生存競争で緑を増やせ 街のなかに森を育てる「宮脇方式」

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産経

生存競争で緑を増やせ　街のなかに森を育てる「宮脇方式」

伊予銀行（本店・松山市）を中心とする地元企業や団体が行う緑化運動「『森のあるまちづくり』をすすめる会」は、宮脇方式と呼ばれる植樹方法で、街のなかに森を作ろうという試みを続けている。提唱する生態学者の名をとってこう呼ばれているといい、かつてあった鎮守の森などに着目、本物の森に近い状態を作ろうという狙いだ。その土地にあった多種類の樹木を密集して植えるのが特徴。自然の生存競争を促すことで植物の成長が早くなるというこの手法は、海外でも注目され、ＳＤＧｓ（持続可能な開発目標）など、環境意識の高まりを背景に、アジアやヨーロッパなど各地で実践されている。

地道な取り組み結実

平成２２年に発足した「すすめる会」には、これまでに８０以上の団体・企業が参加。坊っちゃんスタジアムなどのスポーツ施設が集中する松山市の松山中央公園では、平成２３年にシラカシ、アラカシなど２６種類、約５３００本の木々の苗が植えられた。約１０年を経て、植えた木々は大きく伸び、訪れる市民に緑の木陰を提供している。

すすめる会の活動は、伊予銀行の森田浩治相談役の音頭でスタートした。森田さんは、松山市は城山公園や道後公園の緑が印象的なわりに、「実際は市街地には街路樹が植わっている程度で、緑が少ないな」と感じていたという。

森田さんは当時は伊予銀行の頭取。銀行として地域にできることは何かと考え、「街なかに森を作ろう」と決断したという。

活動は平成２２年に、伊予銀行福音寺支店の敷地に植樹したのが始まり。支店や社宅などのほか、企業が社屋や工場を整備する際に、敷地の一隅に森を作ってもらうよう呼びかけた。

地道な取り組みが徐々に成果に結びつき、これまでに愛媛県内で５万１千本を超える木を植えてきた。

混植、密集型

すすめる会が行う植樹活動は宮脇方式と呼ばれるもので、生態学者の宮脇昭・横浜国立大学名誉教授が提唱した植樹の方法だ。

宮脇さんは、各地の鎮守の森などを調査し、土地本来の自然な植生を重んじることの大切さに気づいたという。植樹の際は多数の樹種をまぜる「混植・密植型」が良いと呼びかけた。

日本では内陸部はシラカシなど、海岸部はタブノキやシイといった照葉樹林が本来の姿で、スギやマツなど人工的な単一樹種の森では自然災害にも耐えられないというのだ。宮脇方式では木々が自然に生存競争をして、早くたくましく育つという。

海外でも注目度は高く、１９９０年から始まったアジアの熱帯雨林再生プロジェクトでは、マレーシアで熱帯雨林の再生に成功。中国でも１９９８年から万里の長城の一部でモウコナラを植える活動が始まった。

ヨーロッパではイギリス、フランス、オランダなど１２カ国で宮脇方式によるミニ森林作りが行われているという。

愛媛県での活動主体となっている伊予銀行の本店は松山市中心部に位置している。市役所や県庁も近い市街地だが、銀行駐車場にも高木のシラカシ、アラカシなど、亜高木のヤブツバキ、ユズリハなど、低木のシャリンバイ、サザンカなどが混植されている。

森田さんは「１１年前からいろんな人にお願いして木を植えてもらったが、地元企業の間にも理解が進み、やってきたことは間違いないと思えるようになってきた。やりがいがあります」と手応えを感じている様子だった。

幼稚園で植樹

６月２日、愛媛県新居浜市の菊本幼稚園で新園舎の完成（今年３月）を記念する植樹祭が行われ、森田さんや幼稚園の神野年夫理事長らが運動場の一角にシマトネリコの木を植えた。

すすめる会としては、愛媛県内で８２番目の植樹となった。本来は４月に行う予定だったがコロナ禍でこの日まで延期していたという。

園児たちは年長の６２人が参加。小さいスコップを手に、ツツジやサツキの苗８６本を手分けして植えていった。

植樹に加わった園児の松浦青葉ちゃんは「穴を掘り、苗を入れ、土をかけて楽しかった。花を見たい」。薬師寺栄翔君は「大きくなるのが楽しみ」と笑顔だった。

森田さんは「シマトネリコは非常に丈夫で強くたくましい。菊本幼稚園を守ってくれるシンボルツリーになると思う」と園児たちに話しかけていた。

（村上栄一）