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拾い読み★2016-106≪コラム記事≫

2016年04月15日 20時09分31秒 | マリーンズ2016
柳田悠岐の鋭いゴロをアウトに ロッテが採用した「柳田シフト」に迫る

ロッテが柳田の打席で見せた守備シフト

 4月7日、ヤフオクドームで行われたソフトバンク-ロッテ、1回裏柳田悠岐の第1打席。昨季のMVPはロッテのエース涌井秀章が投じた初球のカーブをフルスイングでとらえた。打球は強烈なゴロとなり、二塁ベース脇を通過。センターへ抜けようとしたところ、二塁後方で待ち構えていた遊撃手・鈴木大地が華麗に捕球。一塁に送りアウトにしてみせた。実況が「完璧な当たり」と表現するほどのスピードの打球をだ。

 テレビ中継を見ていた人は違和感を覚えたはずだ。3回の柳田の第2打席では、まるで二塁走者がいるかのように、センターカメラは遊撃・鈴木の後頭部を映し続けた。中継も異変に気づき、内野全体のポジションを映すカメラに切り替えた。ロッテが「柳田シフト」をとっているのは明らかだった。

 近年MLBでは極端な守備シフトが大流行している。左打者に対し、遊撃手を従来の二塁手の定位置に守らせたり、二・三塁手を右翼手の前に配置しているのを見たことがある人もいるはずだ。

 3月に出版された『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』(KADOKAWA刊/トラヴィス・ソーチック著/桑田健訳)では、MLBの弱小球団、ピッツバーグ・パイレーツが強者に対抗する戦術の1つとして、大胆な守備シフトを導入し、躍進を遂げた様子が描かれている。

 守備シフトの信頼できそうな記録に基づく起源は、1946年までさかのぼる。MLB最後の4割打者、テッド・ウィリアムズの圧倒的な打棒に対応するため、クリーブランド・インディアンスの監督、ルー・ブードローは野手を極端にライト側に寄せる作戦をとった。この作戦は、のちに「テッド・ウィリアムズ・シフト」や「ルー・ブードロー・シフト」と呼ばれることとなった。日本でも王貞治に対して野手を一塁側に寄せた「王シフト」が有名だ。


なぜ左打者に対してシフトが敷かれやすいのか、右打者との違いは?

 現在、「テッド・ウィリアムズ・シフト」が敷かれやすいのは、左の強打者に対してである。なぜ左打者に対してこの作戦がとられやすいのだろうか。左打者の打球がどういった方向に飛びやすいかの傾向を見てみたい。


 まずゴロである。左打者のゴロはセンターからライト方向に飛ぶことが非常に多い。いわゆる「引っ掛けた当たり」である。グラウンドを3等分してみても、センター、ライト方向へそれぞれおおよそ40%飛ばしているのに対し、レフト方向への打球は20%を切っている。

 一方、フライになると逆方向、つまりセンターからレフト方向へと飛ぶことが多い。ゴロの時40%ほどだったライト方向への打球が20.8%に半減している。

 どうやらゴロとフライは打球方向の傾向に真逆の性質をもっているようだ。ちなみに右打者も、引っ張り方向にゴロが多く、フライはその逆という傾向が見られる。左打者は内野安打狙いの走り打ちをする打者がいるためか、右打者のほうがこの傾向が強かった。

 それにもかかわらず右打者にこの守備位置を動かす作戦がとられにくいのは、一塁手がベースから大きく離れるのが難しいからだろう。また内野手をレフト方向に大きく寄せ、捕球させたとしても、一塁までの距離が遠くなり、アウトにする困難さが増すことが関係しているのかもしれない。


「柳田シフト」はさらに極端であるべき

 柳田の打球傾向はどうだろうか。柳田のゴロはレフト方向から11.0%、38.5%、50.5%と最初のイラストで紹介した一般的な左打者以上に極端な引っ張り傾向が出ている。もちろん三塁線寄りのスペースへのセーフティバントを無視することはできないが、わずか11.0%のゴロのためにレフト方向に多くの内野手を配置する必要性は低いはずだ。



 2つめのイラストに、ロッテが柳田に対してとったポジショニングを示した。遊撃手がレフトからセンター方向に移動しているほか、全体的に打球が飛びやすいライト方向に寄っているのがわかる。守備の目的はより多くのアウトをとり、失点を防ぐことである。より打球が飛びやすいところにポジションをとるのは理にかなっている。

 しかし、このロッテのシフトも、柳田の打球傾向からすればまだ十分とはいえない。イラストで黄色く示しているのは、2015年に柳田が最もゴロを飛ばしたゾーンである。ロッテの「柳田シフト」ではこの打球へ対応しきれないのではないだろうか。二塁手をさらに右に寄せ、右翼手の前に配置するような「テッド・ウィリアムズ・シフト」をとって良いのかもしれない。


「柳田シフト」を採用し、ゴロアウト率を高めよ



柳田はホームランを30本以上打つにもかかわらず、非常にゴロが多い打者である。また野手の間を簡単に抜いてしまう打球の速さに加え、平凡な内野ゴロをセーフにしてしまう一塁到達のスピードも兼ね備えている。

 三振が極端に少ないコンタクトヒッターでないにもかかわらず、昨季.363もの高打率を記録した背景には、普通の打者ならアウトになる確率の高いゴロを、打球の速さと俊足で安打にしてしまうゴロアウト率の低さがあった。運の影響が大きく、長期的には普通の打者は3割前後で推移するBABIP(Batting Average on Balls In Play:本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合)が3年連続4割前後の数字になっているのもこの影響が大きいと思われる。

 今季、開幕から成績が伸びずに苦しんでいた原因は、ゴロアウト率の高さにあった。ただでさえゴロが多い柳田である。これだけのアウト率となると成績が低下するのも当然だ。現状の数字は相当に不運としかいいようがなく、今後数字は回復していくだろう。ただその中でも対戦球団はこの数字を高く維持していかなければならない。そのための戦術が「柳田シフト」である。

 守備シフトはなにも柳田ほどの強打者だけにとられるべきものではない。引っ張り傾向の強い打者に対するときは考慮すべきだ。

 現状、日本球界には左のプルヒッターが少なく、例として挙げられる選手は少ないが、巨人の阿部慎之助は引っ張り傾向が非常に強い。またスピードに欠けるため内野手は深い守備位置をとることができる。シフト採用を推薦したい打者だ。

 右打者では阪神のマット・ヘイグ、楽天のジョニー・ゴームズ、ヤクルトの山田哲人らに非常に強い引っ張り傾向がでている。極端とは言わずとも多少のポジショニングの変化は見せてもいいはずだ。


DELTA プロフィール

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~4』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート5』を2015年5月25日に発売予定。集計・算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』(http://1point02.jp/)もシーズン開幕より稼働中。

【了】

DELTA●文 text by DELTA


(ベースボールチャンネル)
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