みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

*箕面の森の埋蔵金(1)

2021-04-21 | 第23話(森の埋蔵金)

箕面の森の小さな物語(NO-23)

 <箕面の森の埋蔵金>(1)

 「今からもう何十年前の昔の話しやがな~ 箕面大瀧までの瀧道沿いに、多くの高級料亭や旅館、それに企業の保養所、金持ちの別邸なんかあったらしいわ~ そんでな、ある金持ちのその別邸で不思議な噂話しがあったんや・・ と」

  高橋杜夫は、意味深長な言い回しで、同僚の山口健に話し始めた。 二人は会社の同期で、若い頃から気が合い、時々一緒に飲んでは仕事のグチ話しや憂さ話しをしたりしていた。 金曜日の夜になると、いつもの行きつけの店、箕面の小さな居酒屋の常連になっていた。 しかし今夜は雨のせいか客は二人だけだった。

  杜夫は早くもろれつが回らなくなってきたので、女将に水をいっぱいもらい、自分の頬っぺたをパチンと張ると・・ 「これはとっておきの内緒の秘密の話しやねん・・ 誰にも言うとらん話しやけど、お前だけに教えるんやで・・」 健はそれから一時間、杜夫が一方的に話す秘密と言う話しにだんだんと身を乗り出し引きずられていった。

  「その箕面の別邸というか館にはな 富さんちゅう未亡人が住んでてな  それに昔から仕えてたオトはんちゅう女中はんと二人で住んでたんや  ダンナはんは綾小路何とか言うてな、なんでも皇室に縁のある人とかで財界の大物やったそうな・・ なんでも戦前の満州で大儲けしはってな  今の金にして数十億円ほどの金塊を持ってたやそうな・・ 富はんは京都の舞妓はんやったそうやが、ダンナはんに惚れられて、後家はんとして嫁にきはったんや  そんで箕面の山深い箕面川の辺に、当時でビックリするぐらいの館を建てはったんやと  ところがな 一年もせんうちにそのダンナはんが心臓発作で急逝しはったんやと  気の毒に富はんは、それからずっと女中はんと二人で、その館で暮らしてきはったんやと

そんでな その噂話しちゅうのはな  そのダンナはんが亡くなる前にその館の近くにな その金塊を埋めたちゅう話しやねん・・  しゃあさかいな 何人もの男はんが、その隠し金塊を目当てに富はんを口説きにかかったそうやけど、身持ちが固とうて誰とも再婚もしはれへんかったんやそうな・・

 ところが富はんには甥が一人と、姪が一人おってな・・ そのまま富はんが亡くなって、そんでその財産が見つかったら、その二人が相続する事になるんやがな・・ しかし何せ その肝心の金塊がどこに埋められてるか、誰も分からんのや・・ そんで甥も姪もこまめに富はんの館を訪ねては、その噂話しを探ろうといろいろ世話をしてたんやそうな・・

  姪の涼子ちゅう娘は、顔も器量も性格も悪い我侭娘やったそうやけど、何人もの男はんからプロポーズされてな、そんで特に西谷ちゅう20歳以上年の離れた中年男から猛烈にアタックされてな  涼子もその気になって結婚したんやと そんでそれからはしょっちゅう二人で富はんを訪ねて来ては、何やらいろいろと探ぐっていたそうや・・

  もう一方の甥の孝太郎はな よう勉強ができたようで、末は博士か大臣か と周りから言われてな 富はんを喜ばせたそうや  孝太郎は月に一回来ては、毎回3日ほどいつも泊まってな なにや いつも地下の書庫で一日中探しもんしとるちゅう噂やったんや・・

 そんな頃や・・ 急に富はんが倒れはったんや と・  そんでな 昔からのかかりつけの医者が馬車に乗って急いでやってきたんや と。 姪の西谷夫婦は、その前に女中はんから連絡を受けて、もしこれが最後やったら その前に富はんが知ってるかもしれん 金塊の隠し場所 聞いとかなあかん・・と 急いで駆けつけはったんや  甥の孝太郎も駆けつけたんやが、何やらいつもの地下の書庫でバタバタしてはったそうな・・

 診察した医者は・・ 「いつものこっちゃ ちょっと疲れはったんやな 富さんは昔から丈夫やから後20年は大丈夫や ハハハハハハ」笑っとったそうや   ほんま言うとな この丸尾はんと言う医者はな ダンナはんが急逝しはった時に看取った医者でな  昔から富はんを取り囲む人らを、いつも苦々しく思ってたんで、何の根拠も無いのに「富さんは元気や問題ないで!」と言いはったんやと  そんで姪夫婦はな、少しガッカリした様子で帰っていきはったんやそうな。

 しかし 甥の孝太郎だけはそれから一週間も泊まって、その間地下の書庫にこもったままやったそうな・・ 何でもその書庫にはな ダンナはんの事業のものらしい膨大な資料が残ってて、孝太郎はそこにお宝の山があると睨んで丹念に調べてたようやねん  そんでその重大な目処がもうすぐつくはずやったんやな・・

 実はな もう一人 あの女中のオトはんやがな・・ ダンナはんとの間に、賢治ちゅう男の子を一人もうけてはったんやと  ややこしい話しやな・・  オトはんはな 子供がおらん兄夫婦へ自分の子供預けてな 育ててもろたんやそうや その息子がもう大きなってな 植木職人やってはってな  それがいきさつはよう分からんけど、富はんの館の植木の手入れを任されてな  富はんは知ってか知らずか  ようやってくれるわ・・ と賢治を随分と気に入って、毎月来てもろてたそうや  勿論 母親である女中のオトはんはそんな息子を見ながらも 表面上は知らん顔してたそうやけどな・・」

 「それからどうなったんや・・」 健は杜夫の話しにその続きをせっついた。 杜夫はトイレから戻ってカウンターにつくと、再び続きを話し始めた。 女将も店が暇なので、先ほどから杜夫の話しに身を乗り出して聞いていた。

 

 「そんで7月のある日のことや・・ この月は珍しく箕面にも大型台風が2つ来てな・・ その影響もあってか大雨が3日間も降り続いてて、夜半にはその風雨がさらに強くなったんや。 そんな時、運悪く再び富はんが倒れはってな それが危篤状態や言うて そんでな オトはんは関係する人みんなに連絡しはってな 各々には目的があるさかい とにかく急いでみんな嵐の中を館に集まってきたんや と」

 その意外な展開に女将も健も目をギラギラさせながら聞き入っていた。

(2)へつづく


箕面の森の埋蔵金(2)

2021-04-21 | 第23話(森の埋蔵金)

箕面の森の小さな物語 

<箕面の森の埋蔵金>(2)

 杜夫は二人を前にもったいぶるように話し始めた。

 「台風による豪雨の中、各々が森の中の館に集まってきたそうな  姪の西谷夫婦はすでに<と<というキーワードをつかんでたんやけど、何のことやらさっぱり分からんかったんや そんで何とか富はんからそのヒントを聞きだそうと、耳元で喋り続けてたんや・・

  甥の孝太郎は、もう少しであの膨大な資料から、宝の山が目前に明らかになる期待でな ある一点だけのヒントを富はんに求めて同じように耳元に張り付いてはったんやそうな・・

 女中のオトはんは、今まで何十年もダンナはんの亡き後、息子・賢治へ遺したと思われる遺言書が、家のどこかに隠してあるはず・・ と仕事の合間合間に富はんに隠れて、広い館の隅々まで探してたんや そんでな それが地下室から箕面川にでる一角に 隠し通路が見つかってな  その先にある扉を見つけはったんや そんで 密かにその日も植木職人の息子を仕事にかこつけて呼んではってな その鍵を富はんに何とか聞こうと思てはったんや・・

  そんで医者の丸尾はんは別の目的で富はんを診てはったんや 何でもダンナはんを看取る前、ダンナはんにベットに呼ばれ、かすかに聞こえる声でな 「金・・ 富の背中・・ ホクロ・・ 姫・・ そこ・・」と、言い残して他界してはったんやと。 そんでな 診察のたびに富はんの背中を見ると、少し曲がった背骨の横に2つのホクロがあり、それが金塊の隠し場所を探るヒントやと確信してはったんやな・・

  集まった皆は、富はんのベットの横や前後に陣取ってな 各々の目的の為に、耳元で入れ替わり立ち代りささやきながら探ってたんや・・ と。

 

  館の外は、台風の影響でいつになく激しい風雨で荒れ狂ってたんや  森の樹木は左右に大きく揺れ、時折 その激しい嵐に悲鳴をあげるかのように折れる枝、舞う葉の音が聞こえてくる・・

 杜夫の話しが続く・・ 「その時、外の戸を激しくたたく音がしたんや オトはんが裏玄関に出ると、外はものすごい嵐に山が狂っていた。 訪ねて来た人は箕面警察の若い2人の警察官やったそうな <ここは危ない! 箕面川が氾濫してて早く下の安全な所へ避難してください。 緊急です。 今すぐお願いします・・> そう言い残すと、上流の家の方へ急いで走っていったんや・・と  富はんを囲むみんなは、その話を聞いても誰一人全くお構いなしにただ富はんから何か聞き出そうと必死やったんやな・・

 そんで7月11日の未明のことや・・ ものすごい山崩れの大音響と共に箕面川が暴れだした。 連日の大雨に加え、崩れ落ちた土砂や大岩が、濁流と共にものすごい勢いで山を駆け下った。 突然

ドスン バリバリ バリバリ

 と、大音響と共に、大きな岩がいくつも館にぶつかると同時に、根こそぎ倒れたり折れたりした杉の大木多数が館に突き刺さってきたんや   やがて数分後、次々と襲い掛かる大量の土砂、岩、木々を含む濁流に飲み込まれ、富はんの館は あっという間に粉々に壊れ一気に下流へと流されていったんや・・  富はんを含む7人もろとも、全てが根こそぎ激流のもずくとなり、後には何一つ残らんかったんや・・ と」 店の女将と健は う~ん とうなったままだった。

 

  杜夫の話が続く・・ 「今の箕面大瀧の少し下方にある河鹿荘別館の茶屋<ほととぎす>横手に、<箕面警察長 殉職の碑>があるやろ・・ その石碑に書き刻まれている文 読んだ事やるやろ・・

 <・・昭和26年7月11日 未明に・・ 集中豪雨により、箕面川は未曾有の増水となり、濁流うずを巻いて氾濫し、園内の飲食店、旅館などは押し流され・・ 云々> と今も刻まれているわ  お前 知っとるやろオレはその時の状況やと思てんねんけどな・・ ちょっと違うのは、あの時の館と7人のことは何一つ記録に無いし分からんのやそうや・・?

  そんで問題はこれからやねん・・ あれからもう60年以上も経った今年の夏のこっちゃ  昔 その館があった少し下の方、少し背骨のような所から右へ曲がった付近・・ そこは古場の修験場跡下で、姫岩の近くやな  そのあたりでなぜか砂金がよう採集されるんやそうな・・」 聞いていた健が口を挟んだ。

 「ちょっと待て その古場の<姫岩の< それは箕面川のあのちょっと曲がったとこやな  富はんのホクロの位置やないか?」 聞いてた女将も興奮気味に身を乗り出した。

  杜夫は話し続けた。 「最近のことやけどな  あるハイカーが風呂ケ谷で足を挫きはってな  そのせいでゆっくりゆっくり下りて来たんで、天狗道から姫岩に下りてきた頃にはもう日がとっぷり暮れ、真っ暗闇になってたそうや。 ところがな その姫岩の近くだけが ボー と明るく、何か光り輝くものが見えたんやそうや・・」  健が叫んだ・・

「そこや そこや! 埋蔵金 そこや!」

  杜夫の話を聞いていた女将は、もう発見したかのように・・ 「そりゃすごいわ! ええ話し聞いたわ その場所やったら大体分かるわ・・」 心の中でほくそ笑んだ。 「今日はええ話し聞いたさかい飲み代 タダにしとくわ! ついでにあんたのツケもみんなタダにしとくわ  それにこのレミーマルタンも一本サービスや! 飲んで 飲んで!」

  女将は早速 「明朝にでもスコップとツルハシ持って行かな・・」 と心の中で目論んでいた。

  健は健で はやる気持ちを抑え、こっそり夜明け前にでも一人で確かめに行く算段をたて、一人ほくそ笑んでいた。

  杜夫は杜夫でいつしか自分の妄想話しに酔いしれ、初めて飲む高級酒に存分に酔いしれ、大金持ちになった気分で、雲の上を歩くがごとく家路についた。

  箕面の森を月明かりがこうこうと照らしている。 秋の夜風が、色づき始めた紅葉の木を揺らし、フクロウかミミズクかが 一羽 啼いた・・・ホー ホー ホー アホー ホー ホホホホ ホ ホ・・

 (完)


少年と傷ついた小鳥  

2021-04-21 | 第3話(傷ついた小鳥)

箕面の森の小さな物語(NO-3)

 <少年と傷ついた小鳥>

  箕面駅近くの山麓に開業する獣医の中里隼人は、一匹の柴犬に予防接種をしていた。  嫌がる犬は大きな声で吠え立てていたので、それに気を取られ、カウンターに一人の少年とお父さんが立っているのが分からなかった。

 少年の両手の中には、ぐったりした小鳥が一羽・・・箕面の昆虫館の裏山で見つけたので・・・ちょっと診てもらいたいんですが・・・」とお父さん。

 昨日の季節外れの大嵐で巣から落ちて傷ついたのかな・・?  隼人は獣医師でも小鳥は専門外で大学で学んだ一般常識しか持ち合わせてなかったが、とにかくレントゲンを撮り傷の状態を調べてみた。  どうやらフショ(足)の部分が折れ、翼角と上尾筒、初列雨覆(上の翼)も傷つき満身創痍といった感じだ。 あと数時間ぐらいしか持たないだろう・・と診断し、隼人はお父さんにそっと伝えた。  足が折れているし、翼もだいぶ痛んでいるので・・と細かく説明したうえで、今はかろうじて息をしているけどもう長くは無いことを伝えた。  それにとうてい家で手当てする状態ではないので「私のほうで引き取りましょうか?」と伝えている時だった。  隣にいた少年が急にお父さんの服を激しく引張りながら猛烈に首を振り「う~ う~ う~」と言いだした。

 お父さんは子供の剣幕に押されてか・・「よしよしお前の気持ちは分かったから先生にどうしたら治るのかもう一度聞いてみるからな・・」と、言いながら隼人に懇願するような目をしたので、隼人もそれなら・・とまた診察室に戻り、昔の鳥の本を引っ張り出したり、友人の鳥に詳しい獣医師に電話で聞いてみたりした。

 そしてとにかく急いで応急手当を施し、当面できるだけの治療は全部やってみた。  丁度 空いていた靴箱があったので、そこにボロ布を布団代わりに敷いて小鳥を そ~ と寝かせた。  隼人は父子を前にし、養生上の注意事項や水や餌のやり方など、一応の飼いかたなどを教えたが、明日まで命が持つとは思えなかった。

 「よっちゃん! よかったな・・・」と、お父さんは手渡された靴箱の中で横になっている小鳥を心配顔に覗き込む子供に見せながら がんばれ!  と精一杯の声をかけ、深々とお礼を言われて出て行かれた。

 しかしその後、何気なく二人の後ろ姿を見たとき・・ 隼人は激しい衝撃をうけた!  その子は松葉杖をつき、片足が包帯で巻かれていた・・ 「オレは何んと言う対応をしてしまったのだろうか・・ 足が折れてるからもう長くは無い・・ なんて・・ 何とむごい事を言ってしまったんだ」 隼人が最初に二人を見た時は、二人ともすでにカウンターの前に立っていたので分からなかったのだが・・ それに両手の中の小鳥に目がいってて、子供の姿をよく見ていなかった。 隼人はドアが閉まり出て行った二人によっぽど走っていって謝ろうと思ったができなかった。 お父さんの服を引っ張って、猛烈に首を振っていた理由がやっと分かった・・ 「決して治療を諦めてないで・・」と、自分の体とあわせ必死に言っていたことが分かり,安易に診断した自分を責め続けた。

  それから一週間がたって、同じ夕暮れ時 何と二人がまたやってきた。二人の顔が少し明るいので、まだ小鳥は生きている・・ と隼人は嬉しくなった。  診察するとしっかり目を開けているし、前とはまるで違う いい状態で推移している事が分かる。  予断を許せないが、ひょっとするともう少し生き延びるかもしれない・・ 隼人が診ている間 心配そうに覗いていたお父さんが話している「息子はあの日から自分のベットの横にあの靴箱を置いて、四六時中 心配そうに覗いては声をかけてます。 夜も余り寝てないようで逆に私はそちらの方が心配になるぐらいです。 でもお陰でここ数日は少しずつ回復しているような気がして、あれだけ沈んでいた息子の顔もすこし明るくなってきました・・」と。 「良かった・・」 まだ喜ぶのは早いが、それでも隼人の心が少し救われた。

 隼人がそう思いながら よっちゃんに話しかけると・・?  よっちゃんは言葉を発せず、お父さんと手話で会話しているではないか・・ 隼人はまた違う衝撃を受け天を仰いだ。  片足が不自由なだけでも大変なのに、言葉が自由に交わせないなんて・・ 言葉の交わせないこの小鳥と同じではないか・・ だからあんなにも・・ 隼人はもう言葉にならず、心の中は涙でいっぱいになってしまった。

 よっちゃんとお父さんはそれから同じ曜日の同じ夕暮れに、少しづつ元気を取り戻している小鳥とともに隼人の獣医院へやってきた。

 5週目になった時、奇跡が現実になった。 もう大丈夫だ!  小さな鳥かごに入れてもらった小鳥は、よっちゃんに向かってさえずるようになるまでに元気になってきた。  後もう少しだ がんばれ!  よっちゃんは小鳥の名前を ” ピヨ ” と紙に書いて隼人に嬉しそうに見せた。

  やがてピヨは、よっちゃんのあふれる愛情をたっぷりともらって、とうとう元気に回復した。 それはまさに奇跡だった。 隼人は開業して今まで、動物や生き物たちから喜びも悲しみもいっぱい貰ってきたが、こんなに嬉しく感動的なことはなかった。 「それにいろんな心の勉強をさせて頂いた・・」と自分の心の未熟さを思い知らされ、それは自分の惰性化していた診察にも心引き締めて、新たな出発ともなった。  あれから隼人は自分の対応のまずさや非礼を、二人に心からお詫びをしたが、二人とも・・ そんなこと・・ と笑って許してくれていた。

 隼人は最近 よっちゃんともお父さんとの手話を通じて会話している。「・・もうすぐボク一人で養護学校へ入るんだ・・ もっと元気になったらピヨは、あの拾った箕面昆虫館の裏山の森に放してあげるんだよ・・  ちょっと淋しいけどピヨのことを、ピヨのお父さんやお母さんがきっと待っているからね・・」と。  なんと 心優しいよっちゃんなのだろうか。

 するとお父さんが・・ 「私の仕事の休みのとき、息子を連れてよく箕面の森をあちこち歩いているんですよ・・ 自然の中で触れ合う事が大好きな息子はこの日をいつも心待ちしているようなんです。 この前も森の樹木に耳を当てて・・  聞こえないだろうに・・ なぜか息子には枝や葉が水を吸い上げる音が聞こえるらしいんですよ」 隼人は不思議に聞いていたが・・ きっと本当なのだろうな・・ と感じた。  よっちゃんはきっと森の精を、心の中で聴いているのだろうな・・・ 

 幾重にもハンデイを持ちながら心優しくて明るく,正義感にも溢れ、人一倍の温かい心をもっている少年・・ もうすぐ元気になったピヨは、箕面の森へ再び羽ばたいていくことだろう・・ そのとき少年もまた、大きく大人へと向かって旅立つ日となるだろう。

  隼人は診察室の窓を開け、裏の箕面の森に向かって両手を広げ、思い切り深呼吸をしながら 大自然の素晴らしさに ”ありがとう・・” とつぶやいた。  (完)