「ゲッツー崩しスラ」は問題なしか否か/里崎評論
元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。7回目は、負傷者が出た二塁ベース上での「ゲッツー崩しスライディングは問題なしか否か」について検証する。
◇ ◇
【状況】3日の日本ハム-ソフトバンク戦(東京ドーム)でソフトバンク川島慶三内野手が、二塁上のクロスプレーで負傷退場した。ソフトバンクが1点リードの6回の守り。無死一、三塁で中田の三塁ゴロを処理した松田が二塁へ送球。ベースカバーに入った二塁手の川島と一塁走者の田中賢が衝突した。田中賢のスライディングは二塁ベースの前で捕球した川島に向かっていたが上半身でベースをつかんでいた。
その後、川島は病院で再検査を受け「右下腿(かたい)打撲、前距腓靱帯(きょひじんたい)および踵腓(しょうひ)靭帯損傷」と診断され、患部を3週間固定し全治未定。ソフトバンクはパ・リーグ連盟に「意見書」を提出した。意見書の内容は危険走塁の基準を示すことや、本塁のコリジョン(衝突)ルール説明時に二塁も危険な場合は警告を出すといった話の確認、本塁以外でもビデオ判定を行うよう求めた。
◇ ◇
ルールは全員に平等ではない。ある人が得をすると誰かが損をする。しかし、スポーツはルールで成り立っている。
田中賢のスライディングは川島がけがをしたから問題になっている。けが人が出ていなかったら問題になっていないと思う。
ファン心理を鑑みるとひいき球団があるため、好きな球団のプラスになる話とならない話に分かれ一喜一憂だが、許せない話を批判してもルールで問題なしと判定されれば仕方がない。最後は審判が決めるだけに判定が下されれば、どうしようもないのが現状だ。
選手の立場で言うとルールの範囲内でチームを勝利に導くのが当然の仕事。ルールにのっとり全力プレーする。最初から相手にけがをさせようとは誰も思っていない。
かつてこのコラムでも話をしたが本塁上のクロスプレーで私も肋骨(ろっこつ)を骨折した経験がある。しかし、誰も責められないし、どうしようもない。けが撲滅に向かうなら、ルールを変えないといけない。
工藤監督は選手を守りたかったのだと思う。コリジョンルールもそうだが、ベンチの全員が1から10まで把握しているわけではない。どこまでOKか否か。工藤監督の許容範囲と二塁でのクロスプレーが不一致だったから抗議した。工藤監督の判断基準では許せなかったし、審判の基準は問題なしだった。
ルールはあるにせよ、問題なしとした明確な基準が、そもそもあるのか。騒動が起きた後、塁審がマイクを持って説明した。
工藤監督から危険行為があったのではと異議申し立てがあったが、判定通り1死一塁から試合を再開するといった説明。肝心な説明責任が割愛され、とうてい納得できるものではない。
これまでもあいまいなルールが存在してきた。
投手の2段モーションがある。05年ごろからスタートし、当時の岩隈やハマの番長でも指摘を受け、苦労していた記憶がある。しかし、当時の規定なら今の投球でバツになる投手もいるのではないかと思う。判断基準が、当初と違ってもいいのだが、説明もない。そこが1番問題だ。
ストライク、ボール、アウトはまだ分かりやすい。ビデオ判定も本塁打判定もある。ルールは厳密にしなくてはいけない。
02年には新ストライクゾーンがあった。ストライクの高さの上限をベルト付近から胸元付近まで取るという内容だったと思う。現在、新ストライクゾーンはどうなっているのか。知らない間になくなったのか? やめるなら、やめると言ってほしい。
今季、コリジョンルールで進路妨害に見えた場面でのセーフ判定もあったように思う。選手、チーム、ファンでも、見ている人が分かりやすいようにしてほしい。それがルール。誰もが分かりやすい同じルール下で試合観戦して楽しむのが野球は1番だと思う。
話を本筋に戻そう。これまで球界に「ゲッツー崩し」はなかったのか、いや何度もあった。
けがしたから問題にするではない。ダメなものはダメ。もっと審判は説明する必要がある。説明責任は審判には必要だ。
時代に合うもの、合わないもの、野球を見る人にとってよりよいものに変えていく姿勢があれば変更があってもいい。野球が進化していく過程で、合わなくなってきたルールを廃止する話はあって当然だから。
勝つために最善のパフォーマンスを見せるのが選手の使命。そんな中で田中賢と川島はお互い最善のプレーをした。しかし、けがをしたことでこじれた。彼らにそんな気なくても“因縁”めいたものに見られてしまっては、当事者がかわいそうな気がする。
人間の秩序を保っていけるのは法律があるから。スポーツで法律に当たるのがルール。プレーを批判するよりルールの明確化が最優先だと思う。
ルールブックにあるルールでは、田中賢のスライディングは問題ない。だが、審判はこういう理由で問題ないと具体的に説明することが必要だと思う。両チームが今後“報復合戦”になると誰のプラスにもならない。
時代が違うと言えばそれまでだが、過去には「ゲッツー崩し」が称賛されたケースもあった。
北京五輪アジア予選で勝ったら北京切符、負けたら最終予選に回らねばならない台湾戦。1点ビハインドの試合中盤、無死一、二塁で私が投前にバント。犠打が強すぎたため投手は三塁へ送球。代走の宮本慎也さんがハードなスライディングでセーフになった。相手の三塁手は顔をゆがめて痛んだ。その後、スクイズあり、タイムリーありでビッグイニングとなり勝利。相手を負傷させた宮本さんの気迫のスライディングは称賛された。
「ゲッツー崩し」がダメなら、あのプレーも厳密に言えばアウト。選手は相手にけがさせようとは思っていないし、ルール的にOKなら最善のパフォーマンスを見せようとした結果起こったアクシデントなのだ。
メジャーでは「ゲッツー崩し」の危険なスライディングが新ルールで禁止された。早速、4日のブレーブス-ナショナルズ戦で適用され併殺になった。
日本でも筋の通るルール作りが急務だと思う。
審判が問題ないと言っている以上、今回のゲッツー崩しは問題ないという私の見解だが、負傷した川島には何とも気の毒だ…。ゲッツー崩しを禁ずるなら、国際大会でも日本国内でも統一してほしいルール。
来年にはWBCも開催される。国際大会ならどうする? 「ゲッツー崩し」がOKなら相手はガンガンやってくる。日本だけ「ゲッツー崩し」をやめるか? 相手がやっても日本はフェアプレー精神を貫ける? 国際大会だからって、いいも悪いもない。
私はルールの範囲内なら、チームが勝つために最善の努力をする。それがチームにもファンにも応える無二の方法だから。
みなさんはどう考えるのだろうか。(野球評論家)
◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。
(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)
(日刊)
元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。7回目は、負傷者が出た二塁ベース上での「ゲッツー崩しスライディングは問題なしか否か」について検証する。
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【状況】3日の日本ハム-ソフトバンク戦(東京ドーム)でソフトバンク川島慶三内野手が、二塁上のクロスプレーで負傷退場した。ソフトバンクが1点リードの6回の守り。無死一、三塁で中田の三塁ゴロを処理した松田が二塁へ送球。ベースカバーに入った二塁手の川島と一塁走者の田中賢が衝突した。田中賢のスライディングは二塁ベースの前で捕球した川島に向かっていたが上半身でベースをつかんでいた。
その後、川島は病院で再検査を受け「右下腿(かたい)打撲、前距腓靱帯(きょひじんたい)および踵腓(しょうひ)靭帯損傷」と診断され、患部を3週間固定し全治未定。ソフトバンクはパ・リーグ連盟に「意見書」を提出した。意見書の内容は危険走塁の基準を示すことや、本塁のコリジョン(衝突)ルール説明時に二塁も危険な場合は警告を出すといった話の確認、本塁以外でもビデオ判定を行うよう求めた。
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ルールは全員に平等ではない。ある人が得をすると誰かが損をする。しかし、スポーツはルールで成り立っている。
田中賢のスライディングは川島がけがをしたから問題になっている。けが人が出ていなかったら問題になっていないと思う。
ファン心理を鑑みるとひいき球団があるため、好きな球団のプラスになる話とならない話に分かれ一喜一憂だが、許せない話を批判してもルールで問題なしと判定されれば仕方がない。最後は審判が決めるだけに判定が下されれば、どうしようもないのが現状だ。
選手の立場で言うとルールの範囲内でチームを勝利に導くのが当然の仕事。ルールにのっとり全力プレーする。最初から相手にけがをさせようとは誰も思っていない。
かつてこのコラムでも話をしたが本塁上のクロスプレーで私も肋骨(ろっこつ)を骨折した経験がある。しかし、誰も責められないし、どうしようもない。けが撲滅に向かうなら、ルールを変えないといけない。
工藤監督は選手を守りたかったのだと思う。コリジョンルールもそうだが、ベンチの全員が1から10まで把握しているわけではない。どこまでOKか否か。工藤監督の許容範囲と二塁でのクロスプレーが不一致だったから抗議した。工藤監督の判断基準では許せなかったし、審判の基準は問題なしだった。
ルールはあるにせよ、問題なしとした明確な基準が、そもそもあるのか。騒動が起きた後、塁審がマイクを持って説明した。
工藤監督から危険行為があったのではと異議申し立てがあったが、判定通り1死一塁から試合を再開するといった説明。肝心な説明責任が割愛され、とうてい納得できるものではない。
これまでもあいまいなルールが存在してきた。
投手の2段モーションがある。05年ごろからスタートし、当時の岩隈やハマの番長でも指摘を受け、苦労していた記憶がある。しかし、当時の規定なら今の投球でバツになる投手もいるのではないかと思う。判断基準が、当初と違ってもいいのだが、説明もない。そこが1番問題だ。
ストライク、ボール、アウトはまだ分かりやすい。ビデオ判定も本塁打判定もある。ルールは厳密にしなくてはいけない。
02年には新ストライクゾーンがあった。ストライクの高さの上限をベルト付近から胸元付近まで取るという内容だったと思う。現在、新ストライクゾーンはどうなっているのか。知らない間になくなったのか? やめるなら、やめると言ってほしい。
今季、コリジョンルールで進路妨害に見えた場面でのセーフ判定もあったように思う。選手、チーム、ファンでも、見ている人が分かりやすいようにしてほしい。それがルール。誰もが分かりやすい同じルール下で試合観戦して楽しむのが野球は1番だと思う。
話を本筋に戻そう。これまで球界に「ゲッツー崩し」はなかったのか、いや何度もあった。
けがしたから問題にするではない。ダメなものはダメ。もっと審判は説明する必要がある。説明責任は審判には必要だ。
時代に合うもの、合わないもの、野球を見る人にとってよりよいものに変えていく姿勢があれば変更があってもいい。野球が進化していく過程で、合わなくなってきたルールを廃止する話はあって当然だから。
勝つために最善のパフォーマンスを見せるのが選手の使命。そんな中で田中賢と川島はお互い最善のプレーをした。しかし、けがをしたことでこじれた。彼らにそんな気なくても“因縁”めいたものに見られてしまっては、当事者がかわいそうな気がする。
人間の秩序を保っていけるのは法律があるから。スポーツで法律に当たるのがルール。プレーを批判するよりルールの明確化が最優先だと思う。
ルールブックにあるルールでは、田中賢のスライディングは問題ない。だが、審判はこういう理由で問題ないと具体的に説明することが必要だと思う。両チームが今後“報復合戦”になると誰のプラスにもならない。
時代が違うと言えばそれまでだが、過去には「ゲッツー崩し」が称賛されたケースもあった。
北京五輪アジア予選で勝ったら北京切符、負けたら最終予選に回らねばならない台湾戦。1点ビハインドの試合中盤、無死一、二塁で私が投前にバント。犠打が強すぎたため投手は三塁へ送球。代走の宮本慎也さんがハードなスライディングでセーフになった。相手の三塁手は顔をゆがめて痛んだ。その後、スクイズあり、タイムリーありでビッグイニングとなり勝利。相手を負傷させた宮本さんの気迫のスライディングは称賛された。
「ゲッツー崩し」がダメなら、あのプレーも厳密に言えばアウト。選手は相手にけがさせようとは思っていないし、ルール的にOKなら最善のパフォーマンスを見せようとした結果起こったアクシデントなのだ。
メジャーでは「ゲッツー崩し」の危険なスライディングが新ルールで禁止された。早速、4日のブレーブス-ナショナルズ戦で適用され併殺になった。
日本でも筋の通るルール作りが急務だと思う。
審判が問題ないと言っている以上、今回のゲッツー崩しは問題ないという私の見解だが、負傷した川島には何とも気の毒だ…。ゲッツー崩しを禁ずるなら、国際大会でも日本国内でも統一してほしいルール。
来年にはWBCも開催される。国際大会ならどうする? 「ゲッツー崩し」がOKなら相手はガンガンやってくる。日本だけ「ゲッツー崩し」をやめるか? 相手がやっても日本はフェアプレー精神を貫ける? 国際大会だからって、いいも悪いもない。
私はルールの範囲内なら、チームが勝つために最善の努力をする。それがチームにもファンにも応える無二の方法だから。
みなさんはどう考えるのだろうか。(野球評論家)
◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。
(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)
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