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ミセスローゼンの道後日記

坂道の途中に雪の残りけり

店に二人の若者が来る。
一人はアジア系二世の男の子。ストライプのボタンダウンのシャツに、アイボリーの春コートをきちんと着て、ショーウインドーをしげしげのぞいていたかと思うと、春風みたいに店内に駆け込んで、「あそこのカフカ・オン・ザ・ショアをください。袋はいりません」と早口の英語で頼み、お尻のポケットからアメックスのゴールドカードを出してカウンターに置いた。
「これはいい本です」と私が渡すと、青年は「ええ知ってます」と、満足げに歩み去った。
もう一人は、おんぼろアパートの屋上に倒れかけてるアンテナみたいに、大きな頭の上に赤毛の束をへなへな突っ立てた日本人の少年。Tシャツとタンクトップの重ね着が離乳食のエプロンのように見える。その子は、日本語版のファッション雑誌を束で買い、「えっ? えっ?」と言いながらフロアにコインをばらまき、結局、二十ドルの新札で支払い、私に話しかけてきた。
「あのう、ニューヨークに住んでおられるんですか?」
「はい」
「アメリカ人と結婚なさってるとか?」
「いいえ」
「大変じゃないですか? あ、英語ぺらぺらだからオッケーか」
「いえいえ。ぺらぺらじゃないですけど、オッケーですよ」
「すごいですね。ぼく、もう日本に帰りたいですよ。英語通じなくて、わけわかんなくて」
と言って、少年はうつむく。
「日に日に慣れますよ。友達もできますよ。またいらしてください」とにっこりしてあげると、つられて彼も笑った。
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