確か中島みゆきさんだったと思う。
「昔はアルバム丸ごとが作品だと思って、そういうものを作っていたけれど、仕事で疲れて帰ってきたお父さん達に、アタマから1時間、通して聴けっていうのは酷だと思うようになった」といったようなことをラジオで喋っていたのは『地上の星』が流行った頃だったか。
こんな話を思い出したのは、今月発売になった馬場さんのニューアルバム『キャンディー工場』を聴いたから。
オリジナルアルバムなのに二枚組。
ベスト盤ではよくあるけれど、オリジナルの二枚組って、私のそれなりに長い邦楽の歴史の中でもちょっと記憶にありません。
全31曲。「アタマから1時間」どころか、収録時間は軽く2時間超えの大作です。
2時間ですよ、2時間!軽く映画一本分ですが、聴き終わった後は本当に映画を見たような気分でした。
今の時代に逆行するような長尺ですが、それでもこれはアタマからじっくり、この曲順で聴いて欲しい。そんな一枚です。
私は昔からオリジナルアルバム至上主義なところがあるので、先述のみゆき嬢の話も、なるほどなぁと思いつつも少し寂しく思っておりました。 娯楽が増えて慌ただしくなる一方の現代では、手っとり早いベスト盤が売れるのはやむを得ない。けれど、やはりアーティストにはオリジナルアルバムにこそ力を入れて欲しい。その一枚で、聴く者の想像力を掻き立てるようなアルバムを。
今という時代の中で、馬場俊英はそういう『作品』作れる希有な作家なのかもしれません。
相変わらずこの人の「文章力」には脱帽。(あ、以前にも書きましたね、この話)
音楽アーティストに対して「文章力」を誉めるのもどうかとは思いますが、本当に、たいしたストーリー・テラーです。
どこにでもあるの街の、普通の人々の暮らしのメタファーとしての”キャンディー工場”。
『平凡』も『弱い虫』も『ラーメンの歌』も。
優しいボーカルとカッコ良いロックサウンドという包み紙に包まれた”キャンディー”は、どれもどこか懐かしい味わいで、ごく普通に生きていくことの大切さ、ほろ苦さをしみじみと感じさせてくれました。
”洗練”という意味では前作の『HEATBEAT RUSH』には及ばないものの、今回の『キャンディー工場』にはそれを補って余りある”勢い”がありました。馬場さん、ノッてるな。そんな感じ。
12月、フェスティバルホールでのライブが今から楽しみです。
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