちは、自らの状況(不登校)を受け入れざるを得ず、また、どのような施策も当てにできない状況に置かれているということ。

 そして、七つは、不登校を経験した子どもたちは、いつまでも同じ状況に留まっていないということ。

 

2.自らの道を切り開く子どもたち

 次の資料は、2022年の問題行動等調査の中の「不登校児童生徒への指導結果状況」状況です。

 

 

小学生

中学生

不登校児童生徒数

81.498人

163.442人

244.940人

指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒

 

22.119人

 

45.925人

 

68.044人

指導中の児童生徒

59.379人

117.517人

176.896人

 

 

 不登校の子どもたちが、小・中学生の時に学校に戻ることや再登校することができるのは、三割にも満ちません。多くの子どもが不登校のまま義務教育を終えているようです。

 しかし、その後の就学・就業状況を見ると、子どもたちの多くが進学したり働いていたりすることが分かります。次のページの資料「不登校生徒の進学・就学・就業状況について」を見てください。

資料(実態調査、2011年)

  ■平成18年度不登校生徒の進学・就学・就業状況について※( )内は前回調査

 

①中学3年生時の高校進学率

 

今回調査

全国平均

高校進学率

85.1% (65.3%)

98.0%

高校中退率

14.0% (37.9%)

1.9%

※高校進学率の全国平均は、平成19年度学校基本調査、中退率の全国平均は、平成19年~21年度問題行動調査による。

 

  • 20歳現在の就学・就業の状況

 

今回調査

全国平均

就学している

47.4% (23.5%)

59.0%

就業している

54.1% (63.0%)

44.7%

 

(参考)就学・就業の詳細

        |   就学している       |    就学していない    |

 

今回調査

全国

今回調査

全国

就学している

19.6% (9.3%)

16.4%

34.5% (53.7%

28.3%

就業している

27.8% (14.2%)

42.6%

18.1% (22.8%)

8.6%

※全国平均は、2010年国勢調査による。

 

  • 20歳現在の就学状況

 

今回調査

全国平均

高等学校

9.0% (6.5%)

1.3%

専門学校・各種学校等 

大学、短大、高専 

37.7% (*16.5%)

 

58.8%

【今回調査の内、専門学校・各種学校等は14.9% (8.0%)、大学・短大・高専は22.8% (*8.5%)】

※全国平均は、2010年国勢調査による。*前回調査は、高専を含まず。

 

  • 20歳現在の就業の状況

 

今回調査

正社員

9.3% (22.5%)

パート・アルバイト

32.2% (30.7%)

 

小学校や中学校の時期に学校に行っていなくても、働いたり勉強したりしているのです。

学校に行っていなくても、自らの進路を開いているって、すごいことです。それを、不登校の子どもたちはやっているのです。先生からは「無気力」だと思われていた子どもたちが、そんな力を持っているのです。不登校の中でも、子どもは育ち、成長しているのです。それが子どもたちの持っている力であり、可能性なのです。

 それなのに、そんな子どもたちが行けなくなる学校っていったい何なのでしょう。子どもたちの声を聞いて、しっかりと受け止めて、誰もがいそいそと通え、大いに自分の力を伸ばせる学校を子どもたちは望んでいます。学校って、本来、そういうところのはずです。

 

3.【提言】不登校問題を解決ために

 文科省は10年ごとに「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し不登校対策を検討してきました。今回(2022年)の「協力者会議」で露呈したように、不登校の子どもたちの思いとはかけ離れた不登校対策が行われています。不登校問題の本質を見ようともせず、いつまでも、不登校を子や親の責任、課題とした対策をとってきた結果、学校に行けない子どもの数は二五万人まで膨れ上がってしまいました。(2022年には30万人になりました。)それでも、なお、同じ対策を繰り返そうとしています。

これでは、不登校をなくすことも、不登校問題を解決することもできないでしょう。学校に行けない子どもたちをなくすためには、子どもたちが学校に行けない要因を取り除くことだと、誰でも考えるのではないでしょうか。子どもたちが挙げている不登校の主な要因は、①「勉強が分からない」 ②「いじめ」 ③「先生との関係」 の3点です。まずは、これらを取り除くことからはじめたらどうでしょう。そして、子どもたち一人ひとりが、いそいそと通える学校を作ることではないでしょうか。

 

提言1 まず、不登校に対する認識を改めよう 

  • 不登校は、子どもたちの「無気力・不安」から起こっているのではなく、この国の貧困な教育政策から生み出されているということ。
  • 不登校は、子どもたちの成長・発達する権利、学習権の侵害です。
  • 不登校の子どもたちは、支援や援助を受ける憐れまれる存在ではありません。
  • 不登校の子どもたちは、困難な中でも自らの進路を切り開いている、成長・発達、学習、生活の主体者であり、主権者として尊重されるべき存在です。

 

提言2 子ども(当事者)の視点に立って考えよう

  • 不登校問題がなぜ起こっているのかを、子どもの視点に立って明らかにしよう。
  • 不登校の子どもたちの学びや発達に対する要求を尊重しよう。
  • 不登校を乗り越えた子どもたちから学ぼう。

 

提言3 今日の学校教育、制度を改めましょう(教育課程・学習指導要領の見直し)

  • 子どもたちの学びたい分かりたいという思いを大切にしよう。
  • どの子にも確かな学力を保障しよう。
  • 子どもたちの主体性を大切にしよう。
  • 子どもの全面発達を保障しよう。
  • 先生が教育に専念できる環境を保障しよう。
  • 子どもと先生が触れ合える時間を保障しよう。

 

提言4 子どもを権利の主体とした新しい子ども観・教育論を確立しよう

  • 子どもを権利の主体として尊重しよう。
  • 子どもを権利の主体とした教育活動、教育実践を家庭、地域で展開しよう。
  • 子どもが学校、地域、家庭で伸び伸びと生活し、活動できる環境を作ろう。

 

 しかし、これらが今すぐ実現するとは、到底望めません。今のような状況がこれからも続くことでしょう。では、私たちは、今をどのように生きていけばいいのでしょうか。今、できることを、気が付いた人から、はじめていきましょう。 一人ひとりが主体者として、主権者として!

 

提言5 誰にでもすぐに実行できること

〈子どもが学校へ行くのをいやがったら、学校へ行かなくなったら〉

  • 学校へ行くか休むか、子どもの気持ちを尊重しましょう。
  • 学校は休んでもいいんです。
  • 家庭を子どもの居心地のいい居場所にしよう。
  • 子どもことは子どもに任せましょう。
  • 子どもの主体性を大切にしましょう。
  • 家庭は、子どもが学び、成長できるところです。
  • 家事はみんなでしましょう。子どもに頼りましょう。
  • 親子で、散歩をしたり、食事をつくったり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 一緒に食事をしたり、散歩をしたり、楽しい取り組みをしましょう。
  • 親の会に参加しましょう。なければ、親の会を作りましょう。
  • みんなで手を取り合い、学び合いましょう。

 

不登校の子どもたちは哲学者だと言った人がいます。ダラダラすることは人間の権利だと言った人もいます。何もしていない時って、実は、次は何をしようかなと考えている時なんですよ。学校に行かないと1日24時間を自分で考え工夫して過ごさなければなりません。何日も何日も。これって、すごいことですよ。安心して学校を休めると、子どもはいろんなことを始めますよ。学校へ行かなくても子どもは成長していきます。そんな子どもをたくさん見てきました。せっかく不登校になったんだから、不登校を楽しんでください。きっと子どものすばらしさを発見できますから。    2023年11月23日 野中博善

 


不登校の真実その5 第3章「不登校対策を問う」

2024-01-10 10:12:16 | 考察

第3章 不登校対策を問う

 

第2章で、文科省の不登校対策の基になっている「問題行動等調査」が不登校の子どもたちの思いと大きくかけ離れていることを指摘しました。第3章「不登校施策を問う」では、文科省の行ってきた不登校対策の有効性、妥当性について考えます。

  • 文科省が行ってきた不登校対策

まず、文科省が行っている不登校対策を見てみましょう。次の資料を見てください。

資料1【文科省による不登校児童生徒への支援、施策】(調査研究協力者会議への提出資料から)

〇教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進

 ・不登校児童生徒の社会的自立に向けた指導・支援を担う「教育支援センター(適応指導教室)の設置の推進            (令和元年度:1,527施設⦅H30:1449施設⦆) 

〇不登校児童生徒を対象とした学校の設置に係る教育課程の弾力化(不登校特例校)

 ・不登校児童生徒を対象として、その実態に配慮した特別の教育課程を編成する必要があると認められる場合、指定を受けた特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成      【特区措置を平成17年7月6日付け初等中等教育局長通知により全国化】

〇教育相談体制の充実

 ・不登校を含め様々な課題を抱える児童生徒への相談体制の強化に向け、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置やSNS等を活用した相談体制の構築を推進

〇指導要録上の出席扱いについての措置等

 ・小・中・高等学校の不登校児童生徒が教育支援センター(適応指導教室)や民間施設など学校外の機関で指導等を受ける場合や、自宅においてICT等を活用して行った学習活動について、一定の要件を満たすときは指導要録上「出席扱い」にできる

【令和元年10月25日付け初等中等教育局長通知(義務教育)】

【平成21年3月12日付け初等中等教育局長通知(高等学校)】

資料2 【文科省通知  令和4年6月10日】

「不登校に関する調査研究協力者会議報告書~今後の不登校児童生徒への学習機会と支援の在り方について~」について(通知)

「令和3年9月より、文部科学省において「不登校に関する調査研究協力者会議」を設置し、今後重点的に実施すべき施策に関する検討を行い、今般、その報告書が取りまとめられました。」

〇教育機会確保法及び基本指針の学校現場への周知・浸透

〇心の健康保持に関する教育の実施及び一人一台端末を活用した早期発見

〇不登校傾向にある児童生徒の早期発見及び支援ニーズの適切な把握のための、スクリ

ーニング及び「児童生徒理解・支援ノート」を活用したアセスメントの有機的な実施

〇不登校特例校設置の推進

〇学校内の居場所づくり(校内の別室を活用した支援策)

〇フリースクール等民間団体との連携

〇ICT等を活用した学習支援等を含めた教育支援センターの機能強化

〇教育相談の充実(オンラインカウンセリングを含む)

〇家庭教育の充実

〇その他

    *学校外における学習活動や自宅におけるICTを活用した学習活動について、一定の要件の下、指導要録上の出席扱いとなる制度について、校長を含め教職員への理解が進むよう、研修等において周知徹底を図っていただくよう、お願いします。

 

 資料1「文科省の不登校施策」と資料2「文科省通知(令和4年6月10日)」から分かるように、文科省の不登校支援は不登校の子どもたちへの相談支援(相談体制の整備)と学習支援(学習の場の確保)の整備が大きな柱になっています

 教育支援センター(適応指導教室)、不登校特例校、ICTを使った学習活動、フリースクール等の民間団体との連携などは学習の場の確保・保障の為です。スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置は、教育相談を行うためです。こうした対策が、ずっと続けられてきました。

 

2023年8月26日の京都新聞に次のような記事が載っていました。(最新の不登校対策)

文部科学省は、空き教室を活用して学校内で不登校児童生徒をサポートする「校内教育支援センター」を拡充するため、新たに設置する自治体に必要経費を補助することを決めた。クラスの中に入れない子どもにも学校内の居場所や学習環境を確保するのが狙い。来年度予算案の概算要求に5億円を計上する。

 

 「校内教育支援センター」は初めて聞く名前ですが、目新しいものではなく、これまでの保健室登校や別室登校などの呼び方を変えたものと言っていいでしょう。

「教育機会確保法」準備段階で考えられていたフリースクール等の学校外での学習の場の保障という構想が頓挫した揚句に出て来た学校内での居場所づくり「校内教育支援センター」が最新の不登校対策のようです。そのために、来年度、5億円かけて全国に広めていこうということです。(1校当たり2万円です)

記事は、各地の自治体が進めている支援についても紹介しています。一人一台配備されたデジタル端末などの情報通信技術(ICT)を活用したり、民間フリースクールのノウハウを取り入れたりして多様な学びの場を確保し、「誰も取り残されない教育」の実現を目指しているそうです。次に挙げるのは各地の「校内教育支援センター」の例です

 ○「ステップセンター」・・・福岡市

 ○「ぱれっとルーム」・・・・埼玉県戸田市

 ○端末ででの支援・・・・・さいたま市         などなど

 「校内教育支援センター」という新しい言葉を使って、新たな取り組み(対策)を装っていますが、従来の対策(別室登校・別室指導など)のコピー・延長です。

2.不登校対策への子どもたちの反応

では、不登校の子どもたちは、これらの相談支援・学習支援をどのように受け止め、どのように利用しているのでしょうか。次の資料を見てください。学校内外の施設や機関を利用した小中学生の人数です。

資料3「相談・指導を受けた学校内外の機関等」(文科省・「問題行動等調査」から抜粋)

相談・指導を受けた学校内外の機関等

小学校(人)

中学校(人)

合計(人)

教育支援センター(適応指導教室)

7283

17926

25209

教育委員会所管の機関

8516

9237

17753

児童相談所・福祉事務所

4443

6530

10973

保健所・精神保健福祉センター

592

744

1336

病院・診療所

12302

21981

34283

民間団体・民間施設

4021

5108

9129

上記以外の機関

1943

2810

4753

養護教諭

15051

28476

43527

スクールカウンセラー・相談員等

30716

54700

85416

相談・指導を受けていない

26943

61997

88940

 

次の資料4は、不登校の子どもたちが、不登校になり始めた頃に誰に相談したかを尋ねたものです。文科省が不登校当事者を対象に実施した「実態調査」を基に作成しました。

資料4 不登校になり始めた時に相談した相手」

相談した相手

小学生%

中学生%

学校の先生

13.3

15.0

保健室の先生

7.7

6.9

学校にいるカウンセラー

8

7.4

友達

7.6

10.6

家族

53.4

45.0

電話相談やSNS相談の相談員

0.4

1.4

その他

3.2

3.2

誰にも相談しなかった

35.9

41.7

無回答

2.7

3.6

 

 

 

 

 

 

 相談・指導施設や機関には、医療機関をはじめ保健室の先生、スクールカウンセラーなど様々な施設や機関が列挙されていますが、ここでは、主に学習支援をしている「教育支援センター(適応指導教室)」やフリースクールや塾などの「民間団体・民間施設」と相談活動を主な内容としている「相談施設・機関」とを分けて考えることにします。

○相談施設・機関の利用

 子どもたちが、もっとも多く利用しているのはスクールカウンセラーです。その次に多いのは養護教諭です。スクールカウンセラーは子どもや親の心理的ケア―のために配置されていて相談しやすいのでしょう。また、保健室は教室に居づらい子どもたちの避難場所でもあり、養護教諭は体や心の悩みを話しやすいのだろうと思われます。

 次に多いのは、「病院・診療所」です。子どもが学校に行きにくくなった時、子どもたちの多くは朝、起きられないこととか、身体の不調を訴えることがあります。そんな時、親は、子どもの体を心配し病院へ行き、診察してもらうのは自然な成り行きです。相談機関の利用状況からは、子どもの心身の状況を心配し病院を受診する親の様子がよく分かります。また、養護教諭やス相談クールカウンセラーが子どもたちの身近な相談相手として活躍しているのが伝わってきます。

 児童相談所や保健所、福祉事務所あるいは教育委員会・教育センター所管の機関等は、通常、学校のすすめがあって相談を申し込むので、自ずと利用者数は限られてくるのでしょう。

 ○支援施設・機関の利用

 文科省が不登校対策として力を入れている「教育支援センター(適応指導教室)」は、相談機関というよりも学びの場あるいは居場所としての支援機関と言えるでしょう。その利用状況は、小学生7283人(8.9%)、中学生17926人(10.1%)です。

 同じく民間の支援施設・機関としてフリースクール等がありますが、その利用状況は、小学生4021人(4.9%)、中学生5108人(3.1%)です。

 二つの施設・機関の利用者を合わせると、小学生11304人(13.8%)、中学生23034人(14.1%)、合計34338人(14.0%)です。

 しかし、支援機関の利用が、不登校の子どもたちの数に対してわずか14%で、「教育支援センター」だけでは一割程度に過ぎません。つまり、不登校の子どもたちのほとんど(86%)が、支援施設や機関を利用していない、または、利用できていないのです。このことは、文科省が特に重点を置いて進めてきた不登校対策が、不登校の子どもたちの為に、ほとんど役に立っていないことを物語っています。

さらに、不登校の子どもの三人に一人が、誰にも、何処にも、「相談・指導を受けていない」ことと併せて考えると、多くの不登校の子どもが支援の枠外に置かれていることが分かります。

不登校対策において、「誰も取り残されない教育」という文言が使われていますが、不登校の子どもたちのための不登校対策が子どもたちの手に届いていないことが「問題行動等調査」から分かります。

 

(2)「実態調査」から分かること

次に、「実態調査」を見てみましょう。「実態調査」には、不登校の子どもたちがどのような支援を望んでいるかを考える興味深い調査があります。それは、①不登校になり始めた時に「相談した相手」を尋ねているもの、さらに、②「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」や ③どうすれば「学校に戻りやすいと思うか」などを尋ねたものです。

それらを見て、考えてみましょう。ただ、ここでも、「問題行動等調査」との乖離があります。そのことを念頭に調査結果を見る必要がありますが、不登校の当事者の行動や思いが反映されている点では、対策や支援を考える上で貴重な資料と言えるでしょう。

 

不登校になりかけた時、子どもたちが相談したのは「家族」です。小・中学生ともに半数が家族に相談しています。子どもの一番身近な存在で、一番かかわりの深い家族が一番の相談相手になることは至極当然なことでしょう。それに続くのは、「学校の先生」(小学生13.3%、中学生15.0%)です。先生は子どもにとって家族に次ぐ身近な存在であり、先生にとっては教え子であることからも、家族同様に身近な相談相手となるでしょう。「家族」も「学校の先生」も相談機関ではないから「問題行動等調査」には表れませんが、子どもにとって大切な相談相手であることが分かります。ただ、「学校の先生」の割合が親に比べても少なすぎるのは気がかりです。

次に子どもたちが相談したのは、「友達」、「学校にいるカウンセラー」、「保健室の先生」です。この三者には、それぞれ7~8%の子どもたちが相談をしています。

「実態調査」では、「学校にいるカウンセラー」や「保健室の先生」に相談した子どもの数は、「問題行動等調査」に表れた程には多くないようです。これは、子どもたちが保健室に行くのは、相談するというよりも、教室からの避難、休憩場所として行っているからではないかと推測できます。また、カウンセラーへの相談は、自分から進んでするというよりも先生や親から進められて相談に行くことが多いからではないかと思えます。

この調査からは、子どもにとって「家族」や「学校の先生」、そして、「友達」は、やはり、身近で、かかわりが深く、頼りにしている存在だということが分かります。

しかし、「実態調査」からも、小学生の35.9%、中学生の41.7%もの子どもたちが、誰にも、何処にも相談しないで、指導も受けていないことが分かります。これほどの子どもたちが、いわば、一人で問題を抱え、悩んでいるのです。調査結果に大きな乖離のある「問題行動等調査」と「実態調査」ですが、この点だけは一致しています。

 

ここでは、不登校になりかけた時、どのような働きかけや支援があったら学校に通えたかいうことを尋ねています。

 どのようなことあれば不登校にならなかったのだろうと期待を持って見たのですが、驚いたことに、「特になし」と答えた子どもが小学生55.7%、中学生56.8%もいたのです。半数以上の子どもたちが働き掛けや支援を望んでいないか、あるいは、期待していないのです。

「特になし」とは、たとえ、何らかの支援や働き掛けがあったとしても、不登校になっていただろうし、不登校になるのを防ぐ術や手立てはなかっただろうと言っているのでしょう。多くの子どもたちがこのような思いを持っていることを、強く受け止めなければなりません。

しかし、一方、少なくない子どもたちが、家族や友達、先生など、身近な人たちからの働きかけや、「個別に勉強を教えてもらえること」を期待し、拠り所としていることも分かります。ここに一縷の光を見る思いです。

資料5 「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」

 

小学生%

中学生%

学校の先生からの声かけ

11.4

8.7

学校にいるカウンセラーと話をすること

4.8

6.2

友達からの声かけ

15.1

17.4

家族からの声かけ

8.6

6.7

学校以外の相談窓口(市の相談センターなど)に行くこと

2.7

1.5

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.4

1.7

クラスとしての活動、文化祭、運動会などに参加すること

5.0

4.8

部活動などに参加すること

2.2

4.3

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

9.3

9.1

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.5

2.5

その他

8.4

9.9

特になし

55.7

56.8

無回答

4.1

3.5

 

3)どういう支援や働き掛けがあれば学校に戻りやすいか

 【小学生】

先生の家庭訪問

4.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

4.1%

学校にいるカウンセラーと話をすること

5.0%

友達からの声かけ

17.1%

家族からの声かけ

8.3%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

2.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.1%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

10.7%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.2%

特になし

57.1%

無回答

5.9%

【中学生】

先生の家庭訪問

6.2%

先生とインターネットや電話で話すこと

3.9%

学校にいるカウンセラーと話をすること

7.1%

友達からの声かけ

20.7%

家族からの声かけ

7.5%

学校以外の相談窓口(市の相談センター等)に行くこと

1.4%

学校以外の相談窓口に電話やSNSで相談すること

1.9%

個別で勉強を教えてもらえること(学校以外も含む)

13.4%

自分以外の家族への働きかけや手助け

2.7%

その他

5.1%

特になし

54.4%

無回答

5.6%

次は、不登校状態にある子どもたちに、どういう支援や働き掛けがあれば学校に戻れるかを、を尋ねたものです。資料を見て分かるように、先の「どのようなことがあれば学校を休まなかったか」と同じような傾向を示しています。ここでも「特になし」が突出していて、小学生の57.1%、中学生の54.4%と半数以上を占めています。

学校に戻るために「友達からの声かけ」(小学生17.1%、中学生20.7%)と「個別で勉強を教えてもらう」(小学生10.7%、中学生13.4%)ことを少なくない子どもたちが望んでいることが分かります。ここでも、友だちの存在、友だちとの関りが子どもにとっていかに大事かが分かります。そして、勉強が分かることも学校に戻るための重要なことであることも。

他にも、「先生の家庭訪問」、「先生と話すこと」、「先生からの声かけ」や」カウンセラーと話すこと」など先生やカウンセラーとのかかわりを望んでいる子どもたちもいます。

4)学校を多く休んだことに対する感想

  小学生

もっと登校すればよかったと思っている

25.2%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

12.8%

しかたがなかったと思う

16.8%

何も思わない

18.1%

分からない

21.2%

無回答

5.9%

中学生

もっと登校すればよかったと思っている

30.3%

登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う

10.3%

しかたがなかったと思う

15.3%

何も思わない

15.2%

分からない

22.6%

無回答

6.4%

この設問は、不登校の子どもたちが学校を休んだこと、不登校になったことをどのように受け止めているかを尋ねたものです。不登校の当事者が不登校をどう認識しているかを知ることができます。ただ、この問いに答えているのは、不登校只中の子どもたちですが、教育支援センター(適応指導教室)通えている子どもたちです。家から出ることができない子どもに比して、教育支援センターに通えるだけ不登校の状態としては良好な状況にあると言える子どもたちが答えているということを念頭に置いて調査結果を見るといいと思われます。

  • 「もっと登校すればよかったと思っている」子どもたちは、小学生25.2%、中学生30.3%です。
  • これに対して、「登校しなかったことは、自分にとって良かったと思う」と不登校を肯定的に捉えている子どもたちは、小学生12.8%、中学生10.3%です。
  • また、「しかたがなかったと思う」というように不登校になったのは避けられなかったと感じている子どもは、小学生16.8%、中学生15.3%です。
  • そして、「分からない」と回答したのは、小学生21.2%、中学生22.6%です。不登校只中で、この先どのようになっていくか分からず、自らの不登校をどう評価するか判断できない状況の中で「分からない」という回答は、子どもたちの不安な心情を素直に表しているのかもしれません。

 不登校に対する子どもたちの評価は様々です。不登校を否定的に捉える子もいれば、不登校を肯定的に捉えている子もいます。そして、しかたがなかったと不登校を必然と捉えている子もいます。不登校の子どもたち一人ひとりが、それぞれ、学校に行けない状況の中でも自分を見つめ、自分の思いや考えを育てながら、不登校の時を過ごしていると捉えるの妥当かも知れません。

 

3.子どもたちが利用していない不登校対策

(1)子どもに響かない不登校対策

以上、不登校の子どもたちの不登校施策の利用状況を見てきました。そこから分かることは、施策を利用できているのは限られた子どもたちであって、多くの子どもたちは施策と無縁の状況にあるということです。つまり、不登校施策が子どもたちの状況に合っていないということです。

  • どの相談施設・機関にも相談していない小・中学生が88931人((36.3%)もいる(問題行動等調査)こと。これは、「実態調査」の「誰にも相談しなかった〈小学生35.9%、就学生41.7%〉に符合しています。
  • ア.「どのようなことがあれば休まなかったと思うか」、イ.「学校に戻りやすいと思う対応」(実態調査)に対して、半数以上の子どもたち(アは小学生55.7%、中学生56.8%、イは小学生57.1%、中学生54.4%)が「特になし」と答えています。
  • 学校以外での学びの場である「教育支援センター(適応指導教室)」の利用は、小学生7283人(8.9%)、中学生17926人(10.1%)、小・中学生合わせて25209人(小・中学生の10.3%)です。
  • 民間団体、民間施設の利用は、小学生4021人(4.9%)、中学生5108人(3.1%)、小・中学生合わせて9129人(小・中学生の3.7%)です。

文科省の不登校施策の大きな柱である学校外の支援施設・機関③「(教育支援センター

(適応指導教室))」と④「民間団体、民間施設」を利用している子どもは、小・中学生34338人で全体の14.0%です。

文科省の不登校対策は、相談・支援体制と教育保障体制の整備が大きな柱ですが、これが施策の実情です。不登校対策は有効でないと言えるでしょう。 

(2)それでも続けるあの手この手(その場しのぎの対策)

 さらに、文科省が近年、特に力を入れている不登校特例校などについて見ておきましょう

夜間中学校や不登校特例校の設置は、近年、文科省が力を売れて進めている対策です。夜間中学校は、学び直しの場として、中学校を卒業した後も利用することができます。資料がなく、詳しくは説明できません。

不登校特例校は、不登校経験者を対象とした人たちが通える学校で、小学校、中学校、高校で、現在、全国で10自治体にあり、21校が指定されています。その内訳は、公立が12校、私立が9校です。2022年5月現在、小学校1校、中学校15校、高校3校、その他2校です。利用者数などの資料がありませんので、詳しいところはわかりません。(ちなみに、2016年1月時点で、小学校1校、中学校6校、高校2校あり、在籍者数は729人でした。中学校は9校、高校は1校増えているので、在籍者数も学校数に合わせて増えていると思えます。)

不登校特例校や夜間中学校は、設置に積極的な自治体や学校法人に集中しているようで、全国的に一般化していると言えるような状況ではないようです。

このほかに、学校以外の学びの場としてフリースクールがあります。2019(令和元)年の調査では、フリースクール252、親の会10、学習塾10、その他79、計351のフリースクールが存在しているそうです。(その他とは、特色ある教育を行う施設などを言うそうです)

また、教育委員会と連携している民間の団体や施設が351あります。2021年度の「問題行動等調査」によると、その利用者は、小学生4021人、中学生5108人で、合計9129人で、小学生の4.9%、中学生の3.1%、小・中学生の3.7%が利用していることがわかります。

夜間中学校、不登校特例校に力を入れている背景には、フリースクールなどの学校以外の学びの場を認め、広げようとした「教育機会確保法」で、その柱だったフリースクールが、自民党内の保守勢力の反対で認められなかったという事情があります。だから、文科省は、学校以外の学びの場を躍起になって探しているように映ります。

不登校の急増を受けて、2023年3月31日、文科大臣は緊急対策を打ち出しました。①端末を利用した早期発見 ②不登校特例校の設置 ③オンライン学習を内容とする不登校対策です。(しかし、これは、2022年6月に出した「不登校対策」のコピーでしかありません。)

そして、2023年8月26日、クラスの中に入れない子どもにも学校内の居場所や学習環境を確保することを狙いとして、「校内教育支援センター」を作るために、来年度予算案の概算要求に5億円を計上すると発表しました。

  • 情報通信技術の活用
  • 不登校特例校
  • 校内教育支援センター

これらが、現在、文科省が推し進めている不登校対策の柱です。果たして、不登校の子ど

もたちがどういう反応を示すのでしょう。

 「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ということわざがありますが、ただ、むやみやたらにやってみても、不登校問題の本質が分からないでは、どんな手を打っても効果は期待できないでしょう。何よりも、不登校の子どもたちがせっかく声を上げたのに、聞こうともしない有識者・「協力者会議」に不登校問題の本質は理解できないでしょう。そして、まともな対策が考えられるはずもありません。

 また、不登校の子どもが30万人になったというのに、未だに子どもや親にその原因を押し付け、条件・環境整備もしないまま「学校以外の場で学んでもよい」というのは、荒海に赤子を放り出すようなものではないでしょうか。不登校の子どもを切り捨て、見捨てる教育政策が現在、進んでいると言えるでしょう。