みおさんのソルフェージュのレッスンです。
高校で専門的にピアノを勉強しています。
さいきん、とくに旋律聴音がたしかになってきました。正確で、すばやく聴きとれます。進学して4ヶ月、話に聞くとなかなか音楽の授業はきびしいらしく、そうした緊張感のなかで1学期を過ごしたことは、ソルフェージュの実力アップにすくなからず影響があったものと僕は思っています。
クラスメイトとはいえ音楽は本質的に実力がものをいう世界なので、授業においてゆかれないように、クラスメイトに抜きんでるようにがんばっていれば、自然にいろいろなプレッシャーのなかで毎日を過ごすことになります。音楽は実践なので、ピアノを弾けばじっさいに音が出て、それをつねに誰かが聴いていますし(聴かれていることを意識しないわけにはゆかない)、単旋律聴音をすれば出来・不出来が一目瞭然にわかります。
これが日々つづくのです。
まわりから刺激を受けつつ努力をかさねていれば、実力がつくのはあたりまえですね。でも張りつめているだけではとても保ちませんので、ちょうど夏休みになった機会に、すこし気持ちをゆるめてみるのもよいかもしれません。
嵐野英彦著「受験生のための300題の旋律聴音」から第79番、ニ長調、8分の6拍子、8小節の課題を実施しました。
途中に半音階で下行するフレーズがあること(記譜のしかたをまちがえないように)、また平行短調への転調は気をつけてもらいたいと思いました。そしてとくにポイントとなるのは、第5小節の特殊なリズムでした。
「ファ♯・ソ♯・ラ♯・ド♯」の4つの音符が、平行短調であるロ短調への転調を示しています。ここのリズムは、8分音符×2をつないだ「2連符」となっています。
3連符はなじみがあります。1拍のなかに5つの音がつめこまれた5連符も聴きとったことがあります。しかし8分の6拍子で、あたかもそこだけが4分の2拍子のようになった2連符のリズムははじめて登場しました。
拍をきちんとかぞえられるみおさんなら、リズムを把握することはできるでしょう。しかしそれをどのように楽譜に書きあらわしたらよいか、ということになると、リズムの記譜にたいする想像力や、柔軟性がもとめられます。この場合、タイをつかっても書きあらわせません。みおさんが、2連符を思いつくかどうか。
すべて弾きおえて、ノートを見せてもらいました。
第5小節のリズムは、ちゃんと2連符で書いてありました! よくできました。しかしおしいことに8分音符ではなく、4分音符×2を2連符のカッコでくくっています。
8分の6拍子は8分音符が3つかたまって1拍となります。まとめて書くと付点4分音符なので、4分音符×2では音価が超過してしまいます。ここは4分の2拍子のようなリズムに転じていますから、1拍を4分音符ととらえてそれを2分割した8分音符×2のスタイルで書くのです。
しかし発想は上出来でした。
第3小節の半音下行も正確に聴き、書きとれていました。半音下行するときは、原則的に音階音が半音低められたように変化記号をつけてゆきます。ただし気をつけることは、第5音(属音)から第4音(下属音)にいたる半音は、第4音をいったん半音高めてから、ふたたびそれを半音さげる書きかたになります。これは属調の導音(=第4音が半音あがった音)を保持するためです。
書きかただけでなく、耳でもそのような音として感じられるのが、調性感のそなわった耳といえます。
ここでは「シ」から「ファ♯」にいたる半音下行でした。
「シ-ラ」をつなぐ半音は、「シ♭」です。すなわち「シ→シ♭→ラ」。
「ラ-ソ」をつなぐ半音は、「ラ♭」ではなくて、「ソ♯」です。「ソ」はニ長調の第4音なので、いったんシャープさせてその後にもとどおりに直します。「ラ-ソ♯-ソのナチュラル-ファ♯」となります。
第4小節の「ミ♯」もよくとれました。つぎに解決する「ファ♯」にたいして半音下から入ってくる補助音(ここでは第1拍にあたるので「倚音 いおん」といいます)の動きです。以前ならば、異名同音の「ファのナチュラル」で書いていたところですね(みおさんはピッチをすべて鍵盤上で考えてしまう癖があるのです)。
レッスンのときはうっかり質問するのをわすれてしまいましたが、第5小節の変化音(ソ♯、ラ♯)がなにを示しているのか、あとから課題を見なおしたときに考えてもらいたいと思います。
新曲視唱などを練習していると、みおさんが音やリズムはよく聴きとれるのに、転調についてはいくぶん注意をおこたることが意外に感じます。あとからたずねると、転調した調性をいいあてることはできます。しかし予見時や、歌ったときに転調を感じているふうではないようです。
変化には、かならず意味があるのだと考えましょう。「ソ♯」は「ソ」が半音高くあがったのではありません。また「ラ♯」はたんに「ラ」がシャープした音ではありません。それは表面的な変化であって、それが結果するところを見きわめます。「ソ♯→ラ♯」はやがて「シ」にあがって、ロ短調の旋律短音階となります。ロ短調への転調のきっかけをなす「ソ♯」、「ラ♯」だと理解します。
レッスンが終わったあと、不安でいっぱいだったらしい高校でのソルフェージュのテストについて報告してくれました。とくに聴音のクラスでは満足のゆく成績がもらえたらしく、ホッとした笑顔を見せてくれました。(こうき)
レッスン日 2007年7月30日(月) 18:00