ミセスローゼンの道後日記

山頭火の如くほろ酔ひ盆の月



ニックも道後の伊月庵に初御目見得した。その後姉夫婦と居酒屋へ繰り出したはいいが、上人坂を下りて来た所、ちょうど漱石先生が食べたといふ団子屋のあった辺りで、姉が段差につまづいて転んだ。私も先日山道で膝からザーッと小石の上を滑ってコケて膝と肘を擦り剥いた。まだカサブタがある。しかし姉はいつもの如く冷静で、側で見てたニックが、「こんなに上手に転んだ人を見た事がない。」と思わず褒めたくらい上手く転んで傷は無かった。ひねった足首がやや心配。居酒屋に着いて兼光さんが湿布をして、生ビールを飲んで全員一息ついた。ニックが自分の昔転んだ体験を語り始めた。こういう話題が私は一番好きね。

「客引き?」
我輩はその夜、チェロ友Jのコンサートを聞きに、ダウンタウンへ向かっていた。地下鉄の階段を上がって歩き出した途端、道の割れ目に靴が挟まり、グキッと足首を捻って転んでしまった。派手に転んだ盛装の男に向かって、マンハッタンの通行人は口々に「君大丈夫?」「大丈夫ですか?」と言っては通り過ぎる。我輩は一々彼らに、「いや」「駄目だ」「大丈夫じゃない」と答えてるのに、誰一人本気に助け起こそうとしない。自力では立てないくらい真に痛かったのだ。暫くして誰かが手を引っ張って助け起こしてくれて、道端のレストランのオープンテラス席に座らせてくれた。しかも赤ワインをなみなみと注いだグラスを持ってきてくれた。それをぐっと飲んで、やうやく人心地がついた次第である。助けてくれた人を振り返って見て、ご親切に、どうもありがとう、とお礼を言ったところが、その青年は白いシャツに黒いエプロンを付けたそのレストランのウェイターであった。店の前で転んだ客にいつもワインを振舞ってゐるのだらうか?ともかく気分が良くなったのは間違い無いので我輩はワイン代を払い、腫れてきた足を引きずってJのコンサートへ赴いたのであった。
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