
音楽の専門コース進学をめざす、さゆりさんのソルフェージュのレッスンです。
今日は楽典の話。
テキストは定番の「楽典 理論と実習」(石桁真礼生、末吉保雄ほか共著 音楽之友社)をつかっています。とりあえず楽典の最重要項目である「音名」、「音程」、「音階」、「調性」、「和音」をひとさらいしようと思ってすすめているところです。
調性の項目からさき、難所の「調の判定」にやってきました。
この箇所は、楽典のなかでもっともやっかいに感じる学習者が多いと思います。調を判別するためにいろいろとやかましい規則があり、せっかくおぼえた規則にはいくつもの例外があり、なにがなんだかわからなくなってしまうようです。
まず基本的なこととして、調の判定は楽譜を読んで、あたまのなかで音を再現でき、それを心の耳で聴いて調がわかってしまえばそれに越したことはない、ということです。読んでわかれば、わざわざ理論のたすけを借りるまでもありません。
しかしテストなどで出題される調の判定では、わざといじわるく、わかりにくい旋律になっている場合がありますし、旋律の一部分だけをとりだして調を判定させる場合もあります。こうしたとき、理論上の調判定のやりかたを身につけておくことは役にたつもの。
調の判定の要諦は、「ある旋律から、7つの音階固有音をつきとめる」ことです。テキストにはある音について、それがある調性の音階固有音だと見なせる5つの条件が列挙されています。
テキストから引用します。
1.次の音に跳躍進行(増2度を含む)する音は音階固有音である。ただし短調の導音は跳躍進行をすることがある。
2.次に2度上行するときも2度下行するときも、かわらない音は音階固有の音である。
3.音階固有の音が臨時に高くされた場合は次に2度上行する。すなわち、次に2度下行する音は臨時に高くされた音ではない。
4.音階固有の音が臨時に低くされた場合は次に2度下行する。すなわち、次に2度上行する音は臨時に低くされた音ではない。
5.導音でない短調のⅦは、2度上行して主音に進むことも、跳躍進行をすることもない。
ことばがむずかしいですが、さゆりさんにはひとつずつ解説をつけ、譜例を見ながら理解してもらいました。
もっともわかりやすいのは、条件1でしょう。つぎの音に跳躍している音は音階固有の音なのです。調判定でまずチェックしたいのは、跳躍進行する音をあらいだすことです。
条件3はテキストの書きかたがむずかしいのですが、こういうことです。
調判定の場合、調号をもちいた譜面をつかうと解答者にとっておおきなヒントとなってしまうため、わざと臨時記号(♯や♭など)をつかって楽譜が書かれています。音階固有音も、臨時に出てきた派生音もおしなべて、すべて臨時記号によって記譜されているケースが多いのです。
ですから、いっけんおなじように見える派生音(♯や♭などがつく音)から、音階固有音と臨時に変化された音とを区別しなければなりません。そうしたとき、条件3と4が役にたちます。
♯などがついて高められた音がつぎに2度下行したら、音階固有音だと見なしましょう。♭などがついて低められた音がつぎに2度上行したら、音階固有音だと見なしましょう。
以上が条件3と4のいっていることです。
テキストでは条件1~5のあと、それぞれの条件について例外がのべられています。しかしここはさきにすすまず、調判定のじっさいをやってみることにしました。
条件1~5をつかって、ていねいにすべての音階固有音を割りだしてゆく方法が調判定の基本ですが、じつはもっとかんたんで、すばやく解答にいたる考えかたがあります。
テキスト121ページの譜例33をつかいます。
まず条件1をつかって、つぎの音に跳躍進行している音をさがしだします。第2小節に「ファ♯」にとんでいる音「ド♯」が見つかりました。つまり「ド♯」は、この調の音階固有音であると確定できます。
つぎに第3小節に「ミ」にとんでいる音「ソ」が見つかりました。「ソ」は音階固有音です。
じつはこの時点で、判定する調はふたつにしぼりこまれています。
♯の調号がつく順番はかならず決まっており、「ファ♯→ド♯→ソ♯→レ♯→ラ♯→ミ♯→シ♯」の順でふえてゆきます。
ですから最初に「ド♯」が音階固有音だとわかったとき、必然的に「ファ♯」も音階固有音であることがわかるし、また「ソ」が音階固有音(=「ソ」には♯がつかない)だと判定できた時点で、この旋律が「ファ・ド」のふたつの♯が調号につく調だとわかる理屈になります。
ある調号を共有する調性は、ふたつしか存在しません。たとえば調号なしの「ハ長調-イ短調」といった平行調関係がそれです。
♯×2の調性は、ニ長調とロ短調です。あとは、ふたつのうちどちらか、という点を判断できればよいわけです。
第6小節で「ラ♯」が「ド♯」に跳躍進行しています。跳躍進行する音は音階固有の音であるはずですが、すでに調号が「ファ-ドに♯」と確定しているのに、「ラ♯」が音階固有音として登場するとはおかしなことです。ありえません。
ここで条件1のただし書きを思いだします。「ただし短調の導音は跳躍進行をすることがある」
「ラ♯」はロ短調の導音です。そのように思って旋律を見ると、第5小節では臨時に高められた「ソ♯→ラ♯→シ」の音符があります。これはロ短調の第6音、第7音が臨時に高められて主音にいたる旋律短音階の動きです。
また第4小節では、「シ→ラ→ソ→ファ♯」と下行するときに「ソ」、「ラ」ともに♯がとれてしまっています。これはロ短調の旋律短音階の下行形=自然短音階の動きです。
以上のことから譜例33は、調号に♯が2個つくニ長調とロ短調のうち、後者のロ短調だと確定できます。
このように音階固有音をすべて割りださなくても、調判定はかんたんにできます。
さゆりさんはよくわかってくれました。あとは練習問題をいくつもこなして、要領をつかんでいってもらいたいと思います。(こうき)
レッスン日 2007年6月6日(水) 19:30
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