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毎昼毎夜夢心地

劇団AUN「夏の夜の夢」

2005-12-14 | 芝居系
12月10日と11日、劇団AUNの公演を見てきました(in笹塚ファクトリー)。10日が「夏の夜の夢」、11日が「マクベス」。どちらも再演です。「夏の夜の夢」なんて、昨年やったばっかりじゃないかしら。でも、解釈も変わっていたし、とくに「マクベス」なんて前回と全く違う演出で、とても面白かったです。相変わらず若々しい役者ばかりだしね。

まずは「夏の夜の夢」について書こうと思います。
前は少しわからなかったところが、今回は私なりにわかった気がしました。この芝居、テーマは女の幸せ。そんな気がしました。
前回の公演では、ヒポリタ(領主の新妻)が何故無表情なのかわからなかったのです。物語の最後に、妖精たちが現れてヒロイン3人に子供を抱かせるところもよく理解できなかった。
冒頭でヒポリタの夫、シーシュースが、「力をもってあなた(の心)を勝ち得た」というようなセリフを言うのですが、今回、それを聞いて、ああそうか、って気がつきました。ヒポリタは力づくで奪われて嫁にならんとしているだけで、決してまだシーシュースを心から愛しているわけではないのです。だから彼女は夫となる男を終始冷ややかな目で見つめ、父親や恋人たちの勝手に振り回される美しい娘たち(ヘレナ、ハーミア)を、自分自身を見るかのように、気遣わしげに見つめるのでしょう。なんかそう考えるとすごく腑に落ちるのです。
物語の最後でも、初夜に向けて心はやる男たちとはうらはらに、三人の女たちは不安におののいている。今回は妖精のイタズラでとんでもない目に巻き込まれたけども、またいつなんどき、移り気な男たちのせいで哀しい目にあうかしれないのだから(「溜め息などつくな娘よ/男なんて浮気なもの!」byから騒ぎ)。ところが、妖精たちがその腕に赤子を抱かせると、彼女らは微笑み合い、物語の中で一番の、愛情あふれんばかりの美しい笑顔に変わるのです。あのヒポリタさえが最後に美しい笑みを見せる!結局、『女を強く美しくするのは、しょうもない男どもではなく、我が子の存在』なのかしら、なんて思わされた幕切れでした。
むろん、子供がいなくても、気ままに生きていても幸せを勝ち得ている素敵な女もこの作品には存在します。それは妖精王オーベロンを尻に敷く女王タイテーニア。しかしそのためには、ガッツとパワーと色気とたゆまぬ努力が必要なのだな。おまけに愛嬌までいる。女って、大変…。

ディミートリアス役の谷田歩君はAUNの若手看板だと思うのですが(二枚目だし)、こういう役はぴったりですね。ちょっとエゴイスティックな感じがね、いいんです。うんうん。あとタイテーニア役の森本佳代子嬢もど迫力で良かったなぁ。それからロバ頭ボトム役の北島善紀。ベタな九州弁がえらい面白かったです。この人結構こういう笑わかしの役、多いかも。
一番肝要なパック役は長谷川耕。二枚目看板が谷田歩なら、曲者看板がこの人。前回の公演よりのびやかで、好ましく見られました。

あ、あと忘れちゃいけないのが客演でオーベロン役の横田栄司。初めて見たのですが、男らしくて稚気にも溢れていて、素敵な王様でした。

尺には尺を

2005-06-20 | 芝居系
「尺には尺を」というお芝居を観劇してきましたよ。日曜日、19日のお昼の部です。
いつもシェイクスピア劇をやっている劇団AUNによるお芝居です。私はここの劇団の公演を見続けて4年になります。
サンシャイン劇場は前にも一度使われていたのですが、あのときは客席が舞台に、舞台が客席に…というとても変わった仕掛けで、異様な雰囲気の「オセロー」でした。今回は、左右に花道がせり出しているちょっと変わった趣向だけで、シンプルなお芝居だった気がします。

この「尺には尺を」って学生の時に原書で読んだきりで、長ゼリフなんてほとんどワケわからんかったのですが、実際にみてようやく、「あーこんなこと喋ってたのか」とわかりました。だいたい、ギリシアの誰とか天使とか女神とかを修辞で持ち出してるもんだから、ニッポン人(私)にはさらにわからない(笑)。当時の英国の大衆だってどれくらいついてこれたんだろうか。(たぶんついてこなくてもウィルはどうでもよかったのでしょう。)
でも、シェイクスピアのレトリカルな喋くりというやつは、いつも思うのですが、早口で言われるとなかなか頭に入ってこないんですよね。AUNのお芝居は、中心になって演じるのが若手(20代)の人だからか、熱が入るとものすごく早口になってくる気がします。とくにこの「尺には尺を」ではヒロインのおっそろしい長ゼリフがいくつもあって、私はその半分もついていけませんでした。まあ何を言っているか意味はわかるんですけどね…。同じことを色んな表現使って言いかえているだけだから…。でも、早口で何言ってるかわからなくなる、というのが、良いことか、悪いことなのかなぁ…。(でも、ヒロインの根岸つかささんは大熱演でした。もーかわいいったらない。台詞かんでても許す)

あとはやっぱり、この「尺には尺を」、作品自体が今ひとつ納得いきません。オチなんてとくに釈然としません。「君らこれでハッピーエンドのつもりか!?」みたいな。ヒロインのイザベラはまあいいんですが、浅はかな自分の命ごいのために妹の操を権力者に投げ出せという恥知らずな兄貴も、清廉潔白なふりして処女を我が物にしようとする公爵代理も、いい人かと思ったら最後にはヒロイン(尼僧志望の処女)に色目をつか…いやプロポーズする公爵も、とにかく誰のやり口にも納得できないのです。シェイクスピアがやっつけ仕事をしたのだと私は最初に戯曲を読んだ時に思いましたが、今回その思いを更に強くしました。うんそうに違いない。このAUN版「尺には」では、その釈然としないオチをあえてそのままにしていたのが面白かったです。皆が「よかったよかった、丸く収まった」と言っている間、イザベラだけが、神がおわします天をみつめて唇をきつく噛み、押し黙る。これは神が彼女に与えた試練であったのか、そしてこれからもその試練は(受難は)続くのか。ひとり楽天的でないヒロインの哀しげな表情で終わった、そんな幕切れが印象的な芝居でした。

で、この劇団AUNには私が愛して止まない本多菊次朗さんという役者さんが出ているのですが、この人がものすごく良い役だったのです。その役は、「典獄」。役名がないじゃんなんてバカにしてはいけません。物語のなかで唯一人間らしく、策を弄さず、お上から与えられた職務を全うしようと生真面目に苦悩しつつも自らの良心に従って行動する善良な男。この彼と、イザベラだけが、この納得いかない芝居を良きものに変えてくれていたような気がします。
ああ幸せ。好きな役者さんがいい人を演じてくれてるとなんかものすごく嬉しいです。

深川安楽亭

2004-12-04 | 芝居系
下北沢のザ・スズナリで、青年座の「深川安楽亭」を観て来ました。しょっちゅう暗転するし、音楽が「?」だし、劇場がアレなので外の車の音が聞こえるし…という按配で、決して「最高!」とは思いませんでしたが、キマジメな演劇で好感度は高し。
これはずいぶん前に「いのちぼうにふろう」というタイトルで映画化もなされた山本周五郎の小説が原作です。
私は原作を読んでいないのですが、小林正樹監督の映画が結構面白かった(仲代達矢、佐藤慶など、クセのある役者がずらりと揃ってました)ので、それを思い出しながらの観劇でした。『深川安楽亭』という名前の飲み屋にたむろする無頼のヤクザ者たちが、たまたま紛れ込んできた若者の純情にほだされて、身売りした彼の恋人を救うために命を張る…というのがだいたいの粗筋。映画で「いのちぼうにふろう」と名づけられたのは、自分の損得とも何もかかわりの無いことで命を棒に振ってみるのも悪くはないやな、という主旨の登場人物のセリフから。
記憶が少し曖昧なのですが、たしか映画では、そうやって命を張ってみても、結局はやっぱり棒に振ったのと同じで、ヤクザ者たちは皆命を落とし、若者も彼の恋人も(確かほんの少しの行き違いのせいで)命を落とし…という無残な結末だったと思います。しかしこの青年座の芝居では、確かに幾人かが命を落としますが若者は救われ、ほのかな希望を漂わせて終わりました。うーむ。原作どおりなのか、それが青年座の解釈なのか。

映画では勝新太郎が演じていた、ヤクザ者と若者との距離をつなぐ重要なキャラクターを、こちらでは山路和弘が演じていました(洋画の吹き替えなど多く手がけている方です)。この人ちょっと飄々としていて、それがわざとらしくなくて、とても良いのです。最初から最後まで酩酊している男が、最後に自分の過去や背負ってきた苦しみを吐露するシーンでは、あちこちですすり泣きが漏れてました。これが大衆劇場だったら「山路っ!」と声がかかりそうな名演(笑)。
そして、ヤクザ者たちの心の拠り所となり、彼らの苦しみを飲み込みながら黙って包丁を振るっている安楽亭の主人が、最後にチラリと垣間見せる、それまで抱えてきた(おそらくこれからも黙って抱えてゆく)苦しみ、哀しみ、怒りの表情。一人の若者は救えたけども、可愛がってきた、不器用な男たちが呆気なく散っていった、それを救えなかった悔しさをにじませるセリフ。これを演じる山本龍二氏の苦渋に満ちた横顔が大変印象的でした。
そのほかの役者たちもなかなか魅力的な面構えの人ばかり。なおクロノクル・アシャーの吹き替えをした檀臣幸氏は、ヤクザ者たちに救われる若者の役でした。今回は、とても繊細な感じだったなぁ。

くしくも仲代主演(無名塾)で同じく「いのちぼうにふろう物語」が1月に公演されるそうです。これは脚本が映画と同じ隆巴。どんなのかなぁ。観に行こうかなぁ。