
ポイズンウッド・バイブル
(バーバラ・キングソルヴァー著、DHC)
1960年代、大いなる使命を抱いてコンゴ(現ザイール)の奥地にある村落に赴任してきたアメリカ人牧師と、彼によってドラマチックに運命を変えさせられたその家族(妻、娘4人)の半生を描いた大河小説である。物語は、妻と娘4人、計5人の視点でかわるがわる進み、彼女たちの生き様だけでなく、彼女たちの視点から、西欧による強圧的なアフリカ支配のあり方や、その支配から抜け出した後にも続く泥沼の内戦状態が描かれる。
テレビの報道や新聞でしか知らないアフリカのことを小説で読むのは初めてだったし、映画だと結局2時間でサラッと終わってしまうから、この長大重厚な小説を読むことはとてもチャレンジングで面白かった。物語の前半は、キリスト教的アメリカ的価値観を抱いていたこの家族が(父親を除いて)徐々に自分たちの価値観を変えざるをえないことに気づき、また、自分たちには理解しがたい、野蛮だと思っていた現地の言葉や生き方にも、とても筋の通った彼らの理由がある(そしてむしろ、それは美しい)のだと理解してゆく流れなのだけど、このあたりが実に説得力がある。一方で、自分の価値観をを人々に押し付けるばかりでアフリカという場所を理解しようともせず、徐々に家族からも孤立してゆき、自らも狂気におちいってゆく父親のありかたも並行して描かれるのだけども、このあたりの描写がまた容赦なく、無残極まりない。年ごろの娘たちの、彼にたいするひややかなまなざしは、作家が女性であるせいか、とてもリアルだ。
4人の娘たちの別々の生き方もユニークだ。とくに、お世辞にも聡明とはいえないものの貪欲な生命力を存分に発揮してアフリカにおける「白人の勝ち組」的位置をつかみとる美しい長女と(最近映画にもなった「ブラッド・ダイヤモンド」の存在もさりげなく描かれる)、現地の民主運動家の若者と結ばれてアフリカの女として生きる道を選ぶ聡明な次女とを対照的に配置しており、彼女たちのものの見方の中から白人のアフリカでの身勝手な傍若無人ぶりを赤裸々に浮き立たせているところは興味深い。
タイトルの「ポイズンウッド(うるし)・バイブル」は、物語を最後まで読んでいくと意味がわかってくる。私はおそらくこれは、真摯に相手を理解しようとせずにこちらの大義のみを振りかざすものの滑稽さを意図しているのだろうと思ったのだけど・・・たぶんそれはこの小説の父親だけではなく、西洋、とくにアメリカそのもののことも暗示しているんじゃないかな。
訳者があとがきでオールコットの「若草物語」を引き合いに出していたけども、私もまた、若草物語を思い出しながらこの小説を読んだ。不在がちな牧師の父と、彼の留守宅を守る気丈な妻、そして個性豊かな4人姉妹。たぶん少女少年時代に若草物語を読んだ人はみんな思い出すんじゃないかなぁ。ただしこの「ポイズンウッド・バイブル」では、父親は心優しい存在ではなく、狂信的で家族をかえりみない暴君として物語の中心に存在し、妻や娘たちがいかに彼を嫌悪し、疎み、最終的に無視したのちも、心の中に居座り続けるんだけど。
ただ少し違和感を感じたのは、娘たちが語る内容が、それぞれ姉妹や母親にたいして大変に冷淡なところ。いくら女同士とはいえ(笑)もう少し何かしらの優しさがこめられた部分があってもいいのではないかとも思えた。
読み応えは十分。ちょっと変わった長い小説と格闘してみたい人にお勧め。私は英会話スクールのインストラクターに薦められて読みました。ただあまりの長さに洋書でのチャレンジは諦めて邦訳に方向転換。でもたぶん正解。この内容だと洋書では途中で挫折したろうなぁ。