滑り台の上より仰ぐ夏の月

句友がすばらしい句集を上梓した。正統派季語俳句の中にシュールとハードボイルドとラヴの滴るＨ子ちゃんの句風が私は好き。


漫画の登場人物みたいな店員が多い。中でも私の（楼前先生も）気に入ってるキャラはＳさん。Ｓさんはギャグ漫画日和の乙姫様みたいな髪型、目つきも声も喋り方もそっくり。
Ｓさんが夏のバカンスに欧州に行ったという。
その写真を昼休みにみなで見ようということになった。
Ｓさんがデジタルカメラを取り出した。
「やったーＳさんのだんなさん見れるー」と誰かが叫んだ。
その瞬間、Ｓさんが写真の再生を猛スピードで始めた。次の画面に進むボタンを、ＤＳマリオパーティーバトルのノロノロ車レースの時みたいに乱打しながら、早口の小声で解説を始めた。
「えーこれがシャルルドゴール空港そしてこれがトライアンフシャンゼリゼ通りオペラ座前の石畳すいません人ばっか映っちゃってて、人とばしていきますね。ええとこれがセーヌ川ルーブル、サンジェルマンデプレの石畳、レストランレストランミュージアムミュージアムカフェカフェ、ええ道路は石畳が多いですね、あもうこれテジェヴェです、英語読みだとティー・ジー・ヴイ、フランス新幹線に乗ってます、チューリッヒの石畳、レストランレストラン登山電車、雲海の見えるレストラン、土産物店の前の石畳、これもうラガーディア空港です、すいません人ばっか映しちゃってもうすいません」
三枚に一枚はＳさんが写ってたけど、あまりの速さに顔が見えなんだ。だんなさんの顔をまともに見た者もなかった。