立ちごけという奴、何回しただろう。何回やっても嫌なものだ。
嫌な思い出というのは忘れようとしてもなかなか忘れられるものではない。
が、それにも限界があって余りにも回数が多いと、もうが何だか分からなくなって、「忘れる」んじゃなくて「覚えて」いられなくなる。
幸い(?)なことに元々記憶力は良い方ではない。
確かに乗り始めた頃は、乗ってる回数自体が少ないわけだから、くよくよしたり自己嫌悪に陥ったり、ということは能くあった。けど、十年以上も乗れば一人前。
一人前ということは失敗も成功もそれなりに経験しているということだから、
「あ~っ、またやってしまった」
、となっても立ち直るのが早くなる。くよくよしたって自己嫌悪に陥ったって、「覆水盆に返らず」だ。
そんな暇があれば早く修理をするための費用の算段をする方が大事だ。
自転車は引っ繰り返ったって、まあ、重量が知れているからそう簡単には傷まない。中には初めからセンタースタンドはおろかサイドスタンドもついてないのもあって、そんなのはそこらに立て掛けたり転倒する前から横倒しにしたりするものらしい。昔、映画(テレビだけど)で、そんな場面を見て驚いたものだ。
「そんなことしたら自転車に申し訳ない」みたいなことを思った記憶がある。
バイクはそうはいかない。軽いようでも100キロ。普通は150キロ後半から200キロの重量がある。リッターバイクともなれば200キロから300キロ近くになり、ハーレーなんかだったら350キロ超はざらだろう。
(この間初めて見た「boss hoss」、なんてのは6000cc前後のシボレーのエンジンを積んでいて600キロあるそうだ。)
そういうわけだから、当然倒したらどこかが傷む。
大体「立ちごけ」というくらいだから、跨っている時にやる。本人も一緒にコケることが多い。
最後の最後まで片足と腕力で200キロ以上の車体を「支えよう、こかすものか」、と必死になって頑張る。
そして力及ばず倒れる。船乗りと一緒で沈没するまで一緒だ(?)。
さっさと見捨てて逃げ出す奴はその限りではない。
立ちごけは恥ずかしい。誰も見てないか異常なくらい気になる。見てないわけがない。確実に注目されている。
何食わぬ顔で、けど、そそくさとバイクに駆け寄り、
「こんなの、別にぃ~」みたいな風で起こす。
そしてやっぱり恥ずかしいから、できるだけ早くその場を離れたい。
冷静さを装って、ゆっくりとバイクの状態を確認する。これ以上恥はかきたくないから、慌てふためいてまたコケる、という更なる失敗は何としてでも避けたい。
体のどこかをぶっつけて痛い思いをしていても、そんなことは全くないような顔をしてまずは点検。
でも心は少なからず動揺しているから、しっかり点検したつもりでもどこか見落としている。
思いの外、傷んだところがない。と、十分に確認した。エンジンをかけ、その場を離れる。やれやれ。
しばらくして何か違和感があるような・・・・。
大方の場合は「何だかレバーが遠くなったような気がする」。
改めて停めて、或いは目的地について一息して、バイクを見る。
その時「あっ」となる。
そう。
十中八九、レバーが素知らぬ顔してゼンマイみたいに曲がっている。