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キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

何となく気まずくなる

2006年11月22日 | みるいら
 石飛から借りた『エースをねらえ!』を読んでボロ泣きしていたら、珍しく定時で仕事を終えた兄さんが帰ってきた。
「ただいま」
 ぼくは平静を装って、ティッシュで顔を拭く。
「おかえり」
 兄さんは普段通りに、洗面所へ行く。うがいと手洗いを欠かさないのは、昔からじゃなかったと思う。仕事柄かな、と自分で首をかしげていた。

 油断してた。
 ここのところ、帰ってくるのは次の日になってからが多かった。
 とはいえ、兄さんの職場にも一応定時ってものがあった。ついさっき思い出したところだけども。

「何読んでたの?」
 定時で帰っても普通より遅い夕食の支度をしつつ、こっちを見ないで問う。
「漫画」
「タイトル」
「……『エースをねらえ!』だけど」
「ふうん。実鳥、晩ごはんは?」
「食べた」
「了解」
 兄さんの晩ごはんの残りが、ぼくの明日の朝ごはん。
「そういえば」
「何?」
「ドストエフスキー」
「ドストエフスキー?」
「本棚に一冊だけあった」
「ああ」
 あれね、と小声が返る。
「高校のときの課題図書」
「そのまま持ってきたの?」
「他のと一緒くたになってたんだと思う」
「ふうん」
 今度はぼくがうなずく。
「あれで感想文書いたの?」
「覚えてないけど、多分」
「面白かった?」
「憎々しかった」
 笑っているような口調で、さらりと。
「さっきの漫画、どんな話?」
「昔の漫画だよ。テニスの」
「面白い?」
「うん。それなりに」
 石飛が貸してくれる漫画は、今のところはずれがない。そして、七割が少女漫画だ。本屋さんで手に取りにくい身としては、大変ありがたい。
「そっか」
 同じ口調だけど、今度は毒がない。
「読んでみる?」
「借り物だろ?」
「うん。来週まで大丈夫だから」
「じゃあ、土日にでも」

 ぼくらは、気まずくなるとその分会話が増える。


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『エースをねらえ!』集英社公式サイトはこちら
※FLASHから始まりますのでご注意ください
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名作がいつも書店にあるとは限らない

2006年11月22日 | みるいら
 本棚の半分は、ぼくの漫画だ。
 残りの半分のうち、三分の一が大学の先生が印税収入のために生徒に買わせた本で、三分の一が新書本(ぼくは自分では買わないだろうなあ、と言うラインナップ。小難しそう)、あとは児童書だ。
 児童書と言っても絵本はあまりなく、だいたいが新書と同じサイズの「文庫本」と、文庫本だ。
 よく見ると、児童文学でないかもしれない文庫本もいくつか。背表紙の色が変わっているのもある。

 とくに古そうなのを手に取ると、ドストエフスキーだった。
 用事はないように思えて、棚に戻した。

 大きな本棚の、半分が漫画。
 本棚は人柄を写すと言う人がいるけど、これで人柄をはかられたら、どんな人になるんだろう?
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