
あたらしいピアノの生徒さんが、またひとり教室の仲間くわわりました。大人のトーマさんです。
保育士の資格をとるために勉強中です。ピアノの実技試験もありますから、はっきりした目的意識をもって、たかすぎ音楽教室をたずねていらっしゃいました。
また実技試験とはべつに、きちんとピアノを習いたいという気持ちもうかがいました。つまり課題曲だけ集中してさらって、試験がとおればよしという練習のしかたではなくて、きちんとはじめからスタートしたいというのです。ピアノは初心者です。
体験レッスンにみえたとき、すこし弾いてもらったところ高音部譜表(ト音記号)はわりにスムーズに読めることがわかりました。低音部譜表(ヘ音記号)は、そうはいかないようです。
手の脱力は完全ではありませんが、ガチガチに硬直しているわけでもありません。5指の型だけで弾ける、両手ユニゾンの練習曲を弾いたところ、眼で譜面を追いながら手のフォームをくずさずに最後まで弾きとおすことをできました。ただちょっとすると「1」の指は、鍵盤から落ちてしまうことがあるようです。
大人の方が本気を出すとすごいですから、きちんと練習してゆけばきっと上手になるはずです。
テキストはバイエルの「バイエルピアノ教則本」をつかいます。課題曲がふくまれています。
バイエルはヘ音記号が出てくるまでがながく、初出は第61番です。それまでは両手奏は出てきますが、両段ともト音記号です(ですからちいさい生徒さんの場合、譜読みがスムーズにできない場合はたいそう時間をかけてヘ音記号までたどり着くといったバランスの悪いケースもでてきます。しかもヘ音記号はとつぜん導入されます)。最初からはじめて第61番までコツコツ弾いてゆくのも手ですが、様子を見てすぐに低音部譜表に入ってもだいじょうぶだと判断しました。
今日は第61番と、第62番を練習しました。
まずは第61番を両手でとおして弾いてもらいました。ト長調の5指の型(ソ・ラ・シ・ド・レ)に指をおいて、その位置で弾きとおせる曲です(旋律の最後の音だけは1オクターヴ上にひらいて終わりますが)。
トーマさんは指があばれないので、ていねいに音をつないで最後まで弾くことができました。
今日はふたつのことを学びました。
ひとつはピアノで旋律を弾くときの息づかいについて。もうひとつはフレーズのまとめかたについてです。
第61番は手の移動がありませんから、すべての音を切らずに弾くことが可能です。しかしピアノであっても旋律は本質的に「歌」ですから、息つぎがなく音がすべてつながった状態の旋律を聴くと、なんだか居心地が悪くなるものです。
鍵盤から指を離してしまうのはなんだか怖い気がするものですが、ブレスのない旋律にならないために思いきってスラーの切れめごとに手を持ちあげ、音を切ります。
手の持ちあげかたは、たんに鍵盤からヒュッと手をあげればよいかというとそうではありません。かならず脱力をともなった手の持ちあげかたになります。ぎゃくにいうとひとフレーズを弾いた最後に脱力することで、結果的に手が鍵盤からあがり、音も切れ、つぎのフレーズを歌いなおすことができるのです。
トーマさんに実験してもらいました。
ピアノを弾く格好で両手を空中で前に差しだしてもらいます。手の甲は腕と平行になっているくらいです。
その状態を保ち、腕は差しだしたまま、つぎに手の力を抜きます。すると手はどうなるでしょうか。ダラッと手首から折れて、指さきが下に向きます。この状態がフレーズを弾きおわった瞬間の手のフォームだと考えます。
手を持ちあげたとき、脱力している手は「うらめしや~」のかたちになります。それが自然に鍵盤にかえってきたとき、それがつぎのフレーズの入りなのです。
第61番は4小節でひとフレーズが終わります。合計3回の息つぎがあります。その箇所だけを取りだして、脱力をともなった音の切りかた、手のつかいかたを練習しました。
鍵盤から手が離れるときよくありがちなことは、①右手が上にあがると、つられて左手もあがってしまう、②音楽のながれにあったタイミングで手があがらないと、間のびした感じになる、③手が降りてきたとき、つぎの音をまちがえやすい、です。
②の音を切る(息つぎをする)タイミングですが、つぎのフレーズが入る1拍前が適当です。よく歌いだしの直前に「さん・ハイ!」と合図をしますが、この「ハイ!」にあたるところが1拍前となります。弾きながら、自分で「さん・ハイ!」が感じられると、自然につぎのフレーズが歌いだせると思います。
第62番は譜読みをしました。ここではフレーズの終わりかたについて知っていただきました。
「ド・レ・ミ・ファ・ソ」や「レ・ミ・ファ・ソ・ラ」といったみじかい5指の型のモティーフでつくられた器楽的な旋律です。スラーの最後の音にスタッカートがついていますが、これをみじかく奏するために鍵盤を強くはじかないようにします。スレーズのおしまいはみじかいことはみじかいのですが、軽く、やわらかくまとめます。
トーマさんは、右手ではきれいなフレーズをつくることができました。左手は右手よりもすこし重くなってしまいます。指が動かしにくいことと、フレーズの最後の軽い音を「1」の指で弾かなければならないためです。親指(「1」の指)はもともと指ずもうをするくらい強い指なので、うっかりすると強く打鍵しすぎて軽い音が出しにくいのです。
音をよく聴いて、鍵盤に指をおいたまま、脱力しつつ手をスルリと鍵盤から離します。
フレーズの最後の音が軽く、やわらかい音であること。それには手の脱力をともなった「息つぎ」するような手のつかいかたをすることをお伝えしました。軽く、やわらかくフレーズをまとめるかわり、つぎの節の最初の音はぎゃくに強く入ってくるのがふつうです。手をおいただけ、指をのせただけの弱よわしい音にならないように気をつけて、旋律を歌いだすようにもアドバイスしました。(こうき)
レッスン日 2007年8月31日(金) 17:00
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