
ピアノのマサヨさんは、ドビュッシーの「アラベスク 第2番」を練習しはじめました。レガートな第1番と異なり、第2番は「16分音符の3連符+8分音符」のリズム動機があちらこちらに散りばめられたユーモラスで、リズミックな曲です。
今日は譜読みをはじめてから最初のレッスンでした。
「どうでしたか?」とたずねると、「なんだかよくわからなくて…」とおっしゃいます。それから「CDを聴いたら、とんでもなく速いですね」と驚いていました。
そう、生きいきしたリズムの躍動感がつたわるためには、あるていどのテンポが必要になります。
曲の冒頭から第37小節まで、両手で弾きました。中間部にはいる前の前半部分です。
そこまで聴いてから、この日はふたつのことをお話ししました。
ひとつは、ペダルのことです。1回めのとき、全編でペダルを踏みつづけていました。そのようなペダルの指定は楽譜のどこにもありません。リズム動機についているスタッカートに注目してもらいました。動機ごと音ははずんで、切れなければなりません。ペダルをベタッと踏むと、音は切れませんね。基本的に第2番のペダリングは、和音にかがやきをあたえたり、アクセントをあたえるために踏む「アクセント・ペダル」になります。音をつなげるために踏む「レガート・ペダル」ではありません。
「アクセント・ペダル」の実例は第1小節から存在します。左手の第1拍の和音「ド・レ・ファ♯」で踏みこみ、半拍あとにはすでに切れてしまいます。これは全音符でのばしている和音の「ながさ」のために踏んでいるのでないことはあきらかです。和音が鳴る瞬間の音のかがやきを演出するためにペダルがつかわれています。それと同時に、右手のリズム動機のスタッカートを生かすために、半拍あとにはペダルを離さなければならないのです。
楽譜を見るとペダルを踏む記号のあと、ほとんどの場合ですぐに切れてしまうことがわかると思います。どれも「アクセント・ペダル」なのです。
もう一点は、リズム動機を弾くためのテクニックについて。
これはCDの演奏がとても速かった、という話に関連します。じつは指のみを動かして弾くのであれば、もとめられている速さはでないだろうと思われます。ここは指がつながっているおおもとの部分である、手ないしは手首の回転運動を利用して弾くのです。
手首は左右に回転します。ちょうどドアノブをまわす要領です。
じっさいにはドアノブをまわすときよりもずっとちいさな動きにしないと弾けないのですが、今日は基本的な運動の要諦をつかむことに集中しました。
誰でもドアノブをまわせます。ですから手首の回転運動はすぐにできます。
その動きをじっさいの音楽にあてはめてみました。ところが、これがちょっとむずかしい。
手首の回転運動を鍵盤上で試してみる、もっともわかりやすい例は、右手で「ド-ソ」に「1-5」の指をおいて回転させ、トレモロにしてみることです。指の関節を動かして弾くよりも、格別に速く弾けることが確かめられるでしょう。
「アラベスク 第2番」でもおなじです。最初の動機「ミ-ファ♯-ミ-ラ」をつかって説明します。
はじめの音「ミ」は2の指をつかいます。これが回転軸になります。軸は左右、前後にぶれたりなどしてはいけません(回転できなくなります)。回転軸「ミ」を中心に、つぎの音「ファ♯」に向けて右側に手をかたむけます。かたむけたとき、手首がわずかながら回転していることがわかります。つぎは下の「ラ」に向けて、ぎゃくに左に手をかたむけます。やはり手首が回転しました。
やりにくい場合は、軸となる「ミ」を押さえたまま、できるだけ指をつかわず(指のつけ根を動かさない・鍵盤を押そうとしない)、「ファ♯」と「ラ」のあいだを手首の回転だけで、トレモロ奏のように弾いてみます。
慣れてきたら、押さえていた「ミ」を離して、やはりすべての指に頼ることなく、手首を回転させることだけで、「ミ-ファ♯-ミ-ラ」と弾けるかどうか試してみます。
それができたら、あとはほんのすこし指さきをつかって打鍵してあげます。すると速くて、粒だちのよい、歯切れのあるリズム動機が鳴るのです。この時点で手首の動きは、回転というより上下に動いているように見えます。しかしとてもちいさな動きながら、やはり回転しているのです。
マサヨさんは四苦八苦。「ミ」を押さえて「ファ♯-ラ」間のトレモロまではOKでしたが、「ミ」を離したあとはどうしても指で弾こうとしてしまいます。
手首の回転を意識してこのモティーフを弾くと、とても速く弾けることは納得していただきました。指でパタパタ弾くよりも格段に速く、楽チンで、ひと息に弾けます。ぎゃくにこのようなテクニックをつかわなければ、テンポはあがらないでしょう。
手首の回転運動をつかって弾くことはこの曲の最大の課題でもあるので、時間をかけて身につけていただきたいと思います。要領をつかんでくるのは、次回までの宿題としました。(こうき)
レッスン日 2007年2月7日(水) 18:30
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