地理総合の研究 付2018年センター地理AB本試・追試解説 

「地理講義」の続き。「地理総合」に「2018年センター試験地理AB本試・追試の問題と解答解説」を追加。

20.コンパクトシティ青森   地理総合

2019-01-28 18:55:49 | 地理講義

青森市の問題点
中心市街地の商業の衰退。原因は郊外の住宅地化と郊外型スーパーの増加。
郊外の住宅地・新市街までの除雪路線の拡大。年経費20~30億円。
青森駅から4km離れた新青森駅までの交通整備と、新旧青森駅前開発。

青森市の都市計画の法的根拠
まつづくり3法(1998年):私権制限による都市開発のため、法の運用は難しい。
①都市計画法改正
②大規模小売店舗立地法
③中心市街地活用法
*中心市街地活性化基本計画(2006年):交付税と税の特例措置。

青森市の3地域指定

①インナー・シティ 
青森駅前を中心とする既存都心商店街(街なか)。郊外に移転する者が多い。市街地の再開発を進めて郊外からの再転住者を増やす計画地域である。そのためのマンション・住宅の建設を政策的に誘導する。結果として、街なかの賑わいを取り戻すことをめざす。
②ミッド・シティ
古くからの住宅、住宅団地である。住民には、都心へ自動車で通勤する労働者が多い。バスの利用者も多い。商店の混在地区だが。地元よりは都心商店街の利用者が多く、最近は郊外の大型スーパーマーケットを利用する者が増えてきた。ミッド・シティの高齢住民を、再開発したインナー・シティに戻すための政策的誘導が進められている。
③アウター・シティ
青森市の郊外である。農村地帯で開発は規制されているが、大規模団地や商業施設は建設できる。青森市が適切な都市計画を実施しないと、団地は拡大し、商業施設は増殖する。アウター・シティへの道路、上下水道の建設、学校の建設、ゴミの収集、除雪道路の延伸など、行政経費はかさむ一方である。
インナー・シティの衰退が進む一方で、アウター・シティには総合大型スーパーや大型専門店が増え、都市の肥大は進む。政策的にアウター・シティの開発を厳しく規制し、インナー・シティに人口と都市機能を戻すことが、考えられる。アウター・シティは農業地域として保存することになる。

*コンパクトシティ
青森市営バスは、路線の統廃合を進めて赤字削減に努めているが、郊外の自家用車の利用者が増えてバスの利用者は増えない。都心では観光客と高校生の減少が進んでいる。公共交通機関の中心として存続させるためには、料金の値上げ以外にない。しかし、これはバス利用者離れを増やし、バス事業の赤字を増やす。また上下水道などのライフラインの建設維持に莫大な経費がかかる。
根本的には、自家用車に依存し、インフラ費用のかさむ郊外(アウター・シティ)の住宅建設を規制し、住民の都心(インナー・シティ)回帰を促す以外にない。
都市全体を縮小して、行政経費を節減する政策としてコンパクト・シティが考えられた(1999年)20年の長期計画で、途中で国の財政支援もあって、2019年には完成する予定であった。
計画の遅れよりも、計画そのものの実現が時間とともに難しくなり、コンパクト・シティは失敗したと言われる事が多くなった。コンパクトシティの失敗例は、青森市と富山市である。

都心の魅力創出
インナー・シティに住民を郊外から呼び集めるためには、都心にマンションやスーパーマーケットを建設しなくてはならない。移住すれば50万円の補助金が出る。都心にマンションを買い、郊外の住宅を売却する、という政策ではあった。
都心に生活するためには、郊外の大型スーパーを越える商業施設が必要である。駅前繁華街を生活拠点にできるように、青森市と民間による商業ビルAUGAを建設した。


 

AUGAの経営破綻
街の浮沈をにぎる商業ビルは、計画段階の1994年にキー・テナントと予定していた西武デパートに出店を拒否され、AUGAは専門店と行政機関の同居する複合ビルになった。駅前を、インナー・シティのショッピングセンターと位置づける青森市の計画は、スタートからつまづいた。
2001年、地階に新鮮市場、1~4階に専門店、5~8階に市施設が入居開業した。珍妙な組合せの商業施設になった結果、来店者が予想を下回り、augaの貸店料収入は伸びずに赤字が続き、2017年に専門店街は営業を中止した。地階新鮮市場は残ったが、他は市の関連施設が隙間を埋めた。
都心商店街に高層住宅を建設し、郊外から人口を呼び集めて都市を縮小する計画がコンパクトシティ計画である。移り住んだ市民のショッピングセンターが商業ビルとしてのAUGAであった。そのAUGAが商業機能の半分を失い、青森市役所分庁舎になった。駅前商店街はすでにオフィスビルが多数を占めていたので、市民のAUGAに依存するような生活基盤は失われてしまい、コンパクトシティ計画は破綻した。コンパクトシティ計画もAUGAも存続しているのだが、市民の興味関心はなくなってしまった。

*その一方で郊外の開発を規制して行政経費の削減が可能になったので、コンパクトシティは失敗ではない。それに都心に食料・日用品を買い物に来る客が増えれば、それに見合う商店が自然にできるものである。AUGAの破綻はコンパクトシティを長期的に育てる上では大きな問題にはならない。とする考えもある。

失敗の本質
郊外から都心に市民を呼び集めることができれば、市の除雪費用やインフラ費用などは削減されるが、郊外に住宅を建てた市民に都心に移転する経済的メリットはない。移転を政策的に誘導しても、二重ローンのような移転費用負担を誰が負担するのかが明確でない。憲法で保障された居住の自由との関連もある。市民の意識改革という抽象概念だけでは、クルマと一体化した生活を変革できるない。
さらに大きな問題として、都心に移転したとしても郊外に建てた住宅にはまた誰かが買って住むのであり、郊外人口の減少にはならないことである。
コンパクトシティ計画は現実を直視しないために失敗した。

 


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