YOSHIの果てしない旅(人々との出会い、そして別れ)

ソ連、西欧列車の旅、英国滞在、欧州横断ヒッチ、イスラエルのキブツ生活、シルクロード、インド、豪州大陸横断ヒッチの旅の話。

ロンドンを間もなくして去るその日々~2階のマリアンと知り合う

2021-11-07 07:20:47 |  「YOSHIの果てしない旅」 第6章 ロンドン滞在
                       △2階に住んでいたマリアン ワッツ

・昭和43年11月7日(木)雨後曇り(2階のマリアンと知り合う)
 昨夜、私はシーラ、そしてシーラの友達のジャネットと別れて来た。真っ直ぐにアパートへ帰れない状況であったので、いつものパブに立ち寄り、それから帰った。  
 あれ程に会いたかったシーラと昨夜別れ、今日は寂しさが余計に感じていた。私は既にロンドンに滞在している意義を無くしていた。そして今、雨が降っているので1人部屋に居ると余計に憂鬱であった。部屋の電気を点けないと、まるで夜の様に暗かった。その様な状況で今日、私は朝から居たたまれない感じに襲われていた。
 ロンドンでしなければならない大事な用事も無ければ、観光も殆んど終ったし、行って見たい所も特に無かった。2・3の用事を済ませば、後はロンドンを去るのみであった。楽しかった事、面白くなかった事が頭の中を駆け巡っては消えた。孤独、寂しさ、そして今後のシンガポールまでの旅の事を思うと、胸が押し付けられる思いであった。と言うのは、そこまでどの様なルートで行けばよいのか。いくらお金があれば足りるのか。中近東は日本やヨーロッパと違って価値観、習慣や風習も異なり、全く私にとって未知の世界であった。そして国によって情勢が不安定な所もあるのだ。それらの事を思うと私の精神状態は、パンク状態でここ何日か、ぐっすり寝られない夜もあった。
 部屋の中でじっとしていられない状態なので、早々2・3の用事を済ませる事にした。先輩のOさんから借りたトランクを、「必要になったので送り返してくれ」と先日手紙が来た。トランクは重く、持ち運びが大変でヒッチの旅に不向きであった。その様な事で代わりに、リックを既に買ってあった。用事の1つとして、まず手始めにトランクを荷造りして、船便で送る為に郵便局へ行った。
 私は日本で6月にコレラの予防接種をしたが、免疫力期間は6ヵ月間であるので、後1ヶ月で切れる。これからコレラが発生し易い地域、衛生観念が低い国へ行くので是非、予防接種しておく必要があった。そんな理由で郵便局へ行った後、近所の病院へ行ったら、「ここではコレラの予防接種はやっていない」と言われ、キングス クロスの方の病院を教えて貰った。そこへ行ったら先生は不在で、しかも今度コレラ予防接種をする日は、11月28日であると言うのであった。私は、「その日まで待てない」と言ったら受付の女性は、マービル アーチの方の病院を教えてくれた。その足で直ぐにその病院へ行ったら、「午前中で終った」と聞かされ、ガッカリして部屋に戻って来た。
 自分で作った貧しい昼食(ジャガイモ、パン、コーヒー)を、今日も1人で食べた。いつものように変わらない食事であったが、今日は一段と味気ない、そして侘しい食事であった。
 2・3日前、ウェールズのダディから、「ロンドンを去る前に、良かったらもう1度来なさい」と再招待の手紙が届いた。私自身本当はもう一度行って見たかったが、色々な事を考えると難しいのであった。それにウェールズを充分楽しんだので、これ以上の望みは無かった。午後、ダディの再招待の返事と共に、ウェールズ滞在中お世話になったお礼の手紙を書いて過ごした。ダディへ手紙を書いていたら、自然と涙が出て来てしまった。
 夜の8時頃になったら、もうどうする事も出来ない状態になってしまった。誰かと話がしたかった。話をしないと気が狂いそうな感じがした。昨日の火事騒動で2階に女性が住んでいる事を、私がここに9月22日に住んで以来、初めて気が付いた。そして今夜はその部屋から明かりが漏れて、彼女は部屋に居るようであった。私は彼女と話がしたい、友達になりたい、とそんな衝動に駆られてしまった。『迷惑がられたら、或は、断られたら如何しよう』と思いつつも、彼女に縋る想いでドアをノックした。彼女はドアを開けてくれた。
「Now I ‘m very lonely as I haven’t friends in London . If you don’t mind , please talk to me about something (私はロンドンに友達がいないので、今とても寂しいのです。宜しければ、話し相手になって頂きたいのですが)」と救いを求めるように彼女に言った。彼女は快く私を部屋に招き入れてくれた。10畳程度の細長い部屋で、私の部屋の方が広い感じがした。色々な写真や小物類で部屋は飾られ、まさしく女の子の部屋の感じであった。何も無い殺風景な私の部屋と違って、人が住んでいる、女の子が生活している感じがする部屋で、ここに居るだけで癒される感じがした。
彼女は私の為にコーヒーを煎れてくれた。彼女の暖かい心が伝わってくるようで、私の寂しさが和らぐ思いであった。彼女の名前はMarian Watts(マリアン ワッツ)、美人だし素敵な女性で私より2つ若かった。彼女の仕事は馬の獣医で、話から仕事に対する熱意が感じられた。マリアンはダンディーな中年紳士と撮った写真を私に見せて、昨年行ったアムステルダム旅行の話をしてくれた。私も今回の旅行で撮った写真を部屋から持って来て、それらの写真や旅の事について話をした。
 私が、「11月11日(月)に、ヒッチでドーバーに向けてロンドンを去る」と言ったら、マリアンは、「仕事を休んでドーバーまで送りますよ」と言ってくれた。マリアンの気持が嬉しかった。本当は送って貰いたかったが、断った。だって今日初めて話をした間柄なのに、わざわざ仕事を休んで私の為に送ってくれるのは、余りにも申し訳ないからであった。でもマリアンがその様に言ってくれただけで私は本当に嬉しく、満足であった。
 如何してもっと早い時期にマリアンと知り合えなかったのであろうか。もっと早く知り合っていれば、私のロンドンの生活はもっと楽しい日々であったかも、と思うと、残念でならなかった。私達はお互いの写真と住所を交換し、そして文通の約束をした。私は彼女の部屋を出た。気持はもうスッキリ晴れていた。

   
   △アムステルダムにてのマリアンと素敵な中年男性とのワンショット



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2 コメント

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古き良き時代 (chorus-kazeアッコ)
2021-11-07 12:17:47
初めてコメントさせて頂きます。
イギリス滞在記を読ませて頂いて
私はロンドンのこともよく存じませんが
昔の良き時代のイギリスの風情が感じられて
白黒の映画を観るような感じがしています。
これからも続きを楽しみにしております。
chorus-kazeアッコ
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chorus-kazeアッコさん、コメントありがとうございます。 (nakayoshinotabi)
2021-11-07 16:58:24
 私の若い頃の旅の出来事を日記に書き留めていました。稚拙な文章ですが、当時の出来事を忠実に再現してブログに投稿しました。これからも旅は続きますので、ご愛読して楽しんで頂ければ幸いです。本日は有難うございました。
                  from Yoshi
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