国外逃避が止まらない…!「電気代が異常に高い」ドイツがいま陥っている「産業の空洞化」と「雇用の喪失」

 

国外逃避が止まらない…!「電気代が異常に高い」ドイツがいま陥っている「産業の空洞化」と「雇用の喪失」 - ライブドアニュース

一つの時代の終わり

8月16日の夜、ドイツ南部はバイエルン州の、グラーフェンラインフェルト原子力発電所の冷却塔2基が、計画的に爆破された。下記はその映像。実にスペクタクルだ。蛇足ながら、爆破の責任者は若い女性のエンジニアだった。

冷却塔は、高さが143メートルで、直径は地上部分で105メートル、上端では64メートルという巨大な円筒形の構築物。これまでほぼ50年間、まさにこの地方のランドマークとして、ペアで聳え立っていた。

ドイツの夏の夕方は、9時ごろまで明るい。この日は特に素晴らしい青空で、多くの人が三々五々、ピクニック気分で近隣の原っぱに陣取り、爆破の瞬間を見ようと待ち構えていた。そして8時、ダイナマイトに点火されると、2基の冷却塔は若干の時間差で、まるで地面に吸い込まれるようにスルスルと崩れ落ち、唐突に消えた。そして、数秒後にはそこに、天をも曇らせるほどの粉塵が舞い立った。

原っぱに佇んで涙を浮かべる人、不吉なものがようやく消えたと拍手喝采する人、家でライブでこのシーンを眺めていた人たちの心の中にも、それぞれの感慨があったに違いない。

そして今、そこには3万4000トンの鉄骨、コンクリート、プラスチックの瓦礫の山が二つ、静かに横たわっている。一つの時代が終わったのだ。

冷却塔の爆破は「富の破壊」の象徴

グラーフェンラインフェルト原発の建設工事が始まったのは1975年。当時、原子力工学は未来のテクノロジーで、ドイツの得意分野でもあった。建設が終わり、81年には臨界に成功。翌年82年6月から商業用の発電が開始された。出力は1345MW。中規模の原発だ。2015年6月に停止するまでの33年間、ここで3330億kW時の電気が作られた。

ただ、本来なら原発の寿命はもっと長い。40年、今では60年も常識だ。ドイツの原発の建設費は、600億~700億ユーロと高いが、減価償却後は、当然、使えば使うほど利益が増える。バイエルン州はドイツ屈指の産業の立地で、電気は多くを原発で賄っていた。

ところが2011年、福島第一の事故の後、メルケル前首相が全ての原発を遅くとも2022年で止めることを、ほぼ独断で決めた。そして、それ以後、ドイツは本当に、快調に動いている原発をどんどん止めていったのだ。2015年に停止されたグラーフェンラインフェルト原発も、もちろん、安全上も、技術上も、止める必要のないものだったことは言うまでもない。

つまり、これにより、得られるはずだった富を失ったのは電力会社だけでなく、国民も同じだ。冷却塔の爆破は、まさしく富の破壊の象徴だった。

グラーフェンラインフェルト原発の運営はプロイセンエレクトラという会社が行っており、18年より解体作業が進められている。廃炉は34年の予定だ。なお、冷却塔は最後に壊すはずだったというが、それが今回、早められ、衆人の注目の下、爆破された。

しかし、なぜ今? 気になったので、プロイセンエレクトラ社のホームページを覗いてみたら、目立たないながら、「なぜ冷却塔を爆破するのか?」という項が設けてあった。そして、そこには、「廃炉に向かっているという明確な姿勢を示すようにという要望が、何度も寄せられたため、予定を早めることになった」という意味のことが、簡潔に記されていた。

ドイツの「家庭用電気代」はEUで最も高額

要望? それとも要請? それが誰からであったかは書かれていなかったが、容易に想像はつく。昨年、電気の高騰と逼迫の最中に脱原発を完遂し、それを大々的に祝った人たちではないか。ドイツの脱原発ロビイは、緑の党、および社民党の政治家と、環境NGOが固く結束しており、強靭な力を誇っている。その彼らが、現在、一番恐れているのが原発の再稼働だ。

ドイツの電気代は他国に比べて異常に高い。どれだけ高いかというと、産業用の電気代は、1kW時あたり20.3セントで、11.3セントのフランスと比べるとほぼ2倍だ(vbwの資料)。ちなみにポーランドが15.8セントで、中国と米国は8.4セント。

EUでドイツより電気代が高いのはイタリアとスペインのみで、どちらも原発を持たない。ただ、イタリアもスペインも、今年の経済成長はそれぞれ0.8%、2.6%とプラス。ドイツは0.1%で、いつマイナスになっても不思議ではない。

また、家庭用電気もドイツは40.2セントと、EUで最高値(23年後半の年間使用量が2500~5000 kWhの家庭の場合)。同年前半は、オランダ、ベルギー、ルーマニアが少し上回っていたが、後半、ドイツがそれらを追い抜いた。一方、フランスは25.91セントで、オーストリアが27.48セント。こんな状態で、ドイツ経済は果たしていつまで持ち堪えられるのか。

しかも、23年4月15日に全ての原発が止まって以来、ドイツはまさにその翌日から電気が恒常的に不足し、フランスの原発電気や、チェコやポーランドの石炭電気を、一日も欠かさず破格の値段で輸入している。ただ、高い電気で高い製品を作っても国際競争には勝てず、すでに余力のある企業から、国外逃避が始まっている。産業の空洞化、それに伴う雇用の喪失はすでに隠せない。

こうなると、原発アレルギーのドイツ人の間にも、流石に危機感が募る。すでに22年の後半には、暫定的であれば原発は再稼働しても良いのではないかという声が上がり始めていた。動かせる原発を動かして、危機を乗り越えようというのはごく自然な考え方だが、緑の党はそうは考えなかった。

その結果、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は脱原発の修正を拒否。ショルツ首相がそれを鑑み、よりによってロシアからのガスが途絶えていた23年4月15日、最後の3基の原発を止め、3ヶ月半遅れの脱原発を完遂した。50年来の夢が叶った連立与党の緑の党は狂喜し、電気の高騰と逼迫に苦しんでいた国民は捨て置かれた。世界の多くの国々は、ドイツのこの行動を驚異の目で眺めていた。

脱原発は「歴史的業績」?

いずれにせよ、これにより、ドイツはもはや電気の高騰と逼迫から抜け出せない。元々、ドイツのエネルギー政策とは、メルケル時代より一貫して、1)原発を止め、2)CO2削減のために石炭火力も止め、3)再エネ100%に移行していく。そして、その繋ぎとして、4)安いロシアガスを使うという計画だった。

ところが、戦争のせいで、その頼みの綱のロシアガスが、突然、途絶えてしまった。もっともガスを止めたのはロシアではなく、ドイツがロシアに「経済制裁」を掛けるとして輸入を減らしていったからだ。

すると、まもなく誰かが、ロシアからドイツへ直結している海底パイプラインを爆破してくれた。だから今のドイツは、原発と石炭火力だけでなく、ガスも足りなくなった。確実に増えているのは再エネだけだが、気まぐれな再エネは、いくら増えても電力の安定には繋がらなかった。

そうするうちに、脱原発の立役者、緑の党と社民党は、現在、支持率が落ちるところまで落ち、当人たちも、来年の総選挙後の政権維持には懐疑的だ。だからこそ彼らは、自分たちが退陣した後も、せっかくの脱原発がよもや逆行することがないよう、今、その力を結集しているらしい。脱原発は、彼らにとって歴史的業績なのである。

ちなみに、原発の冷却塔の破壊は、今回が初めてではない。すでに2020年5月、メルケル政権の下でも、バーデン=ヴュルテンベルク州のフィリップスブルクの原発の冷却塔が2基、爆破されている。同州はドイツで唯一、緑の党が州政権を握っている州で、この時も、二度と再稼働出来ないようにするためだと言われた。冷却塔の爆破というのは、放射能汚染の心配がないため、脱原発を後戻りできないものにするためには効果的である。

彼らの理論では、原発電気は危険で、しかも高い。ただ、本当にそうなら、なぜ、今、EUの多くの国が原発に回帰、あるいは、新設に踏み切っているのか、その説明はない。ドイツの原発が高いとすれば、その一因は、政治がさまざまな規制をかけて、採算の取れない高価なものにしているのではないか。

このままでは「落ちぶれるばかり」

ここまで書くと、日本もドイツとほぼ同じ道を歩んでいることに嫌でも気づく。資源エネルギー庁の資料によれば、原発を動かしている関西電力と九州電力の家庭用電気料金は、どちらも8000円台だが、それ以外は全て1万円以上。特に北海道は1万4301円と破格に高い。寒い地方なのにこの値段では、家計の負担は大きいはずだ。

しかし、北海道の泊原発は、さまざまな安全対策にもかかわらず、再稼働の道がほぼ閉ざされているという。

100%の安全を求めていたら、もちろん原発は動かせないが、安くて安定した電気がないと、経済は立ち行かない。そのジレンマは、ドイツも日本も身に染みて感じているはずだ。

日本の原発はすでに10年以上もかけて、巨大地震にも巨大津波にも耐えられるだけの安全対策をしてきた。元々、脱原発を宣言したわけでもないのだから、これらを再稼働し、国民の経済負担を減らし、産業を活性化しながら、さらに弛まず安全対策を継続していくというような方法に移行することはできないものだろうか。

ドイツも日本も、このままでは落ちぶれるばかりだ。そうなっては元も子もない。しかし、日本にはまだ再興のチャンスがあると、私は本気で思っている。

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