17のゴールをあらわす色を使った丸形のカラフルな「SDGsバッジ」を上着の襟につける人が増えている。だが、様々な場面で言及は増えたものの、制度や組織の変革には繋がっていないという指摘が日本だけでなく世界でもされている。日本でも少し前までは様々な場面でSDGsという言葉をたびたび耳にしたが、近ごろはそんな機会も減少ぎみだ。ライターの宮添優氏が、SDGsについて盛んに発信してきたテレビ局が抱える矛盾についてレポートする。

【写真】SDGsの17目標とは

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「SDGsなんて、今は誰も口にしませんよ。あんなに連日、繰り返し特集していたのに、なかなか見かけなくなったでしょう」

 東京・港区内の大衆居酒屋で話すのは、都内のテレビ局で情報番組のデスクをつとめる大石理恵子さん(仮名・30代)。確かに大石さんが言うとおり、少し前にテレビや新聞であれほど取り上げられていた「SDGsネタ」は、本当に少なくなった。新型コロナウイルスや、ロシアによるウクライナ侵攻など「SDGs」どころじゃない、という現実が影響している可能性もあるが、お金をかけずに効果が高い、つまり収益につながるテーマが優先されるからだという。

「とにかく金になる事業を考えろと、ことあるごとに言われています。それを言うのは社員なわけですが、彼らは彼らで、お偉いさんにお尻を叩かれ、放送とは全然関係のない事業に重点を置くよう命じられる。そして私たちは、テレビしかやってこなかった上司たちの元で、より短時間でより数字の取れる番組を作れとハッパをかけられています。『休みを取れ』と言われますが、仕事が終わらないくて、サービス残業どころかサービス出勤をしなくては間に合わないのが実情です」(大石さん)

 急にSDGsばかり重点的に取り上げていたのに、パタリと見かけることがなくなったのは、金回りのよいところを不自然についてまわっているからだと、都内のテレビ局で報道部署から営業部署に移籍したばかりの正社員、岡田快斗さん(仮名・30代)は言う。

「もちろん、SDGsの理念自体は素晴らしいものですが、なぜ各マスコミが力を入れて取り上げた……というより『力を入れられたか』というと、PRのための金が出ていたからです。ジリ貧と言われるテレビ局では、すぐに収益となるものでないと、新規企画に金が出ることは滅多にありません。でも、SDGsは世界的な流れで政府も音頭を取っている一大事業。広告代理店やスポンサーが一斉に右向け右でやるから金も動く。SDGsネタをやれば、(業界的な)金の流れが生まれたんです」(岡田さん)

 民放の収入源である広告を出稿する企業は、本業で利益をあげるために存在しているものだが、現代では、大企業であればあるほど、社会の公器としての存在意義を示すことも求められる。利益追求しながら社会的意義にも貢献するには何をしたらよいのか、役立ちたい希望を持ちつつ、どうしたらよいのか判断も決断もしかねている企業は少なくない。その迷い道から抜け出すような役割を広告代理店が担うことがある。その落とし所が近年は、SDGsに関わることに集中していたといっても過言ではない。だから、大企業はこぞって「SDGs」への取り組みを競うようにアピールしたのだ。

 その結果、広告代理店だけでなくPR会社や、ありとあらゆる代理店がSDGs関連の企画を提げ、売り込みをかけていた。その結果として、数年前からテレビで組まれる特集などで一気に「SDGs」色が強まったのは、読者もご存知の通りだろう。

 ところが、視聴者のウケは悪かった。つまらないというより、所詮は綺麗事だと見抜かれていたのではないかと、岡田さんは自嘲気味に話す。

「代理店もテレビ局内にも、SDGs関連のポスターが一斉に張り出され、グッズが作られました。でも、未来へ持続可能な世の中にしようと上から呼びかけるような内容ばかりで、本当にこれは視聴者が知りたい、求めていることなのかと。疑問を持ちながらつくったものは、視聴者にも、わだかまりがなんとなく伝わるものです。だから反響も、言うほどなかった。そこに、感染症や戦争の話が出てきて、いくら旗振りをしても、SDGsへの関心はそれほど高まらなかったのが実情でした」(岡田さん)

 SDGsの理念が重要だという事実は変わらないし、先進国と呼ばれる国々が、これまで通りの方法をとっていれば、人間は本当に滅んでしまうかもしれない。そんな不安は誰もが感じているはずだ。ただ、せっかくの理念も金儲けの口実に使われ、一部既得権益者の生き残りや逃げ切りのためだけに利用され始めたのだとしたら、市民が一斉に興味を無くすのも無理はない。そもそも「私たちの働き方が持続可能ではない」(前出・大石さん)ことが、視聴者に浸透してゆかない最大の原因かもしれない。