
目下、(個人的に)上杉景勝祭のため読んだ本。「戦国繚乱」。著・高橋直樹。文春文庫刊。
1588年、豊臣秀吉の九州征伐に巻き込まれて豊臣軍の黒田孝高(如水)・長政親子に滅ぼされてゆく、誇り高すぎた城井鎮房とその一族を描いた「城井氏一族の殉節」、1550年、若き大友義鎮(宗麟)の忠実な家臣が、義鎮の実父と継母、幼い弟を謀殺してあるじに家督を継がせるまでを描く「大友二階崩れ」、1578年、上杉景勝が義理の兄と彼に嫁いだ実の妹を<御館の乱>で死に追いやって上杉謙信の後継者となるまでを描いた「不識庵謙信の影」。戦国時代をまあまあ知っている者にとっては、まあまあ有名な(?)エピソードの三本立てである。もっとも、私が九州出身なので、城井鎮房の話と大友二階崩れは、けっこう有名なんじゃないかな…的に思っているだけで、全国レベルではそうじゃないかもしれない。どうなんだろう。
「城井氏一族の殉節」「大友二階崩れ」は、主人公たちにひしひしと迫ってくる破局の予感が、ギリシャ悲劇的な格調高さすら感じさせるような端正さでもって描かれて美しい。一方で、「不識庵謙信の影」ではナイーヴで不器用な青年が、兄殺し・妹殺しの果てに国主にふさわしい冷酷さを身につけてゆくまでを丹念に追っているのだけど、孤独な道を歩まざるをえなかったやさしい若者の心の襞が丁寧にえがかれているし、最後には胸がずきずきと痛むような読後感が残る。直江兼続ものの小説で「直江あっての上杉景勝」みたいな一面的な景勝像が多いことにちょっとガッカリさせられている向きとしては、大変面白く読める。(直江との険悪な関係も他では読めないし)
三作いずれも、クライマックスといえる場面は残酷な血の惨劇なのだけど、その描かれ方も陰影に富んでいて美しくさえある。私はなんとなく工藤栄一の映画「十三人の刺客」や岡本喜八の「侍」の結末部分を思い出した。モノクロの画面にとびちる黒い血糊の美しさとでもいったらいいのだろうか。やや様式美に近いかもしれないけども、そういう異様な美しさがこの中篇集からは感じられた。あの頃の役者・監督で、映画で見てみたいなぁ。(とりあえず城井鎮房は片岡千恵蔵だろうな。あと黒田孝高は伊藤雄之助)
この三つの物語に描かれた登場人物(黒田長政・大友宗麟・上杉景勝)の、「物語のその後」を、私たちはすでに史実として知っている。そのためだろうか、ここに描かれた事件が『彼らの行く末にいかに影響したのだろうか』という想像を巡らせることができるように、余韻を残しながら物語が終わっているところもいいなあと思えた。大友宗麟のその後の人生の波瀾万丈さはすさまじいし、上杉景勝は寡黙に徹して家臣に生涯一度しか笑顔を見せたことがなかった(*)…なんて伝説を残すことになるわけだけど、その理由がこの御館の乱にあったのかもと考えると、ちょっと心にくるものを感じたのだった。
(*)景勝については「昨日はお前んちで直江と酔っ払っちゃってゴメン。それにしても、お前んち狭いよね。狭すぎるよねアレ」みたいなフレンドリーな手紙を家臣に送ってるので、実像はそこそこ砕けた人だったんだろうとも思うし、無口で笑わないというのは対外的イメージ戦略だったのかもしれないけども(それはそれで巧妙だったかも)。