東方のあかり

東アジア(日、韓、中+その他)のまとまりを願ってこのタイトルにしました。韓国在住の日本人です。主に韓国発信の内容です。

床屋②(エッセイシリーズ06)。

2013-11-07 05:00:00 | 韓国物

10月21日ごろに書いた「床屋」。今回はその続きです。

 「ふぃーっ」と汗を拭きながら地下の階段を一目散にかけあがって外に出るところまでは
10月21日のブログに書いた。
  実はこれには後日談があって「それを書かなきゃ床屋エピソード、なんのおもしろみもないじゃない」とかみさんに言われてしまった。

 あの日、わたしが慌てふためいて帰ってくる姿に、かみさんは肝をつぶしたそうだ。
わたしはといえば、片方の靴下はきちんと足にあったが、もう一方のほうは手に持っていたらしい。
つまりあの床屋で靴下を脱がせるところまで進行していたということだ。

そして足のマッサージか何かすることになっていたのだろう。そしてそれから、、、。
いやこれはわたしの単なる妄想だったのかもしれない。

散髪プラスマッサージのいたって健全な施設だったのかもしれない。しかし重要なことは、
わたしがフーゾク床屋だと認識したことであり、ミニスカートのアガシがわたしの視界のはずれのほうで
そそくさと歩き去る物腰から判断するに、わたしの妄想はあながち外れてはいないだろうという確信があることである。

 純真なわたしは、声もふるえていたのかもしれない。
顔はすっかり青ざめていたのかもしれない。
情けないといわれれば情けない格好ではあるが、こんな男もいるんだよという点では、
声を大にして叫びたい気もする。

  「ばかな奴め」と多くの人は言うだろう。ばかだろうがちょんだろうが、
これでも大学教授の端くれとしてなんとかやれてるじゃないか。
世渡りの裏表をほとんど知らない(世間ずれしていない)ナマの男の姿だと思ってご理解いただければ幸いである。

 それから数か月間、あの床屋のあるシフンドンに住んでいたが、
あれ以来一度もくだんの床屋に入らなかったことはいうまでもない。

 その後いくらも経たないうちに、縁あって四回ほどの面接試験のあと三星綜合研修院に職を得た。
アパートも提供してくれるし、会社への出退勤は専用の乗用車での送り迎えという至れり尽くせりの待遇だった。
 
 「アパートは27坪なら大丈夫ですかね」
 「あ、はい、大丈夫ですよ」

  サムソンの担当者と妻との電話でのやりとりである。
シフンドンの5坪にも満たない部屋から急遽ソウル・ガンナムの27坪のアパートに引っ越しすることになったわけである。
夢か幻かとはまさにこういうことをいうのであろう。

  わたしはビザを新しく取ってこないといけないためすぐ日本へ飛び、その期間中に引っ越しその他の雑務はすべて妻がやってくれた。
肉体的には大変だったけど、なにせ心が踊っているから、ルンルン気分で一点の落ち度もなく引っ越し完了となった。

 二週間後、比較的早く取れたビザをもって、わたしは韓国に帰ってきた。

 金浦からリムジンでガンナムバスターミナルまで来て、そこからは歩いてわが家へ。

  新盤浦(シンバンポ)の韓信(ハンシン)アパート333棟。並木道が続く。目指す333棟が見えてくる。
右も左もアパートで道を行き交う人もまばらだ。車もゆっくりと走っている。
ここがこれからオレの住むアパートか。
 
  「しっかりやれよ」とわたしの中のもう一人のわたしが言う。
「わかったよ、しっかりやるさ」といいながらもう一人のわたしは笑みをどうしてもとめることができない。
こうしてガンナム生活が始まったのである。

 髪も伸びてきた。散髪しないといけない。床屋のくるくる回る回転灯はあちこちに見える。
しかもここは韓国一の大都会ガンナムだ。下手してフーゾク床屋に入ってしまう危険性はシフンドンの十倍もあるであろう。

  そこでわたしは考えた。ここは大事をとってかみさんを連れて床屋探しをしようと。
「床屋ぐらい一人で行けるでしょ」と、かなり乗り気でない妻であったが、シフンドンでのあの「事件」以来、
若干トラウマになってるんだと、わが内部事情を説明するとかみさんはしぶしぶいっしょに外に出てくれた。

  赤ちゃん以下の男だとあいそもなにも完全につかしてしまっていたはずだが、
あなただけが頼りなんだというわたしの真剣な表情に押された格好で、そうした見下すような態度はミジンも見せることはなかった。

  一、二軒物色したあと、外からも中の様子が全部見える大きなガラスドアのある店に入り、
価格表にも目をやると、かみさん、ここはOKねと目で合図するなり「あとは一人で髪切って、一人で帰ってくるのよ」と
言って出て行くのだった。

  ミニスカートのアガシもいないし、ここは大丈夫かななどと考えながら、
かみさんの後ろ姿を見るともなく見ていると、「イリオセヨ(どうぞこちらへ)」と店のオヤジが力強く声をかけるのだった。

  わたしはどっかりと散髪用の椅子に沈みこんだ。

bacsa
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