「忍者」
ゆうべ、閉店後、半分閉まりかけのシャッターの下から誰かが忍び込んで来た。浅黒い顔。全身黒づくめ。黒の地下足袋をはいてる。彼はカウンターで閉店業務をやってるわれわれのほうへ一礼して、小走りに奥へ去った。思わず目が合ったU君に、「今、ニンジャ来た?」と言ったらU君が、「はい、あれはニンジャ以外の何者でもないっす」と言った。今、現地スタッフの採用が続いてる。ニンジャも受かるといいね。面接にやって来るのは2タイプしかない。スタバよりもうちょい知的な職場で働きたい、と考えるちょいかわいいヒスパニックのお姉ちゃんか、日本オタクのアニメおたく。
「少年時代」
道路に面したドアを開け放って本の買取をしてたとき、入ってきた黒人の兄ちゃんに、「ウタダのカムバックトゥーミーある?」と聞かれたので、顔もろくに見ないで、「ああ、ありますよ、このアイルをまっすぐ行って左側の壁」と、指さした。兄ちゃんは満足げに大またにJPOPのコーナーへ歩いてった。大声で歌いながら。その声がウタダそっくりで、ウタダの男版というか、まあそらそらみごとな歌いっぷりで、しかも日本語で歌ってる。ほんとにウタダファンなんだな、と感心してふとその歌詞に耳を止めると、それはビューティフルワールドでもプリズナーオブラブでもなくて、少年時代だった、陽水の。うっわあ、なんでだよ、と思った。吹きあがる噴水みたいに、打ち寄せる波みたいに、一気に夏が胸いっぱいになった。
ウタダがこれ歌ってるんだね。