ようやくウルグアイ映画「ウィスキー」を地元で見た。東京での上映から地方に来るまで長かった~。待ちくたびれた~。ストーリーはいち早く映画を見た人の感想等をあちこちで読んである程度までわかったつもりでいたが、ラストまでのストーリーの展開、一体どんな風にウルグアイの人々と街が描かれているのかを自分の目で見逃さないぞ!と五感をぴりぴりさせて臨んだ。
映画自体は私のぴりぴりとは裏腹に、ウルグアイらしいゆる~いスピードで終始、ごく普通のウルグアイの日常が映し出されていく。たぶん、地元のウルグアイ人が見ても、刺激がなさ過ぎてあまり楽しめない映画かもしれない・・・。
いつものように工場の一日が始まる
ストーリーは省くが、物語には典型的なウルグアイ人像が描かれている。父から譲り受けた古い靴下工場を細々と経営する、変化を望まない壮年・独身のユダヤ系ウルグアイ人ハコボ。ハコボの経営する靴下工場で、長年変化のない毎日をいつの間にか過ごしてしまった?同じく50代・独身のマルタ。そして兄・ハコボと対照的な、おそらくはウルグアイのぬる~い空気と経済状況から脱すべくブラジルに渡り、ブラジル人と結婚し娘たちにも恵まれ、最新鋭の機械を導入して靴下工場も順風満帆に経営している陽気なエルマン(作品内ではヘルマンと呼んでるように聞こえたが)。仕事を優先して母の葬儀にも帰らなかったエルマンは、ウルグアイに郷愁は感じても、仕事を離れて故郷の空気にどっぷりつかるのは苦手という感じ。そして退屈な故郷で黙々と家業をこなしながら、最終的には母の介護から最後まで看取ってくれた兄に若干の引け目を感じている。
一方ハコボは最後まで弟に心を開くことはなかった様子。南米の人が愛するお茶・マテは、親しくなった友達はもとより、家族等では1つのマテを皆で回し飲みするのが一般的な光景のはずだが、映画中ハコボはいつもただ一人で自分のマテ茶をボンビージャ(茶漉しのついたストロー)ですすっていた。妻のふりをしてもらっていたはずのマルタにも、実の弟であるエルマンにも一度たりとも薦めるシーンはなかった。百歩譲ってマルタはマテ茶が好きではないからだと考えても、久々に帰国した弟なのだから、「マテ飲むか?」と質問してもおかしくないはずだ。
1人マテ茶をすするハコボ
映画の舞台は南半球8月真冬のウルグアイ、モンテビデオ。バケーションやカーニバルで浮かれる真夏にはラテンらしさも感じられるが、真冬、ラプラタ河沿岸のこの地は空気がにわかに湿度を帯び、重い。雪こそ降らないものの、日は短く朝夕は意外と冷える。そんな時期にわざわざ季節はずれな夏のリゾート地、ピリアポリスへ3人で旅するというのもこっけいだ。宿泊ホテルも、かつてはさぞお金持ちでにぎわったであろう、ゴージャスだけどしっかり古臭い感じ。南米人独特の大げさなフード付きコート等の重装備も不思議なムードをさらに加速させる。
日本では昔懐かしいゲームも南米では健在
夏は内外から来た大勢の人でにぎわうウルグアイ随一のリゾート地であるプンタ・デル・エステを選ばず、首都モンテビデオにより近く、微妙に地味なピリアポリス、それも冬という季節を選んだことは、この映画の雰囲気を演出するのに欠かせない条件だったのかもしれない。実際モンテビデオでウルグアイ人と何人か話した時、「ザワザワと他の南米人が多いプンタよりもピリアポリスの方が落ち着いていて良い」という意見も多かった。その言葉には高級リゾート、プンタへ群がる近隣外国人への多少の負け惜しみも隠れているのかもしれないが、それでもピリアポリスは地元民にとっては親しみある海水浴スポットという印象だった。
ピリアポリスには小高い丘のような山があって、そこにはスキー場にあるようなリフトが山頂までかかっている。(冬は運行しているか不明だが)日本人には危険と思えるその古ぼけた高速リフトで見晴らしよい山頂まで上れば、映画中でマルタとエルマンが逆さ言葉を楽しんでいた海岸を見下ろすことも出来る。でも映画中ではそうした壮大な風景などは一切排し、終始地味な旅のシーンを描き続けていた。
エルマンの頭上に見える山上の白い点々がリフト
映画のラストはそれぞれの想像におまかせする、ということのようだが、最近のウルグアイ地元新聞の記事によると「ウルグアイ人の7人に1人(13%)が可能であれば他国への移住を考えている」とあった。これは漠然と考えている人の数であり、具体的な計画を持っている人の数ではないが、決して小さな数字とはいえない。また移住したい場所としては、スペインがトップで、続いてアメリカ、オーストラリア等が挙げられ、アルゼンチンやブラジルは最近では減っているらしい。国内市場規模の小ささから、国外に仕事を求めざるを得ないウルグアイ人の状況を巧みに描いた映画ともいえるのではないかと思う。
かつては教育水準も高く、経済が比較的安定して暮らしやすいと言われていた南米のおっとりした小国、優秀な人材の自国離れがこれ以上ひどくならなければいいのだか。
おまけ:
「ウィスキー」公式サイト(スペイン語版)では、この映画の空気感を表現していたPEQUEN~A ORQUESTA REINCIDENTESによるテーマ曲の視聴も可能。タニィwebサイトのコラム
「ラプラタ音楽雑記帳#052」でグループメンバー参加のアルバム「キメラ」も紹介。
渋谷シネ・アミューズにて
2005/6/25(土)よりロングランレイトショー決定!
6/25(土)~7/8(金) 21:10~22:50 *予告なし
シネ・アミューズ EAST&WEST
名古屋シネマテーク6/18(土)~7/1(金) 京都みなみ会館6/25(土)~7/11(月)
北海道シアターキノ7/2(土)~15(金) 群馬シネマテークたかさき7/9(土)~22(金)
沖縄桜坂劇場7/16(土)~29(金) 岐阜シアターペルル7/23(土)~8/5(金)
広島横川シネマ7/23(土)~8/5(金) 愛媛シネマルナティック7/30(土)~12(金)
石川シネモンド8/13(土)~26(金) 福岡シネサロン・パヴェリア8/13(土)~26(金)
静岡浜松東映劇場8/25(木)~27(土) 静岡シネ・ギャラリー9/3(土)~16(金)
長崎セントラル9/3(土)~16(金) 三重進富座9/17(土)~30(金)
宮崎キネマ館9/17(土)~30(金) 青森シネマヴィレッジ8・イオン柏 0173-27-5600
滋賀会館シネマテーク 077-522-6191 富山松竹 0764-25-3014
岡山シネマ・クレール
・ここでは映画
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