
山百合忌とは学者で歌人で舞踊家だった鶴見和子師を慕う方々の集いである。私達姉妹の俳句の師黒田杏子先生が司会を務められる今年の十三回目の山百合忌(7/31)に参加させて頂く事になり、ニックも一緒に行っていいですか? チェロを持って行ってもいいですか? 弾いてもいいですか?とお願いする内とんとん拍子に話が決まった。演奏の曲目が最大の関心事であったが、私が今回読んだ鶴見先生の著作の中で感動した『遺言』の本に見つけたこの歌を、
おもむろに自然に近くなりゆくを老いとはいわじ涅槃とぞいわむ 鶴見和子
苦心して英語で伝えるとニックは、バッハの無伴奏組曲中最も瞑想的な第二番プレリュードが相応しい、と即答した。
次なる関心事は「何を着て行くか?」アメリカ人的季節感で夏の終わりは9/2のレイバーデイ。それまでは、ニックはハイフェッツ先生やピアティゴルスキー先生に倣って、白スーツに白靴と決まっている。が、私はどうすりゃいいの? 困って杏子先生に電話したら、偲ぶ会ですけれども黒を着無くちゃいけないという事はありませんよ。あなたのいつものスタイルでよろしい、と言われた。それでも迷ってニックに相談すると、ニックは「他にどんな短歌があるの?」と聞くので、
半世紀死火山となりしを轟きて煙くゆらす歌の火の山
萎えし掌につつじの蕾触れさせて燃えいづる若き生命いただく
萎えたるは萎えたるままに美しく歩み納めむこの花道を
と数首を、又大変苦心して英語で伝えると、
「カズコは情熱的な女性だったのだなあ」と感嘆し、「赤いドレスが相応しいだらう」と選んでくれた。偲ぶ会に赤はさすがに無いかと思ったが、ニックの直感を信じてしくじった事が無いので、今日の一句の気持ちで炎の色を纏って行った。
スピーチや講演の中に同じ歌が披露されたり、火の玉のように情熱的な方と人柄が語られたり、我が(ニックの)意を得たり、と思った。
この会の中で一生忘れられない出来事が起こったのだが、それは私達の胸の中に一生大切にしまっておきたい。
ニックはまた、鶴見先生の魂の宿るという形見の白い着物を着た金子あいさんの語りや、佐藤岳晶さんの邦楽演奏、野村四郎さんの謡や舞「山姥〜いよよ燃え立つ炎ひとすぢ〜」にインスパイアされたという。言葉を超えて内容が伝わったからお前が解説するな! 帰りの車で僕が物語りする、と興奮してた。そのニックの物語は、桜の樹の下で若き藤原何某が切腹、母親が火のように怒り嘆きの舞を舞う、というやや違った物だったが、火を感じた所は合ってた。ニックの白スーツに橙のネクタイと、あいさんの白い着物の襟一筋の朱色が、示し合わせたようにマッチしていたのに驚いた。
