東京地形散歩意外に起伏の多い東京の地形を撫で回します。
 
神田明神は本郷台地の東縁にあって、台地に食い込んだ樹木谷により北と西を
囲まれる、北東向きの舌状の高台に位置しています。



元は大手町の将門首塚の辺りに祀られていたものが江戸の都市整備に
伴って江戸時代初頭に駿河台に移され、やがて1616(元和2) 年、現在の
湯島の地に移転してきたものなのですが、この場所はそれ以前から
重要なスポットだったようです。

湯島の地は中山道や岩槻道(今の本郷通り)といった幹線道路の
出発点であり、北からの陸上交通路のターミナルとなっていました。
「本郷」という地名もかつての「豊島郡湯島郷」の中心地であるという
ところからきています。

「本郷もかねやすまでは江戸のうち」なんて江戸時代になると言われる
ようになりますが、町の歴史としてはこちらのほうがずっと先輩という
わけです。

ちなみに岩槻道を北上すると律令時代の豊島郡(現在の豊島区・北区・
荒川区・台東区・板橋区・練馬区・文京区及び新宿区と千代田区の一部)の
郡衙(ぐんが。役所)のおかれていた現・滝野川公園(上中里駅前)に
たどり着きます。ここからさらに東北方面に古代の道が延びていたのです。
#私が、「東京は北日本最南端の地」であると主張する由来の一つです(^^;;

さらに中山道は言うまでもなく上野(群馬県)、信濃(長野県)に至り、
北陸地方や東海地方と結びついています。

そのつながりによるものか、かつてこの湯島の地には北陸地方特有の
白山神社が祭られていました。江戸時代に移転させられて、現在は
もっと北の白山の地に祭られているのですが、もとは湯島です。
ひょっとすると神田明神が移転する前の台地には白山神社があったかも
知れません。

時代がずっと下って、室町時代の1486年(長享元年)には堯恵という
当時有名な歌僧が美濃・北陸を経由して東国を旅した際に記した
「北国紀行」という文献に、

「湯島という所あり。高松遥かに巡りて標(しめ)の内に武蔵野の
  遠望かけたる寒村の道すがら野梅盛んに薫ず」

と、神田明神の北隣のこれまた舌状台地上にある湯島天神を誉めて
いるのが伝わっています。

堯恵自身白山神社と関係が深かったとされている他、彼と同じ歌の
流派に属し(二条流)、堯恵の旅の便宜を図った美濃の豪族・
東一族もまた白山神社神主家と縁戚関係にありました。

堯恵の旅は古今和歌集の奥義(!?)である「古今伝授」を、
その創始者である東常縁の息子達に伝授するための旅であり、
下総の国にも領地のあった東氏一族のネットワークの助けが
あったものと推測されます。

あるいはそれは白山信仰の修験者のネットワークと重なるもので
あったかも知れず、東常縁が娘を白山神社神主家に輿入れさせて
いることを考えると、想像は膨らむばかりです。

堯恵に関するページ
「千人万首(よよのうたびと)」
 堯恵

東氏に関するページ
千葉氏一族
 東常縁

そうした東北、あるいは北陸からのターミナルであった湯島の地は
当然のことながら有事の際にはよい進攻地点でもあります。

江戸に幕府を開いた徳川一族が行った江戸城整備の中でも
特に目立つのが駿河台の神田川開削工事ですが、これはなにより
湯島のある本郷台と江戸城とを完全に分離することによって
北からの進攻に備えるためのものでした。



東北の雄、伊達政宗が徳川家康にその重要なることを具申し、
開削工事を請け負ったエピソードが伝わっていますが、
まさに北の玄関口・湯島の地の性格を象徴していると言えるでしょう。

伊達家・仙台藩が工事を手がけたことから神田川のこの部分は
「仙台堀」とも呼ばれ、現在も湯島から切り離された本郷台地の
南端部分である駿河台と湯島との間に、都会にありながら渓谷の
ような情景を見ることができます。

湯島の地のネットワーク的な重要性についてのエピソードは
まだあって、神田明神とも関係していたりするのですが、
それはまた別の機会に。

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清水坂下「神の田」説 (Shun)
2012-05-19 13:26:45
ブラタモリで原田信男教授が「たまたま地名としてあった清水坂下を話の振りに用いてしまった」のは勇み足の誹りを免れない。ただし地形から考えて、湧水もさることながら両脇の谷戸からの絞り水が得られるうえに緩やかな傾斜地でもあるため、水管理な可能な安定した水田・「神の田」では、との推論に神田探索のイメージは膨らむ。蔵前橋通りの交差点「清水坂下」は、本郷台に切り込む「樹木谷」のほぼ真ん中に位置する。
 
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