ハルさんのピアノ・レッスンです。
幼稚園のミュージカルの本番がちかづいてきました。12月17日(日)です。1週間後には、とおしのリハーサルもひかえています。
まだ心配な箇所がのこっているハルさんは、臨時の特別レッスンを入れてがんばっているところ。とにかく弾く曲数が多いので、個々の曲についてはテクニック的にクリアしていても、弾きとおすとなるとたいへんなのです。
不安なのは、最後のいくつかの曲です。とくにフィナーレはもうひと踏んばりが必要な様子。今日のレッスンでは、前回までにまだ手のうちに入っていなかった後半に的をしぼって練習しました。
幼稚園でのお仕事をしながら練習時間を確保するには、かなりの努力がいります。曲はずいぶん前から決まっているのだから、ふだんから子どもたちの歌の練習などをつうじて職場で練習ができないの? と聞くとハルさんは、秋からは体育祭、展示会など行事が多くて、なかなかそうもいかないといいます。
とくに5歳くらいの子どもたちは体育祭なら体育祭、展示会なら展示会と集中させてあげたほうがよいそうです。あまりはやい時期にミュージカルの練習に取りくんでしまうとそちらに気がむいてしまい、そのあいだ各行事への集中力が散漫になってしまうそうです。
なるほどねえ…。そんな苦労もあります。
さてレッスンです。
曲は「ともだちほしいな おおかみくん」(作詞・作曲=阿部直美)です。うさぎ、ぶた、きつね、たぬきなどおなじみの動物たちが広場で遊んでいるところに、おおかみがやってきます。みんなはびっくりして、もしかして食べられちゃうの? と心配になりますがおおかみは、僕だって泣きたくなっちゃうような悲しいときだってあるんだよ、と訴えます。そこでみんなは仲よしになり、花いちもんめをいっしょに踊ってフィナーレというお話。
わらべうたを上手におりこんであり、付点のついたはずんだリズム(ハネ)の歌が中心の、とても陽気な曲です。
第7曲「ウェーンウェンウェンの歌」では、左手のアルペジオが流暢にながれませんでした。しかし今日はだいじょうぶです。短期間にずいぶん弾けるようになっています。本人がいうには右手の旋律の指づかいで、「5→5」と無駄に取りなおしていた箇所を「5→4」になおしたら、ずいぶん左手に注意がむくようになったとのこと。
そう、ピアノはちょっとしたことをなおすと、部分全体がよくなったりしますね。指づかいはちょっとしたことのようですが、気をつけるとその効果は絶大です。
第8曲「げんきもりもりの歌」では、間奏部分が心配でした。左手の3連符のながれに、うまく右手をあわせることができないのです。
この左手の「ラ」の連打は、ようするに保続低音として「ラ」の音がずっと底で鳴っている効果が出ればよいのです。ピアノという楽器は音を保続させることがむずかしいので、このように音をながくのばしていたい場合はリズムをつけてきざませることがたびたびあります。音がながくのびた感じで聴こえるよう、各音でのはっきりした打鍵は必要ありません。
問題の「フィナーレ」です。ピアノの伴奏にのって子どもたちが踊ります。ピアノはソロ状態なので、かなり目立つところ。しっかり弾かなければなりません。
出だしの和音「シ♭・レ・ファ・シ♭」が、付点リズムのあいの手をはさむとつかみづらいようです。あいの手の「シ♭」のオクターヴ奏で、鍵盤から離れている「レ・ファ」の音(指)を意識してもらいました。指は鍵盤から離れても、すぐに出てくる「レ・ファ」の鍵盤の真上にいるようにします。「シ♭・レ・ファ・シ♭」の和音を弾く場合と、「シ♭・シ♭」のオクターヴを弾く場合で、手のフォームをおなじにするのです。
また手をひらくと必然的に力が入りますが、できるだけ手首を柔軟にしてバネを利用して打鍵します。手首の力がぬけると、自然に指さきが下をむいてミスタッチを起こしにくくなります。
テーマの最初は変ホ長調で、つぎに半音あがりホ長調に転じて盛りあがります。ふたつの部分は同一の旋律ですが、問題点はちがっています。
変ホ長調は「シ・ミ・ラ」にフラットがつきます。主音、下属音、属音と呼ばれる主要三和音すべてがフラットして、鍵盤上、黒鍵を弾くことが多いのです。黒鍵をふくむ和音奏の連続は、けっこうやっかいなもの。タッチの違和感に慣れる必要もあります。
右手の旋律をしくじるので、右手だけで弾いてもらいました。片手では弾けています。左手がついて注意がそれると、白鍵と黒鍵を行ったりきたりする右手の「前後の動き」をわすれてしまうため、フラットの音をつかみそこねるのだとわかりました。
左手は片手練習をもっともっとしてください。その場合、拍頭にあるバス音を手首のバネをつかって強く弾き、裏拍の和音はその反動で「ちょっとさわる」ていどに鳴らします。躍動感が出るでしょう? リズムのながれがよくなって、ずっと弾きやすくなるはずです。
ぜんぶの音をしっかりと鳴らしすぎて、リズムが渋滞しています。これではテンポもあがりません。ハネた付点リズムを、「強→弱→強→弱」のタッチで弾けるように片手練習してください。
ホ長調の部分はペダルが問題になりました。基本的にひとつの和音にひとつのペダルをつかって、最後ですから思いきってゴージャスなひびきにします。
「私が弾くと、なんだかうるさいんです…」とハルさんは遠慮ぎみ。
それは左手のきざみの和音を鳴らしすぎているからですよ。バスは強く弾き、そのひびきに溶けこむようにあとの和音をきざみます。ペダルに音をひろってもらうつもりで、アタックをつけないように。メロディが半音でにごる箇所や、和音のかわりめではペダルを踏みかえます。
こうした要領は、どこで踏みかえるか戦々恐々とするより、あるていど耳にまかせてしまったほうがよいのです。ひびきが多かったら踏みかえる。いちおう楽譜にはこまかくペダルの記号をふりましたが、直感を信じて気を楽にしてください。対応できる音楽的な耳をもっていますから。
さあ、あとひと踏んばりです。(こうき)
レッスン日 2006年11月30日(木) 20:30